2026.07.23

はぴテク相談室:がんばって整えようとするほど、整わない話〜サウナと幸せ〜

相談者

はぴテクさん、ちょっと相談していいですか。最近、なんというか、休んでるのに休めてない感じがして。休日にヨガとか瞑想とか、いろいろ試してるんですけど、どれも続かなくて。「今日も何もできなかったな」って思って終わる感じです。

はぴテクさん
はぴテクさん

それ、けっこう多くの人が抱えてる感覚ですね。ちなみに、瞑想が続かない理由って、ご自身ではどのあたりだと思いますか。

相談者

座って目を閉じても、頭の中がずっとうるさいんですよね。仕事のこと考えたり、今日やること思い出したり。で、「集中できてない自分」にまたイライラして。結局5分でやめちゃう。

はぴテクさん
はぴテクさん

なるほど。実はそれ、あなたが特別に落ち着きがないわけじゃないんです。人は基本的に、何もせず静かに考える時間が苦手なんですよ。ちゃんと研究があります。

相談者

えっ、そうなんですか。

はぴテクさん
はぴテクさん

ウィルソンという研究者たちの有名な実験があって、「ただ何もせず座って考えてください」と言われた参加者の多くが、その時間に耐えかねて、わざわざ自分に軽い電気ショックを与えるボタンを押した、という結果が出ています。何もしないくらいなら痛いほうがマシ、と。

相談者

えぇ……。人間ってそんなに静けさが嫌なんですね。

はぴテクさん
はぴテクさん

別の研究でも、人は「ただ待つ時間」がどれくらい楽しめるかを、実際よりずっと低く見積もることが分かっています。つまり、静けさに慣れていないから怖い、というより、そもそも設計上そうなってるんですね。だから「瞑想が続かない自分」を責める必要は、まったくないです。

相談者

それを聞くだけでちょっと楽になりました。でも、じゃあどうすればいいんでしょう。静かにできないなら、どうやって休めばいいのか。

はぴテクさん
はぴテクさん

最近おもしろい論文を読みまして。イギリスのエクセター大学が、フィンランド式サウナの常連さん11人に、じっくりインタビューした研究です。「サウナに入ってる人は、実際のところ何を感じてるのか」を掘った研究なんですね。

相談者

サウナですか。整うってやつですよね。私、あんまり行ったことないですけど。

はぴテクさん
はぴテクさん

まさにそこなんです。この研究の参加者が言っていたことで、私がいちばん引っかかったのがこれで。「体験があまりに強烈で、たくさん考えることがほとんど不可能になる」。

相談者

……あ。

はぴテクさん
はぴテクさん

気づきました?

相談者

つまり、頑張って静かにしようとしてるんじゃなくて、勝手に静かになっちゃうってことですか。

はぴテクさん
はぴテクさん

そうなんです。瞑想って「自分の意志で雑念を手放す」やり方じゃないですか。あれ、かなり高度なスキルなんですよ。でもサウナは、熱と冷たさという身体の強い刺激で、意志とは無関係に「今ここ」に引き戻される。別の参加者は「とても今この瞬間にいる感覚になる」と言っています。

相談者

外側から強制的に、ってことですね。

はぴテクさん
はぴテクさん

実際、脳の研究でも裏づけがあります。サウナに入ると、リラックスした注意状態と関連するアルファ波やシータ波が増える、という結果が出ています。自分でコントロールしなくても、環境のほうが状態を作ってくれる。

相談者

それはちょっと希望が持てますね。私、自分でコントロールするのが本当に苦手なので。

はぴテクさん
はぴテクさん

ただ、この研究のもっと大事なポイントは、実はサウナの熱そのものじゃないんです。

相談者

というと。

はぴテクさん
はぴテクさん

参加者が口をそろえて言っていたのが、「サウナはいつも同じ」ということでした。スパでも、公共の施設でも、森の小屋でも、熱があって、汗をかいて、時間が止まったような感じがある。ある人はこう言っています。「他に何が起きていようと、サウナは常に同じ。何を期待できるか分かっている」。

相談者

なんか、それだけで安心しますね。

はぴテクさん
はぴテクさん

研究者はここを「安全な器」と呼んでいます。環境がまったく変わらないからこそ、その中で人は変われる。実際、参加者たちのほうは動的なんですよ。人生の状況が変わるたびに、サウナに求めるものも変わっていく。でも場所のほうは変わらない。

相談者

……あ、それで思ったんですけど。私、いろいろ試してるって言いましたけど、毎回違うことしてるんですよね。今週はヨガ、来週は瞑想アプリ、その次は散歩、みたいな。

はぴテクさん
はぴテクさん

いいところに気づきましたね。

相談者

変わらない場所を持ってないってことか。

はぴテクさん
はぴテクさん

その可能性は高いと思います。この研究が示しているのは、「良い効果のある活動を探すこと」より、「変わらない場所を持つこと」のほうが効いているかもしれない、ということなんですね。心理学ではこれを移行空間とか、リミナルな空間と呼びます。日常の役割から一歩外に出る、境目のような場所のことです。

