はぴテク相談室:「日本社会に根差したウェルビーイングの向上」とマズローの欲求5段階説の関係
最近、職場でも学校でも、なんか「本当の自分」を出せてない気がして…。キャラを演じてるっていうか、周りに合わせすぎてて疲れるんです。これって、ウェルビーイング的にどうなんでしょう?
それ、すごくリアルな悩みですね。実は北陸大学の板倉先生の研究ノートに、まさにそのことが書かれているんです。「外向けのキャラを演じることで、かろうじて承認を得ている状態」という表現があって、現代の日本では多くの人がそういう状況に置かれているって指摘されています。あなたが感じていることは、個人の問題というより、社会的な構造から来ている部分が大きいかもしれないんですよ。
社会的な構造、ですか?どういうことですか?
マズローの「欲求5段階説」って聞いたことありますか?人間には「所属したい・愛されたい」→「認められたい」→「自分らしく生きたい(自己実現)」という段階があるという考え方です。板倉先生は、現代の日本ではその下の段階、つまり「所属と愛の欲求」や「承認欲求」がうまく満たされていないから、自己実現まで辿り着きにくくなっているのでは、と論じているんです。
確かに、認められたいとか、どこかに属していたいって気持ち、すごく強いです。それが満たされてないと自己実現も難しいってことですか?
そういう見方ですね。ただ、マズローの段階説が必ずしも「下から順番に満たさないと上へ行けない」と厳密に機能するかどうかは研究者の間でも議論があるところです。この研究自体も統計的な実証ではなく、社会・文化的な視点からの考察なので、ひとつの「見方・枠組み」として受け取ってもらうといいと思います。
なるほど。じゃあ、なんで日本では特にその「所属」や「承認」が満たされにくくなってるんでしょう?
板倉先生はいくつかの変化を挙げています。1980年代以降、家族がどんどん小さくなって「個人化」が進んだこと、昔あった「世間の目」という緩やかな共同体の意識が薄れたこと、そしてSNSの「いいね」のような表面的な承認は増えたけど、親・先生・地域といった「重みのある承認」が減ってきた、ということです。軽い承認ばかりが溢れていて、深いつながりが減っている、という矛盾ですね。
SNSの「いいね」って承認欲求を満たしてくれそうなのに、なんか虚しいなって思うことあります。そういうことか…。あと「キャラ化」って言葉も気になりました。
「キャラ化」というのは、学校や職場などで、本心を隠して「外向けのキャラ」を演じることです。スクール・カーストという教室内の序列があって、その中で生き延びるためにキャラを使い分けるようになる、という話が学校現場で見られると指摘されています。そして、自己肯定感がコミュニケーション能力の高低で決まってしまうという状況も生まれています。あなたが感じている「本当の自分を出せない疲れ」は、まさにそのキャラを維持するコストかもしれません。
疲れる理由がちょっとわかった気がします…。じゃあ、どうすればいいんでしょう?日本社会で生きながら、もっとウェルビーイングを高めることってできますか?
板倉先生が面白い提案をしていて、「武士道」ではなく「商人道」に注目しているんです。商人道というのは、相手を大切にして、お互いにとって良い関係を築く、利他的な姿勢のことです。「情けは人の為ならず」という言葉がありますが、他者に親切にすることが巡り巡って自分にも返ってくる、という考え方ですね。
「情けは人の為ならず」って、見返りを期待するってことじゃないんですか?なんか打算的に聞こえるかも。
鋭いですね!でもここで言う「インセンティブに基づいた関係」というのは、純粋な損得計算というより、「良い関係を作ることが結果的に自分にも良い」という持続可能な人間関係の形です。日本は「個」よりも「和」を重視する文化で、他者との関係の中でしか自己肯定感を得づらい構造がある。ならばその構造を否定するのではなく、その中で深くて良質なつながりを作っていく方向を探る、という発想なんです。
なるほど。「人の目を気にしながらでも、ウェルビーイングを高められる」ってことですね。外キャラを完全にやめるんじゃなくて、その関係性の質を変えていく感じ?
そうです、そのイメージです!板倉先生は特に高校の道徳教育でこの商人道的な考え方を実践することを提案しています。社会全体の話ではありますが、日常レベルでも「相手に利他的に接してみる」「表面的なキャラのやり取りを超えた関わりを一つ作ってみる」という小さな行動が、所属感や承認感につながっていく可能性を示唆しています。ただし、これはあくまでも考察・提案であって、「こうすれば必ずこうなる」と実証されたものではない点は押さえておいてくださいね。
うん、でも考え方のヒントとしてはすごく参考になりました。「日本の文化の中で生きながら、その文化を活かしてウェルビーイングを高める」って視点、なかったです。ありがとうございます!
■ 今日のまとめ
- 現代日本では家族の個人化・世間の目の喪失・SNSによる表面的承認の増加などにより、「所属と愛の欲求」「承認欲求」が満たされにくくなっており、本心を隠した『キャラ化』が広がっているという社会・文化的考察が示されています。
- 日本は「個」より「和」を重視する文化であり、他者との関係性の中でしか自己肯定感を得づらい構造があるにもかかわらず、その濃密な関わり自体が減少しているという矛盾が指摘されています。
- 「商人道」的な利他性・Win-Winの関係構築という日本の伝統的発想を活かし、表面的なキャラのやり取りを超えた良質なつながりを育てることが、日本社会に根差したウェルビーイング向上のひとつのヒントとして提案されています。
■ 出典・注意事項
- 板倉栄一郎「『日本社会に根差したウェルビーイングの向上』とマズローの欲求5段階説について-日本の文化的背景に注目して-」北陸大学紀要, 2025, 北陸大学経営学部 https://hokuriku.repo.nii.ac.jp/records/2000289
- 【注意事項】本研究は統計的・実証的な心理学研究ではなく、社会・文化的視点からの考察・研究ノートです。相関関係や因果関係が実証されたものではありません。
- 【注意事項】マズローの欲求5段階説が「下から順に満たされる」という前提自体も学術的には議論があり、本研究もその点を前提として論じているわけではありません。
- 【注意事項】日本社会・学校現場に関する記述は主に先行研究や社会的観察に基づく考察であり、すべての個人や集団に当てはまるわけではありません。
研究自体の紹介はこちら😊
「日本社会に根差したウェルビーイングの向上」とマズローの欲求5段階説の関係
https://wellbeing-archive.pages.dev/posts/2025-10-16-1760653891/