49ポジティブ心理学介入による主観的幸福感の育成
ウェルビーイングハンドブック_第八章:介入
毎日読めばウェルビーイングの基礎が分かる、ウェルビーイング・ハンドブック紹介シリーズ、第八章😊
八章は、どうすれば幸福度が高まるの?、という介入について😊
ポジティブ心理学での介入の中でも、メイン所を7つ整理頂いています😍
・① 意味(Meaning):人生の目的や一貫性を見出す活動
・② 感謝(Gratitude):他者の親切や良い出来事への感謝を実践する活動
・③ 強み(Strengths):自分の性格的強みや才能を認識し、実際に使う活動
・④ 味わい(Savoring):日常の体験の細部に意識を向け、十分に楽しむ活動
・⑤ 楽観性(Optimism):未来について肯定的な見通しを育てる活動
・⑥ 共感(Empathy):他者の立場に立ち、感情や思考を理解しようとする活動
・⑦ 親切(Kindness):他者への利他的行動を通じて自身の幸福感を高める活動
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■ ポジティブ心理学的介入(PPI)による主観的幸福感の育成 Stone & Parks(2018)
▼ この論文の全体像
ポジティブ心理学的介入(PPI:Positive Psychological Interventions)とは、「ポジティブな変数(例:楽観性)を高めることで、人々に良い変化をもたらすことが実証された活動」のことです。
PPIはうつ病など精神的な問題を抱える人だけでなく、日常的な悩みを持つ人や、特に問題のない人にとっても効果があるのが特徴です。つまり「誰でも使える幸福のためのツール」です(Seligman & Csikszentmihalyi, 2000)。
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▼ PPIとして認められるための3つの条件(Parks & Biswas-Diener, 2013)
・条件①:ポジティブな変数(例:前向きな感情)を標的にしていること
・条件②:実験によってその変数が実際に変化することが確認されていること
・条件③:その変数の変化が、対象者に良い結果をもたらしたという証拠があること
この3条件によって、口コミや体験談だけに頼った根拠の薄い「自己啓発」とは区別されます。
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▼ 主要な7つのPPI領域
本論文は、研究が充実している7つの領域を順に解説しています。
■ ①意味(Meaning)
「意味」とは、自分の人生に重要性や目的を与えるものです。研究者の多くは意味を2つの要素で捉えます。
・目的(Purpose):自分が何を目指しているか、どんな動機や目標を持つか
・一貫性(Coherence):自分の人生を全体として理解できているか
▼ 介入の例
・ゴール設定:達成したい目標と時間軸を書き出す活動。人生の「目的」の側面を強化します
・人生の振り返り(書くワーク):離婚など否定的な出来事も含め、人生全体を書き記すことで「一貫性」を高めます
▼ 効果と限界
・自分の仕事に「天職(calling)」としての意味を見出すと、キャリアの成熟度や充実した仕事の成果につながります(Duffy & Dik, 2013)
・ただし、天職への期待が現実的でない場合、それが苦悩の原因になることもあります
・縦断研究(長期的な追跡調査)が少なく、長期効果は不明な点が多い
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■ ②感謝(Gratitude)
「感謝」とは、他者の親切な行為に対する appreciation(ありがたみ)を実践する活動です。
感謝のはたらきについて、古くは「関係の損益バランスを調整する感情」と説明されていましたが(Trivers, 1971)、より新しい理論では「他者の親切に反応して関係を深める感情」とも捉えられています(Algoe, Haidt & Gable, 2008)。
▼ 介入の例
・感謝の手紙:これまでちゃんと感謝を伝えられていなかった人への手紙を書く。手紙を渡さなくても効果があります(Seligman et al., 2005)
・3つの良いこと(Three Good Things):その日あった良いことを3つ書き出す。2週間で否定的な感情が減少します
▼ 効果
・ストレスやうつ症状を軽減し、社会的サポートの知覚を高める(Wood et al., 2008)
・学校での銃撃事件後にPTSD(心的外傷後ストレス障害)症状を緩和し、心的外傷後成長を促した(Vieselmeyer et al., 2017)
・主観的幸福感を多面的に高める(Emmons & McCullough, 2003)
▼ 文化差・個人差への注意
・アングロ系アメリカ人はアジア系アメリカ人よりも感謝介入で生活満足度が大きく上昇(Boehm et al., 2011)
