はぴテク相談室:介護は時間が長くなると幸福度を落とす。
最近、親の介護を始めたんですが、なんだかずっと気持ちが沈んでいて…。介護って、愛する家族のためにしていることなのに、こんなに心が疲れるものなんでしょうか。自分がおかしいのかなって思ってしまって。
そんなふうに感じていらっしゃるんですね。まず、おかしくないですよ。実は最近、チューリッヒ大学のクレーマー先生たちが28,000人以上を対象に調べた大規模な研究で、「介護は幸福度や精神的健康を低下させる」ということが明らかになっているんです。愛する人のためにしていることだからこそ、つらさを感じる自分を責めてしまいがちですが、それはとても自然な反応だということが、データでも示されているんですね。
そうなんですね…少し救われました。でも、なんで介護するとそんなに気持ちが落ちてしまうんでしょう?
研究では「ストレス理論」という考え方で説明されています。簡単に言うと、介護という役割を担うことで、時間的・身体的・精神的な負担が積み重なり、それがじわじわと心の余裕を奪っていく、というイメージです。特に注目されたのが「介護に使う時間の長さ」で、時間が長くなるほど幸福度が下がりやすいことがわかっています。
時間の長さが大事なんですね。じゃあ、たとえば介護する相手が親か配偶者かとか、介護の内容がどれだけ大変かとかは関係ないんですか?
面白いところに気づきましたね!実はこの研究、「介護する相手との関係性」「介護の大変さ(強度)」「フルタイムで働いているかどうか」は、幸福度への影響にあまり関係がなかったと報告しています。つまり、どんな状況の介護であっても、長く時間を使うほど影響が出やすい、ということが示されているんです。
それは意外でした。あと、女性のほうが影響が大きいと聞いたのですが、それはどういうことなんでしょう?
はい、この研究では女性のほうが幸福度の低下が大きく、また長く続く傾向があることが示されています。さらに女性では孤独感や不安感も増えやすいという結果も出ています。なぜ女性に多いかの詳しいメカニズムは研究の中でも「まだ解明すべき課題」として挙げられていますが、社会的な役割の期待なども関係しているかもしれないと考えられています。
介護を始めてからどのくらいの時期が一番つらいんでしょう?なんか今がピークな気がして…。
それ、とても大事な気づきです。この研究によると、介護が始まってから最初の2年間に幸福度がグッと落ちやすいことが示されています。数字で言うと、人生満足度が100点満点換算で最大4.30ポイントほど下がるケースも見られています。今まさにその時期にいらっしゃるかもしれませんね。
4ポイントって、大きいんですか?小さいんですか?感覚的によくわからなくて。
感覚的にはわかりにくいですよね。研究者たちの見方では、幸福学の分野で効果があるとされるワークやアクティビティ(たとえば感謝日記や強みを活かす活動など)を数回行うことで補えるくらいのポイント差、とも言われています。つまり、日常の中に意識的に「気持ちが上がる行動」を取り入れることで、ある程度カバーできる可能性があるスコア差、というイメージです。
じゃあ、具体的に何かできることはありますか?
研究の内容から考えると、ポイントは「介護に使う時間をある程度コントロールする」ことです。公的な介護サービスや周りの人の協力を借りて、一人で長時間抱え込まないようにすることが、幸福度への影響を和らげることにつながりそうです。また、介護期間中だからこそ意識的に自分の気持ちが上がることをする、あるいは介護の中にも小さなポジティブな瞬間を見つけようとすることも、幸福度を保つヒントになりえます。
介護しながら自分を大切にすることを、罪悪感なくやっていいんですね。
そうです、まさにそこが大事なところです。研究が示しているのは、介護者が心の余裕を持つことは自分のわがままではなく、長く介護を続けるためにも意味があるということです。愛する人を支えながらも、自分の幸福度にも目を向けることは、両立できることなんです。今日お話したことが、少しでもお役に立てれば嬉しいです。
■ 今日のまとめ
- 介護に使う時間が長くなるほど幸福度や精神的健康が下がりやすいことが、28,000人以上の大規模調査で示されています。介護の内容や相手との関係よりも「時間の長さ」が鍵です。
- 特に介護開始から2年間に幸福度が落ちやすく、女性では孤独感・不安感も増えやすい傾向があります。今つらいと感じている方は、それが自然な反応であることをまず知っておきましょう。
- 公的サービスや周囲の協力で介護時間を分散させること、そして介護期間中も意識的に自分の幸福度を高める行動を取り入れることが、心の余裕を保つヒントになりえます。
■ 出典・注意事項
- 出典:Kramer, M. D. et al. (2024). The Well-Being Costs of Informal Caregiving. Psychological Science. https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/09567976241279203
- 注意事項①:本研究は縦断的な観察データによる調査であり、介護と幸福度低下の「相関」を示すものです。介護が幸福度を低下させると断定する因果関係を証明したものではありません。
- 注意事項②:調査対象はオランダ・ドイツ・オーストラリアの参加者であり、日本の介護環境や文化的背景とは異なる場合があります。結果をそのまま日本に当てはめる際には注意が必要です。
- 注意事項③:幸福度スコアの変化はあくまで統計的な平均値であり、個人差があります。すべての介護者に同様の影響が出るとは限りません。
研究自体の紹介はこちら😊
介護は時間が長くなると幸福度を落とす。
https://wellbeing-archive.pages.dev/posts/2024-12-17-1734473405/