2026.06.10

自然との触れあいは何故幸せにつながるのか

〜自然と触れあうことで、身体性を取り戻し、幸福度が高まる〜

という最新研究。58カ国5万人以上の調査という大規模な上に、
著者の名前と所属だけで論文冒頭の4.5ページを使うという凄い研究です。

自然との触れあいは幸せにつながる。
これは多くの研究で実証されていることなのですが、その経路を探って頂いています。

特に注目していたのが、身体性。
「自然との接触が、身体的自己(physical self)を通して世界に生き、世界を経験することに関わる肯定的な体験を促す」(Swami, 2024)。
のではないか。
つまり
自然との接触は、身体の主体性や心地よさ、身体の必要への応答性、身体の機能への感謝を高め、それらが主観的幸福感を高めるという考え方です(Swami, 2024; Swami et al., 2022a)。

で実際にデータを集めたところ、
ほとんどの性別・年代・国家において、
自然との接触が、自己への思いやりと、精神的回復をもたらす。
そして、それが、身体への感謝(ポジティブ・ボディイメージ)を通って、
人生への満足度(幸福度)を高める。
という事が分かりました。
分かりやすく言えば、
自然と触れあうことで、身体性を取り戻し、幸福度が高まる。
ということでしょうか。

都会にだけいると、
自分自身をあたかも機械の一部のように捉えてしまう人も少なくありません。
定期的に自然の中に身を置くことで、
身体性を取り戻し、身体への感謝を行うことは重要ですね😊
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58カ国における自然との触れ合いと生活の満足度をつなぐ架け橋となるのが、肯定的な身体イメージである
Positive body image is a pathway between nature contact and life satisfaction across 58 nations
Viren Swamiら
Environment International,2026/6
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0160412026002357
自然の中で過ごす時間は、人間の精神的および身体的な健康に有益です。しかし、自然との接触による結果のばらつきの多くは未解明のままであり、新たなメカニズム経路を検討する必要があることを示唆しています。本研究では、身体を通して世界に生き、世界を体験するという肯定的な経験を含む経路を介して、自然との接触と生活満足度を結びつける新しい概念モデルを検証しました。58か国、36の異なる言語を話す回答者を代表する「自然における身体イメージ調査(BINS、N = 50,363)」のデータを用いて、自然との接触は、より大きな自己肯定感と自然の中でのより大きな回復感と関連しており、これらはさらに、より肯定的な身体イメージと関連していることが分かりました。さらに、より肯定的な身体イメージは、より高い生活満足度と関連しています。これらの関連性は感度分析に対して頑健であり、すべての性自認と年齢層に一般化され、ほぼすべての国と言語で個別に維持されました。再現性は必要ですが、自然環境の物質性が、身体的な経験を幸福感の生成と体験に結びつけるのに役立ち、このプロセスは国や地域を問わず概ね安定していると私たちは考えています。

