はぴテク相談室:企業内ファシリテーターによるサーベイフィードバック型組織開発行動尺度の開発
最近、職場でサーベイ(アンケート調査)を使って職場改善をしようとしているんですが、なかなかうまくいかなくて…。結果を共有しても「で、どうすればいいの?」ってなってしまって、話し合いが空回りしている感じがします。
それはもどかしいですね。実はその「共有したけど空回り」という状況、とても多くの職場で起きていることなんです。東南裕美先生・池田めぐみ先生・中原淳先生の研究(2024年)に、まさにそのヒントがあります。サーベイの結果をチームにフィードバックして職場をよくしていく取り組みを「サーベイフィードバック型組織開発」と呼ぶんですが、それがうまくいくかどうかを左右する行動が5つの要素にまとめられているんです。
5つの要素、気になります!どんなものですか?
5つをざっくり紹介しますね。①「相互理解の促進」→メンバー同士がお互いのことをよく知り合える場をつくること。②「的確な課題設定」→データから何が本当の課題かを絞り込むこと。③「ボトムアップ型の計画策定支援」→上から決めるのではなく、メンバー自身に行動計画を考えてもらうこと。④「配慮ある情報伝達」→結果をわかりやすく、かつ悪者探しにならないように伝えること。⑤「話し合い時のプロセスの観察」→話し合い中の雰囲気や参加度を観察し続けること。この5つが、企業内でファシリテーターとして活動している500人を対象にした調査から見えてきたものです。
「配慮ある情報伝達」というのが刺さりました。うちのチームはデータをそのままドンと見せていたかもしれません…。
それはあるあるです!研究では「データ結果をなるべくシンプル化して伝える」「焦点化する部分を定めて伝える」「悪者探しにならないように気をつける」「ねぎらいや感謝の気持ちを添える」といった具体的な行動が挙げられています。数字をそのまま並べるだけだと、受け取った側は「批判されている?」と感じてしまうことも多いので、「これはみんなの努力の結果であり、ここを一緒によくしていこう」というメッセージを添えるだけでも受け取り方がかなり変わるはずですよ。
なるほど…。あと「空回り」の話でいうと、ベテランの声ばかり大きくて若い人が全然意見を言えていないという問題もあって。
それはまさに「話し合い時のプロセスの観察」と「ボトムアップ型の計画策定支援」が関係しています。研究では「議論にあまり参加できていない人がいないかどうかを観察する」という行動が明示されています。全員が発言できているか、葛藤を抱えている人はいないかを、ファシリテーターが意識的に観察し続けることが大切だとされています。また、「皆が納得するまで話し合いを続けるよう促す」「本音で話せるように話し合いのルールを提示する」といった働きかけも、ボトムアップ型の要素として挙げられていますよ。
「話し合いのルールを提示する」というのは具体的にどういうことでしょう?
たとえば「ここで話したことは責任追及には使わない」「批判より提案を優先しよう」「発言量が偏らないよう一人一言は話してみよう」といったルールを最初に宣言することです。心理的に安全だと感じないと本音は出てこないので、場のルールを明示することで「ここは安心して話せる」という認識を作ることが狙いです。研究でもそういった「守るべき話し合いのルールを提示している」という行動項目が含まれています。
「相互理解の促進」も気になっています。メンバー同士のコミュニケーションを増やすとはいっても、どういうことが含まれるんですか?
研究では「メンバーの話を遮らずじっくり聞く」「メンバー同士がお互いの特性や価値観を把握できるようにする」「良い働きをしたときに褒めたり感謝を伝えたりする」「困っていることがないか気にかける」などが具体的な行動として挙げられています。いわゆるチームビルディング的な要素ですね。サーベイのフィードバックとは直接関係なさそうに見えますが、実はこの「お互いをよく知っている関係性」があるかどうかが、課題の話し合いの質にも大きく影響すると考えられています。
「的確な課題設定」についても教えていただけますか? データを見てもどこが本当の問題かよくわからなくなってしまうことがあって。
研究では「データから自分なりの仮説を立てる」「違和感がある箇所を洗い出す」「現状と理想のギャップを捉える」「課題が解決された状態を具体的にイメージする」といった行動が含まれています。つまり、データを眺めるだけでなく、「なぜこうなっているんだろう?」と問いを立て、「どうなっていたらいいのか?」という理想像とセットで考えることが、課題設定の精度を上げるポイントだということですね。
5つの要素、全部つながっている感じがしますね。どれかひとつだけやればいいというわけじゃないんですね。
そうなんです!研究でも、この5つの因子に共通して影響を与えている「サーベイフィードバック型組織開発行動」という上位の大きな概念がある、という構造が確認されています。つまり5つはバラバラではなく、全体としてひとつの活動を構成しているイメージです。データを丁寧に整理して→課題を絞り込んで→配慮しながら伝えて→メンバーが自分たちで計画を立てて→話し合いの様子を観察しながら支える、という一連の流れが大切なんですね。焦らず、今できそうなところから一つずつ取り入れていくといいと思いますよ。
■ 今日のまとめ
- サーベイ結果をそのままドンと見せるのではなく、シンプルにまとめ、悪者探しにならないよう配慮しながら、ねぎらいの気持ちを添えて伝えることが大切。
- 話し合いの場では、発言できていない人や葛藤を抱えている人がいないか観察しつつ、話し合いのルールを最初に明示することで、メンバーが本音を出しやすい環境をつくれる。
- 「相互理解」「課題設定」「計画策定支援」「情報伝達」「プロセス観察」の5要素はひとつの大きな活動として連動しており、どれかひとつだけでなく全体的に意識することが組織開発の質を高めると研究から示されている。
■ 出典・注意事項
- 東南裕美・池田めぐみ・中原淳(2024)「企業内ファシリテーターによるサーベイフィードバック型組織開発行動尺度の開発」日本教育工学会論文誌, advpub, 47116. https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjet/advpub/0/advpub_47116/_article/-char/ja
- 【注意事項】本研究は民間企業に勤める企業内ファシリテーター500名を対象とした質問紙調査に基づく尺度開発研究です。特定の業種・規模・文化的背景に偏りがある可能性があり、すべての職場に同様に当てはまるとは限りません。
- 【注意事項】本研究は尺度の信頼性・妥当性を検証したものであり、これらの行動を取ることで組織開発が必ずうまくいくという因果関係を証明したものではありません。あくまで「うまくいっている実践者がどんな行動をとっているか」を体系化したものとしてご参照ください。
研究自体の紹介はこちら😊
企業内ファシリテーターによるサーベイフィードバック型組織開発行動尺度の開発
https://wellbeing-archive.pages.dev/posts/2024-07-05-1720220636/