はぴテク相談室:仕事中毒(ワーカホリック)になると、道徳観が低下する。
最近、仕事のことが頭から離れなくて…。休日でも「あのタスクどうしよう」って考えてしまうし、仕事ができないと焦って動揺してしまうんです。これって普通のことですか?
それは心がなかなか仕事から離れられない状態ですね。実は2025年に発表されたばかりの研究で、まさにそういう状態に関する興味深い発見があるんです。「仕事のことを考えるのが止められない」「仕事ができないと強く動揺する」という内的な強迫観念、これをワーカホリック(仕事中毒)と呼ぶんですが、それが道徳観に影響する可能性があるとわかってきました。
えっ、道徳観ですか?仕事を頑張ることと道徳って、どう関係するんでしょう?
少し意外に聞こえますよね。この研究で言う「道徳観の低下」というのは、非倫理的な行動を「まあ仕方ない」「これくらいは許される」と心の中で正当化しやすくなることなんです。これを「道徳的離脱」と呼びます。そして、そういう状態になると、職場で問題のある行動を見かけても声を上げにくくなったり、倫理的に「これはおかしい」と言いたい気持ちが弱まったりする、という流れが見えてきたんです。
なるほど…。でも、単純に仕事が多くて忙しい人も同じようになるんじゃないですか?
実はそこがすごく重要なポイントで、この研究の面白いところなんです。物理的な仕事量の多さ(ワークロード)は、直接的には道徳観の低下と関係が見られなかったんです。つまり「たくさん働いているから」ではなく、「働かずにはいられないという内的な衝動・強迫観念」の方が大きく関係していた、ということなんですよ。
内的な衝動…。確かに私、誰かに強制されているわけじゃないのに、自分から仕事のことを考え続けてしまっています。それが当てはまるかもしれないです。ちなみに、仕事中毒にもいくつか種類があるんですか?
はい、この研究では4つに分けています。①常に仕事のプレッシャーを感じる「同期的」、②仕事のことを考えるのを止められない「認知的」、③仕事ができないと動揺する「感情的」、④みんなが休んでいる時も働く「行動的」、という4種類です。そして特に「認知的」と「感情的」なタイプが、道徳的離脱と強く関連していることがわかりました。今おっしゃっていたような状態は、まさにこの認知的・感情的なタイプに近い感じがしますね。
それは少し怖いですね…。職場環境も関係するんでしょうか?うちの会社、けっこう「自分の成績さえよければいい」という雰囲気があって。
それも研究で取り上げられていました。「自己利益の風土」、つまり各自が自分の利益だけを追うような職場の雰囲気があると、ワーカホリックと道徳的離脱の関係がさらに強まることが示されたんです。特に「感情的な仕事中毒」への影響が強化されるとのことでした。職場の文化って、個人の心理状態にも影響を与えうるんですね。
うーん、だとしたら私はダブルで影響を受けているかも…。でも、道徳観が低下するって言っても、私、別に悪いことをしようとは思っていないんですが。
そうですよね、意識的に「悪いことをしよう」とはならないと思います。「道徳的離脱」というのは、じわじわと「まあこれくらいいいか」「こういう状況だから仕方ない」と自分に言い聞かせやすくなる、という無意識に近いプロセスなんです。それが積み重なると、問題を見ても声を上げにくくなる、という形で表れてくるようです。そして、この研究では道徳観は幸福度とも関連があるとも触れられていました。
幸福度とも関係しているんですね。じゃあ、仕事のことが頭を離れない状態が続くと、じわじわ自分のウェルビーイングにも影響しうるということ?
この研究の範囲内では、そういった関連が示唆されています。ただ、これはあくまで「関連がある」という話で、「必ずそうなる」という因果関係が証明されたわけではないので、その点はご注意くださいね。研究はイタリアとイギリスの従業員を対象にしていますし、すべての人に同じように当てはまるわけではありません。
わかりました。では、こういうことを知った上で、日々どんな点を意識したらよいでしょうか?
この研究から読み取れることとして、まず「仕事量を減らすこと」より「心の中で仕事から離れる時間をつくること」の方が重要かもしれないという点があります。頭の中で仕事を止められない・動揺しやすい、という状態に気づいたら、それ自体を認識することが第一歩です。また、職場の「自分さえよければ」という雰囲気に流されず、倫理的に「おかしい」と思ったことを声に出せる環境かどうか、自分の周りを振り返ってみることも大事かもしれません。研究が示しているのは、個人の内的衝動と職場風土の両方が関係している、ということですから。
■ 今日のまとめ
- 仕事量の多さよりも、働かずにいられない「内的な強迫観念(特に認知的・感情的なタイプ)」の方が、道徳的な判断力の低下と関連していることが示されました。
- 職場に「自己利益を優先する風土」があると、ワーカホリックな状態と道徳的離脱の関係がさらに強まる可能性があります。
- 道徳観は幸福度とも関連があるとされており、頭の中で仕事から離れる時間を意識的につくることや、倫理的に声を上げられる環境を振り返ることが、ウェルビーイングの観点からも大切かもしれません。
■ 出典・注意事項
- 出典:Knoll, M. et al. (2025). Quiet Workaholics? The Link Between Workaholism and Employee Silence and Moral Voice as Explained by the Social-Cognitive Theory of Morality. Journal of Organizational Behavior. https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1002/job.2867
- 注意事項①:本研究は相関研究(時系列の3波調査)であり、ワーカホリックが道徳観を低下させるという因果関係が証明されたわけではありません。
- 注意事項②:対象はイタリアとイギリスの従業員であり、文化・職場環境が異なる日本など他の国の人々にそのまま当てはまるかどうかには限界があります。
- 注意事項③:道徳観と幸福度の関連についても、本研究内では相関として言及されており、因果関係ではありません。
研究自体の紹介はこちら😊
仕事中毒(ワーカホリック)になると、道徳観が低下する。
https://wellbeing-archive.pages.dev/posts/2025-02-24-1740435000/