投稿者によるコメント・補足(2件)
コメント 1

【背景】
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■ 出発点:都市化と「自然からの切り離し」への懸念
世界的に都市化が進む中で、人間が自然から切り離され疎外されているという懸念が高まっています(Zhou et al. 2019; Beery et al., 2023; Swami et al., 2024c)。こうした懸念が、特に都市空間で自然と人間の結びつきを取り戻そうとする「バイオフィリック(biophilic=人間が生来もつ自然への親和性を活かそうとする考え方)」な取り組みへの関心を後押ししています(Beatley, 2010; Kowarik et al., 2025; Milliken et al., 2023)。
その背景にあるのが、自然との接触が大人にも子どもにも心身の健康によい影響を与えるという確立した知見で、特に都市部でその結びつきが強いとされています(Barragan-Jason et al., 2023; Cuijpers et al., 2023; Gaekwad et al., 2023; Moll et al., 2023; Browning et al., 2022)。
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■ 確立された知見:自然との接触と主観的幸福感
メンタルヘルスに関する頑健な知見の一つが、自然との接触と「主観的幸福感(subjective well-being=人々が自分の人生をどう考え、どう体験しているかという多面的なあり方)」の正の関連です(Bratman et al., 2021; Bratman and Gross, 2026; Capaldi et al., 2014; Diener et al., 2018)。
・自然をよく訪れる人ほど、感情面・評価面の幸福(=人生満足度)が高く、人生に価値を感じ、より幸せだと報告する(Alcock et al., 2025; Fian et al., 2024; White et al., 2017)
・自然の中にいるとき、人工的な環境にいるときよりも、状態としての幸福度が高く、より肯定的な感情を表現する(SNS投稿などで)(Stieger et al., 2022; Li et al., 2022)
・この関連は、国を超えて比較的安定している(Dougall et al., 2024)
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■ 従来の説明:自然の「回復効果」と「社会的効果」
この正の関連は主に、自然がもつ二つの力で説明されてきました(Hartig et al., 2014; Kuo, 2015; Markevych et al., 2017)。
・instorative(社会的結束を促すなど、新たに良いものを生み出す働き)
・restorative(注意力の回復やストレス回復など、消耗した状態を立て直す働き)
ただし著者らは、自然との接触とメンタルヘルスをつなぐ経路はもっと複雑で多様なはずだと指摘します(Dzhambov et al., 2020)。
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■ この研究の着眼点:「身体を通して世界を経験すること」という未開拓の経路
これまであまり研究されてこなかった経路として、著者らは「自然との接触が、身体的自己(physical self)を通して世界に生き、世界を経験することに関わる肯定的な体験を促す」という道筋に注目します(Swami, 2024)。
つまり自然との接触は、身体の主体性や心地よさ、身体の必要への応答性、身体の機能への感謝を高め、それらが主観的幸福感を高めるという考え方です(Swami, 2024; Swami et al., 2022a)。
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■ 鍵となる概念:ポジティブ・ボディイメージ
ここで中心になるのが「ポジティブ・ボディイメージ(positive body image=自分の身体への包括的な愛と尊重)」です(Tylka, 2018)。
・自然との接触は、ポジティブ・ボディイメージ(身体への感謝、身体機能への感謝など)と中〜大程度の正の関連をもつ(Swami et al., 2019, 2020a)
・自然で過ごすと、その場の(状態としての)ポジティブ・ボディイメージが高まり、人工環境で過ごすときよりも肯定的になる(Czepczor-Bernat et al., 2022, 2024; Swami et al., 2018, 2020b; Harriger et al., 2024; Liu et al., 2024)
・「シミュレートされた/デジタル化された自然」への接触ですら、この効果を引き起こせる(Rygal and Swami, 2021; Swami et al., 2018, 2024c)
そして、ポジティブ・ボディイメージは主観的幸福感の高さと頑健に結びついています。
