2026.07.13
天職につくことは幸せなのか? 〜天職で起業・独立した人のメンタル〜
仕事を、
単なる仕事と思うか(Job、生活の糧)
キャリアを築くものと思うか(Career、キャリア・出世)
天職と思うか。(Calling、天職)
一般的には、天職につく、もしくは自分の仕事を天職と思う人は幸せである。と言われています。
が、意外に、天職にも大変なことも結構あって、それを調査頂いた最新研究😊
ハンガリーの研究ですが、とてもわかりみが深いです。
ー
結果から言えば、
天職で起業・独立した人は、仕事は単なる役割ではなく、
本当の自分を表現する手段として捉える😍
そして、フロー(没入)が日常化して、努力と充実感がめっちゃ高まる❗
だがしかし、
・仕事と自分が一体化しすぎて、上手くいかない時にキツい。(仕事の失敗=自分の人格の否定に捉える)
・自由や自律が凄いが、その分、責任も、未来の不確実性もキツい。
・仕事にコミットしすぎて、プライベートなくなる。心が消耗していく。
という負の側面も。
しかし、それでも天職を続けている人は、
・状況を受け入れる。成功も失敗もない、ただ人生の状況があるだけなんだ。
・仕事とプライベートの境界線を引き直し、完全オフな時間を作る。
・自分の状況に気付く。疲労感や焦燥感に、ちゃんと気付く。
・継続的な内省で自分の限界と強みを知る。
・収入の波に備えて蓄えを作る。
・人格的な成長を遂げる
といった事をしていた。失敗から学びながら。
ー
うーん、私自身も天職である「幸せ」で起業してから起こった事が、
だいたい載っている・・・😂
というか、今も、な部分も。
天職見つけて、起業/独立するよ!したよ!という人は、是非読んで頂きたいお話でした。
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起業家精神と心理的幸福:動的かつ規制された労働経験に関する質的研究
Entrepreneurial calling and psychological wellbeing: a qualitative study of a dynamic and regulated work experience
Front. Psychology , 2026/6/24
Judit Jakab 、Attila Oláh
https://www.frontiersin.org/journals/psychology/articles/10.3389/fpsyg.2026.1830938/full
導入:天職は一般的に、意義深く、自己を定義する仕事や、肯定的な心理的成果と関連付けられています。起業家的な仕事は、強い個人的な関与と意義のある自己主導的な活動を特徴とすることが多いものの、起業家としての天職が日々の仕事の中でどのように経験され、心理的な幸福感とどのように関連しているかについては、あまり知られていません。方法:本研究は、自らの仕事を天職と捉えているハンガリー人起業家31名に対する詳細な半構造化インタビューに基づいている。テーマ分析では、参加者が日々の仕事の中で起業家としての天職をどのように経験し、実践し、維持しているか、具体的には仕事の意味、アイデンティティに関わる関わり方、そして起業家的な文脈の中で天職を生きることの心理的影響について探究した。結果:参加者は、意義のある仕事活動を通して天職を経験し、起業家精神は、アイデンティティに関連した自己主導的な仕事を可能にする柔軟な環境として機能した。起業家としての天職は、(1)アイデンティティに合致した意義と内発的な関与、(2)自律性によって可能となる自己主導性、(3)不確実性、感情的な緊張、曖昧な境界線、(4)成長、自己反省、適応、境界線の交渉といった特徴を持つ、動的な関与形態として現れた。心理的な幸福は天職から自動的に生じるものではなく、参加者が長期にわたってその感情的および個人的な要求を管理しながら関与を維持する能力に依存していた。議論:研究結果は、起業家としての使命感が、アイデンティティ、自律性、不確実性、そして心理的要求の相互作用によって形成される、ダイナミックに展開される有意義な仕事への取り組み方であることを示唆している。アイデンティティに合致し、自律性を可能にする仕事は、意義、目的、そして個人の成長を促進する一方で、感情的な負担や仕事から離れることの難しさも増大させる。したがって、起業家としての使命感は、持続性を保つために継続的な適応と交渉を必要とする、進化し続ける心理的に複雑なプロセスとして現れた。
