2026.04.16

64メディア(スマホ・TV・ゲーム等)と幸福感

ウェルビーイングハンドブック_第十章:社会的差異と政策

毎日読めばウェルビーイングの基礎が分かる、ウェルビーイング・ハンドブック紹介シリーズ、

最終回まで、今回入れてあと2回❗

スマホやテレビといったメディアと幸せ😊

2018年なので、ちょっとスマホ研究は薄いですが。

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■ メディア技術と幸福感:相補性-干渉モデル Kushlev (2018)

▼ この論文が目指すこと

スマートフォン・SNS・テレビ・ゲームといったメディア技術は、現代人の生活に欠かせない存在になっています。しかし「それが幸福感にとって良いのか、悪いのか」という問いへの答えは単純ではありません。

この論文は、メディア技術の効果を「善か悪か」の二項対立で捉えるのではなく、いつ・どのような条件のもとで幸福感を高めたり、損なったりするのかを体系的に整理するための理論的枠組み(フレームワーク)を提案します。その枠組みが「相補性-干渉(CI)モデル」です。

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▼ 基本的な考え方:相補性と干渉

まず押さえておきたい前提があります。メディア技術の使用は、必ず「今いる物理的な環境」の中で起きます。鍵となる問いは、「メディア技術がその環境の幸福感をもたらす力を補うのか(相補性)、それとも邪魔するのか(干渉)」です。

・相補性(Complementarity):メディアが、現実環境では得られない活動や情報を提供することで、幸福感を高める働き

・干渉(Interference):メディアへの関与が、現実環境から得られる幸福の源泉を奪う働き

この2つのプロセスのバランスを決めるのが「モデレーター(調整要因)」、つまり「どんな条件のもとで使うか」です。

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▼ 相補性のプロセス:メディアが幸福感を高める仕組み

■ポジティブ感情の源泉として

軽い手術を受ける患者を対象とした実験では、手術中に友人とテキストメッセージをやり取りしていた患者は、何もしなかった患者と比べて追加の鎮痛剤を求める確率が約4分の1に下がりました。見知らぬ人とのやり取りでは、さらに約7分の1にまで低下しました。言語分析によると、見知らぬ人とのやり取りではポジティブな感情表現が多く用いられていたことが要因として示唆されています (Guillory et al., 2015)。

つまりメディアを通じた社会的交流は、単なる気晴らしを超えて、ネガティブな体験の強度そのものを和らげる力を持ちます。

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■基本的心理ニーズの充足として

自己決定理論(Self-Determination Theory)では、人間には「有能感」「自律性」「つながり」という3つの基本的な心理ニーズがあるとされています。メディアはこれらを補う形で機能することがあります。

・出張中の母親が子どもとビデオ通話でつながり感を維持する

・ゲームを通じて有能感を得る

ビデオゲームのプレイが有能感のニーズを効果的に満たすことや、コンピューターを介したコミュニケーション(CMC)が青年のつながり感や主観的幸福感を高める可能性が示されています (Przybylski et al., 2012; Valkenburg & Peter, 2007)。

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■効率性と利便性として

スマートフォンに関する調査で、人々が端末について最も多く言及した言葉は「便利さ(convenience)」でした (Smith, 2012)。

実験では、大学のキャンパス内で建物を探す課題において、スマートフォンを使えたグループはそうでないグループより早く目的地に着き、その後の感情的な幸福感(emotional well-being)も高かったことが確認されています (Kushlev, Proulx, & Dunn, 2017)。問題解決を効率化することで、メディアは幸福感を高める可能性があります。

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▼ 干渉のプロセス:メディアが幸福感を損なう仕組み

■注意コスト(同時的)

人間の認知資源(注意や作業記憶)は限られています。メディア使用はその資源を消費し、現実環境における他の活動への集中を妨げます(Navon & Gopher, 1979)。

スマートフォンの通知をオンにしていた週は、オフにしていた週に比べて注意散漫の度合いが高く、心理的幸福感(psychological well-being)が低かったことが示されています (Kushlev, Proulx, & Dunn, 2016)。