・国内でも国を超えても両者の関連が確認されている(Swami et al., 2018b, 2024b, 2023)
・前向き研究(prospective study=時間をおいて追跡する研究)では、最初のポジティブ・ボディイメージが将来の主観的幸福感の改善を予測する(Linardon et al., 2023; Urke et al., 2021)
ここから、「自然との接触 → ポジティブ・ボディイメージ → 主観的幸福感」という媒介の三角関係が成り立つはずだ、という発想が導かれます。ただし、これは直感的には自然でも、まだ実証的に検証されておらず、いくつかの問題で複雑になっている、と著者らは述べます(Swami et al., 2022a)。
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■ 検証を複雑にする3つの問題
▼ 問題1:自然とボディイメージの関係自体が、別の要因に媒介されている
この関係は、主に二つの概念で説明されてきました。
・connectedness to nature(自然とのつながり=自然と一体であるという感覚)(Mayer and Frantz, 2004)
・self-compassion(セルフコンパッション=苦しいときに自分に優しくできる力)(Neff, 2003)
研究では、自然とのつながりが高いほどポジティブ・ボディイメージも高く(Swami et al., 2016a)、この自然とのつながりが「自然との接触→ポジティブ・ボディイメージ」の関係を媒介すると示されています(Baceviciene et al., 2021; Swami et al., 2020a, 2016b)。同様に、セルフコンパッションもこの関係を媒介します(Swami et al., 2019)。
▼ 問題2:自然環境の「性質」がボディイメージに与える影響がほとんど検討されていない
・自然環境によってボディイメージへの影響の強さは異なる(例:青い空間=水辺 と 緑の空間)(Rygal and Swami, 2021; Stieger et al., 2022)
・これは、ある自然環境が他より「回復的」と感じられることを反映している可能性がある(Menardo et al., 2021; Pasanen et al., 2018)
・ただし「自然訪問中に感じる回復感(perceived restoration)」とボディイメージの関係は一貫しておらず、正の関連を示す研究(Baceviciene et al., 2021)と効果が見られない研究(Czepczor-Bernat et al., 2022)の両方がある
そのため、知覚された回復感が媒介役を果たすかどうかの検証が重要な課題として残されています。
▼ 問題3:既存の証拠の多くが「WEIRD」社会に偏っている
WEIRDとは、西洋的(Western)・教育水準が高い(Educated)・高度に工業化された(Industrialised)・豊か(Rich)・民主的(Democratic)な社会を指す言葉です(Holland et al., 2021; Swami, 2024)。
・自然の健康効果そのものは国境で妨げられにくいと考えられる(Dougall et al., 2024; Elliot et al., 2023; Patwary et al., 2024; White et al., 2017)
・しかし、身体を介した自然との接触に関わる「プロセス」は国によって異なる可能性がある(Swami, 2024)
・これは、自然観や価値観が国ごとに異なること(Capaldi et al., 2017; Fox and Xu, 2017)、さらに資本の流れ・植民地化・不平等が自然と健康の結びつきに影響すること(Berdejo-Espinola et al., 2024; Mahanty et al., 2023)を反映している
そのため、WEIRD社会の外に目を向けるべきだという繰り返しの呼びかけに応える形で、国を超えた変動の可能性を検討する必要がある、とされています(Jimenez et al., 2021; Marvier et al., 2023)。
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■ まとめ:この研究が埋めようとした空白
以上を踏まえ、本研究は「Body Image in Nature Survey(BINS)」という国際共同データ(58カ国・5万人超)を用いて、以下を検証しようとしています。
・「自然との接触 → ポジティブ・ボディイメージ(身体への感謝)→ 人生満足度」という、これまで実証されていなかった媒介モデル
・その経路を、セルフコンパッション・自然とのつながり・知覚された回復感という3つの並行する媒介要因がさらに媒介するかどうか
・このモデルが、性別・年代・国・言語を超えてどこまで一般化できるか
つまり、「自然は健康によい」という確立した知見に、「身体を通した経験」という新しい説明の経路を、WEIRD社会に偏らない大規模データで加えようとした研究だと位置づけられます。

