はぴテク相談室:思春期の子の「幸せ」は、じわじわ下がる。でも——
はぴテクさん、ちょっと相談いいですか。中2の娘のことなんですけど…小学生の頃はあんなに楽しそうだったのに、最近なんだか元気がなくて。「学校どう?」って聞いても「別に」ばっかりで。うちの子、何かあったんでしょうか。
心配になりますよね。もちろん個別の事情は見てあげてほしいのですが、まず一つ、安心材料になるかもしれないデータをお伝えしてもいいですか?
ぜひお願いします。
最近、世界中の55万人以上の10代を追いかけた研究をまとめた大規模な分析が出たんです。それによると、思春期の幸福度は「平均して、毎年少しずつ下がる」ことが分かりました。
えっ、下がるのが普通なんですか?
そうなんです。10歳から19歳にかけて、じわじわと。しかも面白いのは、下がり方が「ある年に急にガクッ」ではなく、毎年ほぼ同じペースだったこと。中学入学でドン、とかではないんですね。
じゃあ、うちの子の元気がないのは…異常じゃない?
「思春期に気分の張りが落ちてくること自体」は、世界共通の、ごく標準的な発達の姿だと言えます。この研究では性別も、国も、測り方も関係なく、同じパターンが出ました。体の急成長、脳の変化、勉強が難しくなる、人間関係が複雑になる——負荷が積み重なる時期なんです。
なるほど…。私、「昔はあんなに笑ってたのに」って、小学生の頃と比べちゃってました。
それ、多くの親御さんがやりがちなんです。でも比べる基準を「小学生の頃の本人」に置くと、どの子も下がって見えてしまう。基準は「思春期はみんな少し下がるもの」に置き直してあげてください。
ちょっと気が楽になりました。…でも、じゃあ放っておいていいんですか?「みんな下がるなら仕方ない」で。
そこなんです。この研究にはもう一つ、今度は逆に「放っておかないで」という発見があるんですよ。
逆の発見?
幸福度の「順位」はかなり安定している、ということです。つまり、幸福度が高めの子は数年たっても高めのまま、低めの子は低めのまま、になりやすい。この安定度は、性格と同じくらいの強さでした。
えっ…それって、今低い子は、ずっと低いままってことですか?
放っておくと、そうなりやすい、ということです。「思春期だから仕方ない」と全員を同じに扱うと、もともとしんどい位置にいる子は、みんなと一緒に下がりながら、低い位置に居続けてしまう。
うちの子は、どっちなんだろう…。
だからこそ「変化の向き」と「位置」を分けて見てあげてほしいんです。少しずつ元気が減るのは標準的な変化。でも、友達と全く会わなくなった、好きだったことを全部やめた、眠れていない——そういう「その子の中での大きな変化」や「明らかに低い位置」のサインは、思春期のせいにせず、ちゃんと立ち止まる。
なるほど、「みんな下がる」と「うちの子が心配な位置にいる」は別の話なんですね。
その通りです。そしてここに希望もあって。順位の安定性は、大人になるにつれてどんどん固まっていくんですが、思春期の時点では「まだ固まりきっていない」ことも分かったんです。
固まりきっていない…つまり、まだ変われる?
はい。研究者たちも「だからこそ思春期は、幸福度を支える働きかけのチャンスだ」と述べています。大人になってからより、今の方が動かしやすい可能性があるんです。
具体的には、親は何をすれば…?
この研究自体は「何が効くか」までは調べていないので、そこは正直に言っておきますね。ただ、この研究が教えてくれるのは「継続的に見守る価値がある」ということです。一回の「学校どう?」で判断せず、日常の中で長い目で様子を見続ける。「別に」が返ってきても、聞ける関係を保っておくこと自体が見守りになります。
一発で聞き出そうとしなくていいんですね。ちなみに、最近の子は特にしんどい、みたいな話も聞きますけど…。
実はこの研究でも、2000年以降に生まれた世代は、前の世代より下がり幅が大きい傾向が出ました。スマホやSNSとの関連が議論されていますが、この研究はスクリーンタイムを直接測っていないので、原因の断定はできません。ただ「今の10代は、親世代の10代より風当たりが強いかもしれない」と思って見てあげる価値はあります。
自分の中学時代と比べて「それくらい普通でしょ」って言わない方がいい、と。
素晴らしいまとめです。「下がるのは普通。でも、位置は見守る。そして今なら、まだ動く」——この3つを持ち帰ってもらえたら嬉しいです。
はい。娘の「別に」に、ちょっと長い目で付き合ってみます。ありがとうございました!
■ 今日のまとめ
- 思春期の幸福度は、世界共通で毎年少しずつ下がる。急落ではなく、じわじわと。だから「昔と比べて元気がない」こと自体は標準的な発達の姿
- 一方で幸福度の「順位」は性格並みに安定していて、低い位置の子は低いままになりやすい。「みんなの変化」と「その子の位置」を分けて見守ることが大切
- 順位の安定性は思春期にはまだ固まりきっていない。つまり今が、幸福度を支える働きかけのチャンス
■ 出典・注意事項
- Wu, Y.-J., Becker, M., & Scherer, R. (2026). Changes in and Stability of Well-Being During Adolescence: A Systematic Review and Meta-Analysis of Longitudinal Studies Over Two Decades.(プレプリント版1.0、2026年7月31日)
- 本論文は査読前のプレプリントであり、数値や結論は今後修正される可能性があります
- 160の縦断研究・55万人超のメタ分析ですが、データは欧州・アジア・北米の高所得国が中心で、16歳未満が大半です
- 「毎年の低下」は集団の平均の話であり、個々の子どもの経過はさまざまです。対話中の「見守り方」は研究結果からの示唆であり、この論文が介入効果を検証したものではありません。お子さんの状態に強い心配がある場合は、学校や専門機関にご相談ください
論文の紹介はこちら😊
10代の幸せ 〜20カ国55万人を追いかけた調査結果〜
https://wellbeing-archive.pages.dev/posts/2026-08-01-1785574320/