㉙仕事、仕事と家庭のインターフェース、主観的幸福感
ウェルビーイングハンドブック_第五章:ライフ
毎日読めばウェルビーイングの基礎が分かる、ウェルビーイング・ハンドブック紹介シリーズ、第五章😊
ちょうど半分くらい来ましたね😊
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■ 論文紹介:仕事・ワークファミリー・主観的幸福感 Ford, Wang, & Huh (2018)
▼ この論文は何を扱っているか
働く人の「幸せ(主観的幸福感=SWB)」に、仕事がどう影響するかを包括的にまとめたレビュー論文です。主観的幸福感とは、生活満足度・ポジティブな感情・ネガティブな感情の3つを合わせた概念で、「自分の人生をどう感じているか」を指します。
仕事は人の起きている時間の大半を占め、家庭生活にも波及します。そのため、幸福感を理解するには仕事の影響を外せない、という問題意識から書かれています。
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■ 第1章:仕事と幸福感をつなぐ理論的な枠組み
まず、仕事がどのように幸福感に影響するかの「経路」が説明されます。
▼ 主な経路は2つ
・仕事満足度(job satisfaction):自分の仕事に対する総合的な評価。これが高いと生活満足度も高くなる傾向があり、両者の相関はr≒.40程度(Bowling et al., 2010)
・仕事中の感情体験:日々の出来事がポジティブ・ネガティブな感情を引き起こし、それが蓄積して幸福感に影響する
▼ 感情イベント理論(AET)とは
Weiss & Cropanzano(1996)が提唱した理論で、職場の出来事(上司との衝突、仕事の達成など)が感情を引き起こし、それが幸福感に影響するという考え方です。「安定した仕事の条件」は仕事満足度に、「日々の出来事」は感情面の幸福感に主に影響するとされています。
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■ 第2章:仕事の内容そのものの影響
▼ 職務特性モデル(Hackman & Oldham, 1976)
仕事の中身が持つ5つの特性が幸福感に影響するという、最も影響力のある理論の一つです。
・自律性(自分で判断できる裁量):仕事満足度との相関r=.37
・スキルの多様性(様々な能力を使える):r=.32
・仕事の重要性(社会的意義を感じられる):r=.31
・タスクの完結性(仕事の始めから終わりまで関われる):r=.23
・フィードバック(仕事から直接成果が分かる):r=.33
これらは仕事満足度への影響は明確ですが、感情面の幸福感への影響は比較的弱く、一貫していません(Humphrey et al., 2007)。
▼ 業務量(workload)の影響
仕事の量や難しさを指します。業務量が多いと仕事満足度は下がり(r=-.18)、疲労・うつ・精神的消耗とは正の相関があります(r=.10〜.38)。一方で生活満足度との相関はほぼゼロ(r=-.01)で、給与や地位が高いことで相殺される可能性があります(Bowling et al., 2015)。
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■ 第3章:職場の人間関係・リーダーシップの影響
▼ 職場のソーシャルサポート(社会的支援)
上司や同僚から受ける助けや情緒的なサポートのことです。
・職場全体のサポートと仕事満足度:r=.24、生活満足度ともr=.14の相関(Viswesvaran et al., 1999)
・同僚の感情的サポートは特に強く、仕事満足度とr=.34(Chiaburu & Harrison, 2008)
・上司サポートは感情的消耗(バーンアウトの一側面)を軽減:r=-.28(Halbesleben, 2006)
▼ リーダーシップの影響
・配慮型リーダー行動(部下の気持ちに寄り添う):仕事満足度r=.40、幸福感r=.28(Judge et al., 2004)
・構造主導型リーダー行動(明確な指示・方向性を出す):仕事満足度r=.19と弱め
▼ 変革型リーダーシップ(transformational leadership)
ビジョンを示し、部下を鼓舞するリーダーシップスタイル。仕事満足度との相関は補正後でr=.58(Judge & Piccolo, 2004)と非常に高いですが、時間をおいた縦断研究では効果が弱まるとの報告もあります。
▼ LMX(リーダーとメンバーの交換関係の質)
上司と部下の間にある信頼・尊重・相互義務の質を指します。LMXが高いと仕事満足度も高く(r=.42)、幸福感全般にもプラスの影響があります(Dulebohn et al., 2012)。
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■ 第4章:公正さ・ハラスメント・職場での不当な扱い
感情的に非常に強い影響を持つのが、「不公正な扱い」や「嫌がらせ」です。
▼ 組織的公正(organizational justice)の3次元
・分配的公正(給与・報酬の公平さ):仕事満足度r=.39〜.46
・手続き的公正(意思決定プロセスの公平さ):r=.40〜.51
・インタラクション公正(説明・尊重の程度):r=.44
いずれも仕事満足度と強い相関があります(Cohen-Charash & Spector, 2001)。不公正感はストレス・バーンアウト・ネガティブ感情とも相関します(Robbins et al., 2012)。
▼ 職場での不当な扱い
・上司からの攻撃的行動:仕事満足度r=-.32、抑うつr=.24(Hershcovis & Barling, 2010)
・破壊的リーダーシップ(虐待的監督など):幸福感r=-.35、ネガティブ感情r=.34(Schyns & Schilling, 2013)
・職場ハラスメント:生活満足度r=-.18、不安r=.25、抑うつr=.28(Bowling & Beehr, 2006)
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■ 第5章:組織そのものの影響
▼ 人事(HR)制度・慣行
教育・評価・報酬・情報共有などの制度が整っている組織ほど、従業員の幸福感が高い傾向があります(HR慣行と仕事満足度:r=.27, Kooij et al., 2010)。雇用不安(job insecurity)は仕事満足度を下げ(r=-.32)、精神的健康にも悪影響を及ぼします(Sverke et al., 2002)。
