はぴテクさんのウェルビーイング相談室 〜「リスクを取れる人」は、本当に幸せなのか?〜
はぴテクさん、ちょっと聞いてください。最近すごくモヤモヤしてて…。友達が会社を辞めて起業したんです。SNSでも「挑戦しない人生はもったいない」とか「リスクを取れる人だけが幸せになれる」みたいな投稿がいっぱい流れてきて。私、安定志向で慎重なタイプなので、なんだか自分がダメな人間に思えてきちゃって。やっぱりリスクを取れる人の方が、幸せなんでしょうか?
そう感じてしまうの、すごくよく分かりますよ。世の中、そういうメッセージで溢れていますからね。でも、ちょうどその疑問にきれいに答えてくれた研究があるんです。3万6千人以上のデータを集めて「リスクを取る人は、本当に幸せなのか?」を調べたものなんですが…結論から言うと、「ほとんど関係なかった」んですよ。
えっ、関係ない…んですか? あんなに「挑戦が大事」って言われてるのに?
そうなんです。リスクを取る性質と幸福度の相関は、統計的にはほぼゼロに近いくらい小さかった。でも、ここからが面白いところで。「無関係だから小さい」んじゃなくて、「プラスとマイナスが打ち消し合ってゼロになっていた」んです。
プラスとマイナス…? どういうことですか?
リスクを取る人って、実は2つの顔を持っているんです。ひとつは「外向的で、気持ちが安定している」という面。新しいことに飛び込んでいける明るさと、失敗してもへこたれない心の強さですね。これは幸福度を上げる方向に働きます。研究ではこれを「主体性の経路」と呼んでいます。
たしかに、起業した友達はそういう明るいタイプかも。
でしょう? でも、もうひとつの顔があって。リスクを取りやすい人は「計画性が低かったり、衝動的だったり」する傾向もあるんです。これは「行動の経路」と呼ばれていて、こっちは幸福度を下げる方向に働く。つまり同じ「リスクを取る人」の中で、幸せにする力と、幸せを削る力が、両方同時に動いているんですね。
なるほど…。じゃあ、リスクを取ること自体が幸せを生んでるわけじゃ、ないんですね。
まさにそこが核心です。研究がはっきり示したのは、「リスクを取る人が少し幸せそうに見えるのは、リスクを取ること自体のおかげじゃなくて、その人が持っている性格特性のおかげ」だということ。さらに言うと、性格の影響をぜんぶ取り除いて「純粋にリスクを取る性質」だけを見ると、むしろ幸福度はわずかに下がっていたんですよ。
ええっ。じゃあ「リスクを取れば幸せになれる」っていうのは…
少なくとも、そのままでは正しくないですね。研究者も「起業家や冒険家を美化する物語は、成功した人ばかりを見て、失敗した人の数や、うまくいった人が持っていた性格を見落としがちだ」と注意を促しています。挑戦して幸せになった人の裏には、同じくらい挑戦して報われなかった人がいる。その差を分けているのは、リスクを取る勇気そのものじゃなくて、「リスクを賢く取れる性格の土台」だったんです。
性格の土台…。具体的にはどんなものなんですか?
研究が挙げているのは主に3つ。ひとつは「情緒の安定」、つまり失敗や不安をちゃんと受け止めて立ち直れる力。ふたつめは「人や機会に向かっていく前向きさ」。みっつめは「計画して、最後までやり遂げる誠実さ」。この3つがあると、同じリスクでも"おいしいところ"を取りやすくなって、痛手は抑えられる。逆に言えば、ここを育てずにリスクだけ取ると、しんどい結果になりやすいんですね。
…なんだか、すごくホッとしました。私、リスクを取れない自分を責めてたんですけど、大事なのは「取るか取らないか」じゃなくて「取れる土台があるか」なんですね。
そうですよ。あなたが安定志向で慎重なのは、何も欠点じゃありません。むしろ「計画性」や「やり遂げる力」は、その大事な土台の一部です。もし将来あなたが何か挑戦したくなったとき、その慎重さは、リスクを賢く取るための強い味方になってくれるはずです。隣の芝生のSNSと、自分を比べなくて大丈夫。
ありがとうございます。「挑戦できない自分」じゃなくて、「賢く挑戦できる土台を持ってる自分」って思えるようになりました。なんだか肩の力が抜けました。
■ 今日のまとめ
- 「リスクを取る人は幸せ」はほぼ思い込み。3万6千人のデータでは、リスクを取る性質と幸福度の関連はほぼゼロだった
- それは無関係だからではなく、幸福を「上げる力(外向性・情緒の安定)」と「下げる力(計画性の低さ・衝動性)」が打ち消し合っていたから。幸せそうに見えるのはリスクではなく性格特性のおかげ
- 大事なのはリスクを取る勇気そのものより、「リスクを賢く取れる土台」(情緒の安定・前向きさ・やり遂げる力)。慎重さや計画性は、その土台の一部であって欠点ではない
■ 出典・注意事項
- 出典:Zhang, D. C., Reeves, K., Mellor, G., & Mouton, C. (2026). Are Risk Takers Happy? A Meta-Analytic Investigation. Research Square プレプリント. DOI: 10.21203/rs.3.rs-9313082/v1
- この論文はプレプリント(査読を正式に経る前の段階の論文)です。今後内容が変わる可能性があります
- 元の研究は大半が横断研究(ある一時点で調べる研究)のため、「リスクと幸福のどちらが原因か」という因果関係までは断定できません。「幸せな人がリスクを取りやすくなる」という逆向きの可能性も残されています
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論文自体の紹介はこちら😊
リスクテイカーは幸せなのか?
https://wellbeing-archive.pages.dev/posts/2026-05-29-1780096315/