2026.07.22

はぴテク相談室:会社の「元気ですか?」に疲れた話

相談者

はぴテクさん、ちょっと変な相談なんですけど…。うちの会社、社員の健康にすごく力を入れてて、毎週「今週の元気度」を5段階で入力するアンケートがあるんです。マインドフルネス研修も必須で。いいことのはずなのに、なんだか最近すごく疲れるんです。

はぴテクさん
はぴテクさん

ほう。ちなみにその元気度、正直に入力してますか?

相談者

…実は、盛ってます。低い数字をつけると、上司との面談が入るって噂で。だから本当は3の週でも4って入れちゃう。研修も、やる気ある顔で座ってるだけというか。

はぴテクさん
はぴテクさん

なるほど。実はそれ、最近の研究で名前が付いたんですよ。「ウェルビーイング労働」。元気であることを、会社に向けて"演じる"仕事のことです(Patel et al., 2026)。

相談者

労働…!たしかに、あのアンケート、地味に仕事です。

はぴテクさん
はぴテクさん

そうなんです。この研究の出発点が面白くて。イギリスの4万6千人の調査で、職場のウェルビーイング施策は効果がないどころか、レジリエンス研修は参加した人の方が不調だった、という結果が出たんです(Fleming, 2024)。

相談者

えっ、やった方が悪くなるんですか?

はぴテクさん
はぴテクさん

不思議でしょう。「効かない」なら説明できる理論はあったんですが、「マイナスになる」は説明できなかった。そこでこの論文が注目したのが、プログラムの中身じゃなくて"届け方"です。同じマインドフルネス講座でも、自由参加なら心の栄養になる。でも、必須で、個人ごとに記録されて、スコアが評価に響くかもしれない状況だと、栄養が「こなすべきノルマ」に変わってしまう。

相談者

あー…。私のあのアンケート、まさにそれです。

はぴテクさん
はぴテクさん

しかもね、普通の気疲れと違うポイントがあるんです。上司との面談なら、話して、相手が答えて、終わりますよね。区切りがあるから、そのあと回復できる。でもアンケートやAIの感情分析って、提出しても何も返ってこないでしょう?

相談者

たしかに。あの数字、誰がいつ見てるのかも分からないです。

はぴテクさん
はぴテクさん

その「終わりが来ない感じ」が曲者で、ずっと薄く警戒し続ける状態になる。スマホのアプリがバックグラウンドで電池を消耗し続けるみたいに、心の電池が静かに減っていくんです。

相談者

それだ…。あと最近、もっと変なことがあって。前は日曜の朝にヨガに行くのが好きだったのに、なんか億劫になっちゃって。会社と関係ないのに。

はぴテクさん
はぴテクさん

実はこの論文、まさにその現象を予測してるんです。ここが一番怖いところで。「元気になる活動=会社にやらされるもの」というラベルが心の中に貼られると、そのラベルは"会社"じゃなくて"元気になる活動"というカテゴリー全体に付くんですよ。だから週末のヨガや瞑想アプリにまで、あの「やらされ感」が付いてきてしまう。

相談者

うわあ。心当たりしかないです。どうしたらいいんですか?会社のアンケートは辞められないし…。

はぴテクさん
はぴテクさん

論文がヒントをくれています。ポイントは、良い体験をするだけじゃなく「これは自分が選んだ」とはっきり意識すること。せっかくヨガで気持ちよくなっても、「まあ休みの日だからね」で流すと、ラベルは剥がれないと予測されているんです。「私はこれが好きで、自分で選んでここにいる」と言葉にする。地味ですが、ここが分かれ目だとされています。

相談者

自分で選んだ、って意識するだけで違うんですか。

はぴテクさん
はぴテクさん

理論上はそこが鍵です。あとは、会社のアンケートとは別に、誰にも見せない自分だけの記録を持つのもおすすめです。誰の評価も入らない「自分のための元気チェック」を取り戻す。会社用と自分用を、心の中で別の棚に置くイメージですね。

相談者

なんか、気が楽になりました。疲れてたのは私が弱いからじゃなくて、仕組みのせいだったんですね。

はぴテクさん
はぴテクさん

そこ、大事なところです。この論文もはっきり書いています。ウェルビーイング労働が多いのは「構造の問題であって、個人の欠陥ではない」と。会社側も悪気があるわけじゃなくて、善意でやっていてもこの構造は起きてしまう。だからこそ、測り方の設計が大事なんです。ちなみにこの研究はまだ理論の提案段階で、これから検証が進む仮説ではあるんですけどね。

相談者

今度の日曜、「私はヨガが好き!」って唱えながら行ってきます。

はぴテクさん
はぴテクさん

それはもう、最高の実践です。

■ 今日のまとめ

  • 「元気を演じる」のは立派な労働。必須参加×個人ごとの記録×評価への影響、が揃うと、ウェルビーイング施策は支援からノルマに変わる
  • やらされ感のラベルは「会社」ではなく「元気になる活動」全体に貼られるため、週末の趣味にまで疲れが波及することがある
  • 回復の鍵は、監視のない場所で良い体験をして「これは自分が選んだ」と意識的に言葉にすること。会社用とは別の「自分だけの元気の記録」を持つのも有効

■ 出典・注意事項

  • Patel, P. C., Rofcanin, Y., Kamasak, R., & Belitski, M. (2026). Well-being labour: How surveillance architecture converts organizational well-being programmes into a source of harm. Journal of Occupational and Organizational Psychology, 99, e70149. https://doi.org/10.1111/joop.70149

  • 本論文は実証研究ではなく、新しい概念とメカニズムを提案する理論論文です。対話中の「予測」はいずれも今後の検証を待つ仮説です

  • 出発点となったFleming(2024)は横断研究のため、「元々不調な人ほど研修に参加した」という逆方向の解釈の余地も残ります

  • 論文が害を予測するのは「必須×個人単位の監視×組織的帰結」が揃った場合に限られ、自由参加・匿名集計・評価に使われない測定は対象外と明言されています

投稿者によるコメント・補足(1件)
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