56物質主義と良き生き方
ウェルビーイングハンドブック_第九章:文化
今回は、物質主義(マテリアリズム)と幸せ。
物質主義とは、
お金・所有物・地位・イメージを他の目標より優先する価値観や目標の集まり(Kasser & Ryan, 1993, 1996)。
そしてこれは、不幸せにつながる。
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ホフステード6次元モデルの男性性の項目が、物質主義に似ているんですが、日本は世界で圧倒的にトップなんですよね・・・飛び抜けて物質主義な国になっています。
・自分の仕事に対して評価を受けることは私にとって非常に重要である。
・上司と親密な関係を築くことよりも、高給を得ることが私にってより重要である。
・仕事と私生活を分けることが私にとって重要である。
・キャリアにおいて最も重要なのは、良い給料と、自分が得意で好きな仕事である。
・人はこの世で自分の道を切り開くことを学ばねばならない。
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これをいかに、手放していくか。はこれからの日本の幸せを考える上で、超重要です。
ここでは、①内発的価値感の活性化、②内省、③広告リテラシー教育(コマーシャルに触れない、意図を理解する)が挙げられています。確かに内発的価値感で動いている日本人は、幸福度高いなぁ。
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**■ 物質主義と良き生き方 Kasser, T. (2018). **
▼ この論文の目的
お金や所有物・地位・イメージを重視する「物質主義」という心理的傾向が、人の幸福にどう影響するかを包括的にレビューした論文です。以下の4つのテーマで議論が進みます。
・物質主義を「価値観」として捉える枠組みの紹介
・物質主義と個人の幸福(ウェルビーイング)の関係
・物質主義が他者や社会・環境に与える影響
・物質主義を減らすための介入(干渉・働きかけ)の可能性
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▼ 1. 物質主義とは何か――価値観システムの中に位置づける
まず著者は、物質主義を「お金・所有物・地位・イメージを他の目標より優先する価値観や目標の集まり」として定義します(Kasser & Ryan, 1993, 1996)。
これは単なる「お金が好き」という気持ちではなく、人生で何を大切にするかという「価値観の優先順位」の問題です。
▼ 価値観の両立と対立
Schwartz(1992)の大規模な文化横断研究によれば、人間の価値観は驚くほど一貫したパターンを持っており、ある価値観を重視すると、それと「相性のいい価値観」も重視され、「対立する価値観」は軽視されやすくなります。
Grouzet et al.(2005)が15か国の大学生を対象に行った研究では、価値観の関係を「サークルモデル(円環モデル)」で表現しています。
・円の同じ側にある価値観 → 一緒に追求しやすい(相性がよい)
・円の反対側にある価値観 → 一緒に追求しにくい(対立する)
▼ 物質主義的価値観と内発的価値観の対立
このモデルでは、物質主義的な「外発的目標」(お金・イメージ・人気)は、円の反対側にある「内発的目標」(自己受容・親密な人間関係・社会貢献)と対立しています。
たとえば、
・金銭的成功を追い求めるほど、コミュニティへの貢献意識が薄れやすい
・イメージや人気を重視するほど、自分らしい成長(自己受容)が難しくなる
・お金への執着と精神性(スピリチュアリティ)も対立関係にある
このことは多くの宗教的伝統でも指摘されており、Schwartz(1992)の研究でも「権力・地位・達成」といった自己強化的価値観は「博愛・公正・自然との調和」といった自己超越的価値観と対立することが示されています(Burroughs & Rindfleisch, 2002)。
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▼ 2. 物質主義と個人の幸福――大規模なメタ分析の結果
▼ メタ分析(多くの研究結果を統合する手法)の概要
Dittmar, Bond, Hurst & Kasser(2014)は、175の研究・258のサンプル・749の効果量を統合した大規模なメタ分析を実施しました。
結果:物質主義と幸福の相関は平均 r = −.15 でした。
「r」は相関係数のことで、0に近いほど関係が弱く、−1に近いほど「物質主義が高いほど幸福が低い」という強い負の関係を示します。この数値は「小さいが確実に存在する負の関係」と解釈できます。
▼ どんな幸福指標と最も強く関連するか
物質主義が強いほど、以下の問題が多くみられました(効果量の大きい順):
・強迫的な消費行動(r = .44)