起業家の「天職」という両刃の剣 なぜ最も意義深い仕事が、最も深い心理的負荷をもたらすのか A Dynamic and Regulated Work Experience (Based on Jakab & Oláh, 2026) NotebookLM 幻想:美化された「天職」 「好きなことを仕事にすれば、一生働かなくてすむ」という幻想、無限のモチベーション、そして純粋な喜びに満ちた理想郷。 現実:終わりのない心理的交渉 白らのアイデンティティと仕事が結びつくかゆえの、異てた重圧、境界線の喪失、そして継続的な自己調整の連続。 NotebookLM 「天職」は「情熱」とは異なる:現象の再定義 単なる職業 (Job) 情熱 (Passion) 起業家の天職 (Entrepreneurial Calling) 動機 (Motivation): 経済的報酬・手段 動機 (Motivation): 強い感情的愛着・楽しさ 動機 (Motivation): 存在意義・深い目的意識 自己との統合 (Identity): 役割としての仕事(分離可能) 自己との統合 (Identity): 活動への没頭 自己との統合 (Identity): 自己の延長(分離不可能) 燃え尽きリスク (Burnout Risk): 低〜中 燃え尽きリスク (Burnout Risk): 中 燃え尽きリスク (Burnout Risk): 極大(アイデンティティの危機に直結) 表面的なアンケートではなく、深層心理の分析 31人の起業家 (ハンガリー) 多様な業種 (スタートアップCEO、職人、コンサルタント等)、 様々なライフステージ。 深層半構造化インタビュー 単なる統計ではなく、日常の業務体験に潜む「意味」を抽出。 テーマ分析法 (Thematic Analysis) 「天職」がいかに実践され、心理的に維持されるかのパターンを特定。 天職を構成する2つの相反するカ 推進力 (Enablers) 心理的代償 (Demands) ・アイデンティティと合致 した「意味」 ・自律性による自己決定 継続的な自己調整 (Self-Regulation) ・重圧と不確実性 ・境界線の喪失と感情的粘着 第1の力:自己と仕事の境界が消える「意味」 ・外的報酬ではなく、内発的・本質的な動機づけ ・仕事が「活動」から「自己の延長」へと変容する ・社会的意義(他者への貢献)との強い結びつき 「私の個性と仕事は完全に結びついている。」 -Participant 21 (ウェディングデコレーター) 第2のカ:「自律性」という名の重い自由 自由の獲得 ・いつ、どこで、誰と働くかを完全にコントロールする力。 ・自らの価値観に合わない機会を拒否できての自由。 責任の内面化 ・自分であるからこそ、すべてのリスクと結果を個人が背負う。 ・「やらされている」のではなく「自ら選んだ」ため、逃げ道がない。 「休日に出かけていても、会社で起きていることが常に頭から離れない。」 ―Participant 18(スタートアップCEO) 影の領域:心理的負荷とアイデンティティの侵食 Enterprise/仕事 Self/個人 財務的・構造的な不確実性:予測不能な未来か、自己価値の揺らぎに直結する。 感情の枯渇:常に深いレベルで仕事と繋がっているため、精神的な「オフ」が存在しない。 関係性の矛盾:家族や私生活の時間が、仕事の無限の要求に侵食される。 「自由を与えてくれると同時に、人生を乗っ取られてしまう。」 ー Participant 26(カフェ経営者) 究極のパラドックス:光を生む源泉が、影を作り出す 光 - Meaning, Autonomy, Purpose | 影 - Strain 仕事が自分自身のアイデンティティそのものである。 → 失敗が「事業の失敗」ではなく「人格の否定」に感じられる。 自分のペースで、情熱の赴くままに没頭できる。 → 物理的・心理的な境界線を引くのが困難になり、疲労困憊する。 社会的使命感と、他者への貢献による強い喜び。 → 「使命」であるため、体むことへの罪悪感が生じる。 Notebooktt 崩壊を防ぐ架け橋:「自己調整」という実践 天職を生き抜く起業家は、重圧を無視するのではなく、それを「自己理解」と「境界線(バウンダリー)の再構築」のためのシグナルとして活用する。 1. レジリエンス (Resilience) 単なる忍耐ではなく、状況に応じた継続的な解釈の変更。 2. 自己認識 (Self-Knowledge) 困難を通じて、自の限界と真の欲求を知る。 3. 境界線の交渉 (Boundary Negotiation) 意識的に「仕事以外の自分」を保護する。 