はぴテク相談室:ポジティブ心理学の三つの波と第四の波の提案
最近、自己啓発本とか読むと『ポジティブに考えよう!』『感謝の気持ちを持とう!』みたいなことばかり書いてあって…。でも正直、ネガティブな感情を無理やり押し込めようとすると、かえってしんどくなる気がするんです。私の考え方がおかしいのかな、と思って。
全然おかしくないですよ!実はその違和感、ポジティブ心理学の研究者たちも真剣に向き合ってきた問題なんです。トルコのギョクメン・アルスラン先生が2025年に発表した論文に、ポジティブ心理学がどう進化してきたかがまとめられているんですが、まさにその「ポジティブ一辺倒」への反省から学問が大きく変わってきているんです。
ポジティブ心理学って、そもそもどんな学問なんですか?
1990年代後半にマーティン・セリグマンという研究者が「心理学はずっと『人の何が間違っているか』を研究してきたけど、『何が正しいか』にも目を向けよう」と提唱したのが始まりです。強み、ポジティブな感情、人生への満足感といったものを科学的に研究する動きです。これが『第一の波』と呼ばれています。フロー理論や感謝の研究などもこの流れですね。
なるほど。でもそれだと確かに、ネガティブな部分が置いてきぼりになりそうですね。
そうなんです!研究者たちも同じ問題に気づいて、『第二の波』へと進化していきます。ここで登場するのが「ポジティブとネガティブの弁証法的統合」という考え方です。たとえばカシュダンとビスワス=ディーナーという研究者は、怒りは不正に対処する力になるし、悲しみは喪失を乗り越えるのを助けるし、不安は危険を察知する機能があると整理しています。ネガティブな感情にも適応的な役割があるという視点ですね。
じゃあ、ネガティブな感情を無理に消そうとしなくていいってことですか?
この研究が示唆しているのはまさにその方向性ですね。同じく第二の波の研究者、ポール・ウォン先生の「二重システム理論」では、幸せな人生はポジティブな体験だけでなく、苦しみや逆境を含む両方のシステムの統合から生まれると考えられています。常にポジティブでいようとする圧力がかえってストレス源になりうる、という指摘も出ています。
それ、すごく納得できます!で、研究はさらに進んでいるんですよね?
はい、『第三の波』では視野がさらに広がって、個人の心の中だけでなく、コミュニティ、文化、自然環境、社会正義といったシステム全体の中でウェルビーイングを考えるようになっています。たとえばロマスとイヴタンのLIFEモデルでは、愛・身体や環境との関係・心身の機能・成長という四つの軸で幸福を捉えています。自分一人の感情だけじゃなくて、繋がりや環境も幸福の大事な要素だという考え方です。
確かに、人間関係や職場環境が悪いと、いくら自分がポジティブに頑張っても限界がありますよね。
まさに!そこを指摘したのが第三の波の重要なポイントです。そしてさらにアルスラン先生が注目しているのが、提案段階の『第四の波』です。個人の幸せを超えて、地球環境問題や社会の不平等など、地球規模の課題とウェルビーイングを結びつけて考えようという方向性です。「どうすれば私が幸せになれるか?」から「どうすれば私たちが持続可能に、共に繁栄できるか?」への転換とも表現されています。
スケールが大きくなってきましたね(笑)。でも、日常の私の悩みに引き寄せると、どう考えればいいんでしょう?
日常レベルで一番使えるのは、第二の波の知見かもしれません。「ネガティブな感情を感じた自分はダメだ」と判断するのではなく、「この感情は今の自分に何かを伝えようとしているのかも」と、まず観察してみるという姿勢ですね。研究では、感情を無理に抑制することは心理的健康に有害である可能性が指摘されています。
それはやりやすそうです!あと、一点気になったんですが、ポジティブ心理学って西欧の考え方が強いって書いてありましたが、日本人の私には合わない部分もある?
鋭いですね!アルスラン先生の論文でも、第一の波はWEIRD、つまり西洋・高学歴・先進国・豊かな民主主義国の文脈に偏りすぎていたという批判が書かれています。たとえば「自尊心を高めよう」という概念は西洋では重視されますが、集団を大切にする文化では必ずしも同じようには機能しないという指摘もあります。だから自分の文化的背景に合わせて、知見を取捨選択していくことが大切だと思いますよ。
なんか、無理にポジティブにならなくていいんだって思えてきました。研究がそれを後押ししてくれているのは心強いですね。
そうですね!ポジティブ心理学自体が「ポジティブ一辺倒はおかしい」と自己批判しながら進化してきた学問なんです。ネガティブな感情を持つことも、難しい状況に悩むことも、全部ひっくるめて人間らしい姿。その上で、自分・周りの人・社会・地球というつながりの中で、どう生きるかを考えていくのが今のポジティブ心理学の向かう先なんじゃないかなと思います。
■ 今日のまとめ
- ネガティブな感情を無理に消そうとしなくていい:怒り・悲しみ・不安には適応的な役割があるとされており、感情の抑制は心理的健康に有害な可能性があると研究は指摘しています。
- 幸福は「ポジティブ体験だけの積み上げ」ではなく、苦しみや逆境を含む両方の体験の統合から生まれるという考え方(二重システム理論など)が第二の波以降の中心的視点です。
- ウェルビーイングは個人の心の中だけでなく、人間関係・文化・環境・社会といったシステム全体の中で形成されるという視点へ研究は進化しており、自分一人の頑張りで解決しようとすることの限界も認識されています。
■ 出典・注意事項
- 【出典】Gökmen Arslan, 'Beyond Happiness: The Three Waves of Positive Psychology and the Future of Wellbeing,' Journal of Happiness and Health, 2025年7月13日公開。https://journalofhappinessandhealth.com/index.php/johah/article/view/121
- 【注意事項①】本論文はレビュー論説(narrative review)であり、各理論の紹介・整理が中心です。個別の知見については元の実証研究を参照することが望ましいです。
- 【注意事項②】論文中で紹介されている研究知見の多くは相関研究や理論的枠組みであり、「ネガティブ感情の受容が幸福度を高める」といった因果関係を直接証明するものではありません。
- 【注意事項③】ポジティブ心理学の研究は西洋・先進国の対象者を中心に行われてきたものが多く(WEIRD問題)、日本を含む非西洋文化圏へのそのままの適用には注意が必要です。論文自身もこの点を限界として指摘しています。
- 【注意事項④】第四の波(グローバリティ)はまだ提案段階であり、実証的な裏付けが積み上げられている段階ではありません。
研究自体の紹介はこちら😊
ポジティブ心理学の三つの波と第四の波の提案
https://wellbeing-archive.pages.dev/posts/2025-07-19-1752893310/