相談者

じゃあ、それはサウナじゃなくてもいいんですか。

はぴテクさん
はぴテクさん

研究自体はサウナの話ですが、機能として見れば、条件は3つくらいに整理できると思います。ひとつ、毎回だいたい同じであること。ふたつ、身体の感覚がはっきりしていること。みっつ、日常の役割から離れられること。

相談者

毎朝の同じ喫茶店とか、決まった散歩コースとか、そういうのでもいいんですかね。

はぴテクさん
はぴテクさん

十分ありうると思います。大事なのは「今週は何をしようかな」と考えなくていいこと。選ばなくていい場所って、それだけで頭の負荷が減るんですよ。

相談者

たしかに。私、休む方法を選ぶことに疲れてたかもしれない。

はぴテクさん
はぴテクさん

それと、もうひとつお伝えしたい語りがあって。この研究の参加者に、こういう人がいたんです。「自分の不安は、常に生産的でなければならないという感覚から来ている。だからこそ、自分のケアのために時間を取れたこと自体に、達成感を感じる」。

相談者

……それ、私です。

はぴテクさん
はぴテクさん

そうかなと思いました。最初におっしゃった「今日も何もできなかったな」という言葉、あれがずっと引っかかっていて。

相談者

休んでるのに、休みの成果を採点してるんですよね。ヨガが続いたかどうかとか、ちゃんと瞑想できたかとか。

はぴテクさん
はぴテクさん

この研究では、参加者全員が「達成感」を語っていました。おもしろいのは、その達成感の中身が二層あることで。ひとつは、熱に耐えた、水風呂に入ったという分かりやすいもの。でももうひとつが、さっきの「自分のために時間を使えたこと自体が達成」というほうなんです。

相談者

後者のほうが、たぶん私には必要ですね。

はぴテクさん
はぴテクさん

心理学でいう自己効力感、つまり「自分はやれる」という確信は、成功体験の積み重ねで育ちます。だとすると、「休めた」を成功として数え直すのは、けっこう本質的な変更なんですよ。休むことが得点になる採点表に書き換える、というか。

相談者

なんか、いま急に気が楽になりました。整えようとするから整わなかったんですね。

はぴテクさん
はぴテクさん

そうかもしれません。ちなみにサウナ、もし試されるなら、ひとつだけ補足があります。この研究の参加者は全員が自発的な常連さんなので、語りが肯定的に偏っている可能性を、研究者自身が明記しているんですね。サウナには脱水や低血圧といったリスクもあります。特に心臓に持病のある方、熱が苦手な方、お酒を飲んだあとは避けてください。

相談者

分かりました。でも今日は、サウナに行くかどうかより、「毎回同じ場所を、ひとつ決める」ほうが宿題な気がします。

はぴテクさん
はぴテクさん

いい着地だと思います。何を選ぶかより、選ばなくていい場所をひとつ持つこと。そこからでいいと思いますよ。

■ 今日のまとめ

  • 静かに考えるのが苦手なのは、あなたの弱さではなく人間の標準設定。意志で雑念を手放すより、身体の感覚が強い環境に「連れていってもらう」ほうが早いことがある
  • 効果のある活動を探し続けるより、毎回同じ場所をひとつ持つこと。環境が変わらないからこそ、その中で自分は変われる
  • 「自分のために時間を取れた」こと自体を達成として数え直す。休みの成果を採点している限り、休息は仕事の続きになってしまう

■ 出典・注意事項

  • Magatova, N., Hunt, D. F., & Lay, J.(2026)"Mental Well-Being and Regular Sauna Bathing: A Phenomenological Study of Psychological Experiences and Perceived Impact" Qualitative Health Research. https://doi.org/10.1177/10497323261462404

  • 対話中で言及した関連研究:Wilson et al.(2014)静かに考えることの困難さについて / Hatano et al.(2022)待つ時間の楽しさの過小評価について / Chang et al.(2023)サウナ浴時の脳波変化について / Turner(1969)リミナリティ / Winnicott(1971)移行空間 / Bandura(1997)自己効力感。いずれも本論文中で引用されているものです

  • 本研究は11名を対象とした質的研究(IPA:解釈的現象学的分析)であり、統計的な因果関係や一般化を示すものではありません。参加者は全員がヨーロッパ系白人の自発的な常連利用者であり、語りが肯定的に偏る可能性を著者自身が明記しています

  • サウナには健康上のリスク(脱水、低血圧、不整脈など)があります。心血管疾患のある方、耐熱性の低い方、飲酒との併用時は特にご注意ください

  • 本記事は情報提供を目的としたものであり、医療的な助言ではありません。心身の不調がある場合は、専門家にご相談ください

投稿者によるコメント・補足(1件)
コメント 1

論文の紹介はこちら😊
サウナは「いつも同じ」だから、人が変われる
https://wellbeing-archive.pages.dev/posts/2026-07-23-1784790780/

はぴテクさんのウェルビーイング相談室 なんとかなるありのままに 身体・運動・健康マインドフルネス・瞑想感情・レジリエンス

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