・喫煙・飲酒などの健康リスク行動(r = .29)
・ネガティブな自己イメージ(r = .28)
・ポジティブ感情の低さ(r = −.23)
・抑うつの多さ(r = .19)
・全体的な主観的幸福感の低さ(r = −.19)
・不安の多さ(r = .17)
・生活満足度の低さ(r = −.13)
これらのうち、どの指標でも「物質主義が高いほど幸福が低い」という一貫したパターンが確認されました。
▼ 文化・属性による違い
負の関係が強まる条件として以下が確認されました(Dittmar et al., 2014):
・18歳未満の若者のサンプル
・女性の比率が高いサンプル
・経済的格差が小さい国
・経済成長が遅い国
・快楽や刺激を重視する文化
ただし重要なのは、物質主義と幸福の関係が「正(プラス)」になる条件はひとつも見つからなかったという点です。条件によって効果が弱まることはあっても、逆転はしませんでした。
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▼ 3. 縦断研究と実験研究――因果関係の検討
相関研究だけでなく、時間的な変化を追った縦断研究も複数あります。
・カナダの大学生を1年間追跡 → 物質主義が高まるにつれて幸福が低下(Hope et al., 2014)
・中国の大学生を3時点で追跡 → 同様の結果(Jiang et al., 2016)
・米国・アイスランドの成人を6か月〜12年追跡 → 物質主義が増した人ほど幸福が低下(Kasser et al., 2014)
・ノルウェー・米国での時系列分析 → 社会全体の物質主義が高まると、世代全体の幸福が下がる(Hellevik, 2003; Twenge et al., 2010)
実験研究では、ぜいたく品の画像を見せたり(Bauer et al., 2012)、時間をお金に換算して考えさせたりする(Devoe & House, 2012)と、一時的にポジティブ感情が低下したり、ネガティブ感情が高まったりすることが示されています。
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▼ 4. なぜ物質主義は幸福を下げるのか――4つの仮説
▼ 仮説①:目標達成の失敗説
お金や所有物を手に入れられないから不幸になる、という説。しかしお金持ちでも物質主義者は幸福とは限らず、目標を達成しても幸福が上がらないという研究もあり(Niemiec et al., 2009)、支持は弱いです。
▼ 仮説②:金銭的不満の波及説
常に自分より豊かな人がいて、市場には次々と新製品が登場するため、物質主義者は常に金銭的不満を抱えやすく、それが人生全体の不満に波及するという説(Sirgy, 1998)。しかしメタ分析では支持されませんでした(Dittmar et al., 2014)。
▼ 仮説③:環境との不一致説
自分の価値観と周囲の環境が合わないときに幸福が下がるという説(Sagiv & Schwartz, 2000)。ビジネス系の学生では物質主義と幸福の負の関係が弱まるなど部分的な支持はあるものの、ビジネス系サンプルでも負の関係は消えないことが示されており、支持は限定的です(Dittmar et al., 2014)。
▼ 仮説④:基本的心理欲求の阻害説(最も支持が厚い)
人間には3つの基本的な心理欲求があります(Ryan & Deci, 2017):
・自律性(自分で行動を選ぶ感覚)
・有能感(自分がうまくやれているという感覚)
・関係性(他者と深くつながっている感覚)
物質主義はこの欲求充足を2つの経路で妨げます。
・直接的な妨害:長時間労働や義務感で動く仕事が増え、自律性が損なわれる
・間接的な妨害:内発的目標(家族との時間・人助けなど)を後回しにするため、関係性が損なわれる
Kasser et al.(2014)の縦断研究では、物質主義の増加 → 欲求充足の低下 → 幸福の低下、という連鎖が確認されました。Wang et al.(2017)でも同様の結果が得られています。
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▼ 5. 物質主義は「ともに生きること」を妨げる
著者は、幸福は個人の問題だけでなく、他者・社会・地球環境との関係においても考えるべきだと主張します。
▼ 対人関係への影響
物質主義的な価値観を重視する人ほど:
・恋愛関係や友人関係の質が低い(Carroll et al., 2011; Kasser & Ryan, 2001)
・共感が少なく、競争的で、マキャベリズム(目的のためなら手段を選ばない傾向)や自己愛が強い(McHoskey, 1999; Kasser & Ryan, 1996)
▼ 社会・コミュニティへの影響
・向社会的行動(他者を助ける行動)が少ない(Briggs et al., 2007)
・反社会的行動が多い(Cohen & Cohen, 1996)