天職の動的調整モデル(Dynamic Regulatory Model) 起業家の天職(Entrepreneurial Calling) 自律性・浸頭・自己決定を通じて継続的に実践される、アイデンティティと合致した意味のある仕事 意味、目的、成長、アイデンティティの統合 | 心理的強度、不確実性、境界線の曖昧化、感情的負荷 継続的な自己調整と適応的な境界線管理 心理的ウェルビーイングと持続可能な起業家としての実践 深淵からの声:実践者たちの葛藤と進化 The Immersion 「仕事をしている感覚はない。 そこは私が充実感を見出す場所だ。」 -(P17) The Toll 「完全にすり減ってしまう。本当に しんどかったし、今でもうだと思う。」 -(P13) The Adaptation 「どんな困難が来ても、座って 考え抜き、そして次に進んだ。」 -(P29) The Growth 「成功も失敗もない。 ただ『人生の状況』があるだけだと気づいた。」 -(P5) ウェルビーイングの再定義:「ストレスの不在」ではない Traditional Wellness (Boredom/Stagnation) _____ Eudaimonic Well-being (Growth/Meaning) 1 2 Hedonic (快楽的) アプローチ ストレスを排除し、ポジティブな感情だけを求める。(起業家には不可能) Eudaimonic (自己実現的) アプローチ 困難や不確実性と向き合いながら、目的、真実性、個人の成長を追求する。 「真の健康とは、重圧がないことではなく、意義深い困難に主体的に取り組み、それを調整し続ける能力の中にある。」 起業家のための実践的エコシステム診断 1. アイデンティティの分離 (Identity Boundary) 専業が失敗しても、自分の人間としての価値は変わらないと心から言えるか? 仕事以外の話題で、熱中できる会話のテーマを持っているか? 2. 自律性の制御 (Autonomy Control) 「いつでも働ける」自由が、「常に働かなければならない」義務すり替わっていないか? 戦略的な「完全オフ」の時間をカレンダーにブロックしているか? 3. 動的自己調整 (Dynamic Regulation) 疲労感や焦燥感を無視せず、システムを見直すシグナルとして扱って
【背景】
■研究の前提となる既存研究の流れ
▼1. 「コーリング」とは何か
・コーリング(calling/天職感覚:自分の仕事を単なる職業ではなく、人生の使命や召命のように感じる心理状態)は、心理学・組織研究で長く関心を集めてきたテーマです(Wrzesniewski et al., 1997; Dik & Duffy, 2009)
・一般的な定義は「特定の仕事に引き寄せられる深い目的意識であり、その仕事を個人的に意味深く、内発的に動機づけられ、社会的に価値あるものと感じる経験」です(Dik et al., 2012)
・さらにコーリングは、自分のアイデンティティ(自己認識:「自分は何者か」という感覚)や人生の意味と一体化したものとして経験されることが多いとされます(Bunderson & Thompson, 2009)
▼2. 「情熱」との違い
・ここで重要なのが、コーリングと「情熱(passion)」の区別です
・情熱は「ある活動への強い感情的な愛着」と理解されるのに対し(Vallerand et al., 2003; Cardon et al., 2009)、コーリングはそれに加えて、意味・アイデンティティとの統合・より広い目的意識を含む、より複雑な概念です(Dik & Duffy, 2009; Bunderson & Thompson, 2009)
・仕事と自己が深く結びつく起業の文脈では、この区別が特に重要になります
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■3. コーリングの「光」の側面
・先行研究では、コーリングは職種そのものよりも「仕事活動が自分の価値観や目的とどう一致しているか」によって、多様な文脈で経験されうるとされてきました(Dik & Duffy, 2009; Wrzesniewski & Dutton, 2001)
・そしてコーリングは、職務満足感、内発的動機づけ(報酬のためではなく活動自体の面白さから生じるやる気)、心理的ウェルビーイング(精神的に良好で充実した状態)といったポジティブな結果と関連することが繰り返し示されています(Dobrow & Tosti-Kharas, 2011; Duffy et al., 2013)
■4. コーリングの「影」の側面
・一方で、仕事が「演じる役割」ではなく「自己の表現」になると(Bunderson & Thompson, 2009)、消耗やバーンアウト(燃え尽き症候群)への脆弱性が高まり、仕事から心理的に離れることが難しくなる可能性が指摘されてきました。特に仕事と私生活の境界が曖昧な場合に顕著です(Duffy & Dik, 2013; Duffy et al., 2018)
