39知恵とウェルビーイング
ウェルビーイングハンドブック_第六章:リソース
毎日読めばウェルビーイングの基礎が分かる、ウェルビーイング・ハンドブック紹介シリーズ、第六章😊
今回は、知恵とウェルビーイング❗
知恵はIQなどの処理能力ではなく、
「人生の根本的な問題に関する専門的な知識と判断力」。
ただし、
あんまりウェルビーイングと関係はなさそうというのが結果。
問題に上手く対処できるから幸せ、という訳ではなく、
問題に対処できようができまいが、幸せな人は幸せ。なのか。
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■ 知恵(ウィズダム)と幸福感の関係を整理する― Zacher & Staudinger (2018) のレビュー論文をもとに
▼ この論文は何を目的としているか
「知恵のある人は幸せなのか?」という問いは、直感的にはYESに思えます。しかし実際の研究結果は、ポジティブな関連あり・関連なし・場合によってはネガティブな関連ありと、バラバラでした。
この論文は、28本の実証研究を体系的にレビューし、「なぜ結果がこれほど食い違うのか」を解明しようとしています。その鍵は、「知恵」と「幸福感」をどう定義・測定するかによって、関係性がまったく変わってくる、という点にあります。
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▼ 「知恵」とは何か
知恵の研究には大きく2種類の立場があります。
・一般的知恵(General Wisdom)
人生一般についての深い洞察や判断力のこと。自分自身ではなく、人間の条件や生き方全般について知っていることを指します。最も有名な枠組みが「ベルリン知恵パラダイム」(Baltes & Staudinger, 2000)で、「人生の根本的な問題に関する専門的な知識と判断力」と定義されます。友人の自殺を考えているといった難しい人生問題に対する回答を専門家が採点する、パフォーマンス(実演)ベースの測定法です。
・個人的知恵(Personal Wisdom)
自分自身の人生や問題に対する洞察のこと。自己知識や自己成長、曖昧さへの耐性などを含みます(Mickler & Staudinger, 2008)。
さらに測定方法にも2種類あります。
・パフォーマンス測定(Performance-based):課題への回答を採点する客観的な方法
・自己報告測定(Self-report):自分で質問紙に答える方法。代表例として「三次元知恵尺度(3D-WS)」(Ardelt, 2003)や「自己評価型知恵尺度(SAWS)」(Webster, 2003)があります。
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▼ 「幸福感」とは何か
この論文では幸福感を2種類に区別しています。
・主観的ウェルビーイング(SWB:Subjective Well-Being)
「幸福感」とも呼ばれ、生活満足度(認知的側面)とポジティブ感情・ネガティブ感情のバランス(感情的側面)から構成されます(Diener, 1984)。いわゆる「ヘドニックな幸福」に近い概念です。
・心理的ウェルビーイング(PWB:Psychological Well-Being)
自律性・成長・他者との良好な関係・自己受容・人生の目的意識など、より深いレベルの充実感です(Ryff, 1989)。いわゆる「ユーダイモニックな幸福」に近い概念です。
さらに、パーソナリティ(人格)の発達には2つの方向性があると整理されています(Staudinger & Kunzmann, 2005)。
・調整(Adjustment):社会の期待や規範に適応し、安定して機能できる状態。生活満足度や感情バランス、誠実性・協調性などが該当します。
・成長(Growth):社会の枠を超えた経験や変容。自律性・個人的成長・人生の目的意識などが該当します。
知恵は概念的に、調整よりも「成長」に近いと研究者たちは主張しています。
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▼ パフォーマンス測定の知恵と幸福感:研究結果のまとめ
客観的な課題採点で測った知恵と幸福感の関係を調べた研究は5本ありました。
・一般的知恵のパフォーマンス測定は、SWB(生活満足度や感情バランス)とはほとんど関連しない、もしくは非常に弱い関連しかない(Staudinger et al., 1997; Mickler & Staudinger, 2008)。
・ただし「個人的成長」というPWBの一側面とは正の関連が見られる(Staudinger et al., 1997; Wink & Staudinger, 2015)。
・興味深い例外として、「賢い推論(Wise Reasoning)」と呼ばれる社会的葛藤への対処の上手さを測った研究では、生活満足度・良好な人間関係・長寿との正の関連、ネガティブ感情・抑うつ的な反すうとの負の関連が見られました(Grossmann et al., 2013)。
・個人的知恵については、SWBとは無関連でした(Mickler & Staudinger, 2008)。
