はぴテク相談室:健康経営についての科学的な基礎知識
最近、会社で「健康経営」という言葉をよく聞くんですが、正直なところ何が違うのかよく分からなくて。健康診断を受けさせてくれるとか、そういう話ですか?
いい質問ですね!健康経営というのは、単に健康診断を実施するだけじゃなくて、「従業員の健康を会社の大切な資源として捉え、そこに投資することで会社の業績も上げていこう」という経営の考え方なんです。西賢一郎先生の研究でも、そのように整理されています。
投資、ですか。でも健康って個人の問題じゃないんですか?会社がそこまで関わっていいのかな、とも思うんですが。
おっしゃる気持ち、よく分かります。ただ、この研究で面白いのは、個人の健康状態、たとえば健康診断の数値が改善することよりも、職場の環境を整えたりワークエンゲージメント(仕事への活力や熱意)を高めることの方が、企業業績や健康経営の成果に関連している要因として多く報告されているという点なんです。
ワークエンゲージメントって何ですか?モチベーションとは違うんですか?
似ているんですが、少し広い概念です。仕事に対して「活力がある」「熱心に取り組んでいる」「仕事に没頭できている」という状態を指します。単なるやる気よりも、継続的な前向きさのイメージですね。この研究では、そういった職場風土やモチベーションに関連する要因の方が、健康経営の成果と結びついているデータが多いとされています。
なるほど。でも私の職場、最近みんな疲れ気味で、メンタル的に辛そうな人も多いんです。それも会社の業績に関係あるんでしょうか。
それはとても大事な点です。この研究では、職場でのメンタルヘルス不調が「プレゼンティーイズム」に大きな影響を与えると報告されています。プレゼンティーイズムというのは、体や心の不調を抱えながらも出勤はしているけれど、本来の力が発揮できていない状態のことです。欠勤よりも見えにくいのですが、業務への影響は大きいと言われています。
あー、それ思い当たります。出社はしてるけど頭が回らない、みたいな感じ。でもそれって個人の努力でどうにかなるものじゃないですよね?
おっしゃる通りで、個人の頑張りだけで解決しようとするのには限界があります。この研究が示唆しているのは、職場環境そのものを改善したり、職場全体のストレス対策を行ったりすることが重要だということです。いわゆる「集団職場環境改善」という取り組みが、今後の健康経営では特に必要になってくると論文では述べられています。
会社がそういうことに取り組んでくれるといいんですけど、なかなか動いてくれないんですよね。どうしたら会社を動かせるでしょう?
それは多くの人が感じるジレンマですよね。一つ参考になりそうなのは、この研究の背景にある視点です。日本は超高齢化社会に向かっていて、定年延長で長く働く人が増えることへの対応や、過重労働による訴訟リスクへの備えという観点から、企業が従業員の健康に注目せざるを得ない状況になってきています。つまり「健康経営はコストじゃなくてリスク管理と投資だ」という考え方が広がってきているんです。
リスク管理という切り口なら、経営者にも伝わりやすいかもしれませんね。でも、具体的に職場で何かできることはありますか?
この研究では、産業ストレス対策や集団職場環境改善が特に重要だと述べられています。たとえば、チームで定期的に働き方や職場の困りごとを話し合う場を作ること、業務量の偏りを見直すことなどが「集団への働きかけ」にあたります。一人ひとりのケアも大切ですが、職場全体の風土を変えることが、データ上も関連している要因として挙げられているんですよね。
個人じゃなくて職場全体への働きかけが大事なんですね。なんか少し気が楽になりました。自分一人でどうにかしなきゃと思っていたので。
その気づきはとても大切だと思います。この研究が伝えていることの核心は、健康経営の成果は個人の健康数値よりも、職場環境や職場全体のエンゲージメントといった「集団・組織レベル」の要因と結びついているデータが多い、ということです。あなたが感じている「チームが疲れている」という状況も、職場全体の問題として捉えて、少しずつ環境を変えていく視点を持つことが、結果的に自分自身の働きやすさにもつながるかもしれません。
■ 今日のまとめ
- 健康経営とは、従業員の健康を経営資源と捉えて投資する経営戦略であり、単なる健康診断の実施にとどまらない取り組みです。
- 企業業績や健康経営の成果に関連する要因として、個人の健康診断数値の改善よりも、職場環境の改善やワークエンゲージメントの向上など職場風土・モチベーションに関わるものが多いと報告されています。
- 職場でのメンタルヘルス不調はプレゼンティーイズム(出勤しているが本来の力が発揮できない状態)に大きく影響することが示されており、集団職場環境改善や産業ストレス対策が今後ますます重要になると考えられています。
■ 出典・注意事項
- 【出典】西 賢一郎(2025)「健康経営ー科学的根拠を踏まえた基礎知識ー」産業・組織心理学研究, 38(1), 75. https://www.jstage.jst.go.jp/article/jaiop/38/1/38_75/_pdf/-char/ja
- 【注意事項①】本研究はレビュー(既存研究の整理・まとめ)であり、報告されている関連性は相関に基づくものです。「職場環境を改善すれば必ず業績が上がる」といった因果関係が証明されているわけではありません。
- 【注意事項②】紹介されているデータは主に日本企業を対象とした研究に基づいており、業種・規模・職種によって状況が異なる場合があります。
- 【注意事項③】ワークエンゲージメントやプレゼンティーイズムの測定方法は研究によって異なるため、数値の解釈には慎重さが必要です。
研究自体の紹介はこちら😊
健康経営についての科学的な基礎知識
https://wellbeing-archive.pages.dev/posts/2025-03-30-1743376891/