幸せをつくるのは、内面の心か、外部の環境(状況)か?
〜5カ国、33年の追跡調査から〜
昨年(2025)の研究なのですが、ウェルビーイング研究に大きなインパクトを与えた、カリフォルニア大学のエモリーベック先生らによる研究。
(有償論文で概要だけ記事で見ていたのですが、やっと本編が読めたので紹介。)
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■幸せは心の内がつくるのでしょうか?それとも外部環境がつくるのでしょうか?
●ボトムアップ理論(外部環境が幸せをつくる)
状況(外部環境)が幸せをつくる、というのはボトムアップ理論。
幸せは、仕事や収入、健康や人間関係などの各領域の満足度が積み上がった総和だとする考え方。
つまり、仕事や収入、健康などの状況を良くしていけば、皆が幸せになる。
国や自治体の調査なんかで多いですね。
●トップダウン理論(内面の心が幸せをつくる)
一方で、性格や気質と言った内面の心が幸せをつくる、というのはトップダウン理論。
幸せな人は、人生のどんな領域も明るく、バラ色のレンズで見る。
なので、例えば感謝をする、人生に目的を持つなど、心を鍛錬することで、皆が幸せになる。
ポジティブ心理学は基本的にはこちらが多いですね。
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■どちらもあると言われている
幸せを作るのは心か状況か、これは現在の考え方だと、どちらもあるよね。と言われています。
様々な研究でも、どちらも幸せに効くことが分かっています。
(ただ、心と状況の影響を両方調査すると、心の影響の方がだいぶ大きい傾向にある印象ですが。)
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■今回の研究
今回の研究では、この幸せを作るのは心か状況かを明らかにするため、
5カ国(ドイツ、イギリス、スイス、オーストラリア、オランダ)の4万人、33年の期間をかけて、調査頂きました😍
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■今回の研究結果
結果が面白いのですが、
全体で見ると、ボトムアップ(状況)、トップダウン(心)の両方の効果がある。
しかし、これが人によって異なったんですね。
つまり、
幸せは状況がつくる(ボトムアップ)
人もいれば、
幸せは心がつくる(トップダウン)
の人もいる。
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割合としては5カ国とも、以下の4パターンがだいたい同じくらい。(25%ずつ)
①幸せは状況がつくる(ボトムアップ)
②幸せは心がつくる(トップダウン)
③幸せは状況と心がつくる(ボトムアップ+トップダウン)
④幸せって何だろう(どちらの効果も無し)
つまり、幸せをつくる元は、人によって異なっていたんですね。
全体で見ると③に見えていたが、人によって異なっていた。
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①幸せは状況がつくる(ボトムアップ)
の人であれば、収入改善や労働環境の改善などが効果を上げるでしょう。
②幸せは心がつくる(トップダウン)
の人であれば、感謝を増やしたり、人生の目的を持つなど、
ポジティブ心理学のワークが効果を上げるでしょう。
なので、画一的に全員に同じ対処ではダメそうだぞ、とのこと。
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特に、②幸せは心がつくる(トップダウン)の人は、
あまり収入が良くなるとか、状況の効果がない。
確かに、収入に寄らず幸せ、って人はいますよね。
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■結論
ということで、
幸せは心がつくるのか、状況や環境がつくるのか、は割と議論になるところですが、
人によって異なる。ということでした。
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■感想
ここは私の個人的な推測ですが、幸福度は以下の順になっている気がします。
②幸せは心がつくる(トップダウン)
③幸せは状況と心がつくる(ボトムアップ+トップダウン)
①幸せは状況がつくる(ボトムアップ)
④幸せって何だろう(どちらの効果も無し)
心が整っている人は、どんな状況でも幸せ。
でもまだそこまで幸せじゃない人は、収入や状況が幸せに効いてくるんじゃ無いかなぁ。
いずれにせよ、どちらのアプローチも大事ですね😊
※研究では、パターンごとの幸福度は記載されていません。
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満足度の変化を捉えるための、パーソナライズされた幸福アプローチに向けて
Towards a personalized happiness approach to capturing change in satisfaction
