はぴテク相談室:「いい点を取らなきゃ」がしんどい君へ
はぴテクさん、こんにちは。高校1年の子どもの相談なんですけど…。うちの子、最近「勉強しても疲れるばっかりで、もうやる気が出ない」って言うんです。テストのたびにすごく不安がるし、勉強の話になると顔が曇っちゃって。どう声をかけたらいいのか分からなくて。
こんにちは。よく見ていらっしゃいますね。それ、心理学では「学業ストレス」と呼ばれる状態に近いかもしれません。中身を分けると、テスト場面での強い不安(試験不安)と、勉強への慢性的な疲れ・冷め(学校バーンアウト)の2つがあるんです。お子さんはちょうど両方が出ているのかも。
ちなみに、ひとつ聞いてもいいですか。お子さんが勉強をがんばる「理由」って、ふだんどんな言葉で出てきますか?
理由…ですか。そういえば「いい点取らないと恥ずかしい」「順位が下がったらどうしよう」ってよく言ってますね。あと「いい大学行かないと将来困る」とか。
なるほど、ありがとうございます。実はそこが大事なポイントなんです。最近の研究で、幸せや満足の「求め方(動機)」を3つに分けて、高校生を7か月追いかけた調査があります。
・外発的動機…地位・評価・人に認められること(=外からの評価)を求める
・ヘドニック動機…楽しさやリラックス(=快さ)を求める
・ユーダイモニック動機…成長・意味・「自分が伸びている感覚」を求める
お子さんの「恥ずかしい」「順位」「いい大学じゃないと」は、外発的動機にかなり近いんですね。
それって、悪いことなんでしょうか?将来のために、ある意味まっとうな気もしますが…。
まっとうに見えますよね。ただ研究では、外発的動機が強い生徒ほど、7か月後に試験不安や学校バーンアウトが「増えていた」んです。理由として考えられているのは、自分の価値を「点数」という外側の物差しに結びつけてしまうこと。すると、テスト結果に過敏になって、毎回が「自分の値踏み」みたいに感じられて、不安が膨らみやすいんですね。
しかも面白いことに、この外発的動機の悪影響は「心の充実度を下げて、その結果ストレスになる」のではなく、わりと直接、試験不安に効いていました。つまり外からの評価を追う構え自体が、テストを怖くさせている、というイメージです。
…思い当たります。テスト前になると「ダメだったら終わりだ」みたいな言い方をするんです。じゃあ、逆にどうすればいいんでしょう。楽しいこと、息抜きをさせればいいですか?
息抜き自体は悪くないですよ。ただ、ここも研究が示していて意外なんですが──「楽しさ・リラックスを求める動機(ヘドニック)」は、学業ストレスを下げる効果も上げる効果も、特に見られなかったんです。一時的に気分は晴れるけれど、慢性的なしんどさを溶かすところまではいかない、と。
効いていたのは3つ目、ユーダイモニック動機の方でした。「成長したい」「これ、自分の中で意味があるな」と感じながら取り組む構えです。
成長や意味…。でも、テスト勉強にそんな立派な意味を持たせるのって、難しくないですか?
立派じゃなくて大丈夫です。研究での「効き方」を見ると、ヒントが見えてきます。
ユーダイモニック動機が強い生徒は、7か月後に「フラリッシング」が高まっていました。これは心の充実度のことで、人生の意味・有能感(できている感覚)・良い人間関係・自尊心などをまとめた状態です。そして、このフラリッシングが高い子ほど、その後の試験不安もバーンアウトも低かった。
研究者はこれを「資源を築く流れ」と呼んでいます。つまり、
成長・意味を求める → 心の充実(資源)が貯まる → その資源がストレスへの耐性になる
という順番です。心の充実は、ストレスと「あちらを立てればこちらが立たず」の関係じゃなくて、むしろストレスに立ち向かう"備え"になる、ということなんですね。
なるほど…。「点を取るため」じゃなくて「自分が伸びるため」に向きを変える、ということですか。
そうです。具体的には、声かけを少しずらすだけでも違うと思います。たとえば、
・「何点だった?」より「前より分かるようになったところ、あった?」
・「順位どうだった?」より「この単元、面白いと思える瞬間あった?」
・結果ではなく、本人が選んで取り組んだ過程に注目する
ポイントは、お子さんが「外の評価のため」じゃなく「自分にとって意味があるから」と感じられる入り口を、一緒に増やしてあげることです。意味は大きくなくていい。「これ知れてよかった」くらいの小さな実感の積み重ねが、心の充実を少しずつ貯めていきます。
……ちょっと希望が見えてきました。今までつい「次がんばろう、何点目指そう」って結果の話ばかりしてたので。
今気づけたなら十分ですよ。それと、もうひとつだけ。この研究では「バーンアウトが、その後の心の充実をさらに下げる」という悪循環の芽も見つかっています。だから疲れがひどそうなときは、まず休ませることも大事。無理に意味づけを急がず、まず回復、それから少しずつ「成長の手応え」へ、という順番でいいと思います。
■ 今日のまとめ
- 「評価・順位のため」という外発的な動機が強いほど、試験不安や勉強の疲れは増えやすい。結果を自分の価値の物差しにしすぎないことが大事。
- 効くのは「成長したい・意味を感じたい」という動機。これが心の充実(フラリッシング)を育て、その充実がストレスへの"備え"になる。
- 声かけは「何点取れた?」より「前より伸びた?面白いと思えた?」へ。ただし疲れがひどいときは、まず休養が先。
■ 出典・注意事項
- 出典:Lin, L., Chan, H.-W., & Kwan, J. L. Y. (2026). Eudaimonic but not Hedonic or Extrinsic Motives Predict Less Academic Distress Among Adolescents—Indirect Effect via Flourishing. Journal of Happiness Studies, 27, 84.
- この研究は中国南部の公立高校・高校1年生744名を7か月間隔の2時点で追った縦断研究です。動機が先、ストレスが後という時間順は示していますが、厳密な因果の証明ではありません(2時点のみ・自己申告・1校のみという限界があります)。文化差もあるため、日本の状況にそのまま当てはまるとは限りません。
- 本対話は研究内容をやさしく伝えるための創作です。お子さんの不安や疲れが強い・長く続く場合は、スクールカウンセラーや専門の相談機関など、信頼できる支援につながることをおすすめします。