はぴテク相談室:職場の幸せは、リーダー行動と企業利益をもたらす
最近、職場でリーダーとして頑張っているんですが、部下のウェルビーイングを高めようとすると、業績が犠牲になるんじゃないかって不安で。どっちかを選ばないといけないのかなと思ってしまって…。
その悩み、すごくリアルですよね。「人を大切にするか、数字を追うか」って、リーダーが抱えがちなジレンマだと思います。実は京都大学の内田由紀子先生らが、まさにその問いに向き合った研究を発表されているんです。日本の住宅建設会社で4年間にわたって全社データを集めた、かなり大規模な調査です。
へえ、4年間も!それで結果はどうだったんですか?やっぱりトレードオフなんでしょうか…。
必ずしもトレードオフではない、というのが研究の見立てです。ただ、「どのリーダー行動が何に効くか」がきっちり分かれていた、というのが面白いところなんです。大きく言うと、従業員の幸福度(ウェルビーイング)を高めるリーダー行動と、利益目標の達成に関係するリーダー行動は、別々に存在していました。
別々?それはどういうことですか?
例えば、従業員のウェルビーイングと正の相関があったのは3種類のリーダー行動です。一つ目は「人材育成」——一人ひとりの成長を、適切な指導やフィードバックで支えること。二つ目は「コミュニケーション」——風通しがよく、情報が共有される職場をつくること。三つ目は「持続可能な業務効率」——長時間労働を是正してワークライフバランスを促すことです。
なるほど。じゃあ利益目標の達成に関係していたのは?
そちらは「職場戦略」、つまり支店の戦略を共有して個人の目標や役割を明確にするリーダー行動が正の相関を示しました。つまり、ウェルビーイングを大切にしながら、きちんと個人の役割も明確にしていく——その両方のアクションを組み合わせることで、どちらかを犠牲にしなくて済む可能性があると研究は示しています。ただしこれはあくまで相関の話で、因果関係が証明されたわけではない点はお伝えしておきますね。
それは大事な注意点ですね。ちなみに意外な結果はありましたか?
ありました!「全社戦略の共有」と「ハラスメント・差別を許さない人権施策」のリーダー行動が、ウェルビーイングに対して負の相関を示したんです。直感的にはどちらも良いことのはずなのに、不思議ですよね。
えっ、それはどうしてだと思われてますか?
研究の中では、トップダウンで方針や規範をそのまま現場に「浸透させる」だけでは、むしろ重圧や窮屈さを感じさせてしまう可能性が示唆されています。大切なのは、全社の戦略や方針を対話を通じて咀嚼し、個人レベルの具体的な役割に落とし込むプロセスだというわけです。「押しつけ」ではなく「一緒に意味をつくる」感覚に近いかもしれません。
確かに。じゃあリーダーが幸せな職場をつくると利益もついてくる、という順番なんですかね?
そこも研究の面白いポイントです。縦断的な分析——時間をまたいで原因と結果の方向を調べる手法——で見ると、「リーダー行動が翌年のウェルビーイングを高める」という流れは統計的に有意ではありませんでした。逆に「支店のウェルビーイングが高いほど、翌年のリーダー行動の評価が高くなる」という流れが一貫して有意だったんです。
え、逆方向なんですね!幸せな職場だからリーダーがいい行動を取れるようになる、ということ?
研究の結果はまさにそのパターンと一致しています。幸せな職場が先にあって、それがリーダーのよい行動を引き出し、さらにウェルビーイングや利益につながる——そういう循環が見えてきたということです。ただ、これは相関と縦断的なパターンを見たものであり、「幸せな職場を作れば必ず業績が上がる」と断言できるものではありません。あくまで「関連が見られた」という話です。
なるほど、循環なんですね。だとすると私はまず何から始めればいいんでしょう?
研究が示す手がかりとしては、まず「人材育成・コミュニケーション・持続可能な働き方」を意識したリーダー行動が、ウェルビーイングと相関があった点が参考になりそうです。そして戦略や方針は押しつけるのではなく、チームと対話しながら個人の役割に翻訳していく。その積み重ねが、幸せな職場の土台になるかもしれません。もちろんあなたの職場の状況次第ですが、この研究が一つの地図になれば嬉しいです。
■ 今日のまとめ
- 従業員のウェルビーイングと利益は必ずしもトレードオフではなく、効果を持つリーダー行動が異なる形で両方に関連していることが示されました(ただし相関であり因果関係の証明ではありません)。
- ウェルビーイングと正の相関があったのは「人材育成・コミュニケーション・持続可能な業務効率」、利益目標達成と正の相関があったのは「職場戦略(個人の役割の明確化)」というリーダー行動でした。
- 縦断的分析では「支店のウェルビーイングの高さ→翌年のリーダー行動評価の高さ」という方向が有意で、幸せな職場がよいリーダー行動を引き出す循環パターンが見られました。
■ 出典・注意事項
- Masato Kanai, Yukiko Uchida, Arata Yuminaga, Keiko Mizuno, Gakuse Hoshina & Nobuo Sayama, 'Relationships among leader behaviors, employee well-being, and profit target achievement: Evidence from a company-wide survey in Japan', Scientific Reports (2026/5/16). https://www.nature.com/articles/s41598-026-51197-4
- 【注意事項①】本研究は相関分析および交差遅延パネルモデルによる縦断的分析であり、リーダー行動がウェルビーイングや利益を「引き起こす」と因果的に断言できるものではありません。
- 【注意事項②】対象は日本の特定の住宅建設会社1社の支店データであり、他業種・他国・他組織への一般化には慎重さが必要です。
- 【注意事項③】ウェルビーイングの測定にはWell-Being Circle(幸福度診断ツール)が用いられており、測定手法の違いによって結果が異なる可能性があります。
研究自体の紹介はこちら😊
職場の幸せは、リーダー行動と企業利益をもたらす
https://wellbeing-archive.pages.dev/posts/2026-05-24-1779667040/