2023.08.03

はぴテク相談室:ライフチャートの平均値

相談者

最近、自分の人生を振り返ることが多くて…。なんというか、若い頃の方が楽しかったな、って感じることが多いんです。年を取るにつれて、どんどんつまらなくなってる気がして。これって私だけなんですかね?

はぴテクさん
はぴテクさん

その気持ち、すごくよく分かります。実は、ドイツで8歳〜81歳の172人を対象に、16年間かけて「ライフチャート」という手法で人生の記憶を調べた研究があるんですが、その結果がとても興味深いんです。

ライフチャートというのは、人生の各年齢のときにどれくらい幸せだったか・エネルギーがあったかを振り返って記録していくものです。この研究では、「記憶の中でいちばんポジティブに感じていた時期」は20代前半だった、という傾向が見られました。いわゆる「黄金の20代」効果と呼ばれています。

相談者

やっぱり!20代が一番輝いてたんですね。でも、なんで20代の記憶がそんなにポジティブに残るんでしょう?

はぴテクさん
はぴテクさん

面白い疑問ですね。この研究では「なぜ20代の記憶がポジティブなのか」の直接的な理由まで詳しく解明されているわけではないのですが、記憶の感情的なトーン(色合い)は、出来事そのものだけでなく、「今の自分が何歳か」と「その出来事が起きたときに何歳だったか」という2つの要因に影響されることが分かっています。

20代前半という時期が、記憶の中で特にポジティブに着色されやすいという傾向が、データとして出てきた、という感じです。

相談者

なるほど。でも、年を重ねると幸福感が増すって聞いたこともあるんですが、この研究とは逆ですよね?

はぴテクさん
はぴテクさん

鋭いですね!実はそこがこの研究のユニークなポイントで、研究者たちも「予想外だった」と言っているんです。

多くの研究では「年を取るほど自伝的記憶はポジティブになる」という傾向が示されているのですが、この研究では全体的に年齢を重ねるにつれてポジティブさが下がる傾向が見られました。

研究者たちは、その理由のひとつとして「人生全体を語る」という特殊な条件を挙げています。自分の人生全部をまとめて語ると、楽しいことだけでなく辛いことも全部ひっくるめて評価してしまいがちなので、年を重ねるほど経験する出来事の総量が増えて、ネガティブな記憶の影響も大きくなるのかもしれない、ということです。また、この研究はドイツで行われたため、高齢の参加者には戦時中の記憶が影響している可能性も指摘されています。

相談者

ああ、確かに。人生トータルで振り返ると、しんどかったことも全部出てきますもんね。ちなみに、男女で違いはあるんですか?私は女性なんですけど。

はぴテクさん
はぴテクさん

はい、この研究では男女差も確認されています。女性は男性に比べて、自分の人生をよりネガティブに語る傾向が見られました。

研究者たちはその理由として、語り方のスタイルの違い、うつ症状の発生率の差、そして実際の生活上の課題の違いなどが関係している可能性を挙げています。ただし、これはあくまで「傾向として相関が見られた」ということであって、「女性だから必ずそうなる」という話ではありませんし、原因が特定されているわけでもないので、参考程度に聞いていただければと思います。

相談者

そうなんですね。なんか、自分が人生をネガティブに感じやすいのが、自分だけの問題じゃないかもって思えてきました。でも、思春期の頃の記憶も特に暗い気がするんですよね。

はぴテクさん
はぴテクさん

それも研究で出てきているんですよ!10代前半の青年期初期の時期は、ライフチャートの中でも特に感情的なトーンが落ち込む「ディップ(谷間)」があることが分かっています。

この時期のネガティブさの理由として、研究者たちは思春期特有の混乱、たとえば体や心の急激な変化、自分が何者かを探す葛藤などが影響している可能性を示唆しています。思春期がしんどかった記憶って、多くの人に共通しているんですね。

相談者

確かに、中学生の頃はしんどかった記憶があります(笑)。じゃあ、今の自分の年齢でライフチャートを振り返ると、どんなことに気をつけて見ればいいんでしょう?

はぴテクさん
はぴテクさん

いい質問です!この研究から気づけることとして、ひとつ大切な視点をお伝えしますね。

私たちが「あの頃は良かった」と感じるとき、それは「その頃が客観的に最高だった」のではなく、「記憶の色合いがポジティブに残りやすい時期だった」という可能性があります。20代前半の記憶が輝いて見えるのは、実際にそうだったかもしれないし、そう記憶されやすいからかもしれない。

逆に言えば、「今がつまらない」と感じていても、それは今この瞬間の体験そのものと、記憶としての評価は別物かもしれない、ということでもあります。自分の記憶や感情の見え方には、こういった「年齢による傾向」があると知っているだけで、少し客観的に自分を見られるようになることもありますよ。

相談者

なるほど…!「記憶の色合い」という言葉が印象に残りました。今の自分を不当に低く評価しすぎているのかもしれないですね。

はぴテクさん
はぴテクさん

そう感じていただけたなら嬉しいです。自分の人生を振り返るとき、私たちはどうしても記憶のフィルターを通して見ています。「黄金の20代」も「思春期のどん底」も、その時の実際の体験に加えて、記憶がどう保存されるかという仕組みも関わっているんです。

自分の過去を振り返ること自体はとても大切ですが、「記憶は必ずしも客観的な事実ではない」ということも頭の片隅に置いておくと、自分への評価が少しやさしくなることもあるかもしれませんね。

■ 今日のまとめ

  • 20代前半の記憶は特にポジティブに残りやすい「黄金の20代」効果が研究で確認されています。ただしこれは記憶の傾向であり、その時期が客観的に最高だったとは限りません。
  • 人生全体をまとめて語ると、年齢を重ねるにつれて記憶のポジティブさが下がる傾向が見られました。これは他の多くの研究と異なる結果で、「人生全体を語る」という条件が影響している可能性があります。
  • 思春期初期(10代前半)は感情的な記憶の谷間になりやすく、女性は男性より人生をネガティブに語る傾向が見られました。どちらも個人差があり、相関として示された傾向です。

■ 出典・注意事項

  • 出典:Martin, T., Kemper, N.F., Schmiedek, F. et al. 'Lifespan effects of current age and of age at the time of remembered events on the affective tone of life narrative memories: Early adolescence and older age are more negative.' Memory & Cognition, 51, 1265–1286 (2023). https://link.springer.com/article/10.3758/s13421-023-01401-x

  • 注意事項①:本研究はドイツ人172人を対象としたものであり、文化・時代背景(戦時中の記憶など)が結果に影響している可能性があります。他の国や文化圏にそのまま当てはまるとは限りません。

  • 注意事項②:研究で示されているのはあくまで「相関・傾向」であり、年齢や性別が記憶の感情的トーンを直接引き起こすという因果関係が証明されたわけではありません。

  • 注意事項③:ライフチャートは自己申告に基づく主観的な記憶の評価であるため、実際の当時の体験と記憶の評価は異なる場合があります。

投稿者によるコメント・補足(1件)
コメント 1

研究自体の紹介はこちら😊
ライフチャートの平均値
https://wellbeing-archive.pages.dev/posts/2023-08-03-1691020808/

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