ポイントとして著者たちは、「個人的な知恵を深めることは、SWBを一時的に下げるような困難な自己省察や負の経験の克服を必要とするからではないか」と解釈しています。
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▼ 自己報告による知恵の測定と幸福感:研究結果のまとめ
自己報告で知恵を測った研究は22本あり、こちらは結果が大きく異なります。
・3D-WS(Ardelt, 2003)を用いた研究の大多数は、自己報告による知恵とSWBの間に中程度から強い正の関連を報告しています(Ardelt, 1997; Le, 2011; Bergsma & Ardelt, 2012など)。
・縦断的研究(2時点で測定した追跡研究)でも、Time 1の自己報告知恵がTime 2のSWB・熟達感・人生の目的意識・身体的健康と正の関連を示しました(Ardelt, 2016)。
・困難な出来事と現在のSWBのネガティブな関連を、高い知恵が和らげる「バッファー効果」も確認されています(Ardelt & Jeste, 2016)。
・SAWSを用いた研究でも同様に、精神的健康との正の関連が確認されています(Webster et al., 2012, 2014)。
ただし重要な注意点があります。自己報告の知恵測定は、「社会的望ましさへの応答バイアス(自分を良く見せようとする傾向)」と区別しにくいという問題があります。実際に、知恵があると他者から指名された人と一般の人を比較した研究では、自己報告の知恵スコアは両者を区別できませんでした(Glück et al., 2013)。
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▼ 全体の考察:なぜ結果が食い違うのか
著者たちは5つの重要な結論をまとめています。
・結論1:パフォーマンス測定の知恵はSWBとほぼ無関連か弱い正の関連しかない。特に個人的知恵はSWBと関連しない。他者への助言能力(一般的知恵)のほうがSWBとわずかに関連する。
・結論2:自己報告の知恵はSWBと中程度以上の正の関連を示す。しかしこれは「知恵のある人は実際に幸せ」というよりも、「社会的に望ましい自己イメージを持つ人が両方を高く評定する」バイアスを反映している可能性がある。
・結論3:「調整vs成長」の区別が鍵になる。パフォーマンス測定の知恵は「成長」に関連し、「調整」であるSWBとは弱い関連しかない。自己報告の知恵は「調整」に近い性質を持つため、SWBと強く関連する。
・結論4:自己報告知恵の妥当性には限界がある。本当に賢い人ほど自己過大評価をしにくいため、高得点者は必ずしも知恵のある人ではない可能性がある。
・結論5:ほとんどの研究は横断的デザイン(1時点の調査)であり、知恵と幸福感がどのように互いに発達していくかを明らかにするには、縦断的研究が不可欠。
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▼ 総括
この論文が示す最も重要なメッセージは、「知恵は必ずしも幸せをもたらすわけではない」ということです。むしろ知恵、とりわけ個人的知恵の深化は、困難な経験の克服や自己直視といった、一時的にSWBを下げるようなプロセスを通じて培われます。
真の知恵は、ヘドニックな幸せ(快楽・生活満足)よりも、ユーダイモニックな幸せ(成長・目的・自律)に近い。そして「幸せそうに見える賢そうな人」は、自己認識の高さゆえに両方を高く自己評定しているだけかもしれない。
測定ツールによって見えてくる世界がまったく変わる、という研究方法論上の根本的な課題を提示した重要なレビュー論文です。
(Zacher & Staudinger, 2018)
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Wisdom and Well-Being
By Hannes Zacher, Leipzig University, & Ursula M. Staudinger, Columbia Aging Center, Columbia University
知恵とウェルビーイングの関連性を調査した文献では、正の相関から無相関、さらには負の相関に至るまで、相反する結果が報告されている。本章では、主要な概念を定義・説明した上で、これらの文献を概観する。知恵がウェルビーイングと正の相関を持つというのは直感的には妥当に思えるが、研究者たちは、その相関関係は知恵とウェルビーイングの定義や測定方法の種類によって左右されると主張している。本章では、これらの概念の捉え方や評価方法の関数として、知恵とウェルビーイングの関連性を検討・議論し、一見矛盾しているように見える研究結果について、それに応じて解釈を行う。さらに、2つのタイプのポジティブな人格発達、すなわち適応と成長の区別を用いることで、知恵と主観的および心理的ウェルビーイングとの関係を明確化する。最後に、知恵とウェルビーイングに関する今後の研究の方向性について議論する。
キーワード:知恵、ウェルビーイング、適応、成長