57価値観と主観的幸福感
ウェルビーイングハンドブック_第九章:文化
文化編、最後は価値感!
シュワルツ先生の10の価値感(権力、達成、快楽主義、刺激、自己決定、普遍主義、博愛、伝統、調和、安全)について、
幸せにつながるもの、つながらないものを整理😊
で、その発展形としてより簡略な2軸で価値感と幸せを整理頂いております。
「成長志向 vs 自己防衛志向」と「個人焦点 vs 社会焦点」
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■ 価値観と主観的幸福感 Schwartz & Sortheix (2018)
私たちが「何を大切にしているか」という価値観は、幸福感とどう関係しているのでしょうか。この論文は、価値観研究の第一人者であるシュワルツらが、これまでの研究を体系的に整理した包括的なレビュー論文です。
■ そもそも「価値観」とは何か
価値観とは、人が生きるうえで指針となる「望ましい目標」のことです。単なる好みや態度とは違い、以下の特徴があります。
・感情と結びついた信念である
・特定の状況を超えて広く適用される
・行動や判断の基準になる
・人それぞれに重要度の順位がある
シュワルツ (1992) は、こうした価値観を10種類に分類し、それらが円環状の構造(サーキュラー・コンティニュアム)をなしていると提唱しました。円の中で隣り合う価値観は互いに相性がよく、向かい合う価値観は対立する関係にあります。
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▼ 10の基本的価値観(円環の順に)
・自己決定(Self-Direction):自分で考え、自由に行動したい
・刺激(Stimulation):新しいことや興奮を求める
・快楽(Hedonism):楽しみや感覚的な喜びを求める
・達成(Achievement):社会的な基準で能力を示し成功したい
・権力(Power):地位や資源を支配・コントロールしたい
・安全(Security):社会や自分の安定・安心を求める
・同調(Conformity):他者を不快にさせる行動を抑制する
・伝統(Tradition):文化や宗教の慣習を尊重する
・博愛(Benevolence):身近な人の幸福を気にかけ助けたい
・普遍主義(Universalism):すべての人や自然環境の保護を重視する
これら10の価値観は、さらに大きく2つの軸で整理できます。
・自己超越 vs 自己増強:他者への関心 vs 自分の利益優先
・変化への開放性 vs 保守性:自律・変化重視 vs 安定・秩序重視
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■ 価値観と幸福感の関係:3つのアプローチ
研究者たちは、価値観が幸福感に影響する仕組みを主に3つの視点から検討してきました。
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▼ アプローチ①:健全な価値観と不健全な価値観(直接的な関係)
一部の価値観は幸福感を高め(健全)、他の価値観は幸福感を下げる(不健全)という考え方です。
マズローの欲求階層理論やロジャーズの自己実現論を下敷きにして、ビルスキー & シュワルツ (1994) は次のように整理しました。
・成長欲求から生まれる価値観(健全):刺激、自己決定、普遍主義、博愛、達成
→ これらの目標が達成されると、さらにその価値観を重視するようになる
・欠乏欲求から生まれる価値観(不健全):同調、安全、権力
→ 脅威や不安から逃れようとする動機が根底にあり、充足しにくい
また自己決定理論(Deci & Ryan, 1995)も同様に、自律性・有能感・関係性という3つの内的欲求を満たす価値観が幸福感を高めると主張しています。
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▼ 直接的な関係の研究結果
7か国8研究のまとめ(Sagiv & Schwartz, 2000 ほか)では、次の傾向が確認されました。
・幸福感と正の相関(高いほど幸せ):博愛、刺激、自己決定、快楽
・幸福感と負の相関(高いほど不幸せ):権力、(一部で)同調
ただし達成・伝統・安全については結果が一致せず、より精緻な理論が必要とされました。
