リーダーシップ,ストレス,及びwell-beingに関する研究の現状と課題
という昨年の研究😊
①変革型のリーダーシップは、メンバーのストレスを低減し、well-beingを高める。
高い業績を達成するために、フォロワーの理想や価値や興味を変え、
自己利益を超えて集団目標達成への強い貢献意欲と行動を引き出すリーダーシップ。
カリスマ性、志気を高める同期づけ、知的活性化、個別的配慮の4種の行動。
②リーダーのストレスは、資源枯渇や虐待的監督を促進する。(→well-beingも下がりそう)
リーダーがストレスフルな状況は、崩壊への第一歩ですね・・・
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リーダーシップ,ストレス,及びwell-beingに関する研究の現状と課題
産業ストレス研究,2024
坂田 桐子先生(広島大学)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jajsr/31/2/31_183/_pdf/-char/ja
従業員のストレス低減に上司が果たす役割は重要である。本稿では,フォロワーのストレスの予測因としてのリーダーシップ行動,及びリーダーのストレスの結果としてのリーダーシップ行動に関する最近の文献を展望した。
その結果,次の点が示唆された。
(1)上司の変革型リーダーシップ及びリーダーとメンバーの高質な交換関係は,資源の提供や仕事要求度の低減を通して,あるいは基本的欲求(自律性,所属性,有能性)の充足を通して,ポジティブな心理的 well-being を高め,ストレスやバーンアウトを低減する。
(2)リーダーのストレスや資源枯渇は虐待的監督を促進する。
(3)変革型リーダーシップはリーダーの資源を枯渇させる可能性があるが,それがフォロワーやリーダーの well-being を損なうかどうかについては明確になっていない。
最後に,今後必要となる研究の方向性について議論した。
【研究内容詳細】
リーダーシップ、ストレス、及びwell-beingに関する研究の現状と課題(展望論文の解説)
■ 研究の背景と目的
この論文は、上司のリーダーシップが従業員のストレスやwell-being(心理的幸福感)にどう影響するかを整理した展望論文です。
▼ なぜこの研究が重要なのか
・世界で年間120億日の労働損失日数がうつや不安神経症で発生
・日本では82.2%の従業員が強い不安やストレスを感じている
・ストレスの原因:「仕事の量」36.3%、「仕事の失敗・責任」35.9%、「仕事の質」27.1%、「対人関係」26.2%
▼ これまでの研究の問題点
・従来のリーダーシップ研究は「パフォーマンス向上」が中心
・従業員のストレスやwell-beingに焦点を当てた研究は相対的に少ない
・しかし2010年以降、リーダー自身のストレスがリーダーシップ行動に影響する研究も増加
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■ 主要な用語の説明
▼ リーダーシップの種類
・変革型リーダーシップ:明確なビジョンを示し、部下の成長を促す前向きなリーダーシップ
・リーダー-メンバー交換関係(LMX):上司と部下の信頼関係の質
・虐待的監督:上司による継続的な敵対的・非言語的な攻撃行動
・交換型リーダーシップ:報酬と引き換えに目標達成を促すリーダーシップ
▼ well-beingの分類
・ポジティブなwell-being:ワーク・エンゲイジメント、職務満足度、ポジティブ感情など
・ネガティブなwell-being:バーンアウト、情緒的消耗感、抑うつ、イライラ感など
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■ リーダーシップがフォロワーのストレスとwell-beingに及ぼす影響
▼ メタ分析の結果(25カ国、157サンプル)
・変革型リーダーシップ:
→ 部下のストレスと負の関連(ρ = -0.28)
→ バーンアウトと負の関連(ρ = -0.32)
・LMX(高質な交換関係):
→ 部下のストレスと負の関連(ρ = -0.35)
→ バーンアウトと負の関連(ρ = -0.45)
→ 変革型よりも強い関連
・虐待的監督:
→ 部下のストレスと正の関連(ρ = 0.22)
→ バーンアウトと正の関連(ρ = 0.36)
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■ 変革型リーダーシップの効果のメカニズム
▼ 媒介要因(どのようなプロセスで効果があるのか)
