職場への定着度とウェルビーイング
〜幸せな人は、辞めない〜
を整理頂いた最新研究😊
職場への定着度は、ジョブ・エンベデッドネスと言われ、
人を職場や地域に結び付ける複合的な力のことです。
これはウェルビーイングにつながるのか?を整理頂いたのですが、
そこには複雑な関係性が見られました。
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職場への定着度は、組織への定着と地域への定着に分けられますが、どちらも、仕事領域・非仕事領域のウェルビーイングと正の関係にありました。
つまり、
職場にフィットしている感や職場のつながりや、住んでいる地域でのつながりは、仕事の満足度や人生全般の満足度と関連しており、
バーンアウトの低さやワークエンゲージメントの高さとも結びついていた。
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一方で、組織への定着には少しややこしい一面も。
仕事と非仕事の境界面のウェルビーイング(ワーク・ファミリー・コンフリクトなど)を経由した、
小さな「離職を促す経路」が見つかりました。
組織にフィットしている人ほど、仕事への投資が増え、
仕事と家庭の両立に張りが生じる可能性がある、ということ。
なお、地域への定着にはこうした暗黒面はほぼ見られず、
全体として保護的に働いていました。
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まとめると、
職場のつながりやフィット感といった職場への定着度は、
仕事と人生全般のウェルビーイングと結びつき、離職も減る方向。
ただし組織への定着には、仕事と家庭の境目でのストレスを経由して、
わずかに離職を増やす経路も見られる。
トータルで見ると、職場への定着度はウェルビーイングと正の関係にあるが、
領域間の衝突への目配りも必要。
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仕事への定着度は資源となるのか?仕事への定着度と従業員の幸福度との関係を再考する:メタ分析による調査
Is Job Embeddedness a Resource? Revisiting the Relationship of Job Embeddedness and Employee Well-Being: A Meta-Analytic Investigation
Journal of organizational behavior,2026/4/30
Young-Kook Moon(ラドフォード大学), Kimberly E. O'Brien, Biyun Hu
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/job.70083?af=R
仕事への定着(つまり、従業員が組織に留まる理由を説明する組織的およびコミュニティ的要因)は、一般的に肯定的な概念とみなされています。しかし、定着は幸福に悪影響を及ぼす可能性もあることを示唆する研究が増えており、特に仕事以外の領域や複数の領域にわたる結果を考慮すると、その傾向が顕著です。これらの関係を明確にするため、本メタ分析では、資源保存理論の観点から、仕事への定着が幸福に及ぼす影響を検討しました。122の研究から得られた133の独立したサンプル(N = 51,833)に基づくと、仕事への定着は、燃え尽き症候群の軽減や生活満足度の向上など、幸福と概ね正の相関関係にあることが示されました。重要なことに、組織への定着は、コミュニティへの定着よりも、仕事関連の幸福だけでなく、仕事以外の領域や複数の領域にわたる幸福にも、比較的強い影響を与えていました。さらに、メタ分析構造方程式モデリングにより、単一領域(例:仕事の燃え尽き症候群)と複数の領域(例:仕事と家庭の葛藤)の両方の幸福が、仕事への定着と離職との関係を媒介していることが明らかになりました。さらに、組織への定着は、複数の領域にわたる幸福感を通じて、間接的にかつ肯定的に自発的な離職に影響を与え、定着が実際の離職行動を形成する際の直感に反するパターンを示した。全体として、これらの結果は、仕事への定着は一般的に従業員の幸福感にとって有益であるが、幸福感のプロセスを考慮に入れると、定着におけるその役割はより複雑になることを示唆している。
■ 本研究の前提となる既存研究の解説
この研究(Moon et al., 2026)は、ジョブ・エンベデッドネス(仕事への定着)が従業員のウェルビーイングに対してどのような影響を及ぼすかを、メタ分析で検討したものです。その前提となっている既存研究を、話の流れに沿って整理します。
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■ 1. ジョブ・エンベデッドネス(仕事への定着)という概念の出発点
▼ Mitchell et al. (2001)
・「なぜ人は今の仕事に留まるのか」を説明するために提案された概念
・従来の離職予測因子(職務満足など)では捉えきれない「人を仕事に縛りつける複合的な力」を扱う
・3つの要素から構成される
・links(リンク):職場や地域での人間関係や所属の網
・fit(フィット):自分と環境との適合度
・sacrifice(犠牲):離職した場合に失うコスト
・さらに「組織への定着(organizational embeddedness)」と「地域への定着(community embeddedness)」の2領域に分かれる
※組織=on the job、地域=off the job
▼ Crossley et al. (2007)
・Mitchellらの「形成的(formative)」測定とは別に、よりシンプルな「全体的(global)」測定尺度を開発
・以後、研究では2系統の尺度が併用されている
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■ 2.「仕事への定着=離職を抑える」という通説の確立