コメント 2

【研究内容】
■ この研究が検証したモデル(全体像)
著者らは「自然との接触が、なぜ人生満足度を高めるのか」を説明する一つの概念モデルを立てました。中心となる仮説は次の流れです。
・自然との接触 → ポジティブ・ボディイメージ(=身体への感謝)→ 人生満足度
そして、自然との接触とボディイメージの間を、3つの並行する媒介要因がつなぐと想定しました。
・compassionate self-responding(思いやりのある自己応答=セルフコンパッションのうち、自分に優しく接する側面)
・connectedness to nature(自然とのつながり)
・perceived restoration(知覚された回復感=自然訪問中に感じる回復の度合い)
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■ 方法
▼ データセット:BINS
・「Body Image in Nature Survey(BINS)」という研究者クラウドソーシング型(=世界中の研究者が協力して集める方式)の国際プロジェクト
・253人の科学者が65カ国で協力し、2020年11月〜2022年2月に横断的データ(=ある一時点で集めるデータ)を収集
・主にオンラインの地域サンプリングで実施
▼ 参加者
・元データは65カ国・72サンプルの56,968人
・ただし、すべての変数で「測定不変性(measurement invariance=同じ尺度が異なる集団でも同じものを測っていると言える性質。これがないと集団間の比較が偏ってしまう)」が確認できないサンプルがあった
・そこで欠損を補完せず、全予測変数の推定値が揃うサンプルだけを残した
・結果として、ボスニア・ヘルツェゴビナ、エクアドル、イラン、イラク、イスラエル、ナイジェリア、スペイン、UAEのアラビア語話者、インドのタミル語話者を除外
・最終分析対象は58カ国・63サンプル・36言語の50,363人
・女性59.9%、男性39.4%、その他の性自認0.7%。年齢18〜99歳(平均33.05歳)
・84.0%が都市居住、72.3%が中等教育以上を修了
▼ 主な測定尺度
・自然との接触:Nature Exposure Scale(NES、4項目)。日常・非日常での自然接触を測る。なお「exposure(曝露)」より能動的な関係を含意する「nature contact(自然接触)」という語を採用
・自然とのつながり:Connectedness to Nature Scale(CNS、短縮7項目版)
・思いやりのある自己応答:Self-Compassion Scale短縮版(SCS-SF、12項目)。このうち「思いやりのある自己応答」の得点のみ使用
・回復感:Restoration Outcomes Scale(ROS、9項目)。リラックス・落ち着き・注意回復・思考の明晰さ・活力・自信などの回復を測る
・ボディイメージ:Body Appreciation Scale-2(BAS-2、10項目)。身体を受け入れ、好意的にとらえ、尊重する度合い
・人生満足度:Satisfaction with Life Scale(SWLS、5項目)。自分なりの基準による人生全体の満足度の判断
・その他:性格(ビッグファイブ)、都市度、経済的安心感、人種的マイノリティか否か など
なお、自己申告のBMIも集めましたが、体重スティグマを助長する懸念から分析には含めず、サンプル記述用のみに留めています。
▼ 分析手法
・構造方程式モデリング(SEM=複数の変数間の関係を同時に検証する統計手法)を使用(Mplus 8.8)
・データが国ごとに集まっている「クラスター構造」を考慮した推定を実施
・モデルが性別・年代・国・言語を超えて不変かを多群分析(=集団ごとに比較する分析)で検証
・さらに、社会経済的地位(経済的安心感・学歴)、社会人口学的要因(人種的地位・都市度)、性格(ビッグファイブ)を共変量(=影響を取り除くために加える調整変数)として加える感度分析(=結果が頑健かを確かめる追加検証)を実施
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■ 結果
▼ モデルの修正と適合
・当初の仮説モデルは適合が今ひとつだった
・そこで「思いやりのある自己応答」と「知覚された回復感」から人生満足度への直接パス(=矢印)を追加
・修正後のモデルはデータによく適合した
▼ 意外な発見:直接の結びつきがなかった
・自然との接触から人生満足度への直接パスは、全国群で有意ではなかった
・自然との接触からボディイメージへの直接パスも有意ではなかった
・つまり、自然との接触は人生満足度やボディイメージに「直接」効くのではなく、媒介要因を通して効いていた
▼ 有効だった経路
・思いやりのある自己応答を介する経路:有意
・知覚された回復感を介する経路:有意
・自然とのつながりを介する経路:有意でなかった(自然との接触→自然とのつながり のパスが切れていたため)
▼ 各要因の強さ
・3つの媒介要因のうち、思いやりのある自己応答がボディイメージへの最も強いパスをもっていた
・そのボディイメージが、人生満足度への最も強いパスをもっていた
・思いやりのある自己応答は、ボディイメージを経由する間接効果と、人生満足度への直接効果が、ほぼ同じくらいの大きさで結果に貢献
・知覚された回復感は人生満足度への総効果が2番目に大きく、その多くは直接パスによる
・自然とのつながりの総効果は統計的には有意だが、大きさは無視できるほど小さかった
▼ 主な効果量(標準化係数。0に近いほど弱く、大きいほど強い)
・自然との接触 → 人生満足度(総効果):0.17
・思いやりのある自己応答 → 人生満足度(総効果):0.31
・知覚された回復感 → 人生満足度(総効果):0.18
・自然とのつながり → 人生満足度(総効果):0.02(無視できる大きさ)
※用語注:「効果(effect)」という語を使っていますが、著者らはこれが因果関係を意味するものではないと明記しています(横断データのため)。
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■ 頑健性・感度の検証
・国群の代わりに言語をクラスター変数にしても、共変量で調整しても、モデルの適合は良いままだった
