感謝する人も、される人も、ワークエンゲージメントとパフォーマンスが高い❗
感謝はする人(表明)もされる人(受領)も幸せだが、する人の方がより幸せ。
みたいな話もありますが、
ワークエンゲージメントとパフォーマンスについては、感謝をする人もされる人も、高まった。
とのこと。
※ここでのパフォーマンスは文脈的パフォーマンス。自分一人の課題を解決する力というより、周りのことをよく助ける。といったような向社会的行動みたいな事。(この文脈的パフォーマンスが低いと、自分の範疇の仕事しかせず、間に落ちまくって、壊滅しちゃうやつですね)
職場において感謝がワークエンゲイジメントと文脈的パフォーマンスに与える効果:応答曲面分析を用いた検討
社会心理学研究、2023
正木 郁太郎先生
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jssp/39/1/39_2116/_html/-char/ja
感謝に関する多くの研究で、感謝が様々な態度や行動にプラスの効果をもたらすことが示されているが、感謝の表現と受け取りが仕事の文脈でどのように異なるのかは、依然として不明である。本研究では、感謝の表現と受け取りを区別し、それらが仕事への関与と文脈的パフォーマンスに及ぼす影響を調べた。その結果、感謝の表出と受領はともに、ワーク・エンゲイジメントと文脈的パフォーマンスにプラスの効果をもたらし、その効果の差は統計的に有意ではなかった。また、応答曲面分析から、感謝の表現と受け取りがワーク・エンゲイジメントに及ぼす一致効果が示された。本研究は、感謝の2つの側面の一致効果を明らかにすることで、職場における感謝に関する文献に貢献するものである。
■感謝の表明(感謝する)
まず感謝の「表明」は状態的感謝と密接に関わるものと捉えられてきた。すなわち、人は一般に状態的感謝を感じた後にそれを表明すると考えられるほか、感謝行動を実験的に取ることで状態的感謝が喚起されることも知られている( Emmons & McCullough, 2003)。こうした背景を踏まえて、感謝の表明の機能を理論的に説明する際には、感謝感情の研究で参照されてきた次の二つの理論が援用されることが多い。一つめが、 Fredrickson(2004)の拡張—形成理論である。この理論はポジティブ感情には思考と行動の幅を拡張し、長期的に有用な個人的・社会的資源を獲得することを促す機能があるとしている。特に感謝感情はポジティブな情報への注目を促すとともに、多様な相手に対する支援行動を促す点で拡張的であり、支援を通じて対人的な絆という社会的資源を培う点で形成的だとされる。二つめの道徳感情理論( McCullough et al., 2001)も似た点を指摘している。この理論は感謝感情の道徳性に注目し、感謝感情には自身が受けた恩恵に対する注意を促し、向社会的モチベーションを喚起することで、向社会的行動を動機づける機能があるとしている。なお、ここで想定される行動の対象者は感謝感情を感じた相手だけでなく、第三者に対しても拡張される。
■感謝の受領(感謝される)
もう一方の感謝の「受領」については、これとは異なる二つの理論によって効果が説明されることが多い。一つめの説明は Algoe(2012)による“Find, remind, and bind”理論である。この理論は感謝の機能を対人関係の構築と円滑化の観点から捉えており、感謝には自身のニーズに対して応答的でよい関係を築けるパートナーを新たに見つけ出すか(find)、既存の対人関係の中から再認させ(remind)、関係を強固にする(bind)機能があるとされる。前掲の二つの理論と似た機能を念頭に置きつつも、対人関係に特化して議論を行う点が違いといえる。具体的な研究例として、自分が何らかの形で助けた他者から感謝を受けることで、その人物との対人関係改善(またはその知覚)が生じ、ポジティブな効果を生むと論じる研究がある( Lee et al., 2019)。二つめの説明は自己効力感や自身の社会的価値の確認に注目するものである( Grant & Gino, 2010; Lee et al., 2019)。これらの研究では、自分が誰かに利益をもたらす行動を取った後、それに対して感謝を受けることで、自分が取った行動が適切だったことを確認できるほか、それを通じて自己効力感や他者から見た自分の社会的価値の知覚が高まることでポジティブな効果が生まれると説明される。例えば Grant & Gino(2010)の研究では、職場内で上司から感謝を受けることで、そうした社会的価値の知覚が高まり、向社会的行動( e.g., 給与に必ずしも反映されない営業活動)が促されるという結果が得られた。
■職場における感謝の表明(感謝する)