**Emorie D. Beck(カリフォルニア大学、デービス校), Felix Cheung, Stuti Thapa & Joshua J. Jackson **
Nature Human Behaviour ,2025/5
https://www.nature.com/articles/s41562-025-02171-z
幸福の決定要因を検証する現代のアプローチでは、幸福はトップダウン型の全体的な生活満足度とボトムアップ型の領域満足度という2つのプロセスによって双方向に決定されると仮定されています。私たちは、幸福の決定要因と結果はすべての人に共通であると仮定するのではなく、各個人に固有のものであるという、個人別幸福観を提案します。私たちは、ドイツ、イギリス、スイス、オランダ、オーストラリアの40,074人の参加者を最大33年間追跡した全国代表データを用いて、集団レベルと個人レベルの両方で生活満足度と領域満足度の関連性を検証することで、個人別幸福アプローチの有用性を示しました。参加者の大多数(41.4~50.8%)は、領域満足度と生活満足度の間に主に一方向の関連性を示し、主に双方向の関連性を示したのはわずか19.3~25.9%でした。さらに、集団モデルは個人モデルと異なっており、集計された集団レベルの研究では個人別幸福の個人差を捉えきれていないことが示唆され、個人別幸福アプローチの重要性が示されました。個人差のパターンは確固たるものだが、個人レベルのパターンとランダムな誤差を区別することは難しく、個々の幸福を研究するための今後の研究と革新的なアプローチの必要性が浮き彫りになっている。
【背景】
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■ 研究の出発点:「幸せはどう決まるのか?」という古典的問い
人生満足度(life satisfaction:自分の人生全体に対する主観的評価)は、健康・人間関係・仕事のパフォーマンスを予測することが知られており(Lyubomirsky, King, & Diener, 2005)、近年では国や地域の繁栄を測る指標としても重視されている(Diener, Oishi, & Lucas, 2015)。
ではその「人生満足度」は何によって決まるのか? この問いをめぐって、心理学・経済学では大きく2つの理論が対立してきました。
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■ 理論①:ボトムアップ理論(状況が幸せをつくる)
▼ 基本的な考え方
人生満足度は、仕事・収入・健康・人間関係など各領域の満足度(domain satisfaction)が積み上がった「総和」だとする立場(Diener, 1984)。
つまり「良い仕事」「良い結婚」「良い健康」があれば、人生全体も満足できる、という発想です。
▼ 代表的な研究
・収入と幸福度の関係を扱った研究(Kahneman & Deaton, 2010 ; Jebb, Tay, Diener, & Oishi, 2018)
・World Happiness Reportは、GDP・健康寿命・社会的支援・自由・寛容さ・腐敗の少なさで国別の幸福度差を説明(Helliwell et al., 2023)
・大気環境の改善と人生満足度(Luechinger, 2009)
▼ ボトムアップ理論への反論
しかし、収入・婚姻状況・雇用などのデモグラフィック変数で説明できる幸福度の分散はわずか8〜20%にすぎないことが早くから示された(Andrews & Withey, 1976 ; Campbell, Converse, & Rodgers, 1976)。
さらに、子どもの誕生・引っ越し・経済不況といった大きな出来事も、人生満足度への長期的影響はほとんどないことが示された(Deaton, 2012 ; Nakazato, Schimmack, & Oishi, 2011)。
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■ 理論②:トップダウン理論(性格・気質が幸せをつくる)
▼ 基本的な考え方
ボトムアップ理論への反証から登場したのが、トップダウン理論。「もともと幸せな人は、人生のどんな領域も明るく(バラ色のレンズで)見る」という発想です(Diener, 1984)。
▼ 関連する理論
・セットポイント理論(set-point theory:人にはそれぞれ幸福度の基準点があり、出来事があっても結局そこに戻る) → Diener & Lucas (1999)
・快楽の踏み車(hedonic treadmill:良いことが起きても慣れてしまい、幸福度は元に戻る) → Brickman & Campbell (1971); Brickman, Coates, & Janoff-Bulman (1978)
▼ トップダウン理論を支える証拠
・人生満足度の高い遺伝率(behavioral genetics研究) → Lykken & Tellegen (1996); Bartels (2015); Stubbe et al. (2005)
・人は重大なライフイベントにも適応していく(Nakazato et al., 2011)