▼ Jiang et al. (2012) のメタ分析
・仕事への定着が離職意図および実際の離職行動を予測する増分妥当性を示した
・以降、仕事への定着は「組織にとって有益な資源」として扱われるのが通説に
▼ Rubenstein et al. (2018) のメタ分析
・離職の先行要因を網羅的に整理し、仕事への定着の位置づけを再確認
・ただし、これらのメタ分析は「組織への定着>地域への定着」という結論を全体効果サイズで述べただけで、領域別に直接比較はしていない
▼ Lee et al. (2014) のレビュー
・仕事への定着研究20年の到達点を整理した代表的レビュー
・ただし「定着が離職を減らすメカニズム(媒介過程)」の解明は今後の課題と指摘
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■ 3. 理論的バックボーンとしての資源保存(COR)理論
▼ Hobfoll (1989, 2001)
・COR理論=Conservation of Resources theory(資源保存理論)
・人は「自分が大切にする資源」を獲得・維持・保護しようと動機づけられる
・ストレスは「資源が脅かされる/失われる」ときに生じる、というストレス理論
▼ Hobfoll et al. (2018)
・最新版のCORレビュー
・重要概念として
・resource caravan(資源キャラバン):資源は単独ではなく束になって存在し、互いに支え合う
・ecological sensitivity(生態的感受性):資源はある文脈では有益でも、別の文脈では負荷になりうる
・本論文では、この「生態的感受性」が、「単一領域 vs 領域横断」という整理に対応する
▼ Kiazad et al. (2015)
・本研究の理論的中核
・Mitchellらの定着理論をCORの枠組みに明示的に統合
・要点は次の通り
・従業員は職場で資源を投資・蓄積する過程で「定着して」いく
・一度定着すると、その資源を守ろうとする動機が働く(=新しい職場での未来の資源より、今の資源の維持を優先)
・定着で得た資源は、それが育った領域(work or nonwork)にとどまりやすく、別領域では使いづらい
▼ Sender et al. (2018)
・中国とスイスの2国比較で、組織への定着と地域への定着が離職に異なる効果を持つことを示し、「multi-foci(複数焦点)」の妥当性を支持
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■ 4. 仕事への定着とウェルビーイングの関係をめぐる「混乱した知見」
ここからが本研究の核心的な動機です。「定着=良いもの」という通説に対して、実は研究結果が割れている、という状況。
▼ ネガティブ効果を示す研究
・Ng & Feldman (2012, 2014):米国・中国・シンガポールで、組織と地域の両方の定着がwork-to-family conflictとfamily-to-work conflictを高めることを報告
※work-family conflict=仕事役割と家庭役割の両立困難
・Kismono (2011, インドネシア):定着がwork-family conflictを高める
・Allen, Peltokorpi, & Rubenstein (2016):上司虐待や雇用不安がある状況で、定着した従業員ほど情緒的消耗・身体症状・睡眠の質低下を経験
・Peltokorpi (2022):類似の悪影響を再確認
▼ ポジティブ効果を示す研究
・Halbesleben & Wheeler (2008):定着→ワークエンゲージメント増加
・Lee (2018), Lee & Lee (2013, 韓国):定着→バーンアウト低下
・Ahmad & Islam (2019, パキスタン)、DiRenzo et al. (2017, 米国)、Karatepe (2013, ルーマニア):定着がwork-family conflictを下げるという、Ng & Feldmanとは正反対の結果
つまり、国・状況によって正反対の結果が出ており、まだ統合的な結論が出ていない、というのが本研究の出発点です。
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■ 5. 直近のメタ分析とその限界
▼ Ng & Allen (2018)
・「組織への愛着(organizational attachment)」と健康・ウェルビーイングのメタ分析(k=401)
・組織への定着も含むさまざまな愛着指標が、健康やウェルビーイングと正の相関を持つことを示した
・ただし、組織への定着の正の効果は他の愛着(情動的コミットメントなど)よりも弱かった
・著者らはその理由を「定着は情動ではなく『犠牲の予期』を通じて組織と結びつくため」と解釈
・限界:地域への定着は研究数が少なく(k=2〜5)分析に含められなかった/ウェルビーイングの種類別の検討もなし
→ この限界が、Moonら本研究の必要性を直接根拠づけています。
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■ 6. ウェルビーイング概念の定義の不統一
▼ Bautista et al. (2023)
・職業領域の388研究をレビューした結果、ウェルビーイングの操作的定義が150以上存在
・つまり「ウェルビーイング」と一口に言っても、研究ごとにバラバラ
▼ Pindek et al. (2019)
・ストレス・ストレイン・ウェルビーイングが研究間で混用されている問題を整理
・本研究はこの整理に従い、ストレインも資源喪失の指標としてウェルビーイングの枠組みに含めるという方針を採用
■ 研究の目的と問い
▼ 大きな問い
・ジョブ・エンベデッドネス(仕事への定着)は、本当に「資源(=従業員にとって良いもの)」と言えるのか?