・モデルはすべての性別・年代で同様に当てはまり、各パスもこれらの集団間で不変だった
・性格を調整したときだけ、推定値がやや小さくなった
・矢印の向きを逆にしたモデルは適合が悪化 → 著者らが想定した理論的な順序のほうがデータに合うことを示唆
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■ 国・言語による例外
モデルは「ほとんどの」国・言語で個別にも成立しましたが、強く逸脱する5つの国群が見つかりました。
・インド(ヒンディー語):自然との接触は下流の構成概念と強く関連したが、人生満足度との関連は負(自然接触・ボディイメージ)または無し
・ブラジル:自然との接触と、思いやりのある自己応答・回復感との関連が負
・台湾:回復感とボディイメージの関連は強いが、ボディイメージ等と人生満足度の関連は無し
・パキスタン:思いやりのある自己応答とボディイメージの関連が無し
・ラトビア:回復感まわりの関連が無い一方、自然との接触と人生満足度の関連は強め
言語では、これらに対応するヒンディー語・ポルトガル語・ラトビア語が逸脱として浮かびました。これらを除くと、残りの国・言語では不変モデルが許容できる適合を示しました。
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■ 考察
▼ 中心的な結論
・自然との接触は、ボディイメージを少なくとも部分的に介する複数の経路を通じて、人生満足度の高さと結びつく
・このモデルは感度検証に頑健で、年代・性別を超えて安定し、ごく一部を除く国・言語でも成立した
▼ 「直接の結びつきがない」ことの解釈
・先行研究では直接の関連が期待されたが、本研究では見られなかった
・理由として、NESという自然接触の測り方が複数の接触形態を一つの指標に混ぜてしまっている可能性
・あるいは、これまでの直接的関連が小さく均質なサンプルゆえに過大評価されていた可能性
・より現実的には、効果の大半が媒介要因を通って生じる、という説明(Liao et al., 2025)
▼ 経路1:思いやりのある自己応答
・自然の中では「cognitive quiet(認知的な静けさ=努力を要さない注意のあり方)」が得られ、それが自分への思いやりを促す(Kaufman, 2015, 2018; van Gordon et al., 2018)
・思いやりのある自己応答とボディイメージの関連は頑健で、メタ分析(=多数の研究を統合する分析)では20研究で r=0.52(Turk and Waller, 2020)
・自己への思いやりは、日常のボディイメージへの脅威からボディイメージを守る働きをもつ(Siegel et al., 2020; Tylka and Kroon Van Diest, 2015)
▼ 経路2:知覚された回復感
・注意回復理論(Attention Restoration Theory=都市環境は意図的な注意を消耗させるが、自然は努力なしに注意を引きつけ、注意を休ませて回復させるという理論)で説明できる(Kaplan, 1995; Kaplan and Kaplan, 1989 ほか)
・回復感とボディイメージの関連は、これまでリトアニアの成人で一度報告されただけ(Baceviciene et al., 2021)
・回復には活力や自信といった要素も含まれ、これがボディイメージの高さに寄与しうる
・回復感は自己効力感や前向きな感情を高めることで、人生満足度にも直接効く可能性(Bai et al., 2025)
▼ ボディイメージと人生満足度
・両者の頑健な関連は先行研究と一致。メタ分析(72研究)ではボディイメージと幸福の関連 r=0.47(Linardon et al., 2022)
・身体を愛し尊重できる人は、メンタルヘルス全般を大切にし、セルフケアや適切な活動に取り組みやすい
▼ 経路3:自然とのつながり(否定された経路)
・先行研究では媒介役とされたが(Baceviciene et al., 2021; Swami et al., 2016b, 2022a)、本研究では確認できなかった
・自然との接触と自然とのつながりの関連が有意でなく、自然とのつながりを介する効果も無視できる大きさだった
・自然とのつながりは多様な幸福に重要だが(Pritchard et al., 2020; Zeng et al., 2025)、「身体に宿る経験」への影響は比較的弱い可能性
▼ 国による逸脱の解釈
・自然観が国・文化で異なることが、特定の国で経路の強さに影響した可能性
・あるいは、これらの逸脱は偶発的・見せかけのものだった可能性
・いずれにせよ、これらを除くと残りの国・言語でよく当てはまるため、「身体を介した自然との関わりが健康的アウトカムに結びつくプロセスは、文化を超えてかなり共通している」と示唆される
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■ 限界と今後
・自然との接触が自己申告であり、使った尺度が複数の接触形態を一つにまとめてしまう批判がある → 今後は接触の種類を細かく区別すべき
・機能への感謝(functionality appreciation=身体が「何をできるか」への感謝)など、他のポジティブ・ボディイメージへの経路も検討すべき
・サンプルは便宜的に集められ、高学歴に偏りがちで、アフリカ・中央アジア・カリブ・中米が過小代表
・障害やニューロダイバーシティを尋ねておらず、これらが結果に影響しうる
・データ収集がCOVID-19パンデミック下の15カ月で、自然に触れる機会や幸福に影響した可能性
・横断データのため、因果の結論には今後さらなる研究が必要
▼ 全体のメッセージ
限界はあるものの、自然との接触がボディイメージを介して人生満足度を高めうることを示す概念モデルを検証できた、と結論づけています。性別・年代・国籍・言語をほぼ問わずこの結びつきが見られたことから、都市計画・教育・国際的なガバナンスにおいて、メンタルヘルス促進の有効な手立てとして自然環境を優先することの科学的根拠になる、と締めくくられています。

論文紹介 ありがとうなんとかなる 主観的幸福・幸福測定自然・環境とウェルビーイング身体・運動・健康

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