・近年の統合的レビューでは、コーリングとして経験される仕事は本質的に両義的(アンビバレント:良い面と苦しい面が同時に存在する状態)であり、道徳的コミットメントや意味だけでなく、大きな個人的・心理的コストも伴うと強調されています(Thompson & Bunderson, 2019)
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■5. なぜ「起業家」の文脈が重要なのか
・起業の文脈では、コーリングが特に強烈で、個人への影響が大きい形をとる可能性があります。高い自律性、強いアイデンティティ投資、不確実な結果、成功と失敗への直接的な個人責任が組み合わさるためです(Murnieks et al., 2020; Stephan, 2018)
・こうしたダイナミクスは、経済的不確実性、仕事の過負荷、結果への個人責任によってさらに増幅されうるとされます(Hessels et al., 2018; Shepherd et al., 2016)
・また近年の研究は、精神的な強さ、身体的ウェルビーイング、制度的支援といった個人的・文脈的資源が、起業への関与や志向を形づくる役割も示唆しています(Sarwar et al., 2025)
・起業の仕事は、自律性・内発的動機・アイデンティティ投資・結果への責任を併せ持つ一方で(Murnieks et al., 2020)、持続的な不確実性やストレス、継続的なコーピング(ストレス対処)とレジリエンス(回復力・しなやかさ)を必要とします(Ahmed et al., 2022; Stephan, 2018)
・個人的な意味や自己決定が起業家の関与を形づくることも、以前から指摘されてきました(Baum & Locke, 2004; Cardon & Kirk, 2015)
■6. ユーダイモニア的ウェルビーイングの視点
・本研究の理論的立脚点として、ユーダイモニア的ウェルビーイング(快楽や満足感ではなく、意味・目的・成長・自己実現といった「良く生きること」に注目する幸福観)が挙げられています
・この視点から見ると、起業家的コーリングは、意味・自律性・人格的成長というウェルビーイングの主要次元が、要求の厳しい仕事のなかでどう経験され交渉されるかを検討するのに特に適した対象です(Shir & Ryff, 2021)
・さらに近年は、両義性・苦闘・逆境の役割を認める、より統合的なウェルビーイング観が発展しています。ポジティブ感情や人生満足度だけでなく、目的・真正性(オーセンティシティ:本当の自分らしくあること)・成長を重視し、ウェルビーイングを「困難な人生条件との関わりを通じて形成される継続的プロセス」と捉える立場です(Lomas & Ivtzan, 2016; Wong et al., 2022)
・この流れは「第二波ポジティブ心理学」(ポジティブな面だけでなく、ネガティブな経験が幸福に果たす役割も統合的に扱う研究潮流)と呼ばれます(Lomas & Ivtzan, 2016)
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■7. 先行研究のギャップ(本研究が埋めようとする穴)
▼方法論上の偏り
・コーリング・起業・ウェルビーイングの研究は増えているものの、従来は量的研究(質問紙などで数値データを集める研究)と従業員サンプルが中心で、日々の起業実践のなかでコーリングがどう経験され維持されるかの理解は限られていました(Dobrow et al., 2023; Hart & Hart, 2023)
▼従来の「天職的職業」への偏り
・従来のコーリング研究は、医療・教育・宗教職といった、制度化され社会的に認知された「天職的職業」を対象にしがちでした(例: Bloom et al., 2021)
・Bloom et al.(2021)は、そうした職業の人々が、識別・真正性・職業的正統性のプロセスを通じてナラティブ・アイデンティティ(物語的自己:自分の人生を物語として語ることで形成される自己像)を構築する様子を示しました
▼起業文脈への拡張の萌芽
・このプロセス志向の視点を起業文脈に拡張したのがSchou(2022)で、起業家的コーリングを「継続的なナラティブとアイデンティティの過程」として概念化しました
・しかし、自律性・不確実性・継続的な心理的要求という条件のもとで、起業家的コーリングが日々どう心理的に維持・交渉されるかには、まだ十分な注意が払われていません
