職場の幸せは、リーダー行動と企業利益をもたらす
〜幸福度診断Well-Being Circleの研究〜
京都大学の内田由紀子先生らによる最新研究😊
そして、前野先生と共同開発した幸福度診断Well-Being Circleをつかった研究です😍
営業利益と働く人のウェルビーイングは、同時に達成できるのか、トレードオフなのか。
リーダー行動という観点も加えて、分析頂いています😊
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●ウェルビーイングからリーダー行動へ
支店のウェルビーイングとリーダー行動は相関。
因果を見ると、リーダー行動→翌年の支店のウェルビーイングの影響は有意ではない。
でも、支店のウェルビーイング→翌年のリーダー行動は、一貫して有意。
つまり、幸せな職場だから、リーダー行動を取る。そしてリーダー行動を取っている職場は幸せ。
幸せを起点として、リーダー行動→さらなる幸せと利益、という循環が回っていくんですね😍
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●リーダー行動はウェルビーイングにも、利益にもつながる
リーダー行動には特にウェルビーイングに効くもの、利益に効くものがありました。
ウェルビーイングにつながるリーダー行動
「人材育成」「コミュニケーション」「持続可能な業務効率」※
利益目標達成率につながるリーダー行動
「職場戦略」(職場の戦略を共有し、個人の目標・役割を明確にする行動)
※
・人材育成:一人ひとりの成長を、適切な指導・助言やフィードバックで支える行動
・コミュニケーション:協力的で風通しがよく、仕事に必要な情報が共有される職場をつくる行動
・持続可能な業務効率:効率的な働き方と長時間労働の是正で、ワークライフバランスを促す行動
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●その他
・単純な相関を見ると、従業員数が多い支店ほどウェルビーイングは低く、利益目標達成率は高い。逆に勤続年数が長い支店ほどウェルビーイングは高く、利益目標達成率は低い。
・意外にもリーダー行動である「全社戦略(会社全体の戦略や方針が、職場に十分に共有されている状態をつくる行動)」と「人権(ハラスメントや差別を許さない職場文化を徹底する行動)」が、ウェルビーイングに負の効果を示した。
⇒全社戦略の浸透はウェルビーイングを落とすが、それを職場単位で個人の目標・役割を明確にすると利益が上がる。というのは面白いですね。戦略をそのまま浸透させるより、それを具体化して個人単位の役割まで落とすのが大事。
⇒全社戦略も人権もどちらも、トップダウンで落とすのではなく、対話とセットで設計するのが大事ですね
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リーダーの行動、従業員の幸福度、および利益目標達成度の関係:日本における全社調査からの証拠
**Masato Kanai, Yukiko Uchida, Arata Yuminaga, Keiko Mizuno, Gakuse Hoshina & Nobuo Sayama **
**Scientific Reports (2026/5/16) **
https://www.nature.com/articles/s41598-026-51197-4
どのようなリーダー行動が、従業員の幸福と財務業績を同時に促進できるのでしょうか?組織の持続的な成功には、両方の成果を向上させることが不可欠ですが、リーダー行動がこれらの成果とどのように関連しているかは依然として不明です。本研究では、日本の住宅建設会社から4年連続で収集した全社調査データを用いて、9つのリーダー行動と支店レベルの従業員の幸福、および支店レベルの財務業績との関係を調査しました。行動項目の因子構造を確認した後、階層線形モデルと交差遅延パネルモデルを実施しました。支店の人口統計学的特性と年次効果を統制した後、3種類のリーダー行動(従業員育成、コミュニケーション、持続可能な業務効率)が支店レベルの従業員の幸福と正の相関関係にあることがわかりました。一方、1つの行動(職場戦略、支店戦略と個人の目標を明確にすることと定義)は財務業績と正の相関関係にありました。縦断的分析では、リーダー行動はその後の従業員の幸福とは関連していませんでしたが、従業員の幸福度が高いほど、その後のリーダー行動の評価も高くなる傾向が見られました。私たちは、限られたリーダーシップ資源をどのように配分すれば、働きがいのある職場環境を育み、財務的な成果にも貢献できるかという優先順位、そしてリーダーの行動とこれら二つの成果との間に見られる関連性の根底にある潜在的なメカニズムについて議論しました。
■背景
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▼ 出発点:日本企業が抱える「2つの課題」
研究の前提にあるのは「利益とウェルビーイングは、どちらか一方ではなく両立させる必要がある」という問題意識です。
・収益性の問題
日本銀行の短観(短期経済観測調査:企業に景況感を尋ねる代表的な調査)では、回答企業の60〜80%が業況を「あまり良くない」「悪い」と答えています(日本銀行, 2025)。日本能率協会の調査でも「収益性の向上」が5年連続で経営課題の上位に挙がっています(日本能率協会, 2022; 2023; 2024)。
・ウェルビーイングへの注目