さらに注目すべき実験では、歩きながら携帯電話で話していた人は、通話していなかった人に比べて、一輪車に乗るピエロというきわめて目立つ存在を見落としやすかったことが報告されています (Hyman et al., 2009)。

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■注意コスト(遅延的):将来の注意力への影響

テレビ視聴やゲームプレイは、子どもの後の注意力の問題と関連することが縦断研究(longitudinal study:同じ人を時間をおいて追跡する研究)で確認されています (Swing et al., 2010)。

また、大学生を対象とした研究では、スマートフォンの使用頻度が高いほどGPA(成績)が低く、不安が高い傾向が見られました (Lepp, Barkley, & Karpinski, 2014)。この研究はパス分析(複数の変数の間の経路を統計的に推定する手法)によって、スマートフォン使用→学業不振・不安→生活満足感の低下、という間接的なつながりを示しています。ただし横断データ(cross-sectional)であるため、因果関係の確定には縦断的・実験的な検証が必要です。

スクリーンライト(画面光)がメラトニン分泌を妨げ、睡眠の質を低下させることも一因として指摘されています (Higuchi et al., 2003)。

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■代替(Substitution):幸福をもたらす活動の置き換え

メディアは注意を奪うだけでなく、幸福の源となる活動そのものを代替してしまうことがあります。

・友人とのリアルな交流が、オンラインゲームに置き換えられる

・十分な睡眠が、深夜のテレビ視聴に置き換えられる

とりわけ重要なのが、対面コミュニケーションの置き換えです。テレビの普及とともにボウリングリーグへの参加が減ったというPutnam (1995) の研究は、メディアが地域コミュニティへの関与を損なう可能性を示す古典的な事例として知られています。

経験サンプリング法(ESM:日常の中で繰り返し気分や行動を測定する手法)を用いた研究では、日中にFacebookを使うほど、その後の幸福感が低くなることが確認されています。この関係は、Facebookの使用が対面交流の機会を減らすことで部分的に説明されます (Kross et al., 2013)。

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■睡眠の置き換え

就業者を対象とした10日間のESM研究では、夜9時以降のメディア使用(テレビ・コンピュータ・スマートフォン・タブレットなど)が、いずれも睡眠時間の短縮と独立して関連していました。興味深いことに、スマートフォン使用時間はテレビ視聴の10分の1(約4分対40分)にもかかわらず、睡眠時間の分散の説明量はスマートフォンがテレビの2倍でした(4% vs. 2%)(Lanaj, Johnson, & Barnes, 2014)。

睡眠の減少は朝の心理的消耗感と関連し、ワーク・エンゲージメント(work engagement:仕事への活力や熱意)の低下につながりました。

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▼ 調整要因(モデレーター):いつ補完し、いつ干渉するか

CIモデルでは、相補性と干渉のどちらが優勢になるかを決める3つの主な条件が示されています。

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■メディア活動の質

・能動的使用 vs. 受動的使用

Facebookで他者の投稿を眺めるだけ(受動)より、自ら情報を発信する(能動)方が社会関係資本を高め、孤独感を下げることが示されています (Burke, Marlow, & Lento, 2010)。

・現実活動との関連性

メディア使用が現実の活動を直接支援するものであれば、注意コストは生じにくくなります。科学博物館で子どもと過ごす親を対象とした研究では、展示に関する情報を得るためにスマートフォンを使った親だけが、より高いつながり感を示しました。一方、SNSやメール等の用途では、つながり感が低下しました (Kushlev, 2015)。ただしこの結果は相関的・探索的であり、実験的な検証が必要です。

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■メディア活動の量

使用量が多すぎても少なすぎても良くないという逆U字型の関係が複数の研究で示されています。

・テレビ視聴量と生活満足感には逆U字型の関係がある (Jegen & Frey, 2004)

