はぴテク相談室:ハピネスとウェルビーイングの脳科学
最近、スマホを見てばかりいて、なんか満足感がないんですよね。見ても見ても「もっと見たい」って感じで、でも全然楽しくないというか…。これってどういう状態なんでしょう?
それ、とても多くの人が感じていることですよ。脳科学的に説明すると、実はすごく理にかなった状態なんです。脳には「報酬」に関する3つの働きがあって、①WANTING(欲求)、②LIKING(快感)、③LEARNING(学習)に分けられます。スマホを見続けてしまうのは、この①WANTINGが過剰に働いている状態なんですよ。
WANTINGとLIKINGって、どう違うんですか?
簡単に言うと、WANTINGは「欲しい!見たい!」という衝動、LIKINGは「あ〜気持ちいい、好きだな」という本当の心地よさです。スマホの通知や新着情報って、WANTINGを担うドーパミンという脳内物質をどんどん出させるように設計されているんですね。でも、実際に見ても「好き・心地よい」というLIKINGの満足感はあまり得られない。だから「もっと見たいのに満足できない」という状態になりやすいんです。
なるほど…。じゃあドーパミンが出続けるのって、悪いことなんですか?
ドーパミン自体は悪いものではないんですが、問題は「慣れ」が起きることです。同じ刺激を繰り返すと、だんだん同じ量の刺激では満足できなくなってしまう。これが5月病や燃え尽き症候群にもつながりうると言われています。ドーパミン受容体がうまく機能しなくなってくるイメージです。元に戻すには、ドーパミンをあまり刺激しない穏やかな時間を意識的に作ることが助けになると考えられています。
穏やかな時間、ですか。でも何もしないのって、なんか不安で…。
その感覚もよくわかります。でも実は「ぼーっとする時間」は、脳にとってとても大切な働きをしているんです。脳にはDMN(デフォルトモードネットワーク)と呼ばれる、ぼーっとしているときに活発になる回路があります。この研究では、日々のポジティブな経験がこのDMNを通して「人生の満足感(ウェルビーイング)」につながっていくのではないか、という仮説が提唱されています。
ぼーっとする時間が、人生の満足につながるんですか?それは意外ですね。
そうなんです。DMNは内的な物語を作ったり、自己感を構築したりする働きをしていると考えられています。つまり、日々の小さな「気持ちよかった」「楽しかった」という体験が、ぼーっとする時間を通して自分の中で整理されて、「自分の人生はいいな」という感覚に育っていく可能性があるということです。ただ、これはまだ仮説の段階で、DMNには「心がさまよってしまう」ネガティブな面もあるので、単純に「ぼーっとすればOK」とも言い切れません。
じゃあ、何が本当に「いい状態」につながるんでしょう?
この研究では、いくつかの脳の仮説が紹介されています。たとえば、脳の「腹内側前頭前皮質」という部位が、快楽にも人生の意味にも同じように反応するという報告(Bartra et al. 2013)や、「島皮質」という部位の大きさと心理的ウェルビーイングが相関するという報告(Lewis et al. 2014)もあります。また、向社会的な活動(人のために何かすること)を脳が報酬として感じる人はうつになりにくく、リスクをとってお金を得ることに報酬を感じやすい人はうつになりやすいという関連も示されています(Telzer et al. 2014)。
人のために何かすることが、自分のためにもなるってことですか?
その可能性が示唆されていますね。ただ、これらは「相関」の研究なので、「向社会的な活動をすればうつが防げる」と断言できるわけではないことは大事なポイントです。脳の特性として、そういう傾向が見られた、ということです。いずれにしても、WANTINGの衝動に流されるよりも、自分が本当に「好き・心地よい」と感じるLIKINGを大切にしていくことが、ウェルビーイングへの一つの道筋として考えられています。
「自分が何に心地よさを感じるか」をちゃんと意識するって、あまりやってこなかったかもしれないです。
そうですよね。スマホのように「欲しい!」と思わせる刺激が多い現代では、WANTINGに引っ張られやすくて、LIKINGの声が聞こえにくくなってしまいます。「何が欲しいか」ではなく「何をしているときに本当に心地よいか」を、少し立ち止まって振り返ってみるのが、一つの実践になりそうですね。そしてそういった体験を積み重ねながら、ぼーっとする時間も確保していく。それが日々の快楽を人生の満足感へとつないでいく可能性があります。
なんか、スマホを見てしまう自分を責めなくていいんだ、という気持ちになれました。脳の仕組みがそうなってるんですね。意識してみます。ありがとうございます。
そうです、責めなくて大丈夫です!脳がそういう刺激に反応しやすくできているんですから。「欲求(WANTING)に流されている自分」に気づけたこと自体が、もう一歩目ですよ。「本当に心地よいこと(LIKING)ってなんだろう」という問いを、日常のどこかで持ち続けてみてください。
■ 今日のまとめ
- スマホを見続けても満足できないのは、「欲しい・見たい」という欲求(WANTING)と、「本当に心地よい」という快感(LIKING)が別の脳の働きであるため。現代はWANTINGを刺激する環境が多く、LIKINGの感覚が埋もれやすい。
- ドーパミンによる過剰な欲求刺激が続くと慣れが生じ、同じ刺激では満足できなくなる可能性がある。意識的にドーパミン刺激を減らす穏やかな時間を作ることが、受容体の働きを取り戻す助けになると考えられている。
- 日々の小さなポジティブな体験が、ぼーっとする時間(DMNの活動)を通して人生の満足感(ウェルビーイング)につながる可能性が仮説として提唱されている。「何が欲しいか」よりも「何が本当に心地よいか」を意識することが、ウェルビーイングへの一歩となりうる。
■ 出典・注意事項
- 【出典】Kringelbach, M. L., & Berridge, K. C. (2010). The Neuroscience of Happiness and Pleasure. Social Research: An International Quarterly. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3008658/
- 【補足出典(論文内で言及)】Bartra et al. (2013), Lewis et al. (2014), Telzer et al. (2014) はいずれも本論文外の研究として紹介されたもの。
- 【注意①】本研究(2010年)はやや古く、脳科学の知見はその後も更新されています。DMN仮説を含む脳とウェルビーイングの関係はまだ仮説段階のものが多く、確立された因果関係として断定できるものではありません。
- 【注意②】向社会的活動とうつの関係など、一部は相関研究であり、「〜すれば〜になる」という因果関係を示すものではありません。
- 【注意③】研究の対象や測定方法(自己報告など)には限界があり、文化・個人差によっても結果は異なる可能性があります。
研究自体の紹介はこちら😊
ハピネスとウェルビーイングの脳科学
https://wellbeing-archive.pages.dev/posts/2026-05-06-1778091298/