はぴテク相談室:コロナ禍のウェルビーイング格差の拡大
最近、なんとなく気持ちが沈みがちで…コロナ禍から生活が苦しくなって、周りの人と自分の状況の差が開いた気がして、余計つらいんです。
それは本当につらいですね。実は、あなたが感じている「差が開いた感覚」は、気のせいじゃないかもしれないんです。慶應義塾大学の山本先生・石井先生が、1万人超の家計データを長期追跡した研究で、コロナ禍を通じてウェルビーイング(心身の豊かさ)の格差が広がった実態が明らかになっています。
えっ、そうなんですか?でも「収入の格差が広がった」ってよく聞きますが、それとは違うんですか?
面白いところに気づきましたね。この研究では、実は「所得(お金)の格差」はコロナ禍で拡大しなかったとわかっています。給付金などの政策が効いて、金銭的な差は抑えられた。でも一方で、メンタルヘルスや生活満足度といった『お金以外の豊かさ』の格差は拡大していた、というのが大きな発見なんです。
お金の差は広がっていないのに、気持ちや生活の豊かさの差は広がってしまった…それはどういうことなんでしょう?
そこが核心なんです。研究では、高所得者(上位20%ほど)はコロナ禍でメンタルヘルスが改善し、低所得者(下位20%ほど)は悪化する傾向が見られました。特にメンタルヘルスの指標として使われた『K6』というスコアで、この差がはっきり出ています。K6というのは、神経過敏・絶望感・落ち着かなさ・気分の落ち込み・何事も億劫・自己否定感、の6つを聞く指標です。
うっ…その6つ、なんか自分にも思い当たるものがあります。で、高所得の人はなんで改善したんでしょう?
研究ではその要因として「リモートワーク」が浮かび上がっています。高所得者ほどリモートワークを導入できる仕事に就いているケースが多く、在宅勤務の恩恵(通勤ストレスの軽減、柔軟な時間の使い方など)を受けやすかった。この研究の因果分析では、リモートワークがメンタルヘルスや生活・健康・仕事の満足度を高める方向に働いていることが示されています。
じゃあ、低所得者はリモートワークができない仕事が多くて、その恩恵を受けられなかったということですか?
そういうことです。リモートワークはコロナ禍で高所得層の間で不釣り合いに普及した、と研究は指摘しています。低所得層は対面が必要な仕事が多く、感染リスクや労働環境の変化にさらされ続けた。その差がウェルビーイングの格差につながった可能性があると見られています。
生活満足度とかはどうなんですか?メンタルヘルスほど差が開いたんでしょうか?
実は、生活満足度・健康満足度・仕事満足度は、メンタルヘルスほどには格差が広がっている感じではなかったようです。特に収入が中くらい(20〜80%)の人たちは、生活満足度についてはだいたい横並びという傾向も見られました。ただ、高所得者(上位20%)は2020年から2022年にかけて、こうした満足度がどれも向上している点は注目されます。
うーん…自分ではどうにもできない構造的な問題なんですね。なんか余計に落ち込んできそうで…
気持ちはよくわかります。でも、この研究が示しているのは「個人の心がけの問題」じゃなく、リモートワークの普及のしかたという社会的な仕組みの問題だということです。研究者たちも、お金だけでなくウェルビーイングの格差を政策として捉え直す必要があると提言しています。つまり、あなたの感じるつらさは、社会全体が向き合うべき課題として可視化されてきているんです。
そう言ってもらえると、少し楽になります。自分だけが弱いんじゃないんだなって。何か自分でできることはありますか?
研究から見えてくるのは、リモートワークのように「時間や場所の柔軟性」がウェルビーイングに関わっているということです。今の状況でできる小さな工夫として、自分の時間の使い方に少し「余白」をつくること、通勤や仕事環境をほんの少し見直せる部分がないか探してみることは、意味があるかもしれません。ただこの研究はあくまで全体の傾向を見たものなので、あなた個人の状況に何が一番合うかは、試しながら見つけていくしかないですが。
■ 今日のまとめ
- コロナ禍では所得(お金)の格差は拡大しなかった一方、メンタルヘルスなどウェルビーイングの格差は所得層に連動して拡大した
- 高所得者のウェルビーイング改善の要因として、研究の因果分析ではリモートワークの普及が関係していることが示されている
- 生活満足度の格差はメンタルヘルスほど広がっておらず、収入が中程度の層では横並びの傾向も見られ、格差の広がり方は指標によって異なる
■ 出典・注意事項
- 山本勲・石井加代子(慶應義塾大学), 'Trends in Income and Well-Being Inequality During the COVID-19 Pandemic in Japan', Social Indicators Research, 2024年12月21日公開(オンライン版). https://link.springer.com/article/10.1007/s11205-024-03478-6
- プレスリリース(日本語):慶應義塾「コロナ禍がもたらした新たな格差の実態」PRTimes, 2025/1/20. https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000278.000113691.html
- 【注意事項】本研究は日本家計パネル調査(JHPS)の縦断データを用いた観察研究です。所得グループ間の傾向の差は統計的に捉えられていますが、すべての因果関係が完全に確定しているわけではありません。リモートワークの影響については因果分析が行われていますが、観察データに基づくものであり解釈には留意が必要です。また対象は日本国内の家計パネルデータであり、他の国や集団への一般化には限界があります。
研究自体の紹介はこちら😊
コロナ禍のウェルビーイング格差の拡大
https://wellbeing-archive.pages.dev/posts/2025-01-20-1737410404/