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▼ 新しい理論モデル:2軸の組み合わせで考える
シュワルツ (2012) とSortheix & Schwartz (2017) は、価値観が幸福感に与える影響を「成長志向 vs 自己防衛志向」と「個人焦点 vs 社会焦点」という2軸の組み合わせで説明する新モデルを提案しました。
・成長志向(幸福感にプラス):自己実現、他者への関心の拡大を動機づける
・自己防衛志向(幸福感にマイナス):脅威や不安を避けることが動機で、承認や地位という外発的欲求に向かう
・個人焦点(幸福感にプラス):自分の考えや能力を表現する方向
・社会焦点(幸福感にマイナス):他者の問題への懸念や社会的義務への注意が増し、自律性が制限される
この2軸を掛け合わせると次のようになります。
・変化への開放性(成長×個人)→ 幸福感に強くプラス
・保守的価値観(自己防衛×社会)→ 幸福感に強くマイナス
・快楽・刺激・自己決定(成長×個人)→ 幸福感にプラス
・権力(自己防衛×個人)→ 幸福感にマイナス
・博愛(成長×社会)→ 家族・友人との良好な関係を通じてプラス
・普遍主義(成長×社会)→ 効果は相殺され中立的
この理論は35か国の代表的サンプルを用いたマルチレベル分析(個人と国レベルを同時に扱う統計手法)で確認されました (Sortheix & Schwartz, 2017)。
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▼ アプローチ①の発展:社会的文脈による調整効果
価値観と幸福感の関係は、どんな社会環境に生きているかによって変わります。これを「調整効果(モデレーション)」と呼びます。
Sortheix & Lönnqvist (2014) は、欧州25か国の代表サンプルを分析し、人間開発指数(HDI:国の豊かさ・健康・教育水準を示す指標)が調整役として機能することを示しました。
・HDIが低い国(資源が乏しい環境)では:
→ 社会焦点の価値観(普遍主義、同調など)は幸福感にマイナス
→ 変化への開放性はプラスだが、その効果は特に大きい
→ 達成価値観はプラスに転じることもある
・HDIが高い国(豊かな環境)では:
→ 社会焦点の価値観がプラスに転じる傾向
→ 自己増強価値観(権力・達成)はマイナス
さらに Sortheix & Schwartz (2017) は、国の文化的な「平等主義」(文化的平等主義:人々が平等で、協力的な行動を自発的に取ることを重視する文化的規範)がHDIよりも強い調整役であることを示しました。平等主義が低い社会では、個人焦点の価値観のプラス効果が強まり、社会焦点の価値観のプラス効果が弱まります。
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▼ アプローチ②:価値観の一致(コングルーエンス)と幸福感
自分の価値観が周囲の環境と似ているほど幸福感が高まる、という考え方です。そのメカニズムは3つです。
・目標達成のしやすさ:価値観が周囲と合っていると、目標達成を環境が後押ししてくれる
・社会的サポート:同じ価値観を持つ人々から承認・支持を得られる
・内的葛藤の低減:自分の価値観と環境から内面化した価値観が矛盾しない
具体的な研究例として:
・専攻学科との一致:ビジネス学科の学生は権力価値観が高いほど幸福感が高く、心理学科の学生は博愛価値観が高いほど幸福感が高かった (Sagiv & Schwartz, 2000)
・カップルの価値観一致:配偶者との快楽価値観の類似度が高いほど関係満足度が高かった (Leikas et al., 2017)
・職場との一致:個人と組織の価値観の相性は職場での幸福感を予測する (Leiter & Maslach, 1999)
・社会全体との一致:ただし、国全体の平均的価値観との一致は必ずしも幸福感を高めず、むしろ逆効果になることもある (Schwartz, 2012)。とくに超正統派ユダヤ教徒コミュニティのような強い文化的アイデンティティを持つ集団内では一致効果が確認されるが、一般社会レベルでは証拠が乏しい
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▼ アプローチ③:価値ある目標の達成と幸福感
価値観それ自体ではなく、価値観に沿った目標を実際に達成できたかどうかが幸福感に影響する、という考え方です。
