はぴテク相談室:武道修練とウェルビーイング
最近、なんとなく毎日が単調で、生きがいみたいなものが感じられないんです。仕事はこなせているんですが、充実感がなくて…。何か打ち込めるものを探しているんですけど、武道とかってどうなんでしょう?昔から気になってはいたんですが。
毎日が単調に感じられる、充実感が持てない…それはしんどいですね。武道に興味があるとのこと、実は武道とウェルビーイング(幸福感・充実感)の関係を深掘りした研究があるんですよ。2023年の博士論文で、空手道場の参加者19名を対象に調査したものです。一緒に見ていきましょうか。
博士論文!なんか本格的ですね。でも私、武道って体育会系のきつい世界ってイメージがあって、精神的に追い詰められそうで怖いんですよね…。
それはよくある誤解というか、心配になりますよね。この研究では、道場は単なる「体を鍛える場所」ではなく、指導者と生徒が一緒に価値を作り上げていく「価値共創の場」として分析されています。参加者インタビューでは、訓練を通じてポジティブな精神的変化や自己成長が見られたという結果が出ているんです。
価値共創…ってどういう意味ですか?難しそうで。
わかりやすく言うと、「先生が一方的に教える」のではなく、先生と生徒、そして仲間たちが道場という場を通じてお互いに影響し合いながら、一緒に成長していくプロセスのことです。武道の稽古って、相手がいてはじめて成り立ちますよね。その相互作用そのものが、充実感につながっているということなんです。
なるほど、一人でジムでトレーニングするのとは違うってことですね。でも、道場に通い続けることって、続けるのが大変そうで…。
この研究でとても面白い発見があって、長く稽古を続けた参加者は「道場」を単なる物理的な場所としてではなく、自分の心の中のあり方(マインドセット)として内面化していく、と報告されているんです。つまり、道場に行けない日でも、道場で学んだ考え方や姿勢が日常生活の中に自然と染み込んでいく、ということですね。
それって、武道の「道」って言葉の意味に近い気がしますね。生き方みたいな。
まさにそうです!研究でも「エウダイモニア」という言葉が使われているんですが、これは古代ギリシャ語で、単なる「楽しい気分」ではなく「自分らしく生きる充実感・自己実現」に近い幸福感を指します。武道の修練は、この種の深い充実感を育みやすい、ということがこの研究では示唆されています。
「楽しい気分」じゃなくて「充実感」、その違いはなんとなくわかります。毎日がなんとなく楽しくないわけじゃないけど、充実してないっていう私の感覚とリンクする気がします。
そうですよね。この研究では、道場という環境の理念・トレーニングの仕組み・そこで得られる成果、この三つが組み合わさることで参加者のウェルビーイングが育まれていくと分析されています。どれか一つじゃなくて、全体がひとつのシステムとして機能しているんですね。
じゃあ、なんでも「武道っぽいもの」なら同じ効果があるってわけじゃないんですか?
鋭い質問です!この研究はあくまで一つの空手道場(世界誠道空手道連盟誠道塾)の19名を対象にしたもので、すべての武道や道場に同じことが言えるとは限りません。道場の理念や指導者との関係性、コミュニティの雰囲気など、環境全体が重要だという点が強調されています。「この場所だからこそ育まれるもの」という要素が大きいようです。
なるほど。じゃあ、道場選びも大事なんですね。なんか武道、ちょっとやってみようかなという気になってきました。
それは素敵な一歩ですね!まとめると、この研究から見えてくるのは、①武道の道場は指導者・仲間との相互作用を通じて精神的な充実感を育む場になりえること、②稽古を続けることで道場の価値観が日常のマインドセットとして内面化される可能性があること、③ただし、これは特定の道場の19名の事例研究なので、すべての武道・道場に一般化できるわけではない、という点です。焦らず、自分に合う場を探してみてください。
■ 今日のまとめ
- 武道の道場は、指導者と生徒・仲間同士の相互作用を通じて「エウダイモニア(自己実現的な充実感)」を育む場になりえることが、参加者インタビューから示唆されています。
- 稽古を長く続けることで、道場という場所が単なる物理空間を超え、日常生活に生かせるマインドセットとして内面化されていく可能性があります。
- ただしこれは特定の空手道場19名を対象にした事例研究であり、すべての武道や道場に同じ効果があるとは限りません。道場の理念・仕組み・コミュニティの質が重要な要素とされています。
■ 出典・注意事項
- 出典:八田武志「武道修練を通じたウェルビーイング形成メカニズムの研究:世界誠道空手道連盟誠道塾の事例分析」北陸先端科学技術大学院大学 博士論文, 2023年3月 https://dspace.jaist.ac.jp/dspace/bitstream/10119/18412/2/paper.pdf
- 注意事項①:本研究は19名の参加者へのインタビュー・質問紙調査を中心とした質的・事例研究であり、因果関係を証明するものではありません。武道修練がウェルビーイングを『高める』とは断言できず、関連性が示唆されたものです。
- 注意事項②:対象が特定の一道場(世界誠道空手道連盟誠道塾)に限定されており、他の武道・道場・スポーツに結果を一般化することには限界があります。
- 注意事項③:二次データ(印刷物・書籍等)も分析に用いられており、データの性質上、解釈に主観が入る余地があります。
研究自体の紹介はこちら😊
武道修練とウェルビーイング
https://wellbeing-archive.pages.dev/posts/2023-10-27-1698444007/