はぴテク相談室:東アジアの15歳は、何故幸福度が低いのか。
最近、子どもの幸福度がすごく気になっています。うちの子、中学生なんですけど、なんだか毎日しんどそうで。勉強のプレッシャーとか、友達との比較とか…日本って、子どもが幸せを感じにくい環境なんでしょうか?
それは心配ですよね。実はその感覚、データにも裏付けがあるんです。2024年に発表された国際的な研究で、PISA(国際学習到達度調査)の15歳約40万人・70カ国のデータを分析したものがあるんですが、日本を含む「儒教圏東アジア」の子どもたちの幸福度は、他の地域と比べてかなり低い傾向があることが示されています。日本だけじゃなくて、韓国・中国・台湾・香港なども同様の傾向が見られているんですよ。
やっぱりそうなんですね。でも、なぜ東アジアの子どもたちは幸福度が低いんでしょう?勉強が大変だから、というだけじゃない気がして。
おっしゃる通り、学業ストレスだけじゃないんです。この研究では、幸福度を下げる要因を詳しく分析していて、一番大きかったのが「自己効力感の低さ」なんです。自己効力感というのは、「自分ならできる」という感覚のことです。東アジアの子どもたちはこれが世界で最も低かった。次に大きかったのが「感情的依存度の高さ」、つまり『失敗したとき、周りにどう思われるか』をものすごく気にしてしまうことです。
「失敗したら恥ずかしい」って気持ち、すごくよくわかります。うちの子もテストで点が悪いと、成績そのものより「クラスで笑われないか」を気にしているみたいで。これって文化的なものなんでしょうか?
研究でもそこが指摘されていて、東アジアの幸福度の低さのうち、約35%はこういった「感情的依存度の高さ」や「自己効力感の低さ」といった性格的な特性で説明されるとされています。残りの約74%は、競争の激しい学校環境、周囲の友達も幸福度が低いこと(幸福度がうつる効果)、「失敗が許されない」という文化的雰囲気などの環境要因によるものだったんです。つまり、お子さんの「周りの目が気になる」という感覚は、本人の性格というより、そういった環境の中で自然と育ってしまう感覚でもあるんです。
環境が原因でもあるんですね。じゃあ、親としてどんなことができるんでしょう?
この研究で興味深いのは、東アジアの子どもたちほど「親からの感情的なサポート」や「学校での居場所感」が幸福度と強く結びついていた、という点なんです。他の地域の子どもたちと比べても、その関連がより強い。つまり、親や学校との関係の質が、東アジアの子どもの幸福感に特に大きく影響している可能性があるんです。
「感情的なサポート」って、具体的にはどういうことですか?勉強を教えるとかじゃなくて?
そうです、成績へのサポートではなくて、感情的なつながりの方です。「今日どうだった?」と話を聞いたり、失敗しても「ナイストライ!」とチャレンジ自体を認めてあげたりすること。研究では「失敗を学習プロセスの自然な一部として受け入れられる安全な空間をつくること」が特に東アジアの子どもに必要だ、と提言されています。結果ではなく、挑戦したこと自体を評価する声かけが、幸福度を支える一つになりうると示唆されているんです。
「結果じゃなくてチャレンジを褒める」か…正直、私自身も「いい点取れた?」って聞いてしまいがちです。あと、「競争が少なく協力が多いと幸せ」とおっしゃっていましたが、これはどういう意味ですか?
この研究では、学校での「競争」と「協力」の両方が幸福度に与える影響を調べているんですが、面白いことに、競争が幸福度にマイナスの影響を与えていたのは、東アジアの地域だけで統計的に有意だったんです。欧米では競争や協力は幸福度にあまり影響がなかった。一方で、東アジアでは「みんなで助け合う・協力する」という環境が幸福度と正の相関があった。個人主義が強い欧米と、集団主義的な東アジアとで、競争の受け取り方が違うのかもしれません。
なるほど…うちの子の学校でも、テストの点数をなんとなくみんなが意識している空気があります。これって変えていくのは難しそうですね。
学校全体を変えるのはすぐには難しいかもしれませんが、家庭の中だけでも「比較より協力」「失敗OK」の空気をつくることは、お子さんの幸福感を支える可能性があります。研究が示す「安全な空間」って、特別なことじゃなくて、失敗を責めずに話せる場所、があること自体なんだと思います。あと一つ伝えておきたいのは、今日お話しした内容はあくまで「相関関係」、つまり一緒に見られる傾向があるということで、「こうすれば必ず幸福度が上がる」という因果関係が証明されたわけではありません。一つの参考として受け取ってもらえると嬉しいです。
すごく参考になりました。「結果より過程」「失敗してもOK」って、頭ではわかっていたけど、データで見るとより腑に落ちる気がします。今夜から少し意識してみます。
■ 今日のまとめ
- 儒教圏東アジアの15歳の幸福度が低い背景には、「自己効力感の低さ」と「失敗したときに周りにどう思われるかを過度に気にする感情的依存度の高さ」が特に強く関連しており、これらは幸福度の地域差の約35%を説明するとされています。
- 幸福度の低さの残り約74%は、競争の激しい学校環境・周囲の友達の幸福度の低さ(幸福度がうつる効果)・「失敗が許されない」文化などの環境要因と関連していました。東アジアでは特に、競争が多い環境が幸福度に負の影響を示した一方、協力的な環境は正の相関が見られました。
- 東アジアの子どもたちほど「親からの感情的サポート」や「学校での居場所感」が幸福度と強く結びついている傾向がありました。「失敗を学習の一部として受け入れられる安全な空間をつくること」が、子どもの幸福感を支える一つの要素として研究で提言されています。
■ 出典・注意事項
- 出典:Predictors of adolescent well-being around the globe: are students from Confucian East Asia different? Frontiers in Psychology, 2024/10/28. https://www.frontiersin.org/journals/psychology/articles/10.3389/fpsyg.2024.1446301/full
- 対象:PISA 2018参加の中所得国・高所得国70カ国・地域の15歳約40万人。儒教圏東アジア(CEA)は中国(北京・上海・江蘇・浙江)・台湾・香港・日本・韓国・マカオ。
- 注意事項①:本研究は相関関係の分析であり、「〇〇が幸福度を下げる原因である」という因果関係が証明されたものではありません。
- 注意事項②:対象は15歳(中学3年生相当)に限定されており、他の年齢層に同様の傾向があるかは別途検討が必要です。
- 注意事項③:中国のデータは高所得4省市に限定されており、中国全土を代表するものではありません。ベトナム・シンガポールはデータ欠損のため分析から除外されています。
- 注意事項④:「幸福度」の測定は生活満足度・情緒的幸福・人生の意味の3指標を使用しており、幸福度の一側面を捉えたものです。
研究自体の紹介はこちら😊
東アジアの15歳は、何故幸福度が低いのか。
https://wellbeing-archive.pages.dev/posts/2024-10-28-1730155279/