はぴテク相談室:職場におけるメンタルヘルス介入による幸福の効果
うちの会社でも最近、マインドフルネス講座とかウェルビーイングアプリの導入とか、色々やってるんですけど、正直あんまり効果を感じられなくて…。会社ってそういうのやれば従業員が幸せになると思ってるのかな、って少しモヤモヤしてるんです。
そのモヤモヤ、実はすごく的を射ているかもしれません。2024年初めにオックスフォード大学のウェルビーイング研究センターから出た大規模な研究があって、まさにその疑問を調べているんです。イギリスの233組織・約4万6千人のデータを使って、職場のウェルビーイングプログラムに参加した人としていない人の幸福度を比べた研究なんですよ。
へえ、それだけ大規模なら信頼できそうですね。どんな結果だったんですか?
調べた取り組みは幅広くて、マインドフルネス、レジリエンストレーニング、ウェルビーイングアプリ、マッサージ、睡眠改善イベント、コーチング、時間管理トレーニングなど様々です。で、結果なんですが――ボランティア活動への参加を除いて、ほとんどのプログラムで『参加した人の方が幸福度が高い』という傾向は確認できなかったんです。幸福感、仕事の満足度、職場へのエンゲージメント、ストレス、同僚との関係など、複数の指標で調べても同様でした。
えっ、それって会社がお金かけてやってることが全部無駄ってこと…?
少し補足が必要で、これは横断調査といって、ある時点でのデータを比べたスナップショットなんです。だから『プログラムが原因で幸福度が変わった』とは言えない点に注意してください。実は、もともと幸福度が低いと感じている人ほど自発的に参加しやすい、という選択バイアスの問題も研究者自身が認めています。つまり『効果がない』というより『もともとしんどい人が参加しているから差が出にくい』可能性もあるんです。
なるほど、そういう見方もあるんですね。じゃあ研究者たちはどう解釈しているんですか?
研究では『職務要求-資源理論』という考え方で解釈しています。簡単に言うと、仕事のしんどさ(要求)と、それに対処するための力(資源)のバランスが大事、という理論です。マインドフルネスやアプリといった個人向けのプログラムは、個人の内側のリソースを少し足してくれるかもしれないけれど、仕事量・時間のプレッシャー・タスクの複雑さといった職場側の『要求』自体は変えない。だから根本的な改善につながりにくいのでは、と示唆しているんです。
確かに、いくら自分がマインドフルになっても仕事量が変わらなければしんどいままですよね…。じゃあ、会社として何をすべきってことになるんでしょう?
この研究自体は組織レベルの取り組みを直接検証しているわけではないので、断言はできないのですが、研究者たちが注目しているのは『組織へのアプローチ』です。たとえば、業務量や時間プレッシャーを現実的な範囲に調整すること、上司や同僚からのサポートを強化すること、働きやすいツールや環境を整えること、といった組織の構造そのものに働きかける方向性です。
個人を変えようとするんじゃなくて、職場の環境や仕組みを変える方が先、ということですか?
この研究が示しているのはそういう方向性ですね。ただ一点、個人向けプログラムが全く意味がないとも言い切れないんです。ボランティア活動は他のプログラムと異なり、参加者に違いが見られたという点も興味深いですし、個人の幸福度を高めるアプローチ自体の効果を示す別の研究も存在します。今回の研究は、福利厚生的な任意参加プログラムの限界を示したものと理解するのがフェアだと思います。
会社がアプリ入れました!講座やりました!で満足しているだけだと、本質的な問題は解決しないってことですね。なんかスッキリしました。でも上司にこの話どうやって伝えればいいか…。
「個人向けの取り組みも大事だけど、それだけでは限界があるかもしれない。業務量の見直しや、チームのサポート体制を整えるといった組織レベルの工夫も並行して考えませんか」と伝えるのが一つの切り口になるかもしれませんね。この研究は4万人超のデータを使ったイギリスの大規模調査が根拠ですよ、とつけ加えると説得力が増すかもしれません。
なるほど、データをもとに話すと伝わりやすいですね。今日はモヤモヤがだいぶ晴れました!ありがとうございます。
お役に立てて嬉しいです!まとめると、個人向けプログラムの効果が出にくい理由には、参加者の選択バイアスや、職場の構造的な問題が変わらないことが関係している可能性があります。職場をより良くするには、個人へのアプローチと組織レベルの改善を両輪で考えることが大切そうですね。ぜひ職場でのヒントにしてみてください!
■ 今日のまとめ
- マインドフルネスやウェルビーイングアプリなど個人向けプログラムは、イギリスの大規模調査で幸福度・仕事満足度・ストレスなど複数の指標において、参加者と非参加者の間に大きな差が確認されなかった(ボランティアを除く)。
- 参加者の選択バイアス(もともとしんどい人が参加しやすい)という解釈上の限界もあり、『プログラムに効果がない』と断定できるわけではない点に注意が必要。
- 職場の幸福度を高めるには、個人の内側に働きかけるだけでなく、業務量・時間的プレッシャーの調整や職場のサポート体制強化といった組織レベルの取り組みも重要である可能性が示唆されている。
■ 出典・注意事項
- 論文: Yarker et al. (2024) 'Employee well-being outcomes from individual-level mental health interventions: Cross-sectional evidence from the United Kingdom', Industrial Relations Journal, 2024/1/10. https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/irj.12418
- 注意事項①【研究デザインの限界】本研究は横断的調査(ある時点のスナップショット)であり、プログラム参加が幸福度を変化させたという因果関係は示されていない。相関(または差の有無)を調べたものである。
- 注意事項②【選択バイアス】幸福度が低い人ほど自発的にプログラムへ参加しやすいという選択バイアスが存在する可能性を研究者自身が認めており、結果の解釈には慎重さが必要。
- 注意事項③【対象集団の限界】データはイギリスの労働者を対象としており、日本を含む他の国・文化・労働環境にそのまま当てはまるとは限らない。
- 注意事項④【組織レベルの介入は未検証】本論文内では組織レベルのアプローチの効果は直接調査されておらず、その有効性は別途検証が必要。
研究自体の紹介はこちら😊
職場におけるメンタルヘルス介入による幸福の効果
https://wellbeing-archive.pages.dev/posts/2024-01-13-1705186801/