・同様に起業研究の側でも、意味・心理的負担・ウェルビーイングが起業の仕事のなかで動的にどう調整されるかはほとんど検討されてきませんでした(Stephan, 2018; Shir & Ryff, 2021)
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■8. 本研究の位置づけ
・以上を踏まえ、本研究はSchou(2022)の「起業家的コーリングは仕事とアイデンティティを時間をかけて意味づけていくナラティブの過程である」という考えに立ち、起業家的コーリングを「自己決定的・自己創造的な仕事を、深く意味があり、アイデンティティと一致し、内発的に動機づけられるものとして経験するコーリングの一形態」と定義します
・そのうえで、ハンガリーの起業家31名への深層インタビューとテーマ分析(インタビューデータから繰り返し現れる意味のパターンを抽出する質的分析法)により、自律性・不確実性・継続的な心理的要求のもとで、コーリングがどう実践され、交渉され、維持されるのかを探索しています
【研究の内容】
▼研究の問い
・「仕事を天職と感じている起業家は、日々の仕事のなかでその経験をどう意味づけ、意味・アイデンティティ・心理的ウェルビーイングをどう調整しているのか」を探索することが目的です
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■1. 方法
▼研究デザイン
・探索的な質的研究(数値ではなく、語りや記述から人の経験を深く理解する研究アプローチ)です
・認識論的立場(「知識はどう得られるか」についての前提)としては、文脈主義と批判的実在論に立っています。つまり、自律性・負担・アイデンティティ発達といった現象を「単なる言葉のうえの構築物」ではなく実際に生きられた心理的現実とみなしつつ、それらには本人の主観的解釈や語りを通じてしかアクセスできない、という立場です
・目的は普遍的な真理の確立ではなく、参加者がコーリングをどう理解・経験しているかの「繰り返し現れるパターン」の特定に置かれています
▼参加者
・ハンガリーの起業家31名(女性16名、男性15名、18歳以上)
・全員が「自分の仕事はコーリング(天職)である」と自己認識していることが参加条件でした
・自営業者と事業オーナーの両方を含み、職種は多様です(メイクアップアーティスト、スキーインストラクター、語学教師、階段製作職人、チョコレート職人、レストランオーナー、スタートアップCEO、歌手・ソングライターなど)
・年齢は研究の焦点ではないため収集されていません
▼手続き
・Zoomによるオンラインの深層・半構造化インタビュー(大枠の質問は決めつつ、話の流れに応じて柔軟に掘り下げる面接法)
・書面によるインフォームド・コンセント取得、匿名化(P1、P2などの番号で管理)、大学倫理委員会の承認あり
▼分析
・Braun & Clarke(2006)の6段階に沿ったテーマ分析(データから繰り返し現れる意味のパターン=テーマを抽出する質的分析法)
・帰納的アプローチ(理論を先に当てはめるのではなく、データから出発してパターンを見出すやり方)で、逐語録の熟読 → コード化 → テーマの探索 → 見直し → 定義・命名 → 報告、という反復的プロセスを踏んでいます
・インタビューはハンガリー語で実施・分析され、公表用の引用のみ英語に翻訳されています
▼サンプリング上の注意点(著者自身が明記)
・「仕事を天職と語る人」だけを集めているため、自己選択バイアス(そう語りたい人ほど参加しやすい偏り)があります
・つまり結果は「起業家全体」ではなく「仕事を意味深いものとして積極的に構築している人々」の経験を映したものです
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■2. 結果 — 4つのテーマ
分析の結果、起業家的コーリングは「静的な状態」ではなく、4つの相互に関連するパターンからなる動的なプロセスとして浮かび上がりました。
▼テーマ1: アイデンティティと一致した意味ある没頭としてのコーリング
・参加者は仕事を、収入や昇進といった手段的目標を超えた、自己と深く結びついたものとして経験していました
・内発的動機づけ(活動そのものから湧くやる気)と直観・真正性の重視:「自分の内奥から湧き出るアイデアが、最も自分らしい人生を生きさせてくれる」(P31)
・フロー体験(時間を忘れるほどの没入状態)が日常に埋め込まれている:「恋をしているのに例えられるようなフロー体験」(P1)、「天職をしていると時間はただ流れていく」(P11)
・過去の勤め人時代との対比で語られる真正性:「今やっと自分自身でいられる」(P22)
・他者への貢献の感覚:「人類のために何かをしている気がする」(P4)