まず感謝の表明については、問題行動の減少やさまざまなパフォーマンスとの関連を指摘する研究が例として挙げられる。例えば Locklear et al.(2021)は職場で二週間にわたる感謝日記を用いた介入を行い、介入が問題行動を減らすことを示した。異なる観点で池田(2015)は日本のある企業を対象に、感謝を表明することを目的とした朝礼への参加と感謝特性の間に相関がみられること、また感謝特性が視点取得を媒介して各種パフォーマンスを高める効果を検討した。これらの効果が生じた説明として、 Locklear et al.(2021)は感謝介入がポジティブな情報への注意を促すことに言及しているほか、池田(2015)は拡張—形成理論に基づいて感謝感情が視点取得を促すことを理由に挙げている。なお感謝行動と感謝感情が密接に関わると仮定するならば、組織における状態的感謝と感謝特性の効果に関する研究も議論の参考になる。 Ford et al.(2018)は日記式調査を用いて、組織に対して抱く感謝感情が組織市民行動を促し、非生産的行動も減らすことを示した。また Sun et al.(2019)は3時点で行われた調査結果をもとに、仕事で抱く感謝感情が、翌日の組織市民行動や、上司に対する提案行動につながることを示した。このほかにも経験サンプリング法を用いた調査や( Spence et al., 2014)、マインドフルネス介入が感謝感情を媒介して支援行動を促すことを示した研究など( Sawyer et al., 2022)、複数の研究が組織市民行動や支援行動に対する感謝感情の肯定的な影響を示している。これらの影響は道徳感情理論で説明されることが多く、直接の利益提供者以外に対する行動も促される点も道徳感情理論に基づく予測と一致している。
■職場における感謝の受領(感謝される)
次に感謝の受領を扱った研究の代表例としては、上司から感謝を受けることが自発的な行動を増やすことを示した Grant & Gino(2010)の研究や、援助者が被援助者から感謝を受けた経験が翌日のワークエンゲイジメントを高めることを日記式調査で示した研究がある( Lee et al., 2019)。これらの研究では、感謝の受領が自身の社会的価値の認識を促すことや( Grant & Gino, 2010)、感謝の受領が他者との関係性を充実させることが効果を説明するメカニズムとして考えられている( Lee et al., 2019)。さらに感謝行動は集団内で第三者から観察されやすく、また拡散されやすいという予測もあり、感謝行動の効果を個人レベルと集団レベルに区別して論じる研究もある( Fehr et al., 2017; 正木・村本,2021)。
■本研究の実践的意義
次に本研究から得られる実践的な含意について述べる。職場では報酬や評価体系などが明確であるがゆえに、日常生活以上に交換的規範が優勢になることが推測できる。それゆえに、日常生活における感謝感情・行動の研究を援用しつつも、その有効性を改めて職場を対象とした研究で確認することが求められている( Fehr et al., 2017)。また昨今のテレワークの拡大を経た感謝を交わす機会の減少は現代の職場の課題として度々指摘されており(藤澤,2020; 正木・久保,2021)、職場における感謝行動の意義が改めて問い直されているともいえる。本研究では因果関係は明らかにできなかったが、こうした問題に対して二つの示唆が得られたと考えられる。
第一に、感謝行動は日常生活だけでなく、職場でもワークエンゲイジメント向上や同僚間の助け合いの促進に寄与する可能性がある。逆に言えば、新型コロナ禍のテレワーク拡大を経て感謝を交わす機会が減少したことが、職場の対人関係のぎこちなさを増し、助け合いの減少につながった可能性もあると推測できる。感謝行動が唯一の対人関係の改善手段とまではいえないが、数ある手段の一つとして、意識的に感謝を交わす試みも有用と推測できる。ただし本研究では、自分が感謝を表明する頻度の方が、感謝を受ける頻度よりも多いと平均的に考える傾向もみられた。この背景には、事実として感謝行動の頻度が異なる可能性もあるが、たとえ他者から感謝を表明されてもそれを聞き流してしまう、または単なる社交辞令と解釈しがちであるなど、何らかの認知バイアスが存在する可能性も考えられる。本研究の限定的な結果から明確な主張は困難だが、こうした主観的なバイアスを軽減するために、サンクスカードのような取り組みにより、インフォーマルな感謝の表明を可視化し把握可能にすることも有用かもしれない。
第二に、感謝行動は誰かが一方的に送るだけでなく、職場で互いに交わすことでさらなる効果を発揮するものと考えられる。本研究では感謝を表明することにも、受けることにもいくつかの肯定的な効果がみられたが、両者がともに増加する場合や一致する場合に特にワークエンゲイジメントが高まっていた。また、理由は明らかにできなかったものの、前述の通り上司との関係においてこの効果が特にみられた。したがって、例えば上司が率先して部下に対して感謝を表明するだけでなく、部下からも感謝を表明する機会を設けるなど、特に上司・部下関係においては互いに感謝を交わす習慣作りが有用と考えられる。