一方で「いきいきと働く従業員を増やすことが、組織の成果につながる」という考え方が広がっています。職務満足(仕事への満足度)と仕事の成果が正の関係にあることは、多くの研究で示されてきました(Judgeら, 2001)。さらにメタ分析(複数の研究結果を統計的にまとめ直す手法)では、従業員の満足度・エンゲージメント(仕事への没頭・活力)が利益率と正の関係にあることも示されています(Harterら, 2002)。
→ つまりウェルビーイングは単なる「福利厚生」ではなく、業績を支える「戦略的投資」だと位置づけられるようになってきた、というのがこの研究のスタート地点です。
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▼ ウェルビーイングは「職務満足」より広い概念へ
ただし「従業員の幸せ」をどう捉えるかは、近年大きく変わってきました。かつては「職務満足」が中心でしたが、今は複数の要素を含む多次元的な概念として捉える流れになっています。
・「働く幸せ(happiness at work)」は、一時的な気分・感情から、安定した態度、さらに職場全体の雰囲気まで含む「アンブレラ概念(さまざまな構成要素をまとめて指す傘のような概念)」だと整理されています(Fisher, 2010)。
・日本企業を対象にした研究では、職務満足・組織コミットメント(組織への愛着)・人生満足・ユーダイモニア的幸福(生きがいや意味に基づく幸福)・協調的幸福(他者との調和に基づく幸福)まで含む包括的な枠組みで測定されています(Watanabeら, 2024)。
・このように複数の観点から従業員ウェルビーイングを捉える研究は、ほかにも蓄積されています(Page & Vella-Brodrick, 2009; Zhengら, 2015)。
→ ウェルビーイングは「職務満足」に限らない広い概念。ただし「どうすれば組織はそれを高められるのか」は、まだ十分に解けていない——ここがこの研究の問いの一つになります。
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▼ カギを握る「リーダー行動」——その分類の歴史
では何がウェルビーイングと利益のカギになるのか。この研究が注目したのが「リーダーの行動」です。
リーダー行動の研究は1950年代から続いており、研究者たちは行動を分類しようと試みてきました。その多くは、大きく2つの軸で整理されてきました。
・課題の達成(目標設定や進捗管理など)
・集団の維持(意見の尊重や称賛など)
(Fleishmanら, 1991)
この2軸は、研究者ごとに少しずつ違う言葉で表現されてきました。
・「構造づくり」と「配慮」(構造づくり=仕事の枠組みを整える、配慮=部下への気遣い)(Stogdill, 1963)。これらが部下の職務満足と集団の業績を高めることはメタ分析でも確認されています(DeRueら, 2011)。
・「仕事中心型」と「従業員中心型」の監督スタイル(Likert, 1961)。
・PM理論における「P機能(Performance=目標達成)」と「M機能(Maintenance=集団維持)」。これは三隅二不二による日本発の理論です(Misumi & Peterson, 1985)。
・マネジリアル・グリッドにおける「業績への関心」と「人への関心」(Blake & Mouton, 1985)。
課題志向の行動と関係志向の行動が、開発スピードや営業成績と正の関係にあることもメタ分析で報告されています(Ceri-Boomsら, 2017)。
2000年代以降は、この2軸に「変革志向の行動(変化を起こす行動)」を加えて3軸とする研究も登場しました(Yuklら, 2002; Bormann & Rowold, 2018)。レビュー研究では、変革志向・関係志向の行動が仕事のストレスを減らし、心理的な健康を支えることも論じられています(Inceogluら, 2018)。
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▼ 既存研究に残された「3つの課題」
ここまでの蓄積を踏まえつつ、この研究は「まだ十分に解けていない3つの課題」を指摘します。これがこの研究の存在意義(リサーチギャップ)です。
■内容
▼ 方法①:どんなデータを使ったか
対象は、日本の住宅メーカー1社(論文では「Company A」)の全社調査データ。
・4年分(2020〜2023年)のパネルデータ(同じ対象を複数の時点で追いかけたデータ)
・戸建住宅部門・集合住宅部門の従業員回答を、支店ごとに平均した「支店レベル」のデータ
・分析対象は毎年98〜106支店、従業員は毎年およそ1万600〜1万800人
すでに集められたデータを後から分析する「二次データ分析」で、データは匿名化され、京都大学の倫理審査も受けています。
ポイントは「1社の中の支店どうしを比べる」設計です。複数企業を比べると業界や規模の違いが混ざりますが、1社内ならその影響を抑えられます。
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▼ 方法②:3つの指標をどう測ったか
・リーダー行動
Company A独自の28項目を、9つの領域に分類。5段階評価を0〜100点に換算しています。
9領域=「全社戦略」「環境への取り組み」「職場戦略」「コミュニケーション」「人材育成」「ダイバーシティ」「法令遵守」「人権」「持続可能な業務効率」。
