はぴテク相談室:会社の幸福度は、会社の収益性/企業価値に相関し、それらを予測する。
最近、会社の経営層から『従業員のウェルビーイングに投資する意味があるのか』と言われてしまって…。コストがかかるだけで、業績への効果は見えにくいって言うんです。どう説明したらいいか困っています。
それは悩ましいですね。実は、その疑問に直接答えるような大規模な研究が2023年に発表されたんです。オックスフォード大学とハーバード大学の研究者たちが、アメリカの上場企業1,600社以上のデータを使って調べた研究です。
1,600社以上!それはすごい規模ですね。どんなことが分かったんですか?
はい。求人サイト『Indeed』が持っている、従業員が自分で回答した「仕事への満足度」「仕事の目的感」「幸福度」「ストレスの少なさ」などのデータを会社ごとにまとめて、業績と比べてみたんです。すると、従業員のウェルビーイングが高い会社ほど、収益性が高い傾向があることが分かりました。
それって、たまたまじゃないんですか?もともと儲かっている会社が、従業員を大事にできる余裕があるだけ、とも言えませんか?
鋭い指摘ですね!研究者たちもその点をちゃんと考えていて、「予測できるか」という角度でも調べています。2021年1月時点で従業員の幸福度スコアが高い会社に1,000ドル投資した場合、2023年3月までに約1,300ドルになったと試算されています。一方、S&P500全体への投資は約1,100ドルでした。つまり、後の業績を『予測する』傾向もある、ということが示されています。
へえ、過去だけでなく未来の予測にも使えるんですね。でも、それはあくまで相関ですよね?
そのとおりです!研究者自身も「これは相関関係であって、因果関係を断定するものではない」と論文の中で明記しています。「幸福度が高いから業績が上がる」と断言はできませんし、研究論文自体にもいくつかの限界があると書かれています。ただ、1,600社以上という非常に大きなデータで、収益性と株式市場パフォーマンスの両方で同じ傾向が見られたことは、注目に値する結果です。
なるほど。具体的に、どんな指標で従業員の状態を測っていたんでしょう?
Indeedのサイトに投稿された従業員の自己申告データで、①仕事の満足度、②仕事への目的感(やりがい)、③幸福感、④ストレスの低さ、の4つを組み合わせた「ウェルビーイング指数」を使っています。ストレスが低いことも含まれているのがポイントで、単純な「楽しい職場か」だけでなく、「疲弊していないか」も見ているんですね。
それを経営層に話すとき、どう伝えるのが効果的でしょうか?
経営層が気にするのは数字ですよね。「従業員の幸福度が高い会社は、収益性と株式市場のパフォーマンスが高い傾向がある、という米国1,600社以上の大規模データから示された研究があります」と伝えるのがシンプルで効果的だと思います。さらに、「これは個人レベルでも似た話があって、幸せな人は生産性が1.3倍、創造性が3倍という研究もある」と合わせると、ミクロ(個人)とマクロ(会社全体)の両方から説明できます。
ミクロとマクロ、両方から説明できるのは説得力がありそうです!この研究はどこが出したものですか?
オックスフォード大学のウェルビーイング研究センターのワーキングペーパー(2023年5月)で、著者はオックスフォードのジャン・エマニュエル・ド・ネーブ教授、ジョージ・ウォード氏、ハーバード大学のミカ・カーツ氏です。フィナンシャルタイムズでも取り上げられた注目度の高い研究です。ただ、ワーキングペーパー段階のものなので、今後さらに精査される可能性もある点は念頭に置いておくといいですよ。
ワーキングペーパーというのは、まだ途中段階ということですか?
そうです。学術誌に正式に掲載される前の段階で、「今の時点での研究成果」として公開されているものです。研究者自身も「さらなる研究が必要」と書いています。なので、「絶対に因果関係がある」と断言するのではなく、「大規模データで強い関連性が確認された重要な研究知見」として紹介するのが誠実な伝え方ですね。
分かりました!数字を使いつつ、正直に「相関関係」として伝えることが大事なんですね。とても参考になりました。ありがとうございます!
ぴったりな伝え方を見つけられそうで良かったです!「従業員の幸福度は、コストではなく企業価値そのものかもしれない」という視点で、ぜひ経営層との対話を楽しんでみてください。
■ 今日のまとめ
- 米国上場企業1,600社以上のデータで、従業員のウェルビーイング(満足度・目的感・幸福度・低ストレス)が高い会社ほど収益性や株式市場パフォーマンスが高い傾向があることが示された。
- ウェルビーイング指数は過去の業績との相関だけでなく、その後の業績を予測する傾向も示されており、先行指標としての可能性がある。
- ただし、これは相関関係の研究であり因果関係を断定するものではなく、研究者自身もいくつかの限界を認めているため、「強い関連性が確認された知見」として活用することが重要。
■ 出典・注意事項
- De Neve, J-E., Ward, G., & Kaats, M. (2023). 'Workplace Wellbeing and Firm Performance.' Wellbeing Research Centre Working Paper Series 2304, University of Oxford. https://wellbeing.hmc.ox.ac.uk/papers/2304-workplace-wellbeing-and-firm-performance/
- 掲載メディア:Financial Times(2023年5月24日)'Happy staff often make for satisfied shareholders, study finds'
- 【注意事項】本研究はワーキングペーパー段階であり、査読付き学術誌への正式掲載前の成果です。
- 【注意事項】本研究で示された関係は相関関係であり、「ウェルビーイングを高めれば業績が上がる」という因果関係を証明するものではありません。
- 【注意事項】データはIndeedへの自己申告レビューに基づいており、回答者の偏り(レビューを書きやすい人の偏りなど)が結果に影響している可能性があります。
- 【注意事項】対象は米国の上場企業1,600社以上であり、日本企業や中小企業への適用可能性は別途検討が必要です。
研究自体の紹介はこちら😊
会社の幸福度は、会社の収益性/企業価値に相関し、それらを予測する。
https://wellbeing-archive.pages.dev/posts/2023-05-24-1684969533/