2025.11.18

はぴテク相談室:ウェルビーイング・コンピテンシーの涵養に資するサービス設計の可能性

相談者

最近、なんだか自分が何を大切にしているのか分からなくなってきて…毎日仕事はこなしているんですけど、満たされている感じがしないんです。ウェルビーイングってよく聞くけど、自分にとっての幸せって何なのか、どう考えればいいのかも分からなくて。

はぴテクさん
はぴテクさん

それは大切な気づきですね。「満たされない」と感じているということは、何かが自分の中でずれてきているサインかもしれません。実は、研究者のLintonさんたちが99種類もの「ウェルビーイングの測定法」を調べたところ、合計196もの構成要因が出てきたんです。つまり、ウェルビーイング(よりよく生きること)は一つの正解があるものではなく、人によって、また同じ人でも時期によって違ってくるものなんですね。だから「自分にとっての幸せが分からない」というのは、むしろとても正直な感覚だと思いますよ。

相談者

そうなんですね。でも、じゃあどこから考え始めればいいんでしょう?なんか漠然としすぎていて…

はぴテクさん
はぴテクさん

一つヒントになる考え方を紹介しますね。心理学者のDeci&Ryanさんの「自己決定理論」によると、人がウェルビーイングを感じやすくなるには、3つの基本的な心の欲求が満たされることが関係しているとされています。①自分の意思で動けている感覚(自律性)、②自分の能力を発揮できている感覚(有能性)、③誰かとつながっている感覚(関係性)、の3つです。今の生活で、この3つのどれかが特に欠けていると感じますか?

相談者

うーん…①の「自分の意思で動いている」感覚が一番薄いかもしれないです。なんとなく流されて毎日が終わっていく感じ。

はぴテクさん
はぴテクさん

なるほど、それは大事な気づきですね。Sheldonさんたちの研究では、自分の価値観や興味に合った目標を追いかけているとき、ウェルビーイングが高まりやすい傾向があると示されています。「流されている」と感じるのは、もしかしたら日々の行動と自分の価値観とのあいだにズレが生まれているからかもしれません。では少し視点を変えて聞いてもいいですか?あなたにとって「これは大切だな」と感じる言葉や瞬間って、何か思い当たりますか?

相談者

うーん、「つながり」とか「成長」とかかなぁ…でも、それがちゃんと今の生活にあるかって言われると、自信なくて。

はぴテクさん
はぴテクさん

その「つながり」と「成長」という言葉、とても大事にしてほしいです。実は、横山先生と渡邊先生の研究で、「私だけの花束プロジェクト」という実践事例が紹介されているんですね。これは大学の授業の中で行われたものなんですが、参加者がまず26種類の「ウェルビーイングカード」の中から、自分にとって大切だと感じる言葉を3つ選ぶところから始まります。あなたが今おっしゃったような言葉を、カードの中から選ぶイメージです。

相談者

面白いですね!それで、選んだあとはどうなるんですか?

はぴテクさん
はぴテクさん

選んだ言葉に対応した生花を学生さんが選んで、その場でオリジナルの花束を作ってくれるんです。そして、選んだ言葉を反映したお手紙も一緒に渡される。花束を飾るたびに、自分のウェルビーイングについて考えるきっかけになるように、という仕掛けです。大切なのは、言葉を「選ぶ」という行為自体が、自分にとって何が重要かを意識化する、つまり自己認識を深めるプロセスになっているという点なんですね。

相談者

なるほど、言葉を選ぶだけで自分のことが少し見えてくる感じがしそう。でもそれって、花束を受け取る側だけが得るものなんですか?

はぴテクさん
はぴテクさん

いい質問です!この研究が面白いのは、花束を作る学生さん側、つまり「提供者」にも変容が起きた、という点なんです。TSR(Transformative Service Research)という考え方では、サービスは受け取る人だけでなく、提供する人にもポジティブな変化が生まれうるとされています。学生さんたちは、相手の言葉を聞き、花を選び、手紙を書く中で、他者のウェルビーイングについて深く考え、自分自身の価値観にも気づいていったようです。

相談者

それって、誰かのために何かをすることで、自分も変わっていくってことですよね。なんか、それ自体がウェルビーイングになっている感じ。

はぴテクさん
はぴテクさん

まさにそうですね。この研究では、それを「意味づけと内省のサイクル」と表現しています。誰かと関わる中で「これはどういう意味があるんだろう」と考え、それが自己理解や他者理解につながっていく。そのサイクルを繰り返すことで、ウェルビーイングを自分で育てていく力(ウェルビーイング・コンピテンシー)が育まれる可能性があると、研究者たちは考えています。

相談者

「自分でウェルビーイングを育てる力」か…。なんか、答えを誰かに教えてもらうんじゃなくて、自分で気づいていくものなんですね。今日の話を聞いて、まず自分にとって大切な言葉を改めて考えてみようと思いました。

はぴテクさん
はぴテクさん

それが一番の一歩だと思います。ウェルビーイングは「その時々の自分にとって何が大切か」を意識することから始まる、と研究でも強調されています。「つながり」と「成長」という言葉、今日ちゃんと出てきましたよね。それはもう、あなたの中にある大切な手がかりです。日常の中でその言葉を意識してみるだけで、何かが少し変わるかもしれませんよ。

■ 今日のまとめ

  • ウェルビーイング(よりよく生きること)は人によって・時期によって異なる多様な概念であり、「自分にとって何が大切か」を意識化すること自体が重要なプロセスとされています。
  • 「私だけの花束プロジェクト」の事例では、自分の大切な言葉を選ぶ行為が自己認識を深め、受け取る側だけでなく提供する側にも意味のある変容が生じうることが示されました。
  • 他者との関わりや「意味づけと内省のサイクル」を通じて、自分でウェルビーイングを育てる力(ウェルビーイング・コンピテンシー)が涵養される可能性が、この研究から示唆されています。

■ 出典・注意事項

  • 横山恵子・渡邊淳司「ウェルビーイング・コンピテンシーの涵養に資するサービス設計の可能性:大学のPBL教育における実践事例とTSRの視点から」組織科学, 2025年11月 https://www.jstage.jst.go.jp/article/soshikikagaku/59/1/59_20251108-5/_article/-char/ja

  • 【注意事項】本研究は大学のPBL教育という特定の文脈における実践事例の分析であり、結果を一般化する際には対象集団や状況の限界に留意が必要です。

  • 【注意事項】本研究で示された受容者・提供者双方への変容の可能性は、特定の実践事例に基づく考察であり、因果関係を実証したものではありません。

  • 引用研究:Diener (1984), Ryff (1989), Deci & Ryan (2000), Sheldon et al. (2004), Linton et al. (2016), Anderson & Ostrom (2015), Rosenbaum et al. (2011), Dodge et al. (2012)なども参照されています。

投稿者によるコメント・補足(1件)
コメント 1

研究自体の紹介はこちら😊
ウェルビーイング・コンピテンシーの涵養に資するサービス設計の可能性
https://wellbeing-archive.pages.dev/posts/2025-11-18-1763486104/

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