※各領域のクロンバックのα(項目同士がどれだけ一貫しているかを示す信頼性の指標。0.7以上が目安)は0.84〜0.92で良好。
・従業員ウェルビーイング
「ウェルビーイング・サークル」(前野隆司らによる測定ツール)を使用。
全体的ウェルビーイング(人生満足+ポジティブ感情、α=0.77)と、職場ウェルビーイング(安心できる職場文化や挑戦を促す雰囲気など、α=0.90)の2つを使用。
・財務指標
利益目標達成率(100%未満なら目標未達)と、従業員一人当たりの営業利益。
支店の従業員数・平均勤続年数は「統制変数」(結果に影響しうる他の要因として、あらかじめ差し引いておく変数)として扱っています。
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▼ 方法③:どう分析したか
分析は4段階で進みます。
・記述統計と相関係数の確認(変数同士の単純な関係を見る)
・確認的因子分析(CFA):Company Aが想定した「9領域」が、本当に別々のまとまりとして区別できるかを検証
・階層線形モデル(HLM):年度のばらつきや、リーダー行動同士の重なりを調整したうえで、各行動が成果とどう関係するかを比較。9つの行動を同時にモデルに入れ、「他の行動が一定だとしたら」という条件で、各行動の独自の関係を取り出します。
・交差遅延パネルモデル(CLPM):4年分のデータを使い、「ある年のリーダー行動が、翌年のウェルビーイングや利益に影響するか」を時間の流れの中で検討。逆方向(ウェルビーイング→リーダー行動)も同時に見られるのが特徴です。
※分析はPython(Pingouin, SciPy, semopy, statsmodels)で実施。HLM・CLPMの係数はすべて標準化(変数の単位の違いをそろえ、強さを比べられるようにした値)されています。
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▼ 結果①:単純な相関で見えたこと
まず変数同士の単純な関係(相関)です。
・9つのリーダー行動は、互いに強く正の相関(r=.559〜.869)。どれか一つの評価が高い支店は、他の行動の評価も高い傾向。
・リーダー行動はウェルビーイングとは正の相関(r=.164〜.543)。
・しかし、どのリーダー行動も利益指標とは正の相関を示さず、むしろ「全社戦略」「環境への取り組み」は財務指標とマイナスの相関(r=-.157〜-.320)。
・従業員数が多い支店ほどウェルビーイングは低く、利益は高い。逆に勤続年数が長い支店ほどウェルビーイングは高く、利益は低い、という対照的な関係も見られました。
→ この時点で「リーダー行動とウェルビーイング」「リーダー行動と利益」は、必ずしも同じ方向を向いていないことが示唆されます。
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▼ 結果②:9領域は本当に区別できるのか(CFA)
約1万7,700人分のデータでCFAを実施。9因子モデルは、CFI=0.965、TLI=0.958、RMSEA=0.053と、適合度の基準を満たしました(モデルがデータをうまく説明できているかの指標)。
ただし課題も。9つの領域同士の相関が全体的に高く(r=0.624〜0.877)、弁別妥当性(=異なる概念がきちんと別物として区別できているか)に懸念が残りました。
→ 9領域は「一応分けられるが、概念的に重なっている部分もある」という結論です。
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▼ 結果③:他の行動を考慮すると何が残るか(HLM)
9つの行動を同時にモデルに入れ、年度や行動同士の重なりを調整した結果です。
・ウェルビーイングにプラスの効果
「人材育成」「コミュニケーション」「持続可能な業務効率」が、全体的または職場ウェルビーイングに正の効果を示しました。
・ウェルビーイングにマイナスの効果
意外にも「全社戦略」と「人権」が、ウェルビーイングに負の効果を示しました(特に人権はβ=-0.388, p<.001と明確)。
・利益にプラスの効果
利益目標達成率に正の効果を示したのは「職場戦略」(職場の戦略を共有し、個人の目標・役割を明確にする行動)だけでした(β=0.308, p=.037)。マイナスの効果を示した行動はありませんでした。
→ ウェルビーイングを高める行動と、利益を高める行動は「別物」。同じリーダー行動で両方を同時に押し上げるのは簡単ではない、という結果です。
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▼ 結果④:時間の流れの中で見ると(CLPM)
HLMでプラスだった「コミュニケーション」「人材育成」「持続可能な業務効率」「職場戦略」に絞り、翌年への影響を検討しました。
・同じ年の中では、リーダー行動とウェルビーイングは正の相関。
・しかし「ある年のリーダー行動 → 翌年のウェルビーイング」という方向の効果(=交差遅延効果)は、有意に検出されませんでした。
・逆に「ある年のウェルビーイング → 翌年のリーダー行動評価」という方向の効果は、一貫して有意(β=0.298〜0.596)。
・利益目標達成率と職場戦略の間には、翌年への効果(どちらの方向も)が見られませんでした。
→ つまり「リーダー行動が後のウェルビーイングを引き上げる」という一方通行の証拠は得られず、むしろ「ウェルビーイングが高いと、翌年リーダー評価が高くなる」関係が見えた、ということです。