複数の研究で一貫して確認された媒介変数:
・仕事の意義:
仕事が重要だと感じる程度が高まる
→ ポジティブ感情が高まり、ストレスが低減
・自己効力感:
「自分はできる」という感覚が高まる
→ ポジティブ感情や職務満足度が向上
※ただし縦断研究では有意な媒介効果が見られない場合も
・リーダーへの信頼:
上司を信頼できる
→ ポジティブ感情が高まり、ストレスが低減
※ただし横断研究でしか検討されていない
その他の媒介要因:
・基本的欲求の充足:
自律性(自分で決められる)、所属性(つながり)、有能性(できる感覚)
→ ポジティブな結果につながる
・イノベーション風土:
革新的な職場環境の醸成
→ well-beingの向上
▼ 調整要因(どのような条件で効果が変わるのか)
・従業員の情緒的組織コミットメント:
組織への結びつきが弱い従業員ほど、変革型リーダーシップのストレス低減効果が大きい
※ただし製造業では確認されず、行政組織の事務職でのみ確認
・プロフェッション志望:
専門的達成への動機が中程度以上の従業員にのみ、変革型リーダーシップがストレスを低減
・従業員の地位:
一時雇用スタッフに対して、正規スタッフよりも変革型リーダーシップの効果が大きい
・社会経済的地位(SES):
低SES者は資源が少ないため、建設的リーダーシップの効果が特に大きい
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■ LMXとwell-beingの関連
▼ 媒介要因
・所属感:
高質なLMXを知覚した日は職場での所属感が高まる
→ 情緒的消耗感が低減、活力が向上
※ただしLMXの質が日によって大きく変動する場合は効果なし
・ワーク・エンゲイジメント:
毎日のLMXの質が快楽的well-being(ポジティブ感情)や心理的well-being(仕事の有意義性)と正の関連
→ ワーク・エンゲイジメントが媒介
⇒背景にある理論:自己決定理論
高質なLMXが3つの基本的欲求(自律性、有能感、関係性)を充足
→ 内発的動機(ワーク・エンゲイジメント)を高める
▼ 調整要因
LMXの調整要因に関する研究は見当たらないが、社会経済的地位による調整効果がメタ分析で示されている:
・低SES従業員:
仕事や人的資源が少ない
→ 建設的リーダーシップ(LMXを含む)のwell-being向上効果が特に重要
・219件の研究のメタ分析結果:
関係志向的リーダーシップ、変革志向のリーダーシップ、破壊的リーダーシップのいずれについても、SESによる調整効果が確認された
【背景と先行研究】
■ はじめに:この展望論文の土台となる理論と先行研究
この論文は、2010年代を中心とした既存研究を体系的に整理したものです。以下、主要な理論的枠組みと先行研究を詳しく解説します。
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■ 基本的な理論的枠組み
▼ 1. 資源保護理論(Conservation of Resources Theory)
出典:Hobfoll, S. E. (2002). Social and psychological resources and adaptation. Review of General Psychology, 6, 307-324.
●理論の内容:
・人は社会的・心理的資源を獲得し、維持し、保護しようと動機づけられる
・資源とは:自信、エネルギー、時間、社会的支援、職務資源など
・資源の喪失や喪失の脅威がストレスを生む
・資源を持つ人はさらに資源を獲得しやすく、資源を失った人は資源喪失のスパイラルに陥りやすい
●この理論の応用:
・変革型リーダーシップは部下に資源(ビジョンの明確性、サポート、成長機会など)を提供する
→ 部下の資源が増える
→ ストレスに対処しやすくなる、well-beingが向上する
・虐待的監督は部下の心理的資源を枯渇させる
→ ストレスが高まる
・リーダー自身も資源を持っており、建設的リーダーシップの発揮には資源が必要
→ リーダーの資源が枯渇すると建設的リーダーシップを発揮できなくなる
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▼ 2. 愛着理論(Attachment Theory)の応用
出典:Harms, P. D., Bai, Y., & Han, G. (2016). How leader and follower attachment styles are mediated by trust. Human Relations, 69, 1853-1876.
