はぴテク相談室:健全な利己主義と、病的な利他主義。と幸せ
最近、職場や家庭でいつも「自分が我慢すればいい」と思って行動しているんですが、なんだか疲れてきて…。自分のことを考えるのって、わがままなのかな、と罪悪感を感じてしまいます。
それは本当につらいですね。実は「自分のことを考える=わがまま」という思い込みに、科学的に疑問を投げかける面白い研究があるんですよ。立命館大学の小國先生らが2025年に発表した研究なんですが、少し聞いてもらえますか?
はい、ぜひ聞かせてください!
この研究では、「健全な利己主義」と「病的な利他主義」という2つの概念を扱っています。
「健全な利己主義」とは、自分の喜びや幸福をちゃんと大切にしながら、でも他の人を傷つけないよう気を配れる傾向のことです。
一方「病的な利他主義」とは、自分を過度に犠牲にして、他者のニーズを不合理なくらい優先してしまう傾向のことです。
あなたが話してくださった「いつも自分が我慢すればいい」という感覚は、後者の「病的な利他主義」に近いかもしれませんね。
「病的な利他主義」…なんか怖い言葉ですね。でも確かに当てはまる気がして。その2つは幸せとどう関係するんですか?
ここが研究のすごく興味深いところなんです!
日本人665人を対象にした調査の結果、健全な利己主義は生活満足度や自尊心といった「心の健康サイン」と正の相関があったんです。つまり、自分の幸せを大切にできる人ほど、生活への満足感も高い傾向があった。
そして健全な利己主義はうつとも負の相関、つまりうつ傾向が低い人ほど健全な利己主義が高い傾向も見られました。
逆に、病的な利他主義はうつと正の相関、つまりうつ傾向が高い人ほど病的な利他主義も高い傾向があったんです。
えっ、自分を犠牲にしすぎることがうつと関係しているんですか…。それはドキッとしますね。でも「自分を大事にしていい」と頭では分かっても、なかなか行動できなくて。
そうですよね、頭と心はなかなか一致しないですよね。
ちなみにこの研究には日本と欧米の比較という視点もあって、面白い違いが出ています。欧米では病的な利他主義が幸福度を下げる傾向が見られたのに対し、日本では病的な利他主義と幸福度の間に有意な関連が見られなかったんです。
研究者たちは、日本では「自己犠牲が美徳」という文化的な価値観があるため、自己犠牲をしても幸福度が直接下がりにくいのかもしれない、と考察しています。
あー、確かに「我慢して当然」「陰で支えるのが美しい」みたいな空気、日本ってありますよね。だから自分が疲れていても「これが普通」と思ってしまっていたのかも。
まさにそこなんですよ!文化的に「病的な利他主義」が普通に見えやすい環境だからこそ、自分が消耗していても気づきにくいんです。
一方で日本でも、健全な利己主義は欧米よりも強く幸福度と正の相関していたことも分かっています。つまり「自分の喜びや幸福をちゃんと大切にする」ことは、日本人にとっても幸せと関係している、ということです。
「健全な利己主義」って具体的にはどんな行動なんでしょう?なんか難しそうで…。
研究で使われた尺度の質問項目を見ると、たとえば「自分が心地よいと思えることに時間を使う」「自分のニーズを声に出して伝えられる」といったアサーティブ(自己主張できる)な態度が健全な利己主義に含まれています。
他者を傷つけることとは全然違って、「自分もちゃんとカウントする」という感覚ですね。相談者さんが今日ここで「疲れた」と言葉にできたのも、その一歩かもしれませんよ。
そう言ってもらえると少し楽になりました。「自分のことを考えるのはわがままじゃない」って、研究がそう言ってくれているみたいで、背中を押される感じがします。
その感覚、大事にしてほしいです。もちろんこの研究はアンケート調査をもとにしているので「健全な利己主義を上げたから幸せになる」と断言できるものではありません。あくまでも「傾向として関係がある」という話なのですが、少なくとも「自分を大切にすること=悪いこと」ではないと示してくれている研究だと思います。
「自分の疲れをちゃんと認識する」「自分の気持ちを誰かに伝えてみる」といった小さなことから、少しずつ試してみるのはどうでしょう?
■ 今日のまとめ
- 「健全な利己主義(自分の幸福を大切にしながら他者への悪影響に配慮する傾向)」は、生活満足度・自尊心と正の相関があり、うつ傾向と負の相関がある(日本人サンプルの調査結果)。
- 「病的な利他主義(過度に自己犠牲的で他者を不合理に優先する傾向)」は、うつ傾向と正の相関がある。日本では幸福度との直接的な相関は見られなかったが、これは自己犠牲を美徳とする文化的背景が影響している可能性がある。
- 「自分を大切にすること」はわがままではなく、研究上は心の健康と関連する傾向がある。ただしこれは相関関係であり、因果関係を直接示すものではない。
■ 出典・注意事項
- Oguni, R., Hagiwara, C., & Shimotsukasa, T. (2025). Development of the Japanese version of the healthy selfishness and pathological altruism scale. Personality Science. https://doi.org/10.1177/27000710251340618
- 【注意事項】本研究はオンライン調査(N=665名)をもとにした相関研究であり、健全な利己主義が幸福度を『高める』という因果関係を示したものではありません。
- 【注意事項】調査対象は日本人のオンラインサンプルであり、結果をすべての集団や状況に一般化するには限界があります。
- 【注意事項】日本と欧米の比較については、使用した尺度や調査環境の違いも影響している可能性があります。
研究自体の紹介はこちら😊
健全な利己主義と、病的な利他主義。と幸せ
https://wellbeing-archive.pages.dev/posts/2025-05-19-1747692007/