はぴテク相談室:職場のWell-Beingは倫理リスクの抑止につながるのか
最近、うちの会社でちょっとした不正というか…上司から『この数字、少し良く見せておいて』みたいなことを言われることがあって。断りたいけど断れない雰囲気があって、すごくモヤモヤしています。こういうことって、なぜ会社で繰り返されてしまうんでしょうか?
それは本当につらい状況ですね。そのモヤモヤ、すごく自然な感覚だと思います。実は専修大学の上田先生の研究で、まさに「なぜ企業の不正は繰り返されるのか」を分析しているんです。三菱自動車やトヨタの事例なども使いながら、リコール隠しや燃費偽装、不正会計といった不祥事の共通した根っこを探っているんですよ。
そういう大企業でも繰り返されているんですね…。なぜ繰り返してしまうんでしょう?
上田先生の研究では「クレッシーのトライアングル理論」という考え方を使って整理しています。不正が起きるには①プレッシャー(ノルマや業績への圧力)、②機会(バレにくい状況や抜け穴)、③正当化(『みんなやってる』『仕方ない』という言い訳)の3つが揃いやすいと言われています。あなたが感じている『断れない雰囲気』はまさに①のプレッシャーにあたりますね。
確かに…。『断ったら評価が下がる』って思うと言えなくなってしまいます。でも、法令を厳しくしたりガバナンスを強化したりするだけじゃダメなんですか?
上田先生の研究でも、まさにそこが指摘されています。法令順守やガバナンス強化は従来から言われ続けてきたのに、不祥事は繰り返されている。その理由として、そういったルール強化だけでは「職場の文化や雰囲気」というもっと深い部分が変わらない、という問題があるとされています。そこで注目されているのが「Well-being(ウェルビーイング)アプローチ」です。
ウェルビーイングって最近よく聞きますが、不正の抑止と関係があるんですか?なんか意外な組み合わせで…。
面白いですよね!上田先生の研究では、職場のWell-being、つまり従業員の心身の状態が良く、職場の人間関係も良好な状態が整うと、倫理リスクを抑止する方向に働く可能性があると論じています。具体的には、心理的な安全感があれば「おかしい」と声を上げやすくなりますし、プレッシャーで追い詰められにくくなる。結果として不正の温床となる3つの要素が育ちにくくなる、という考え方です。
なるほど。では職場のWell-beingが高いと、具体的にどんな変化が期待できるんでしょうか?
上田先生の研究では、Well-being経営の構成要因として「心身の健康」「職場の良好な人間関係」「仕事へのやりがい・意味感」などが挙げられています。これらが整っている職場では、無理な指示に対して『それはおかしいのでは?』と言いやすい雰囲気が生まれやすいとされています。あなたが感じている『断れない空気』は、逆にWell-beingが低い状態のサインかもしれません。
そう聞くと、うちの職場はWell-beingが低い状態なのかもしれません…。でも一個人にできることってあるんでしょうか?
上田先生の研究では、倫理リスクの抑止には組織全体のアプローチが重要だと論じています。一個人が無理に変えようとするより、まず自分自身の心身の状態を守ることが大切です。そして、同じようにモヤモヤしている同僚と小さく話し合える関係をつくることも、職場のWell-beingを少しずつ育てる一歩になり得ると考えられています。ただし、これは組織全体の課題でもあります。
会社全体で取り組む必要があるんですね。上層部が変わらないと難しい気もしますが…。
そうなんです。上田先生の研究では、Well-being経営が機能するには経営層のコミットメントが重要な要素として挙げられています。ただ同時に、この研究では「企業とは本来、関係者を幸せにする組織体であるはず」という視点が一貫して強調されています。つまり、Well-beingと倫理はビジネスの本質として切り離せないものだ、という考え方ですね。
『関係者を幸せにする組織体』という言葉、なんか刺さりますね。数字をごまかすことは、その本来の目的と真逆ですもんね。
まさに!上田先生の研究の核心はそこにあります。倫理リスクの抑止とWell-beingは別々のテーマではなく、両方が「本来の企業のあり方」を実現するための二つの柱なんですよ。あなたが感じているモヤモヤは、実は企業の本来の姿へのセンサーが正常に働いているサインとも言えるかもしれません。その感覚を大切にしてくださいね。
■ 今日のまとめ
- 企業不正が繰り返される背景には「プレッシャー・機会・正当化」という3つの要因(クレッシーのトライアングル)が共通して存在しており、法令強化だけではその根本は変わりにくいとされています。
- 職場のWell-being(心身の健康・良好な人間関係・仕事への意味感)が高まると、倫理リスクを抑止する方向に働く可能性があると論じられています(ただし相関的な考察であり、直接の因果関係を示すものではありません)。
- 企業とは「関係者を幸せにする組織体」であるべきという視点から、Well-being経営と倫理リスク抑止は切り離せないテーマであり、経営層を含む組織全体での取り組みが重要とされています。
■ 出典・注意事項
- 【出典】上田和勇(2025)「職場のWell-being促進は倫理リスクの抑止と企業成長に貢献できるのか」専修大学商学研究所報 https://senshu-u.repo.nii.ac.jp/record/2000998/files/3051_0563_02.pdf
- 【注意事項①】本研究は事例分析と調査結果の考察に基づくものであり、Well-beingの向上が倫理リスクを抑止するという直接の因果関係を実験的に証明したものではありません。
- 【注意事項②】三菱自動車・トヨタなど特定企業の事例をもとにした分析であり、すべての業種・規模の企業に同様に当てはまるとは限りません。
- 【注意事項③】クレッシーのトライアングル理論は不正行為の要因整理に広く使われる概念的枠組みであり、個別事例への適用は解釈を含みます。
研究自体の紹介はこちら😊
職場のWell-Beingは倫理リスクの抑止につながるのか
https://wellbeing-archive.pages.dev/posts/2025-03-22-1742602333/