はぴテク相談室:多様な主体の連携による学び合いを通した地域共創
最近、地域活動に参加しているんですが、なんか「幸せになってる感じ」がよくわからなくて…。自分が成長しているのか、地域のためになっているのかも見えなくて、モヤモヤしています。
それはとても正直な気持ちですね。実はそのモヤモヤ、とても大事な感覚かもしれません。東海大学の山田一隆先生の研究によると、ウェルビーイング(幸福や豊かさ)って「今幸せですか?10点満点で何点?」みたいに数字で測れる『状態』として捉えられることが多いんですが、それだと大切なものが抜け落ちてしまう、という問題提起がされているんです。
えっ、幸せって数字で測れないんですか?よくアンケートとかで聞かれますよね。
そうなんです、アンケートはよく使われています。でも山田先生の研究では、そういった測定には「文化的な違いを無視してしまう」「その瞬間の状態しか見えない」という限界があると指摘されています。たとえば、あなたが今感じている『よくわからないけど何かが変わってきている気がする』という感覚は、数字には出にくいんですよね。
確かに!数字では表しにくいですね。じゃあ、どう考えればいいんでしょう?
山田先生の研究では、ウェルビーイングを『状態』ではなく『プロセス(過程)』として捉え直すことを提案しています。具体的には3つの動きが大事だとされています。①まず、自分がこれまで当たり前だと思っていた価値観や考え方を問い直す「価値の再構築」、②次に、以前はできなかったことや考えられなかったことができるようになる「行為可能性の拡張」、③そして、その変化を支える仕組みや環境が変わっていく「制度条件の再編」です。この3つがぐるぐると回っていくのが、豊かさが育まれるプロセスなんだ、という考え方です。
なんとなくわかります…。地域活動を続けていると、最初は「何すればいいんだろう」って戸惑っていたのが、だんだん自分から動けるようになってきた気はします。それが②の「行為可能性の拡張」ということでしょうか?
まさにそれです!それはとても大切な変化ですね。研究の中では、哲学者アマルティア・センの「ケイパビリティ・アプローチ」という考え方も紹介されています。これは「実際にその人が選べる選択肢が広がっているか」「自分の意思でやれることが増えているか」を重視する見方です。あなたが「自分から動けるようになってきた」と感じているなら、それはまさにケイパビリティが広がっているサインかもしれません。
でも、地域のためになっているかはまだわからないんですよね…。自分だけが変わっても意味があるのかなって。
その視点もとても重要です。研究では実際にA県B市で行われた「ワンステップ」という事業の事例が分析されています。そこでは、地域の中高生と大学生が一緒に学び合う活動が行われていたんですが、興味深いのは「一方が教えて一方が学ぶ」ではなく、お互いが影響し合って両方が変わっていく「相互的な学び」が生まれていた点です。あなたの変化が、実は周りの人にも影響を与えている可能性があるんですよ。
相互的な学び、ですか。確かに、私が活動しているとベテランの地域の方が「あなたのおかげで私も考えが変わった」って言ってくれたことがあって、それはすごく嬉しかったです。
それはまさに研究が示している「共同エージェンシー(一緒に動く力)」の形成ですね!社会学者ブルデューの考え方を使って説明すると、私たちの行動パターンや物の見方って、長年の経験で染みついた「ハビトゥス」と呼ばれる習慣的な枠組みによって形作られています。でも、多様な人との学び合いを通じて、その枠組み自体が揺さぶられ、少しずつ変化していく。その積み重ねが地域全体の変化につながっていく、と研究では論じられています。
じゃあ、今自分がモヤモヤしているのは、まだプロセスの途中ということなんですかね?
そう捉えることができると思います。山田先生の研究では「プロセスとしてのウェルビーイングは、再帰的に語られる必要がある」とも書かれています。つまり「今どう感じているか」を振り返りながら語ること自体が、豊かさを育てるプロセスの一部なんです。モヤモヤを感じてここで話してくださっているこの時間も、そのプロセスの中にあると言えるかもしれません。ただ、この研究はあくまで一つの提言的な論文で、特定の事例分析も含んでいますので、すべての地域活動や個人に当てはまるとは限らない点はご留意くださいね。
なんかすごく楽になりました。「成果が見えない=意味がない」じゃなくて、変化の途中にいるんだと思えると、続けようという気持ちになれます。ありがとうございます!
それはよかったです!この研究が最後に提示しているキーワードで「conviviality(共に生きる喜び)」というものがあります。成果を出すためだけでなく、一緒にいること・学び合うこと自体に価値があるという考え方です。あなたが地域の方と一緒に過ごす中で感じてきたことは、そのまま大切にしていただけたらと思います。
■ 今日のまとめ
- ウェルビーイング(豊かさ・幸せ)は数値で測れる「状態」だけでなく、価値の見直し→できることの拡張→仕組みの変化という3層のプロセスとして捉えることが重要だと研究では論じられています。
- 地域活動の中で「自分から動けるようになった」「お互いに影響し合った」という感覚は、ケイパビリティ(選べる選択肢・できること)の広がりや、相互的な学びのサインである可能性があります。
- モヤモヤや「まだよくわからない」という感覚は、プロセスの途中にいることの表れかもしれません。成果だけでなく「共に学び合うこと自体」に価値がある(conviviality)という視点が、活動を続ける力になりえます。
■ 出典・注意事項
- 山田一隆「多様な主体の連携による学び合いを通した地域共創─プロセスとしてのwell-beingからSDGs運動を考える契機として─」日本福祉教育・ボランティア学習学会 研究紀要 第45巻 pp.56-, 2025年12月 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jaass/45/0/45_56/_pdf
- 【注意事項】本研究は提言的・理論的な論文であり、特定の実践事例の分析を含みますが、因果関係を実証した研究ではありません。「プロセスとしてのウェルビーイング」モデルの効果が科学的に検証されたものではなく、今後の実証研究が必要な段階です。
- 【注意事項】事例(A県B市「ワンステップ」事業)は特定の地域・対象に限られており、すべての地域活動や個人に同様のプロセスが生じるとは限りません。文化的・社会的文脈によって結果は異なりえます。
研究自体の紹介はこちら😊
多様な主体の連携による学び合いを通した地域共創
https://wellbeing-archive.pages.dev/posts/2025-12-07-1765144806/