・職場での逸脱行為が多い(Deckop et al., 2015)
・社会的平等への関心が低い(Duriez et al., 2007)
▼ 環境への影響
Hurst et al.(2013)のメタ分析(13サンプル・26効果量)では:
・親環境的態度との相関:r = −.22
・親環境的行動との相関:r = −.24
物質主義が強いほど、地球環境への配慮が薄くなることが示されています。
さらに実験研究では、お金に関連する刺激を見るだけで、人は他者から距離を置き、向社会的行動が減ることが示されています(Vohs et al., 2006; Gasiorowska et al., 2012)。
国レベルの分析でも、物質主義的な文化を持つ国ほど、子どもの幸福度が低く、育児休業が短く、CO2排出量が多い傾向があります(Kasser, 2011)。
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▼ 6. 物質主義を減らすための介入
▼ 介入①:内発的価値観の活性化
内発的価値観(自己成長・つながり・社会貢献)を意識させることで、物質主義が短期的に低下することが複数の実験で確認されています(Weinstein et al., 2009など)。
Lekes et al.(2012)では、大学生に1か月間、自分の内発的価値観を振り返るメールを送り続けた結果、物質主義が低下し、幸福が高まりました。
▼ 介入②:内省(自己を深く見つめること)
・自分の価値観を改めて見直すだけで、内発的価値観が自然に高まる(Sheldon et al., 2003)
・マインドフルネス(今この瞬間への非判断的な気づき)の実践 → 現在の経済的状況への満足が高まり、幸福が増す(Brown et al., 2009)
・感謝の振り返り → 物質主義が低下(Lambert et al., 2009)
・死について深く考えること → 物質主義的な行動が減少(Cozzolino et al., 2004)。特に開放性(新しい経験を受け入れる性格傾向)の高い人に効果的(Prentice et al., 2017)
▼ 介入③:広告リテラシー教育(特に子ども・青少年向け)
物質主義的な子どもほど、コマーシャルメディアへの接触が多い傾向があります。
・親が広告の意図を教えることで、子どもの物質主義が低下(Buijzen, 2007; Buijzen & Valkenburg, 2005)
Kasser et al.(2014)の実験では、青少年とその親が3回(計9時間)の介入プログラムに参加し、消費主義のメッセージを批判的に読み解く訓練を受けました。
結果:
・統制群(介入なし)の青少年は物質主義が上昇したのに対し、介入群は低下
・もともと物質主義が高く介入を受けた青少年は、自尊心が向上
・これらの効果は約10か月後も持続していた
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▼ まとめ
この論文が示す主な結論は以下の4点です。
・物質主義は人間の価値観システムの中に確かに存在し、内発的価値観と対立する
・物質主義を優先するほど、個人の幸福(精神的健康・生活満足度・感情状態など)が低下する
・物質主義を優先するほど、他者・社会・地球環境への悪影響が増す
・内発的価値観の活性化・内省・広告リテラシー教育によって、物質主義を減らし幸福を高められる可能性がある
ただし著者は、これらの知見の多くはまだ研究途上であり、多様な文化・年齢・長期追跡による検証が今後も必要だと強調しています。
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Materialism and Living Well
By Tim Kasser, Ph.D., Knox College
物質主義とは、人生における他の目標と比較して、金銭、所有物、イメージ、地位を獲得することがどれほど重要であるかを個人がどの程度信じているかを反映する心理学的概念である。本章では、物質主義が人間の価値観体系における根本的な側面であり、個人の成長、親密な対人関係、他者への支援といった内発的価値と相対的に対立していることを示す証拠を概説する。メタ分析の結果や縦断的研究によれば、物質主義的な価値観や目標を優先する人々は、幸福感のレベルが低いと報告している。物質主義は、社会貢献的および環境保護的な態度や行動とも負の相関関係にあるため、こうした目標に強く焦点を当てることは、他者、他の生物種、そして将来の世代の幸福を損なう可能性が高い。近年の研究によれば、内発的価値を奨励する介入、深い内省を促す介入、あるいは消費文化のメッセージから距離を置き、それを疑問視するよう導く介入を受けることで、物質主義は軽減され得ることが示されている。
キーワード:物質主義、価値観、目標、ウェルビーイング、社会的行動、生態学的行動