・仕事と自己の一体化:「私の人格と仕事は完全に絡み合っている」(P21)、「月曜の朝が全く苦にならない」(P30)
▼テーマ2: 自律性が可能にする実践としてのコーリング
・自律性(自分の仕事を自分で決められること)は経験の一部というより、コーリングの実践を「可能にする条件」として機能していました
・時間・場所・相手の自己決定:「いつ、どこで、誰と働くかは自分で決める」(P24)
・価値観に合わない仕事を断る自由:「自分の価値観に合わない商談にはノーと言える」(P30)
・一方で自律性は責任とリスクの引き受けでもある:「休暇中でも会社で起きていることが頭から離れない」(P18)
・つまり自律性は「自由」と「要求」の両面を同時に持っていました
▼テーマ3: 心理的に要求の厳しい関与としてのコーリング
・仕事を深く意味あるものにしている当の特徴が、負担・不確実性・切り離しにくさとも直結していました
・経済的不確実性:「3か月は休みなく働き、その後は仕事がずっと減る」(P20)、「先が見えないことは起業家にとって莫大なストレス要因」(P13)
・情緒的消耗:「自分自身の感情生活が後回しになってきた」(P5)、「完全にすり減る。ものすごく大変だったし、今もそうだと思う」(P13)
・仕事と私生活の境界の曖昧化:「境界線を引くことを学ばなければ、すべてを持っていかれるところだった」(P8)、「無数の労働時間、家族から奪った時間」(P26)
・象徴的な語り:「自由を与えてくれる分だけ、人生を乗っ取っていく」(P26)
・重要なのは、こうした負担が「コーリングが意味を失った証拠」ではなく、「仕事が深く大切だからこそ生じるもの」として理解されていた点です
▼テーマ4: 自己調整・成長・適応によるコーリングの維持
・参加者は、継続的な内省と自己理解を通じてコーリングを維持していました:「仕事を通じて常に自分自身に取り組んでいる。継続的な内省と意識的な成長を伴う」(P17)
・困難からの学習:「挑戦とともに生きることを学ばねばならない」(P21)
・レジリエンス(回復力)は固定的な性格特性ではなく、経験を通じて育つ能力として語られました:「どんな困難が来ても、座って考え抜き、前に進んだ」(P29)
・人格的成長の実感:「子どもの頃は内気だったが、今は自信を持って交渉しプレゼンする」(P11)
・コーリングは最初から確信としてあるものではなく、試行錯誤と自己理解を通じて徐々に明確化されるものでした:「人はすぐに天職を見つけられるわけではない。方向が違うと気づいたら、進路を変える勇気が大切」(P12)
・実務的な工夫も:「浮き沈みで事業が潰れないよう、蓄えを作ることを学んだ」(P11)
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■3. 考察
▼中心的な主張: コーリングは「動的に調整されるプロセス」
・起業家的コーリングは、安定したポジティブな状態ではなく、意味・アイデンティティ・自律性・不確実性・自己調整が絡み合いながら継続的に交渉されるプロセスとして現れました
・これはSchou(2022)の「コーリング=継続的なナラティブの過程」という見方を支持しつつ、そこに「心理的な調整・維持」という側面を加えて拡張するものです
▼起業は「コーリングの対象」ではなく「器」
・興味深い点として、起業そのものがコーリングの対象なのではなく、コーリング(作る・助ける・教える・築くといった意味ある活動)を実践できる「柔軟な仕事の器」として機能していました
・これは「意味は職種ではなく、仕事への向き合い方に宿る」とするワークオリエンテーション研究(Wrzesniewski et al., 1997; Dik & Duffy, 2009)と整合します
▼意味ある仕事は自動的に幸福をもたらさない
・仕事とアイデンティティの強い統合は、意味・目的・成長の源であると同時に、心理的な「さらされやすさ」(不確実性や失敗が自己価値に直撃する状態)も高めていました
・ウェルビーイングは意味ある仕事の安定した結果ではなく、「関与の強度・回復・個人的限界をどう管理できるか」に依存する動的プロセスでした
・これは第二波ポジティブ心理学(Lomas & Ivtzan, 2016; Wong et al., 2022)の「ウェルビーイングは努力を要する発達的なもの」という見方と一致します
▼自律性の二面性
・自律性は、Ryff(1989)らのユーダイモニア的ウェルビーイング論が挙げる主要次元であると同時に、本研究では「コーリングを日常で実践可能にする心理的メカニズム」として位置づけられました
・スケジュールや仕事量を自分で設計する語りは、環境制御力(自分のニーズと限界に合わせて環境を形づくる力。Ryffのウェルビーイング6次元の一つ)の表れと解釈されています
