41レジリエンスとウェルビーイング
ウェルビーイングハンドブック_第六章:リソース
毎日読めばウェルビーイングの基礎が分かる、ウェルビーイング・ハンドブック紹介シリーズ、第六章😊
ウェルビーイングの源(リソース)編、最後はレジリエンスについてです😊
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■ レジリエンス(回復力・折れない力)とウェルビーイング(心身の良好な状態) Harms, Brady, Wood, & Silard, 2018
▼ はじめに
「レジリエンス」という言葉は、自己啓発本やビジネス書でよく見かけるようになりました。流行り言葉のように聞こえるかもしれませんが、その科学的な研究の歴史は長く、「逆境に直面したとき、何が人を立ち直らせるのか」という問いは何千年も前にさかのぼります。
研究によれば、レジリエンスの高い人の割合は25〜84%と推定されていますが、そもそも「レジリエンスが高い」とはどういう意味なのでしょうか。この論文ではその定義・測定・発達・関連概念・今後の課題を包括的に整理しています。
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■ レジリエンスの定義
レジリエンスには大きく2つの意味があります。
・「ダメージを受けない力」=ストレスや逆境に傷つかずに耐える能力(特性としてのレジリエンス)
・「立ち直る力」=傷ついてもすばやく回復する能力(プロセスとしてのレジリエンス)
この2つの定義の違いは重要です。単に「耐える」だけでなく、逆境の中に意味を見出して成長する「ポストトラウマティック・グロース(心的外傷後成長)」という現象も存在します。これは、つらい出来事を通じて以前より豊かな生き方を獲得するプロセスです(Elder, 1998; Jayawickreme & Blackie, 2014)。
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▼ レジリエンスの測定
レジリエンスを「個人の特性」として測定する代表的な尺度があります。
・Connor-Davidson Resilience Scale(CD-RISC):変化への受容、自己コントロール感、個人的な有能感、精神的な支えへの信頼などを測る25項目の尺度(Connor & Davidson, 2003)
・Five-by-Five尺度:適応力、感情のコントロール、楽観性、自己効力感(「自分はできる」という感覚)、ソーシャルサポート(他者からの支援)の5次元を測る(DeSimone et al., 2016)
・Global Assessment Tool(GAT):米軍が開発した105項目の多次元尺度。感情・社会・家族・精神の4つの「フィットネス(健全さ)」を評価する(Peterson, Park, & Castro, 2011)
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▼ 保護因子(レジリエンスを支える要因)
レジリエンスは、個人が持つさまざまな「資源」と深く結びついています(Richardson, 2002)。
・個人レベル:性格特性、対処スタイル、神経生物学的な特徴など
・社会レベル:家族・友人・同僚などからの情緒的サポート(共感や傾聴)と道具的サポート(具体的な助け)。仕事・プライベート双方の支援が重要(Adams et al., 1996)
・コミュニティレベル:地域・行政・インフラなどの総合的な危機対応能力。ハリケーン・カトリーナの際にウォルマートが政府より先に支援物資を届けた例が示すように、民間の準備体制も重要
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▼ 回復のパターン(時間的な経過で見るレジリエンス)
レジリエンスをプロセスとして捉えると、ストレスへの反応には6つのパターンがあります(Bonanno, 2004, 2005)。
最初の3つが「レジリエンスが高い」パターンです:
・ストレス抵抗型:ストレスを受けてもウェルビーイングがほぼ低下しない
・バウンシングバック型:一時的に低下するが、すぐに回復する
・ポストトラウマティック・グロース型:回復するだけでなく、逆境をきっかけに以前より成長する
残りの3つは「レジリエンスが低い」パターンです:
・長期回復型:最終的には回復するが、時間がかかる
・遅延反応型:最初は問題なく見えるが、後から深刻な不調が現れる
・回復不能型:ストレスが引き起こした問題が慢性化し、解消されない
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■ レジリエンスはどう育つのか
▼ 生活史(子ども時代の影響)
成人のレジリエンスの多くは、子ども時代の経験に根ざしています(Masten, 2001)。
・貧困・病気・虐待などの経験は、一般にレジリエンスを低下させる(Windle, 2011)
・一方で、適度な逆境は「困難を乗り越えるスキル」を育てるとも言われる(Rutter, 1999)
・ただし注意も必要。逆境の中で身につけた対処法が、安定した環境では逆効果になることもある。例えば、人との関係を「切り離す」ことで苦境を乗り越えた人が、子育てでは同じ方略を使えないケースが挙げられます(Schibli et al., 2017)
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▼ レジリエンス・トレーニング
職場・学校・軍など様々な場所でレジリエンス向上プログラムが導入されています。
・Penn Resiliency Program(ペン・レジリエンシー・プログラム):認知行動療法をベースにした子ども向けプログラム。「デカタストロファイジング(大げさに捉えすぎない習慣)」など、認知の書き換え(コグニティブ・リアプレイザル=感情を引き起こす状況の見方を変えること)を訓練する(Gillham et al., 1995)。ただしメタ分析では、他の一般的な介入と比べて特別に優れているわけではないとも(Brunwasser et al., 2009)
・米軍のCSF2プログラム:ペン・レジリエンシー・プログラムを元に全軍規模で展開。若い兵士ほど効果が高く、物質乱用(薬物・アルコール依存など)の低減にも効果が確認された(Lester et al., 2011; Harms et al., 2013)
・組織向けメタ分析の知見(Vanhove et al., 2016):
- コンピューターによる介入は最も効果が低い
- 対面・一対一のトレーニングが最も効果的
- リスクの高い層では時間とともに効果が増す傾向
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■ レジリエンスとウェルビーイングの関係
両者は密接に関連していますが、単純ではありません。
・レジリエンスが高いとウェルビーイングが高い、という相関はメタ分析でも確認されています(Hu et al., 2015)。しかし両者は完全に同じ概念ではない(Burns & Anstey, 2010)
▼ どちらが先?
