はぴテク相談室:気持ちが落ちている人は、あえてネガティブな感情に向かっていく
最近、職場でウェルビーイングの取り組みを始めたんですが、なかなか全員に広がらなくて困っています。ポジティブなイベントをやっても、乗ってこない人が一定数いて…どうしてなんでしょう?
それは難しいですよね。実は最近の研究で、気持ちが落ちている状態にある人は、そもそもポジティブな感情を避けて、あえてネガティブな方向に向かいやすい傾向があることが報告されているんです。「やる気がないから乗らない」だけじゃなく、心の働きとして、そうなりやすい状態があるということなんです。
えっ、ポジティブを「避ける」んですか?それは意図的にやってるんでしょうか?
研究によると、必ずしも意識してやっているわけではないみたいです。たとえば、楽しい話題が出ても自然とネガティブな方向に注意が向いてしまったり、良い記憶よりも嫌な記憶を何度も思い返してしまったり。一方で、ポジティブな記憶はあまり思い出そうとしない、という傾向が見られたんです。
なんとなくわかる気がします。私の職場でも、いいニュースを伝えても「でも…」って返してくる人がいて。それも関係しているんでしょうか?
関係している可能性はありますね。この研究では、うつ状態にある人がポジティブな出来事に対して「そこから気をそらす」方略を自然と選びやすいことがわかっています。ただ、おもしろいことに、「気分が良くなる方法を選んでみてください」と明示的に促すと、そうでない人と同じくらいポジティブな選択ができたという結果も出ているんです。
それはすごいですね!ということは、うまくきっかけを作れば変われる可能性もあるってことですか?
この研究はあくまで実験室での観察なので、「こうすれば必ず変わる」とは言い切れないんですが、少なくとも「意識的に促されると動ける場面もある」という知見は参考になりそうですよね。ただ、日常生活の中でその傾向が続いているのは事実なので、焦らずじっくり関わることが大切かなと思います。
じゃあ、職場のウェルビーイング施策として、そういう人にはどう関わればいいんでしょう?
まず大切なのは、「ポジティブに引っ張ろう」とするより前に、安心して存在できる環境を整えることだと思います。承認されている、否定されない、という土台がない状態でポジティブな働きかけをしても、受け取りにくいんですよね。研究でも、ネガティブな感情への動機づけが強い状態では、不快な気持ちが増えやすく、良い気持ちが減りやすいことが示されています。
なるほど、土台づくりが先なんですね。ポジティブな取り組みはどうすればいいですか?
乗り気な人や部署から少しずつ広げていくのが現実的だと思います。全員を一度に動かそうとすると、乗れない人が「自分だけ取り残されている」と感じてしまうこともあって、逆効果になることもありますから。OECDの調査では、日本では約17%がうつ・うつ状態とされています。つまり職場の5〜6人に1人くらいは、こういった傾向を持っている可能性があるということで、それを前提に考えると施策の設計も変わってきますよね。
17%というと結構多いですね。その人たちへの継続的な関わりって、具体的にはどんなイメージですか?
一度や二度声をかけてダメだったからといって諦めないことが大事だと思います。信頼関係を積み重ねながら、小さな安心の積み上げを続けていく、そういう地道なプロセスが効いてくるんじゃないでしょうか。研究が示しているのは「この状態の人には特別なアプローチが必要」ということで、それを知っているだけでも関わり方のヒントになりますよね。
そうですね。「乗ってこない人が悪い」じゃなくて、「そういう状態にある」と理解できると、気持ちが楽になりました。もう少し丁寧に関わってみます。
その理解がある人が職場にいるだけで、雰囲気って少し変わると思いますよ。研究はあくまで傾向を示したものですが、「なぜうまくいかないのか」を考えるヒントとして活かしてもらえたら嬉しいです。焦らず、続けていきましょう!
■ 今日のまとめ
- 気持ちが落ちている状態(うつ状態)にある人は、ポジティブな感情を自然と避け、ネガティブな記憶を繰り返し思い出しやすいという傾向が研究で示されています。
- 職場のウェルビーイング施策では、まず「安心・安全・承認」という土台を整えることが先決で、ポジティブな取り組みは乗り気な人から少しずつ広げるのが現実的です。
- 落ち込んでいる人への関わりは、一度で変わることを期待せず、信頼を積み重ねながら継続的に働きかけることが大切です。
■ 出典・注意事項
- 【主要論文】Choosing to avoid the positive? Emotion regulation strategy choice in depression. Journal of Psychopathology and Clinical Science, 2023. https://psycnet.apa.org/doiLanding?doi=10.1037%2Fabn0000835
- 【参考統計】OECD 図表でみる医療 2023:日本 https://www.oecd.org/health/health-at-a-glance/Health-at-a-Glance-2023-Japan-Launch.pdf
- 【注意事項】本研究は大うつ病性障害(MDD)と診断された参加者(研究1:38名、研究2:58名)を対象にした比較研究であり、サンプルサイズが小さいため、結果の一般化には限界があります。
- 【注意事項】観察・実験による傾向の把握であり、「うつ状態だからポジティブを避ける」という因果関係が確定したわけではありません。相関・傾向として理解してください。
- 【注意事項】OECD統計の17.3%という数値は調査時点・方法によるものであり、職場の全員に当てはまるわけではありません。あくまで参考値としてご活用ください。
研究自体の紹介はこちら😊
気持ちが落ちている人は、あえてネガティブな感情に向かっていく
https://wellbeing-archive.pages.dev/posts/2024-01-31-1706744019/