・イランの青年研究では、ゲームを週10時間以上プレイする過剰利用者は、適度なプレイヤーよりメンタルヘルスが低かった (Allahverdipour et al., 2010)

・Facebookの友人数と主観的幸福感にも逆U字型の関係が示されている (Kim & Lee, 2011)

また、スマートフォンの通知は、端末に触れていなくても注意に影響を与えることが確認されています。通知を受け取るだけで、実際に使用した場合と同程度の注意コストが生じていました (Stothart, Mitchum, & Yehnert, 2015)。

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■現実環境のアフォーダンス(その場で得られる幸福の機会)

アフォーダンス(affordance)とは「環境が提供する行動の可能性」を指します。社会的な豊かさがある環境(例:家族と過ごす時間)では、メディア使用は干渉として機能しやすくなります。一方、社会的に乏しい環境(例:手術中)では、メディアが相補的に機能することが示されています (Guillory et al., 2015)。

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■政治・経済・社会的要因

発展途上国では、モバイル技術が市民の政治参加を促したり(アラブの春)、農家の収益を最大4倍に高めたり、医療情報へのアクセスを改善したりする効果が報告されています。つまり、同じメディア技術でも、WEIRDな国々(Western, Educated, Industrialized, Rich, Democratic:西洋の、教育水準が高い、工業化した、豊かな、民主主義的な社会)とそれ以外の国々では、幸福感への影響が大きく異なる可能性があります。

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▼ 今後の課題

理論面では、CIモデルはあくまで出発点であり、調整要因・媒介要因のさらなる実証と精緻化が必要とされています。

方法論面では、介入研究(実験的に使用パターンを変える研究)の倫理的・実践的な困難さが課題として挙げられています。論文は、縦断研究やESMといった代替的手法の有効性も認めつつ、最終的には多手法による研究が不可欠だと指摘しています。

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▼ まとめ

メディア技術は「良いもの」でも「悪いもの」でもなく、どのように・どれだけ・どんな文脈で使うかによって、幸福感を高めることも損なうこともあります。CIモデルは、メディア技術と幸福感の関係を「善悪」の二項対立ではなく、プロセスと条件の組み合わせとして理解するための理論的な地図を提供します。この枠組みは、今後スマートフォンに限らず新たなメディア技術が登場した際にも、体系的な研究を進めるための土台となることが期待されています。

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Media Technology and Well-Being: A Complementarity-Interference Model

By Kostadin Kushlev, University of Virginia

マスメディアからソーシャルメディアへ、ビデオゲームからコンピュータを介したコミュニケーションに至るまで、メディア技術は人々の生活においてますます中心的な役割を果たしている。コンピューティング能力の飛躍的な向上により、人々は今や、スマートフォンという信じられないほど高性能なコンピュータをどこへでも持ち歩いている。メディア技術へのアクセスがますます容易になるにつれ、メディア活動と、心理的ウェルビーイングに不可欠なメディアを介さない活動(対面での会話や家族との時間から、休息時間や仕事に至るまで)との間には、ますます大きな葛藤が生じている。現代におけるメディア技術の利用は、心理的ウェルビーイングに対してどのようなコストと便益をもたらすのか。本稿では、相補性・干渉(CI)フレームワークを用いて研究をレビューし、メディア技術と心理的ウェルビーイングの関係における主要な心理的プロセス(すなわち媒介変数)および条件(すなわち調整変数)を明らかにする。既存の知見に基づき、メディア技術が心理的ウェルビーイングに及ぼす影響に関する初期の理論的CIモデルを提案する。このCIモデルを用いて、将来の研究に向けた重要な方向性を概説し、メディア技術に関する統合的かつ理論に裏打ちされた研究のための指針を提供する。

キーワード:メディア、コミュニケーション技術、コンピュータ媒介コミュニケーション(CMC)、主観的ウェルビーイング、ヒューマン・コンピュータ・インタラクション(HCI)

書籍要約 主観的幸福・幸福測定感情・レジリエンス

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