・ウェルビーイング → レジリエンス:ポジティブな感情が柔軟な思考や社会関係の維持を促し、レジリエンスを高める(Fredrickson et al., 2003; Tugade & Fredrickson, 2004)
・レジリエンス → ウェルビーイング:レジリエンスが高い人はうつ症状が低く、仕事への満足度や主観的幸福感が高い(Luthans et al., 2007; Liu et al., 2014)
・双方向または相互作用:これらの立場はどれも部分的に正しい可能性があります
▼ 注意点:レジリエンスがウェルビーイングを妨げることも
・幼少期に厳しい環境で育ち高い自己効力感を持つようになった人が、「自分さえよければ」という姿勢を身につけ、他者との関係を築けなくなるケースがある
・ウェルビーイングが高い人は、広く拡散した満足感を持つが、逆境への明確な集中力(フォーカス)を欠く場合がある(Fredrickson, 1998; Silard, 2016)
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■ 関連する概念との比較
▼ サイコロジカル・キャピタル(心理的資本)
自己効力感・楽観性・希望・レジリエンスの4つからなる心理的資源の総称(Luthans et al., 2007)。健康・ウェルビーイング・職場パフォーマンスと関連することが示されている。ただしレジリエンスを他の3因子の「結果」と捉えれば、同列に並べることへの疑問もある
▼ キャラクター・ストレングス(性格の強み)
思考・感情・行動の中に自然に現れる良い特性のこと(Hodges & Clifton, 2004)。強みがレジリエンスの先行要因である可能性が示唆されているが(Martínez-Marti & Ruch, 2017)、測定上の課題も多く、さらなる研究が必要
▼ グリット(やり抜く力)
長期目標に向けた情熱と粘り強さ(Duckworth et al., 2007)。レジリエンスと概念的には近いが、実際の測定値の相関は小さいとするメタ分析もある(Credé, Tynan, & Harms, 2017)。また既存の「誠実性(conscientiousness)」という性格特性と大きく重なるという指摘もある
▼ ハーディネス(心の強靭さ)
コントロール感・コミットメント(物事への意味付け)・チャレンジ精神(困難を成長の機会と見る)の3要素からなる概念(Kobasa, 1979)。ウェルビーイング・健康・ソーシャルサポートとの関連が強く(Eschleman et al., 2010)、理論的な構造が明確な点でレジリエンス研究より整理されている
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■ 今後の研究課題
・概念の整理:レジリエンスと関連概念の境界線をより明確にする必要がある。特に、ウェルビーイングの指標をレジリエンスの尺度に含めることで「見かけ上の相関」が生まれる問題が指摘されている(Wood & Harms, 2016)
・測定の改善:自己報告式の尺度に加え、神経科学的指標・潜在的測定(意識しない反応を測る方法)・状況テストなど新しいアプローチが期待される
・縦断研究の充実:1回だけの調査ではなく、時間を追ってウェルビーイングのパターンを観察するデザインが求められる(Britt et al., 2016)
・理論の精緻化:「レジリエンスが高いと良い結果、低いと悪い結果」という粗い予測ではなく、より精密な理論構築が必要
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■ まとめ
レジリエンスは単なるブームではなく、ストレスとウェルビーイングの関係を理解するための重要な枠組みです。
・レジリエンスには「特性」としての側面と「プロセス」としての側面がある
・その発達には個人・社会・コミュニティの各レベルの保護因子が関わる
・ウェルビーイングとは双方向に影響し合っており、単純な因果関係はない
・測定・理論ともに課題は残るが、新しいアプローチへの期待は大きい
逆境に直面したとき、人はどう立ち直るのか——この問いへの科学的な答えは、まだ発展途上にあります。
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Resilience and Well-Being
By P.D. Harms, University of Alabama; Lisa Brady, University of Alabama; Dustin Wood, University of Alabama; Anthony Silard, California State University, San Bernardino
要旨 本章では、レジリエンスがどのように定義され、測定されてきたかについて概説し、特にレジリエンスとウェルビーイングの関係に焦点を当てる。具体的には、特性として定義されるレジリエンスと、時間経過に伴う心理的ウェルビーイングのパターンとして定義されるレジリエンスとを区別する。また、レジリエンスの発達的起源に関するレビューを行い、成人のレジリエンスを高めることを目的とした介入に関する最近の研究をまとめる。また、レジリエンスと、ハードネス、グリット、キャラクター・ストレングス、心理的資本といった密接に関連する概念との違いについても明らかにする。最後に、レジリエンス研究の今後の展望について指針を示す。
キーワード:レジリエンス、ウェルビーイング、ストレス、発達