・性格特性と人生満足度の強い関連(Diener & Lucas, 1999)
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■ 介入アプローチへの含意
この2理論は、幸福を高める介入(intervention)の方向性を決定づけてきました。
・ボトムアップ的介入:収入改善、環境の質改善、レジャー機会の拡大など(Ludwig et al., 2012 ; Luechinger, 2009 ; Kuykendall, Tay, & Ng, 2015)
・トップダウン的介入:感謝・マインドフルネス・キャラクターストレングス・人生の目的などポジティブ心理学的介入(Bolier et al., 2013) ※ただし効果量は過大評価されてきたとの指摘あり(White, Uttl, & Holder, 2019)
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■ 理論③:双方向理論(bidirectional theory)への収斂
縦断研究では、領域満足度の変化が後の人生満足度の変化を予測する(=ボトムアップの証拠)、または逆方向の影響(=トップダウンの証拠)を、交差遅延モデル(cross-lagged model:時点をずらして因果方向を検討する手法)で検証してきました(Judge & Watanabe, 1993 ; Bialowolski & Weziak-Bialowolska, 2021 ; Gana et al., 2013)。
これらをまとめたメタ分析・大規模レビュー(Heller, Watson, & Ilies, 2004 ; Lucas, 2004 ; Veenhoven, 1991 ; Kuykendall et al., 2015)は、「両方向とも正しい=幸福は気質と状況の両方の関数」という双方向理論に収斂しました。
現在の主流見解はこの「双方向理論」で、Erdogan, Bauer, Truxillo, & Mansfield (2012)などのレビューもこの立場を支持しています。
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■ 本論文が問題視する「隠れた前提」
ここまでの研究には、ある暗黙の前提がありました。
それは、「双方向の関係は、すべての人に共通して当てはまる」というものです。
しかし、母集団レベルの平均(nomothetic:法則定立的アプローチ)が、必ずしも個々人の心理プロセス(idiographic:個性記述的アプローチ)を反映するとは限らない、という批判が近年強まっています(Molenaar, 2004 ; Fisher, Medaglia, & Jeronimus, 2018 ; Borsboom, Mellenbergh, & van Heerden, 2003)。
▼ パーソナライズドアプローチを支える先行研究
・Beck & Jackson (2020a, 2020b, 2022):性格特性や行動予測において、個人レベルのプロセスは集団平均とは大きく異なることを示した
・Wright & Woods (2020):精神病理学におけるパーソナライズドモデルの重要性
・精密医療(precision medicine)の発想 → Beckmann & Lew (2016); Khoury & Galea (2016)
つまり「集団平均で見たら双方向に見えても、個々人を見ると、トップダウンだけの人、ボトムアップだけの人、どちらでもない人がいるのでは?」という問いが、本研究の出発点になっています。
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■ 研究の流れのまとめ
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■ 補足:重要な専門用語
・top-down/bottom-up:トップダウン=全体の評価が個別領域に波及/ボトムアップ=個別領域の評価が全体に積み上がる
・cross-lagged model(交差遅延モデル):時点Aの変数が時点Bの別の変数を予測するかを見る手法。因果方向の推定に使われる
・nomothetic vs idiographic:法則定立的(集団平均で法則を探す)vs 個性記述的(一人一人を独自に記述する)
・set-point theory:幸福度には個人ごとの基準点があり、長期的にはそこに戻るという理論
・hedonic treadmill:良いことにも悪いことにも人は慣れて元に戻るという現象
【研究内容】
■ 研究の問い
これまでの幸福研究は「人生満足度と各領域の満足度は双方向に影響しあう(bidirectional)」という結論に収斂してきました。
しかしこれは集団平均の話。本研究は問います ──「その双方向パターンは、本当に一人一人の個人に当てはまるのか? それとも、人によって違うのか?」
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■ 方法①:データ
▼ 使用したデータセット(計40,074人)