▼ 組織風土(organizational climate)
組織が「何を大切にしているか」についての共通認識のことです。
・礼節の風土(civility climate):仕事満足度r=.53
・安全の風土:仕事満足度r=.34、幸福感r=.30(Clarke, 2010)
▼ 組織に対する信念・感情
・知覚された組織的サポート(組織が自分を大切にしてくれていると感じる度合い):仕事満足度r=.57(Kurtessis et al., 2017)
・組織への情緒的コミットメント(愛着):仕事満足度r=.65(Meyer et al., 2002)
・組織への不信感・シニシズム:仕事満足度r=-.50(Chiaburu et al., 2013)
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■ 第6章:仕事と家庭の相互作用(ワークファミリー・インターフェース)
▼ ワークファミリー・コンフリクト(WFC)とは
仕事と家庭が互いに邪魔し合う状態のことです。双方向性があります。
・仕事→家庭の干渉(WIF):家庭満足度r=-.18〜-.20、生活満足度r=-.30、ストレスr=.54(Amstad et al., 2011)
・家庭→仕事の干渉(FIW):仕事満足度r=-.11〜-.14、生活満足度r=-.20
WIFの方が全体的に幸福感への悪影響が強い傾向があります。
▼ ワークファミリー・エンリッチメント(充実化)
仕事での経験が家庭生活を豊かにし、逆もまた起こる、というポジティブな波及効果のことです。
・仕事→家庭の充実:生活満足度r=.26(McNall et al., 2010)
・家庭→仕事の充実:家庭満足度r=.31〜.34
▼ 組織の家庭支援策
・フレックスタイム・テレワークなどの柔軟な働き方:WIFとの相関はr=-.11と弱め(Allen et al., 2013)
・制度の「存在」より「組織が家庭を気にかけている」という実感の方が重要(知覚された組織的家族支援と仕事満足度:r=.36)
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■ 第7章:新たな研究課題
▼ 因果関係の問題
多くの研究は「同時点」での相関を測定しているため、「仕事が幸福感を下げるのか」「幸福感が低いと仕事が悪く見えるのか」が分かりません。縦断研究における仕事ストレスの遅延効果は平均r=.05〜.08と小さく、逆方向の効果(幸福感→仕事評価)も同程度に存在します(Ford et al., 2014)。
▼ 仕事と家庭の「境界」と回復
テレワークの普及などで、仕事とプライベートの境界が曖昧になっています。
・境界が曖昧なほどワークファミリー・コンフリクトが増える傾向(Kossek et al., 2012)
・仕事からの心理的な切り離し(脱タッチメント):ストレスや疲労の低減、生活満足度の向上に関連(Sonnentag & Fritz, 2015)
・余暇活動:生活満足度r=.22、ポジティブ感情r=.29(Kuykendall et al., 2015)
・テレプレッシャー(自宅でも仕事のメッセージに応答しなければという強迫感):幸福感を阻害する新たな要因として注目(Barber & Santuzzi, 2015)
▼ 文化・国際比較の視点
多くの研究は欧米・富裕国で実施されており、集団主義文化(日本などアジア圏)では結果が異なる可能性があります。
・不公正感とストレスの相関:米国内r=.36 vs. 米国外r=.25(Robbins et al., 2012)
・集団主義国では「家庭→仕事の干渉」が大きい傾向(Allen et al., 2015)
・LMXと仕事満足度の関係は個人主義・集団主義で大きな差なし(r=.46 vs. .42, Rockstuhl et al., 2012)
▼ 不安定雇用・失業の影響
非正規・契約・パートなどの不安定な雇用形態の広がりも注目されています。
・失業者は就業者に比べ精神的健康d=.52、生活満足度d=.44低い(McKee-Ryan et al., 2005)
・再就職すると精神的健康は大幅に改善(d=.82)
・派遣・臨時労働者は正規雇用者より仕事満足度が低い(d=.37, Wilkin, 2013)
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■ まとめ
仕事の内容・職場の人間関係・組織への信頼・仕事と家庭のバランス、これらすべてが幸福感に影響を与えています。影響経路の中心は「仕事満足度」と「感情体験」ですが、家庭生活への波及も重要です。
一方で、因果関係の解明、文化間の比較、不安定雇用の長期的影響など、まだ解明されていない課題も多く残されており、今後の研究が期待される分野です。
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Work, the Work-Family Interface, and Subjective Well-being
By Michael Ford, Yi-Ren Wang, & Youjeong Huh, University of Alabama
仕事は、働く人々とその家族にとって主観的幸福感(SWB)の重要な要因である。慢性的な構造的労働条件や感情的に強い影響を与える個別の出来事は、職務満足度、職場で経験する情動状態、仕事から家庭生活への波及効果を通じてSWBに影響を与える可能性がある。本章では、SWBと以下の要素との関係に関する累積的な実証的知見をレビューする:a) 人が遂行する仕事の特性、b) 職場における社会的支援とリーダーシップ、c) 職場における公平性と不当な扱い、d) 雇用組織の知覚された特性、e) 仕事と家庭の接点。さらに検討されるのは、仕事とSWBの間の力学と因果関係の方向性、仕事と他の生活役割(例:家族)の統合と回復、仕事とSWBに関するグローバルな視点からの実証的知見、不安定な雇用形態や失業が労働者のSWBに果たす役割といった新たな研究課題である。実証結果は、これらの各領域の要因がSWBと相関することを示しているが、予測力に差があり、結果もSWBの次元によって異なる。さらに、仕事とSWBの因果関係・時間的動態、および世界各文化圏・地域間の差異に関する疑問は残されている。SWBに関する科学的知見が蓄積されるにつれ、仕事の影響は他の生活要因と共に、より深く理解され続けるであろう。