●理論の内容:
・もともとは親子関係の理論だが、職場の上司-部下関係にも適用可能
・危機的状況において、愛着対象(親、上司など)は「安全基地」として機能する
・安全基地があることで、人は安心して環境を探索し、チャレンジできる
●職場への応用:
・上司と部下の親密な絆(高質なLMX)は、部下にとっての「安全基地」となる
・困難な状況でも上司が支えてくれるという信頼感がある
→ 部下はストレスに対処しやすい
→ 心理的安全性が高まり、well-beingが向上する
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▼ 3. 職務要求-資源理論(Job Demands-Resources Model)
出典:Bakker, A. B., & Demerouti, E. (2007). The job demands-resources model: State of the art. Journal of Managerial Psychology, 22, 309-328.
●理論の内容:
・職務特性は「仕事要求度」と「仕事資源」の2つに分類できる
・仕事要求度:
身体的・心理的・社会的・組織的努力を必要とするもの
例:時間的プレッシャー、仕事の量、感情労働など
→ 高いとストレスやバーンアウトにつながる
・仕事資源:
目標達成を促進し、成長を促し、仕事要求度の悪影響を緩和するもの
例:自律性、フィードバック、上司のサポート、発達機会など
→ 多いとモチベーションやエンゲイジメントが高まる
●リーダーシップへの応用:
・建設的リーダーシップは仕事資源を提供する
例:明確な方向性、サポート、フィードバック、成長機会
→ 部下のエンゲイジメントが高まり、ストレスが低減
・建設的リーダーシップは仕事要求度を適切に管理する
例:優先順位の明確化、資源配分の最適化
→ 部下の負担が軽減される
●メタ分析での活用:
Pajic et al. (2021)のメタ分析では、この理論に基づき、建設的リーダーシップがwell-beingに影響するメカニズムとして、資源(仕事の自律性、自己効力感)と要求(ワークプレッシャー、認知的要求度)の媒介効果を検証している。
出典:Pajic, S., Buengeler, C., Den Hartog, D. N., & Boer, D. (2021). The moderating role of employee socioeconomic status in the relationship between leadership and well-being: A meta-analysis and representative survey. Journal of Occupational Health Psychology, 26, 537-563.
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▼ 4. 自己決定理論(Self-Determination Theory)
出典:Deci, E. L., & Ryan, R. M. (2000). The "what" and "why" of goal pursuits: Human needs and the self-determination of behavior. Psychological Inquiry, 11, 227-268.
●理論の内容:
・人間には3つの基本的心理的欲求がある:
(1) 自律性(Autonomy):
自分で決定し、行動をコントロールできるという感覚
(2) 有能性(Competence):
効果的に環境と相互作用し、望ましい結果を生み出せるという感覚
(3) 関係性(Relatedness):
他者とつながり、ケアされ、所属しているという感覚
・これら3つの欲求が充足されると、内発的動機づけが高まり、well-beingが向上する
・欲求が阻害されると、モチベーションが低下し、well-beingが損なわれる
●リーダーシップへの応用:
研究例1:Kovjanic et al. (2012)
出典:Kovjanic, S., Schuh, S. C., Jonas, K., Van Quaquebeke, N., & Van Dick, R. (2012). How do transformational leaders foster positive employee outcomes? A self-determination based analysis of employees' needs as mediating links. Journal of Organizational Behavior, 33, 1031-1052.
・変革型リーダーシップが3つの基本的欲求の充足を媒介してポジティブな結果をもたらす
自律性:個別的配慮により部下に裁量を与える
有能性:知的刺激により部下の能力を高める
関係性:理想的影響によりつながりを感じさせる
→ エンゲイジメント向上、ストレス低減
研究例2:Martin et al. (2023)
出典:Martin, R., Ono, M., Legood, A., Dello Russo, S., & Thomas, G. (2023). Leader–member exchange (LMX) quality and follower well-being: A daily diary study. Journal of Occupational Health Psychology, 28, 103-116.
・高質なLMXが3つの基本的欲求を充足するメカニズム:
自律性:裁量度の拡大
有能性:サポートの増加による有能感の向上
関係性:リーダーとのより良い関係性の提供
→ ワーク・エンゲイジメントを媒介してwell-beingが向上