・韓国人はさらに効果が小さい可能性(Layous et al., 2013)
・他者依存傾向の強い人には、感謝介入が自己評価を下げる逆効果も(Sergeant & Mongrain, 2011)
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■ ③強み(Strengths)
強みには2種類あります。
・性格的強み(Character Strengths):共感力、親切さ、粘り強さなど気質・性格に関わるもの
・才能(Talents):優れた友人関係の築き方、スポーツの才能など、技能・適性に関わるもの
▼ 介入の構造
強みアセスメント(自分の強みを測定するテスト)で強みを把握し、それを日常の中で新しいかたちで使うよう促します。たとえば「相手の気持ちを考える力」という強みがあれば、学生委員会や採用面接の評価などに活かす、といった具合です。
▼ 効果
・強みを使うことで、1ヶ月後に幸福感が増し、うつ症状が減少。6ヶ月後も効果が持続(Seligman et al., 2005)
・性格的強みは、ポジティブな感情・自己効力感・楽観性・社会的サポート・自己評価・生活満足度よりも、レジリエンス(逆境からの回復力)を強く予測する(Martínez-Martí & Ruch, 2017)
▼ 重要な注意点
・強みを「見つけるだけ」では効果がほとんどありません。実際に使うことが必要です(Seligman et al., 2005)
・「強みは変えられない」と思い込むと逆効果になる可能性があります
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■ ④味わい(Savoring)
「味わい」とは、見落としがちな体験の細部に意識を向け、それを十分に楽しむことです。
▼ 味わいの4種類
・感覚の鋭化(Sharpening Perception):食べ物の味や風の匂いなど五感に集中する
・記憶の構築(Memory Building):現在の瞬間が過ぎ去ることを意識しながら大切に感じる
・回想(Reminiscence):楽しかった過去の体験(例:乗り物の楽しさ)を振り返る
・関係への感謝:人間関係の健全な側面を味わう(Borelli et al., 2014)
▼ 効果
・過去の良い出来事を思い出す介入で、1週間後にポジティブ感情が増加(Bryant et al., 2005)
・将来の良い出来事を毎日想像(メンタルタイムトラベル)すると、2週間で幸福感が高まる(Quoidbach et al., 2009)
・日常的に物事を味わう習慣がある人ほど、主観的幸福感が高い(Gentzler et al., 2016)
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■ ⑤楽観性(Optimism)
楽観性とは、未来について肯定的な見通しを持つことです。研究によると、楽観性と悲観性は「対極」ではなく、それぞれ独立した性質であり、人は同時に楽観的かつ悲観的になりえます(Segerstrom et al., 2011)。
また、うつでない人は自分への統制感を過大評価し、うつの人は現実的に評価するという研究があります(Alloy & Abramson, 1979)。楽観性は、ある種の「健康的な自己過信」と結びついている可能性を示しています。
▼ 介入の例
・ベスト・ポッシブル・セルフ(BPS):すべての希望や目標が叶った未来の自分について書く。1日20分、4日間継続すると効果的(King, 2001)
・ライフサマリー:理想的な将来がすべてうまくいった場合のことを書く
▼ 効果
・ポジティブな感情と将来への期待が高まり、ネガティブな予測が減少(Enrique et al., 2017)
・楽観性が高いほど大手術後の回復が早く、再発率も低い(Balck et al., 2016)
・産後うつの女性のうつ症状を軽減(Carver & Gaines, 1987)
▼ 限界
・楽観性には「特性(trait)」として安定した個人差があるため、元から楽観的な人には効果が小さい可能性
・「小さな楽観性(今日の出来事への前向きさ)」と「大きな楽観性(社会全体への期待)」の違いも今後の研究課題(Peterson, 2000)
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■ ⑥共感(Empathy)
共感とは、他者の立場に立って、その感情を理解しようとする力です。共感には2つの側面があります。
・感情的共感(Affective Component):他者の感情状態を感じ取る感受性
・認知的共感(Cognitive Component):他者の思考の柔軟性や複雑さへの気づき
▼ 介入の例