・ただし自律性は負担を減らすというより「負担の意味を変える」ものでした。自分で選んだ条件だからこそ挑戦は耐えやすくなる一方、境界管理や持続可能性の責任もすべて個人に移ります
▼成長とレジリエンスは「創発的」
・成長はウェルビーイング向上のための意図的な戦略ではなく、意味があり要求も厳しい仕事に関わり続けた結果として「立ち現れる」ものでした(創発的:個々の要素からは予測できない性質が全体として生じること)
▼概念モデル(図1)
・論文は最後に動的調整モデルを提示しています。流れは以下の通りです
・起業家的コーリング(自律性・没頭・自己決定を通じて実践される、アイデンティティと一致した意味ある仕事)
→ 一方で「意味・目的・成長・アイデンティティ統合」を生み
→ 他方で「心理的強度・不確実性・境界の曖昧化・情緒的負担」も生む
→ 両者を「継続的な自己調整と適応的な境界管理」がつなぎ
→ その先に「心理的ウェルビーイングと持続可能な起業家的関与」が位置づく
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■4. 実践への示唆と限界
▼実践への示唆
・起業家支援では、意味ある仕事への関与を促すだけでなく、その心理的コスト(境界管理、内省力、自己調整)への支援も同時に必要です
・「コーリングを奨励する介入は、その潜在的な心理的コストにも対処すべき」と著者は明言しています
▼限界
・仕事を天職と自認する人のみのサンプルで、一般化は意図されていません
・回顧的な自己報告(過去を振り返った本人の語り)に基づくため、リアルタイムの行動観察ではありません
・ハンガリーの文化的・経済的文脈に位置づけられた知見であり、他の文脈にそのまま当てはまるとは限りません
・著者は今後の方向として、天職と自認しない起業家との比較や、縦断研究(同じ人を時間をかけて追跡する研究)による心理的帰結の変化の検討を挙げています
【インタビューでのコメント】
■テーマ1: アイデンティティと一致した意味ある没頭
▼内発的動機・直観・真正性
・「湧き上がってくる感情に耳を傾けなければならない」(P7・ヨガインストラクター)
・「何が自分にとっても他者にとっても面白く意味があるかを見極めるうえで、直観と勘はとても重要」(P27・ジャーナリスト/TVレポーター)
・「自分の内奥から湧き出るアイデアが、最も自分らしい人生を生きさせてくれる」(P31・歌手/ソングライター)
▼フロー体験(時間を忘れるほどの没入状態)と日常の喜び
・「恋をしているのに例えられるような、あのフロー体験」(P1・メイクアップアーティスト)
・「天職をしているとき、時間はただ流れていく」(P11・レーザー加工/印刷業)
・「日々の喜び——喜びをもって仕事をしていると、まったく働いていないように感じる」(P12・幼稚園園長)
・「仕事は私にとって仕事ではない。そこは私が充足を見つける場所」(P17・援助職/トレーナー)
▼本当の自分でいられること
・「今やっと自分自身でいられる」(P22・アーティスト)
・「まず自分が何をするのが好きで、自分が何者なのかを見つけることで、天職は見つけられる」(P30・ビジネス/マーケティングコンサルタント)
・「本当の自分として存在すると、人間関係の質が変わる」(P31・歌手/ソングライター)
▼他者への貢献
・「人類のために何かをしている気がする」(P4・弁護士/調停人)
・「人を助けられると知るのは気分がいい」(P13・助成金ライター)
▼仕事と自己の一体化
・「週末が終わって仕事に戻れるのが待ちきれなかった」(P19・3Dデザイナー)
・「月曜の朝は全く苦にならない」(P30・コンサルタント)
・「これは私の天職であるだけでなく、私の愛でもある」(P16・ネイルアーティスト)
・「私は(社名)のブランドそのものだと言われる」(P6・コミュニティスペース開発)
・「私の人格と仕事は完全に絡み合っている」(P21・ウェディング装飾)
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■テーマ2: 自律性(自分の仕事を自分で決められること)
▼働き方の自己決定
・「いつ働くか、どこで働くか、誰と働くかは自分で決める」(P24・ビジネス/リーダーシップ/健康コーチ)
・「自分の価値観に合わないビジネスチャンスにはノーと言える」(P30・コンサルタント)
・「自分の魂に反するレポートは一度もやったことがない」(P27・ジャーナリスト)
▼時間の自由
・「時間の自由が増えた。日々をどう過ごすかは自分で決める」(P9・階段製作職人)