・離職への効果は強く検証されてきたが、ウェルビーイングへの効果は混在した結果のまま
・領域(work / nonwork / cross-domain)を分けて整理すれば、矛盾した知見を統合できるのではないか?
▼ 理論枠組み
・Kiazad et al. (2015) のCOR理論ベースの定着モデルを採用
・特に「ecological sensitivity(生態的感受性)」=ある領域で得た資源が、別領域では使えなかったり、むしろ負荷になったりする、という考えを軸に検証
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■ 仮説
▼ 仮説1(単一領域ウェルビーイング:資源獲得)
・組織への定着(1a)と地域への定着(1b)はいずれも、単一領域のウェルビーイング(work、nonwork、physical)を高める
▼ 仮説2(領域横断ウェルビーイング:資源消耗)
・組織への定着(2a)と地域への定着(2b)はいずれも、領域横断ウェルビーイング(work-family balanceなど)を悪化させる
※領域横断=仕事と非仕事の境界面で生じるウェルビーイング
▼ 仮説3(相対的重要度)
・3a:組織への定着の方が地域への定着より、仕事領域ウェルビーイングを強く予測する
・3b:地域への定着の方が組織への定着より、非仕事領域・身体・領域横断ウェルビーイングを強く予測する
▼ 仮説4(媒介:単一領域)
・組織(4a)と地域(4b)への定着は、単一領域ウェルビーイングを高めることで、離職(意図および実離職)を減らす
▼ 仮説5(媒介:領域横断)
・組織(5a)と地域(5b)への定着は、領域横断ウェルビーイングを下げることで、離職を増やす方向に作用する
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■ 方法
▼ 文献収集
・2023年1月〜2024年12月に3回に分けて検索を実施
・英語(PsycINFO, ProQuest, Google Scholarなど)、韓国語(Riss, DBpiaなど)、中国語(CNKIなど)のデータベースを横断
・未刊行データ(博士論文、SIOP発表)もカバーし、出版バイアスを抑える工夫
・最終的に122の独立研究、133のサンプル、合計N=51,833、238の相関係数を分析
▼ 採択基準
・職場サンプル(学生は除外)
・組織または地域への定着のいずれかを個人レベルで測定
・MitchellらのformativeまたはCrossleyらのglobal尺度のいずれかを使用
・定着とウェルビーイング系変数の相関係数が報告されている
▼ コーディング
・2名の独立コーダー(英・韓は第一著者+研究助手、中は別著者+研究助手)
・一致率99.53%(7,256/7,290セル)と非常に高い
▼ 主な統計手法
・Schmidt & Hunter (2015) のランダム効果サイコメトリック・メタ分析
・観察された相関を信頼性で補正(=測定誤差で薄まった効果を「真の効果」に近づける)
・95% CI(信頼区間)、80% CV(信頼性区間)、%Var(アーティファクトで説明できる分散の割合)を算出
・Relative weight analysis (Johnson, 2000)
・多重共線性を取り除いて、組織への定着と地域への定着の「相対的な寄与」を算出
・Meta-analytic SEM (MASEM)
・自分たちの7つの相関+他のメタ分析からの9つ+新規メタ分析4つで、21セルの相関行列を作成
・MPlus 8.0で構造方程式モデルを推定、harmonic mean N=6,383
▼ ウェルビーイングのドメイン分け
・work-domain:バーンアウト、ワークエンゲージメント、職務ストレス
・nonwork-domain:人生満足度、ネガティブムード、全般ウェルビーイング(Ryff & Keyes, 1995)
・physical-domain:身体症状、不眠
・cross-domain:work-to-family conflict、family-to-work conflict、work-life balance
・複数指標を1研究内で集約する場合、ネガティブ指標は逆転コーディングし、合成効果サイズを算出
AIさんに動画解説頂きました😊
https://youtu.be/cHyERrYvfvk