5カ国の代表性のある縦断パネル調査(longitudinal panel survey:同じ人を長期間追跡する調査)を使用。
・GSOEP(ドイツ社会経済パネル):26,325人
・BHPS(英国世帯パネル調査):9,096人
・SHP(スイス世帯パネル):4,691人
・HILDA(オーストラリア世帯所得・労働動態調査):15,408人
・LISS(オランダ社会科学縦断インターネット調査):2,540人
追跡期間は最大33年(平均10.8年)。各個人につき最低6波の完全データが必要。
▼ 測定指標
人生全体の満足度(life satisfaction)と、収入・健康・住居・余暇時間・家事分担・仕事などの領域別満足度(domain satisfaction)。
各指標は0〜10のPOMP尺度(Percentage of Maximum Possible:満点に対するパーセンテージ)に変換し、研究間で比較可能にしました。
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■ 方法②:統計モデル
▼ 個人ごとのモデル:graphical VARモデル
40,074人それぞれに対して、graphical VARモデル(graphical vector autoregressive model:時系列データから変数間の時間的関係を推定する手法)を別々に推定。
このモデルは「時点tの満足度が、時点t+1の満足度を予測するか」を、すべての変数の組み合わせで検討します。
▼ 4つの理論モデルを比較
各個人について、以下の4モデルを推定し、BIC(Bayesian Information Criterion:モデルの当てはまりを評価する指標、小さいほど良い)で最適モデルを選択。
・トップダウン:人生満足度→領域満足度のみ
・ボトムアップ:領域満足度→人生満足度のみ
・双方向:両方向
・無方向(non-directional):どちらの方向もなし
▼ 集団レベルのモデル:mlVARモデル
比較のため、全員のデータを1つのモデルにまとめたmlVAR(multilevel VAR:多水準ベクトル自己回帰)も推定。これが従来の研究で使われてきたタイプのモデルです。
▼ 個人差を測る2つの指標
・in-strength(入次中心性:領域満足度→人生満足度の強さ=ボトムアップの度合い)
・out-strength(出次中心性:人生満足度→領域満足度の強さ=トップダウンの度合い)
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■ 結果①:どのモデルが個人に当てはまったか
最適モデルの分布(国別、%):
▼ BHPS(英国)
・トップダウン:24.4%
・ボトムアップ:25.4%
・双方向:24.7%
・無方向:25.4%
▼ GSOEP(ドイツ)
・トップダウン:20.1%
・ボトムアップ:21.0%
・双方向:19.7%
・無方向:21.3%
・分類不能:17.9%
▼ HILDA(オーストラリア)
・トップダウン:20.5%
・ボトムアップ:20.9%
・双方向:19.3%
・無方向:21.9%
・分類不能:17.4%
▼ LISS(オランダ)
・トップダウン:24.9%
・ボトムアップ:25.9%
・双方向:25.9%
・無方向:22.7%
▼ SHP(スイス)
・トップダウン:23.7%
・ボトムアップ:25.4%
・双方向:25.5%
・無方向:25.1%
▼ ポイント
双方向モデルが最適だった人は19.3〜25.9%にとどまり、4つのパターンがほぼ均等に分布。一方向(トップダウンまたはボトムアップ)のみの人が41.4〜50.8%と最多でした。
つまり、「双方向理論は決して全員には当てはまらない」ということが示されました。
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■ 結果②:集団モデル vs 個人モデル
集団レベル(mlVAR)で推定すると、5カ国すべてで先行研究通りの「双方向」パターンが再現されました(効果量は小さく、M = 0.02〜0.04)。
しかし、各個人のモデルと集団モデルの乖離をユークリッド距離(Euclidean distance:多次元空間での2点間の距離)で測ると、中央値は1.82〜2.41。
これは、係数の平均で約0.3〜0.4の差があることを意味します(係数の理論的範囲は-1〜1)。
つまり、集団平均モデルは、ほとんどの個人の実際の心理プロセスをうまく捉えていないということ。
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■ 結果③:頑健性の確認
3種類の頑健性チェックを実施。
・BIC基準を厳しくしても結果は変わらず
・正則化(LASSO Graphical VAR)を使った別アプローチでも同様の結果
・mlVARの個人レベル推定値を有意性閾値で絞ると、無方向に分類される人が増えるが、「個人差は確かに存在する」という核心的知見は維持された
ただし著者は「正確な個人レベル推定には限界があり、結果は『個人差の存在の証拠』として解釈すべき」と慎重姿勢を示しています。