・「今日は走りに行った方が自分にとって良いと感じたら、そうできる」(P18・スタートアップCEO)
▼上下関係からの独立
・「もう上司はいらなかった。うんざりしていた」(P10・照明設計/電気システム専門家)
・「自分の足で立ち、他人に依存しないのは本当に気持ちがいい」(P20・チョコレート職人/講師)
▼自由の裏面としての責任とリスク
・「私の話を聞いてくれる人たち、私が責任を負っている人たちがいる」(P25・農業経営者)
・「人々は多国籍企業を離れることを恐れる。そこに安定を見ているから」(P24・コーチ)
・「休暇中でも、会社で起きていることがいつも頭から離れない」(P18・スタートアップCEO)
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■テーマ3: 心理的な負担・不確実性・境界の曖昧さ
▼経済的不確実性と仕事量の波
・「3か月は休みなく働き詰めで、その後は仕事がずっと少なくなる」(P20・チョコレート職人)
・「私たちは未来を見通せない。これは起業家にとって莫大なストレス要因だ」(P13・助成金ライター)
▼情緒的消耗
・「自分自身の感情生活が後回しに押しやられてきた」(P5・革新的ヘルスケア専門職)
・「完全にすり減る。ものすごく大変だったし、今もそうだと思う」(P13・助成金ライター)
▼自由と引き換えの侵食
・「自由を与えてくれる分だけ、人生を乗っ取っていく」(P26・カフェオーナー)
▼境界線の問題
・「境界線を引くことを学ばなければならなかった。さもなければ、すべてを持っていかれるところだった」(P8・ポジティブ心理学コーチ)
・「ノーと言うこと、いつラップトップを閉じるかを決めることは、とても難しい」(P18・スタートアップCEO)
▼家族との緊張
・「無数の労働時間、家族から奪った時間」(P26・カフェオーナー)
・「妻はいつも『あなたはいつも工房にいる』と不満を言っていた」(P19・3Dデザイナー)
▼成功・失敗観の変化と粘り強さ
・「成功も失敗もなく、ただ人生の局面があるだけだと気づいた」(P5・ヘルスケア専門職)
・「やり直す方法を、私はとてもよく学んだ」(P31・歌手/ソングライター)
・「自分の城を築いているとき、恐れの入り込む余地はない」(P15・製品開発/製造業)
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■テーマ4: 自己調整・成長・適応による維持
▼継続的な内省と自己への取り組み
・「仕事を通じて、私は常に自分自身に取り組んでいる。それは継続的な内省と意識的な成長を伴う」(P17・援助職/トレーナー)
▼困難からの学習
・「挑戦とともに生きることを学ばなければならない」(P21・ウェディング装飾)
・「リーダーになる過程には多くの苦闘があったが、学ぶことでそれを解決した」(P12・幼稚園園長)
・「それまでに実に多くのことを試していたから、自分が何をやりたくないかは正確に分かっていた」(P28・建設業)
▼レジリエンス(回復力)と適応
・「どんな困難が降りかかってきても、腰を据えて考え抜き、前に進んだ」(P29・アイスクリーム店オーナー)
・「だから常に変化は必要だったが、目標はいつもそこにあった」(P2・スキーインストラクター)
・「何か悪いことが起きたら、それをどう良いことに変えられるかをいつも考える」(P9・階段製作職人)
▼人格的成長の実感
・「子どもの頃は内気だったが、今では自信を持って交渉し、プレゼンをしている」(P11・レーザー加工業)
・「私の仕事は批判されたが、そのために懸命に働いてきたと自分では分かっていた」(P23・デザイン/ブランディング代理店創業者)
▼天職は徐々に明確になるもの
・「人はいつもすぐに天職を見つけられるわけではない。方向が違うと気づいたら、進路を変える勇気を持つことが大切」(P12・幼稚園園長)
・「まず自分自身を知って、この生き方に向いているかを見なければならない」(P18・スタートアップCEO)
▼実務的な備え
・「浮き沈みで事業が潰れてしまわないよう、蓄えを作ることを学んだ」(P11・レーザー加工業)
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■補足
・以上が本文に掲載された引用のほぼすべてです(31名中、引用が本文に登場するのは上記の参加者)
・引用は各テーマを例示するために選ばれたもので、インタビュー全体(逐語録)は倫理的配慮から非公開です
対話形式での紹介はこちら
https://wellbeing-archive.pages.dev/posts/2026-07-13-1783908480/