2024.06.17

はぴテク相談室:ケイパビリティアプローチで公園のwell-beingを考える

相談者

最近、近所の公園のことで悩んでいるんです。子どもを遊ばせたいんですが、犬の散歩の人や高齢者がくつろいでいたり、ボール遊び禁止になっていたり…。みんなが幸せに使える公園って、そもそも作れるものなんでしょうか?

はぴテクさん
はぴテクさん

それは悩ましいですね。実はその問いに正面から向き合った論説が、計画行政という専門誌(2024年)に掲載されているんです。「ケイパビリティアプローチ」という考え方を公園の設計に当てはめた研究です。まず「ケイパビリティ」という言葉からご説明しますね。

相談者

ケイパビリティ…? 難しそうな言葉ですね。どういう意味ですか?

はぴテクさん
はぴテクさん

簡単に言うと「その人がどんな生き方・過ごし方を選べるか、という自由や可能性」のことです。経済学者のアマルティア・センが提唱した考え方で、「幸福の本質は個人の多様性を尊重すること」だと言っています。たとえば同じ公園に行っても、子どもにとっての幸せ、親御さんにとっての幸せ、高齢者にとっての幸せは、それぞれ違いますよね。

相談者

確かに! 子どもは思いっきり走り回りたいし、私(親)は安全を確かめながら見守りたいし、高齢者の方はゆっくりしたいし…。それぞれが求めるものが全然違う。

はぴテクさん
はぴテクさん

まさにそこが、この研究が指摘している核心です。研究では「多様な人々の幸福を一つの公園で同時に達成することは、最低限の生活保障よりもずっと難しい」という結果が示されています。子どもが活発に遊ぶことで生まれる騒音や危険が、別の人のゆったり過ごすケイパビリティを妨げてしまう、という対立が起きやすいんですね。

相談者

対立…。じゃあどうすればいいんでしょう? みんなが使いやすい公園なんて、夢のまた夢なんですか?

はぴテクさん
はぴテクさん

夢というより、「一つの公園でぜんぶ解決しようとするのが難しい」というのが研究の見立てです。そこで論文が挙げているのが、大きく3つのアプローチです。①危険をきちんと管理しながらリスクを完全になくさず子どもの挑戦を守る「ハザード排除とリスク管理」、②色々な性格の公園を地域の中に複数整備する「多様な公園の整備」、③同じ公園の中でも使い分けができる仕組みや道具の貸し出し・遊びのサポートを入れる方法、の3つです。

相談者

「複数の公園を整備する」というのは、どういうイメージですか?

はぴテクさん
はぴテクさん

論文の中で具体例として挙がっているのが、東京の足立区が取り組んでいる「パークイノベーション推進計画」です。区内にある複数の公園をそれぞれ違うコンセプトで整備することで、「子どもが思いっきり遊べる公園」「静かに過ごせる公園」「犬と散歩できる公園」などを使い分けられるようにする、という発想です。一か所でぜんぶ叶えようとするのでなく、地域全体のネットワークで多様な幸福を実現しようという考え方ですね。

相談者

なるほど! それは確かに現実的な気がします。でも、誰がそれを決めるんでしょう? 行政が勝手に決めてもうまくいかなそうで…。

はぴテクさん
はぴテクさん

鋭いところを突きましたね。研究でも「ウェルビーイング達成の可能性を高めるための政策運営手法の開発が重要だ」と述べられていて、その中に「子どもたちの活動への参加」も含まれています。つまり、使う人たちが計画づくりに関わること自体が、ウェルビーイングを高める手段の一つとして位置づけられているんです。

相談者

子ども自身も参加できるんですね。それは面白い! でも、親としては安全面がやっぱり一番気になります。研究ではその点はどう考えているんですか?

はぴテクさん
はぴテクさん

論文では「ハザードの排除とリスク管理」を分けて考えています。ハザードとは取り除くべき本当の危険(壊れた遊具など)、リスクとは子どもが挑戦する中で経験する適度なスリルのことです。リスクを全部なくすと、子どもが「自分で判断して動く力」を育てるケイパビリティが失われてしまう。だから、危険はきちんと管理しつつ、適度なリスクは残すバランスが大切だ、というのが研究の考え方です。

相談者

ボール遊び禁止になっている公園が多い理由も、そういうリスク管理の難しさと関係しているんですね。なんだかスッキリしてきました。私にできることって何かありますか?

はぴテクさん
はぴテクさん

研究の視点から言うと、「地域の中でどんな公園が何個あるか」を意識してみるのが第一歩かもしれません。一つの公園に全部を求めて不満を持つより、「うちの子にはここ、静かに過ごしたいときはあそこ」と複数を使い分ける視点が持てると、日々のストレスが少し変わるかもしれません。また、公園づくりの住民参加の機会があれば、子どもや親としての声を届けることが、研究が言う「ウェルビーイング実現のための政策手法」に直結します。

相談者

なるほど、一つの公園で全部解決しようとしなくていいんですね。地域全体で考える、という発想が大事なんですね。すごく参考になりました!

■ 今日のまとめ

  • 一つの公園で多様な人々の幸福を同時に実現することは、ケイパビリティアプローチの観点からも非常に難しいと論文は指摘しています。
  • 「地域の中に多様なコンセプトの公園を複数整備する」ことが、みんなのウェルビーイングを実現する現実的なアプローチとして示されています(足立区の事例など)。
  • 危険の排除と適度なリスクのバランス、使う人たちの計画参加、道具の貸し出しなどの仕組みづくりが、ウェルビーイング達成を高める政策手法として挙げられています。

■ 出典・注意事項

  • 出典:中野卓・他「都市の公共空間とWell-being―子どもと保護者による都市公園の利用に着目して―」計画行政 第47巻第2号、2024年6月14日(J-STAGE公開)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jappm/47/2/47_27/_pdf/-char/ja

  • 注意事項①:本論文は理論的・論説的な検討であり、実証データによる因果関係の証明ではありません。「〇〇すれば幸福が上がる」と断言できるものではありません。

  • 注意事項②:論文で示されているのは都市公園の利用という特定の文脈であり、すべての地域・文化・公共空間に同様に当てはまるとは限りません。

  • 注意事項③:ケイパビリティアプローチはアマルティア・センの理論的枠組みであり、その適用の仕方によって解釈が異なる場合があります。

投稿者によるコメント・補足(1件)
コメント 1

研究自体の紹介はこちら😊
ケイパビリティアプローチで公園のwell-beingを考える
https://wellbeing-archive.pages.dev/posts/2024-06-17-1718665578/

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