・慈悲の瞑想(Loving-Kindness Meditation:LKM):マインドフルネス瞑想に似ていますが、他者への無条件の愛と思いやりを育てることに焦点を当てます。主観的幸福感を安定して高めることが示されています(Galante et al., 2014; Hofmann et al., 2011)
・自己アファメーション(self-affirmations):自分への共感として、自分の良い点や価値観を確認する活動。自己肯定感を高め、健康行動(果物・野菜の摂取増加など)を促進します
▼ 効果と限界
・職場で共感力を発揮する管理職は、部下からの評価が高く、生産性も上がる(Sadri et al., 2011)
・ただし競争的な状況では、共感が「相手の戦略を読む道具」として使われ、攻撃性や不信感を高める逆効果になることも(Caruso et al., 2006, 2007)
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■ ⑦親切(Kindness)
親切介入は、他者への利他的行動(altruistic behaviors)を通じて、行為者自身のポジティブな感情を育てることを目指します。
▼ 「お金の使い方」と幸福
・一般的にはお金が多い人のほうが幸福ですが、「どう使うか」も重要です。他者のためにお金を使う「向社会的支出(prosocial spending)」は幸福感を高めます(Dunn et al., 2008)
・ただし、①他者との繋がりを感じられること ②恩恵が明確に見えること ③自分の意志によるものであること、の3条件が必要です
▼ 親切の頻度と新規性
・1週間毎日1つの親切より、1日に5つの親切をまとめて行うほうが幸福感への効果が大きい(Lyubomirsky et al., 2005)
・すでに習慣化している親切行為は効果が薄く、「新しい」親切が重要です
▼ ボランティアと幸福感
・ボランティア時間と生活満足度は逆U字型の関係。少なすぎても多すぎても幸福感が低く、適度な時間が最も高い(Windsor et al., 2008)
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▼ 論文全体のまとめと今後の課題
PPIの研究は「なぜ効くのか(メカニズム)」がまだ十分に解明されていません。「ポジティブな感情が高まる」よりも「うつ症状が減る」効果のほうが大きいことが多く、希望・自己効力感・ポジティブな刺激への注意など、別のメカニズムも検討が必要です。
また、本論文では触れられなかった領域として、「許し(Forgiveness)」と「希望(Hope)」の介入も有望であることが指摘されています。
さらに今後の重要なテーマとして、以下が挙げられています。
・スマートフォンアプリなどを使ったPPIの普及・実装
・性差・文化差への対応
・長期的効果の検証(縦断研究の充実)
・介入の最適な「量と頻度(dosage)」の特定
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■ 日本への示唆
感謝介入については、アジア系への効果が欧米系より小さい可能性が複数の研究で示されています(Boehm et al., 2011; Layous et al., 2013)。日本でPPIを実践・研究する際には、文化的価値観との適合性を慎重に検討することが求められます。一方、慈悲の瞑想(LKM)は仏教的伝統との親和性が高く、日本文化に根ざした介入として特に有望かもしれません。
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Cultivating Subjective Well-Being through Positive Psychological Interventions
By Bryant M. Stone, Southern Illinois University, Carbondale; Acacia C. Parks, Hiram College
要約 ポジティブ心理学的介入(PPI)とは、ポジティブな変数(楽観主義など)を高めることで、対象集団に肯定的な変化をもたらすことが実証されている活動である。これらの活動は多様な形態をとり、幅広いポジティブな変数に焦点を当てているが、研究者は主に、以下に示す7つの一般的かつ十分に研究が進んでいるPPIのカテゴリーに注力する傾向がある。すなわち、意味、感謝、強み、味わうこと、楽観主義、共感、そして親切である。総じて、これらの領域におけるPPIは、多様な集団において、抑うつ症状の緩和、社会貢献的な支出や社会的つながりの増大、自殺念慮の減少、主観的幸福感や幸福度の向上、その他多くの肯定的な変化をもたらすことが示されている。とはいえ、性別や文化的な差異、長期的な効果、活動に対する逆効果や予期せぬ反応など、今後の研究において議論すべき課題は依然として多く残されている。本稿では、PPIのこうした利点と批判を検討するとともに、各領域の背景および再現性の現状について論じる。
キーワード:ポジティブ心理学的介入、主観的幸福感、セルフヘルプ