Oishi et al. (1999) の23日間の日記研究では、毎日の目標達成感が当日の幸福感を予測しました。さらに重要なのは、価値観がその達成感の「重み付け」を調整するという点です。
・達成価値観が高い人 → 成果への満足が幸福感により強く結びつく
・博愛価値観が高い人 → 人間関係への満足が幸福感により強く結びつく
ただし、すべての目標達成が幸福感を高めるわけではありません。自己決定理論に基づく研究は次を示しています。
・内発的な目標(自己成長・関係性など)の達成 → 幸福感にプラス
・外発的な目標(財的成功・社会的支配など)の達成 → 幸福感に影響しない、またはマイナス (Kasser & Ryan, 1993; Sheldon & Kasser, 1998)
さらに縦断研究(時間をかけて追跡する研究)では、物質主義的価値観(権力価値観に近い)の低下が幸福感の向上を予測しました (Kasser et al., 2014)。
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■ 今後の研究課題
▼ 調整変数・媒介変数の探索
・年齢:加齢とともに変化への開放性の幸福感へのプラス効果が強まり、保守的価値観のマイナス効果が強まる傾向(欧州27か国データの著者分析)
・ジェンダー:女性では変化への開放性・自己超越のプラス効果が強く、男性では権力・保守のマイナス効果が強い傾向
・感情の媒介:価値観は「感じたい感情の種類」を左右し、それが幸福感につながる可能性がある (Tamir et al., 2016, 2017)
▼ 因果関係の解明
価値観は変化が遅く安定しているため、基本的には「価値観 → 幸福感」の方向の因果が主流と考えられますが、双方向の影響もある程度確認されています。
▼ 国家レベルの幸福感への示唆
北欧・西欧の幸福度が高い国々は、文化的平等主義とHDIがともに高い。社会の文脈を考慮せずに、どの価値観が幸福感を高めるかを一律に語ることはできない。
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■ まとめ
この論文が示す核心は、「価値観と幸福感の関係はシンプルではなく、文脈に依存する」という点です。
・変化への開放性(自己決定・刺激・快楽)は比較的普遍的に幸福感と正の関係
・保守的価値観(安全・同調・伝統)は比較的普遍的に幸福感と負の関係
・しかしその強さや方向は、国の豊かさ・文化・年齢・性別・周囲との価値観の一致度などで大きく変わる
「どんな価値観を持てば幸せになれるか」という問いへの答えは、あなたが生きている社会と切り離して語ることができない——これが現代の価値観研究が示す重要な知見です。
(Schwartz & Sortheix, 2018)
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Values and Subjective Well-Being
By Shalom H. Schwartz, The Hebrew University of Jerusalem; Florencia M. Sortheix, University of Helsinki and University of Jyväskylä
本章では、価値観と主観的幸福感(SWB)の関係について現在明らかになっていることを要約し、まだ解明されていないが解明すべき課題をいくつか提示する。まず、価値観の本質と、それらが形成する構造化されたシステムについて論じる。ここでは、シュワルツ(1992)の理論において、循環的な動機付けの連続体を形成する10の価値観を参照する。また、価値観とSWBの関係に関する3つの理論的視点について言及する。第1の視点は、価値観とSWBの直接的な関係を説明しようとするものである。第2世代の直接的関係に関する研究は、社会レベルのモデレーターを指摘することで、サンプル間における関係の変動を説明している。第2の視点は、個人の価値観と周囲の環境で支配的な価値観との整合性(または類似性)を、主観的幸福感の決定要因として検討する。第3の視点は、価値ある目標の達成を主観的幸福感の源泉と見なす。本稿では、これらの視点とそれらに基づく文献を紹介し、随所で今後の研究課題について言及する。
キーワード:価値観、主観的幸福感、異文化間差異、価値観の一致