はぴテク相談室:ウェルビーイングの哲学的基礎について
最近「ウェルビーイング」って言葉をよく聞くんですけど、「幸福」とか「幸せ」と何が違うんでしょう?なんかふんわりしてて、正直よくわからなくて…
すごくいい疑問ですね!実は哲学の研究でも、その「ふんわり感」がちゃんと議論されているんです。神戸親和大学の宇野光範先生の2024年の論文が、まさにそこを丁寧に整理してくれています。まず一番大事なポイントをお伝えすると、「幸福論」と「ウェルビーイング論」は、実は言葉の使われ方が根本的に違うんです。
え、どう違うんですか?
「幸福」は「〇〇が幸福だ」とか「〇〇は幸福ではない」という形で使われます。たとえば「幸福とは年収の高さではない」と言うと、それが正しいかどうか議論できますよね。一方「ウェルビーイング」は「〇〇だけではない」という形で広がっていく言葉なんです。「ウェルビーイングは年収の高さだけではない」「身体的健康だけではない」「短期的な快楽だけではない」…という具合に、どんどん要素を付け加えていける構造になっています。
なるほど、ウェルビーイングは「あれもこれも含む」みたいな広い言葉なんですね。でも広すぎると、何でもありになりませんか?
鋭いです!論文でもまさにそこが課題として指摘されています。ひとつは「測定の恣意性」、つまり何を測るか選ぶときに、作る人の都合や好みが入り込みやすいという問題。もうひとつは「外延の無矛盾性」、わかりやすく言うと、要素をどんどん足していったとき、互いに矛盾しないようにするのが理論的に難しいという問題です。
確かに、ウェルビーイングの調査って「人間関係」「健康」「やりがい」とかいっぱい項目がありますよね。あれって誰かが「これが大事」って決めてるんですね…
そうなんです。だからこそ論文では「ウェルビーイングという概念はまだ脆弱(もろい)だ」とも表現されています。でもそれはネガティブな話だけじゃなくて、「だから丁寧に育てていく必要がある」というメッセージでもあるんです。
「育てていく」って面白い表現ですね。新しい言葉だからこそ、ということですか?
まさに!「幸福」「快楽」といった言葉はすでに何百年も議論されてきて、いろんな意味がこびりついています。でも「ウェルビーイング」はまだ手垢がついていない。だからこそ、いろんな立場の人が対話するための共通の土台として使える可能性があると、論文では論じられています。
そういえば「ヘドニア」とか「ユーダイモニア」って聞いたことがあります。それもウェルビーイングと関係あるんですか?
ありますよ!「ヘドニア」は「快楽」、「ユーダイモニア」は「よく生きること・幸福」という意味の古代ギリシャ語です。ウェルビーイングの研究でも、「気持ちいい・楽しい」という快楽的な側面と、「意味がある・充実している」という幸福的な側面のどちらを重視するかで、ずっと緊張関係が続いています。
じゃあ、どっちが正解なんでしょう?
実は論文はそこに面白い視点を加えています。古代ギリシャのアリストテレスは、最高の快楽と幸福を「同じもの」として捉えていたという話を紹介しているんです。つまり「快楽か幸福か」という対立で見るだけでなく、快楽をもっと丁寧に分析していくことで、ウェルビーイングという概念が熟成されていく可能性があると論じています。どちらが正解という結論ではなく、「これから議論を深めていこう」というスタンスですね。
なんか、ウェルビーイングって「答えが出た言葉」じゃなくて「これから作っていく言葉」なんですね。それを知ったら、なんかちょっと安心しました。自分なりに考えていいんだって。
その感覚、とても大切だと思います!論文でも、「ウェルビーイング」がさまざまな考え方の先に協調の光を見出すための言葉になり得ると述べられています。「私のウェルビーイングって何だろう」と自分に問いかけること自体が、この概念を育てることにつながっているかもしれませんね。
■ 今日のまとめ
- 「幸福」は「〇〇が幸福かどうか」を問う言葉ですが、「ウェルビーイング」は「〇〇だけではない」と要素を広げていく構造を持つ、異なる種類の言葉です。
- ウェルビーイングは広いがゆえに、何を測るかに恣意性が生じやすく、要素間の矛盾を防ぐことも理論的に難しいという課題があります。
- 「ウェルビーイング」はまだ手垢のついていない新しい概念だからこそ、快楽(ヘドニア)と幸福(ユーダイモニア)の関係を丁寧に分析しながら、これから育てていく余地がある言葉です。
■ 出典・注意事項
- 宇野光範「『ウェルビーイング』の哲学的基礎について(On the Philosophical Foundations of Well-being)」神戸親和大学, 2024年, https://kobe-shinwa.repo.nii.ac.jp/record/2000146/files/JID_043_005.pdf
- 【注意事項】本論文は著者の哲学的立場にもとづく論考であり、「一般的に確立されたウェルビーイングの定義」を示したものではありません。
- 【注意事項】本論文は哲学的・概念的な分析を行ったものであり、実験や調査による因果関係の検証ではありません。紹介した内容は相関や因果を主張するものではなく、概念の整理と考察です。
研究自体の紹介はこちら😊
ウェルビーイングの哲学的基礎について
https://wellbeing-archive.pages.dev/posts/2024-11-11-1731369320/