はぴテク相談室:「どうせ幸せは続かない」と思ってしまう私の話
はぴテクさん、聞いてください。先週、仕事で大きなプロジェクトが成功して、上司にもすごく褒められたんです。でも、その瞬間から「こんなにうまくいくなんて出来すぎだよな」「どうせ次は失敗する」って考えが止まらなくて。せっかくの嬉しい出来事なのに、全然喜べなかったんです。私、性格が暗いんでしょうか。
いえいえ、性格の問題ではないですよ。それ、心理学では「ダンプニング」と呼ばれる、とてもよくある心の反応なんです。ポジティブな気持ちに対して「出来すぎだ」「自分には値しない」「どうせ続かない」と考えて、幸せの強さや長さを自分で薄めてしまう反応のことです。
ダンプニング…。まさにそれです。でも、なんでわざわざそんなことするんでしょう? 幸せなままでいた方が得なのに。
いい質問です。実は今年、ベルギーの研究チームがまさにその「なぜ」を実験で調べたんですよ。一般の成人102名を対象に、まず全員に写真で幸せな気分になってもらう。そのあと半分の人には2分間、「この幸せは出来すぎ」「どうせ続かない」と考えてもらい、もう半分の人には腹式呼吸でリラックスしてもらう。そして最後に、全員に悲しい写真を見てもらったんです。
うわ、意地悪な実験ですね(笑)。それでどうなったんですか?
まず当然ですが、水を差す思考をしたグループは、その場では幸福感が下がって、ネガティブな気持ちが増えました。ところが面白いのはここからで、そのあと悲しい写真を見たときの「気分の急降下」は、水を差したグループの方が小さかったんです。
えっ、どういうことですか?
ジェットコースターをイメージしてください。リラックスしていたグループは、幸せの高いところから一気に落ちるので、落差をモロに食らいます。でも先に水を差していたグループは、すでに少し低いところにいたので、落ちる距離が短くて済んだ。この感情の急激な落差のことを、専門的には「ネガティブ感情対比」と呼びます。実際、水を差したグループの68%の人が「おかげで悲しい写真がキツくなかった」と答えています。
あ…。じゃあ私が「どうせ続かない」って考えちゃうのは、落ちたときのショックを小さくするための、心の準備というか、防衛だったってことですか?
その通りです。研究チームの結論もまさにそれで、ダンプニングは「幸せが終わるときの急落を避けるための戦略」として機能しているようなんです。だから、性格が暗いのではなく、むしろ自分の心を守ろうとする働き者の反応なんですよ。まずはそこを責めないであげてください。
ちょっとホッとしました。…でも、それなら水を差すのって良いことなんですか? ショックが減るなら合理的な気もしてきました。
そこが落とし穴なんです。短期的には確かに楽なんですよ。落差の不快感を回避できますから。でも「楽だった」という経験がクセを強化して、どんどん幸せに水を差すようになる。心理学ではこれを「負の強化」と呼びます。そして別の研究の積み重ねでは、ダンプニングを日常的に続けることは、うつ症状や不安など、様々なメンタルヘルスの問題のリスク要因になることが分かっています。つまり、目先のショックを避ける代わりに、長期的な幸せを削って支払っているんです。
保険料が高すぎる保険、みたいな話ですね…。じゃあ、どうすればいいんでしょう。「どうせ続かない」って考えるな、と言われても、勝手に浮かんできちゃうんですけど。
無理に消そうとしなくて大丈夫です。おすすめは2つ。1つ目は「セイバリング」といって、幸せを意識的に味わう練習です。嬉しいことがあったら、その場面の景色や気持ちを細かく思い返したり、誰かに話したりして、幸せを薄めるのではなく濃くする方向の習慣をつける。2つ目は、発想の転換です。幸せのあとに気分が下がるのは自然なことですが、研究が示唆するのは、その落差は私たちが恐れているほど耐えられないものではない、ということ。「落ちてもまた戻れる」と何度か経験できると、先回りして水を差す必要がなくなっていきます。
幸せを薄めて落差に備えるんじゃなくて、落差の方に慣れればいいのか。なんだか、幸せを怖がらなくていい気がしてきました。今度いいことがあったら、まず一回、ちゃんと喜んでみます。
それが一番の第一歩です。「どうせ続かない」が浮かんだら、「お、心の防衛反応が働いてるな」と気づいて、そのうえで「でも今は味わおう」と選び直す。せっかくの幸せ、水を差さずに味わっていきましょう。
■ 今日のまとめ
- 幸せに水を差す思考(ダンプニング)は、幸せが終わるときの感情の急落を避けるための「心の防衛」として機能していることが実験で示された
- 短期的にはショックを和らげるので、クセになりやすい(負の強化)。しかし長期的には幸福感を削り、メンタルヘルスのリスク要因とされている(先行研究より)
- 対策は、幸せを意識的に味わうこと(セイバリング)と、感情の落差は「実は耐えられる」と経験して学ぶこと
■ 出典・注意事項
- Gérardy, M., Bogaert, L., Newman, M. G., Hallford, D. J., & Raes, F. (2026). Dampening of positive affect as an emotional contrast avoidance strategy: An experimental test of the contrast avoidance model. Behaviour Research and Therapy, 204, 105116. https://doi.org/10.1016/j.brat.2026.105116
- 本研究は一般の成人(コミュニティサンプル)102名を対象としたオンライン実験です。臨床群(うつ病や不安症の診断がある方)への一般化は今後の課題とされています
- 「ダンプニングがうつや不安のリスク要因である」という点は、本実験が直接示したものではなく、先行研究の知見に基づきます
- 対話中の相談内容や解決の流れは、論文の知見を分かりやすく伝えるための創作です。実際に気分の落ち込みが続く場合は、専門家への相談をご検討ください
論文紹介はこちら😊
何故、幸せな気持ちを押し殺してしまうのか。
https://wellbeing-archive.pages.dev/posts/2026-07-19-1784433480/