はぴテク相談室:マインドフルネスにおける身体性
最近、マインドフルネスを始めてみたんですが、「身体に意識を向けましょう」ってよく言われるじゃないですか。でも正直、何のためにやってるのかよくわからなくて…。呼吸とか体の感覚に集中するのって、どういう意味があるんでしょう?
すごく本質的な疑問ですね!実はそれ、研究者たちもここ10年でようやく真剣に議論し始めたテーマなんです。牟田・木甲斐先生(2021)の論文がまさにそこを掘り下げていて、「身体に注意を向けることには、ちゃんと理由がある」と整理してくれています。簡単に言うと、私たちの感情って、頭の中だけじゃなく身体の感覚とセットになって生まれているんです。だから身体に気づくことが、感情に気づく入り口になるんですよ。
感情が身体とセットになってる、というのはどういうことですか?
たとえば「なんか胸がざわざわする」とか「お腹がぎゅっとなる」って感じたことはありませんか?あれって、感情が身体に現れているサインなんです。この論文では「コア・アフェクト」という考え方が紹介されていて、感情は脳が身体の内側からの信号を予測・解釈することで作られる、と考えられています。つまり、身体感覚を観察することで、自分が今どんな感情状態にあるかに気づきやすくなる、という仕組みがあるんです。
なるほど…。でも私、体の感覚に集中しようとすると、なんか不安になったり、逆に落ち着かなくなることがあって。それって私だけですか?
全然あなただけじゃないです!論文でもその点はちゃんと取り上げられていて、「身体に気づきを向けることへの疑義」というセクションがあるくらいです。身体感覚に意識を向けると、かえって不快感が強まることがある人もいる、という知見が示されています。特に「アレキシサイミア(感情を言葉にしにくい特性)」がある方などは、身体感覚の扱いが難しくなることもあると論文は指摘しています。
アレキシサイミアって初めて聞きました。感情を言葉にしにくい…?
そうです。自分の感情に名前をつけたり、言語化するのが苦手な状態のことです。論文では「情動粒度」という概念も紹介されていて、感情を細かく区別できる人ほど、自分の状態をうまく理解・対処できるとされています。マインドフルネスで身体に注意を向ける練習は、この「感情を細かく感じ取る力」を育てる側面があると考えられています。ただ、これはあくまで理論的な作業仮説として提示されているものです。
じゃあ、身体に気づくだけじゃなくて、その感覚に「名前をつける」ことも大事なんですね。
まさにそのとおりです!そしてもう一つ重要なポイントとして、論文は「態度」をすごく強調しています。身体の感覚に気づくとき、「これはダメな感覚だ」「早く消えてほしい」と戦おうとするのではなく、『あるがまま』として受け取る姿勢が大事だと書かれています。この態度があって初めて、身体を通じた気づきが「脱中心化」、つまり「自分がその感情そのものではなく、感情を観察している自分がいる」という感覚につながっていくと論文は述べています。
「脱中心化」って面白い言葉ですね。「自分が感情を観察している」というのは、どういう感じなんでしょう?
たとえば「私は怒っている」と思うとき、怒りの中に飲み込まれている感じってありますよね。脱中心化とは、「今、怒りという感情が自分の中に起きているのを感じている」と少し距離を置いて気づける状態のことです。論文では、これが仏教でいう「非自己(無我)」の体験とも深くつながっていると述べています。マインドフルネスの身体への気づきは、最終的にはこういう自己意識の変化を目指している、という大きな絵が見えてきます。
体に意識を向けることが、そんな深いところまでつながってるとは思っていませんでした。理論的にもちゃんと裏付けがあるんですね。
はい。この論文はカバット・ジンのMBSR(マインドフルネスストレス低減法)やMBCT(マインドフルネス認知療法)の理論的背景まで丁寧に整理しています。エナクティヴィズム(身体と環境の相互作用で心が生まれるという考え)や予測符号化理論など、複数の理論から「身体性」を支持する構造が示されています。ただ、これらはまだ統合途上の理論的枠組みであり、「これをやれば必ずこうなる」という因果関係が確立されたわけではない点は押さえておくとよいと思います。
では実際に私がマインドフルネスを続けるとき、何を意識すればいいですか?
論文が示す実践への示唆をまとめると、三つのポイントになります。一つ目は、身体感覚に気づいたら「これはどんな感じかな?」と言葉にしてみること。二つ目は、不快な感覚が出てきても戦わず、「あ、今こういう感覚があるんだな」と『あるがまま』で受け取る姿勢を育てること。三つ目は、身体への気づきは「感情に気づく入り口」であり、最終的には自分と感情の間に少し距離を置く感覚(脱中心化)につながっていくものだと意識すること。焦らずじっくり取り組んでみてください!
■ 今日のまとめ
- 身体感覚への気づきは、感情が生まれる仕組みと深く結びついており、マインドフルネスでは「感情に気づく入り口」として身体が重視されています。
- 身体感覚に気づいたとき、それを言葉にしてみる(情動粒度を高める)練習が、自分の感情状態の理解につながると考えられています。
- 『あるがまま』という態度で身体に向き合うことが、感情に飲み込まれず少し距離を置いて観察する「脱中心化」へとつながるとされています。
■ 出典・注意事項
- 【出典】牟田季純・木甲斐智紀(2021)「マインドフルネスにおける身体性」『心理学評論』64(3), 318. https://www.jstage.jst.go.jp/article/sjpr/64/3/64_318/_pdf/-char/ja
- 【注意事項①】本論文は理論的レビュー・考察論文であり、紹介されている知見の多くは「作業仮説」や「理論的示唆」として提示されています。身体への気づきが特定の効果を必ず生む、という因果関係が確立されているわけではありません。
- 【注意事項②】アレキシサイミアや身体感覚への気づきがかえって不快感を強める場合があることも論文内で指摘されており、すべての人に同じアプローチが適するわけではないことに留意が必要です。
- 【注意事項③】紹介された理論(エナクティヴィズム、予測符号化理論、ICSなど)はそれぞれ独立した研究領域のものであり、論文自体もこれらの「統合は今後の課題」と述べています。
研究自体の紹介はこちら😊
マインドフルネスにおける身体性
https://wellbeing-archive.pages.dev/posts/2025-12-06-1764982805/