はぴテク相談室:35乞食は億万長者を羨ましくない:社会的比較、社会経済的地位、そして主観的幸福感
最近、同期の友人がすごく稼ぐようになって、なんか自分がみじめに感じてしまうんです。収入は以前より上がったのに、なぜか全然幸せな気がしなくて…。
それは、とても多くの人が経験することですよ。実は「収入が上がれば上がるほど幸せになる」という関係は、研究的にはそれほど強くないんです。社会経済的地位(お金・学歴・職業などで測る社会的な位置づけ)と幸福感の相関係数はおよそ0.11程度。統計的には意味のある数字ですが、「お金=幸福」と言い切れるほど強い関係ではないんです。
え、意外です。じゃあなんで収入が上がったのに幸せじゃないんでしょう?
それを説明してくれるのが「社会的比較理論」という考え方です。人の幸福感は、自分の絶対的な豊かさよりも、「身近な人と比べてどうか」という相対的な位置づけに左右されやすいんですね。哲学者バートランド・ラッセルが1930年に残した言葉がそれをうまく表しています。「乞食は億万長者を羨まない。もっと成功している他の乞食を羨む」という言葉です。
なるほど…。同期と比べてしまっているのがまさにそれですね。でも、比較するのって自然なことじゃないですか?
そうなんです、比較すること自体は自然な人間の性質です。研究では、「自分が社会のどの位置にいるか」という主観的な自己評価が、客観的な収入や学歴よりも約2倍強く幸福感を予測するという結果が出ています(相関係数でr=0.21対r=0.11)。つまり、実際の数字より「自分は周りより上か下か」という感覚の方が幸福感に影響しやすいんですね。
じゃあ、高収入の人はみんな幸せなのかな?CEOとか経営者って幸せそうに見えないし、むしろストレスが多そうで…。
それも面白い点で、実は「高い地位の人ほど不幸」という俗説は、実証研究と食い違っていることが多いんです。研究では、高位管理職は部下よりもストレスホルモンの値が低かったり、社会経済的地位が高いほど死亡リスクが低いという結果が繰り返し出ています。英国で1万人以上の公務員を長期間追いかけた研究でも、職位が高い人ほど幸福感が高い傾向がありました。
え、じゃあなんで「CEOは大変そう」ってイメージが広まってるんですか?
研究者はこう分析しています。「成功者も苦労している」という物語が広まると、大きな収入格差が「努力の正当な報酬」として受け入れやすくなる、という社会的な機能があるんです。また、人は自分が乗り越えてきた苦労は鮮明に覚えているけれど、自分が受けてきた恩恵や特権には気づきにくいという認知の偏りもあると言われています。
うーん…。じゃあ、高い地位の人が幸せなのはなぜなんでしょう?やっぱりお金?
お金の影響もゼロではありませんが、注目されているのが「コントロール感」、つまり自分で物事を決められるという感覚です。管理職がストレスを感じにくい大きな理由のひとつがこのコントロール感だという研究結果があります。ただ、高い地位の人ほど、自分がそういう自律的な環境に恵まれていることに気づきにくいという傾向もあるようです。
なるほど。ちなみに、日本人と海外の人では比較の仕方って違うんですか?
実は文化によって違いがあることが示されています。日本では客観的な収入の実額がより強く幸福感に関連するのに対し、アメリカでは「自分が社会のどの位置にいるか」という主観的な評価の方が強く関連するという研究があります。これは、日本人が自分を他者や社会との関係の中で定義しやすい傾向と関係している可能性があると言われています。ただ、これも相関関係の話なので、文化が原因で幸福感が決まるとまでは言えません。
じゃあ、私の場合、同期と比べて落ち込むのは自然なことで、完全になくすのは難しいんですね…。
そうですね、比較すること自体は人間の自然な傾向です。ただ、研究から分かるのは、絶対的な収入額よりも「誰と自分を比べているか」という準拠集団が幸福感に大きく関わっているということ。また、所得不平等が大きい社会ほど比較の影響が強まるという研究もあります。自分が今「誰と比べているのか」を意識してみることが、自分の幸福感を理解する手がかりになるかもしれません。
■ 今日のまとめ
- 社会経済的地位(収入・学歴など)と幸福感の関係は「正の相関があるが小〜中程度」であり、お金が増えれば必ず幸せになるとは言い切れない。
- 幸福感に強く関わるのは絶対的な収入額よりも、身近な人との相対的な比較(社会的比較)。誰と比べているかが幸福感を左右しやすい。
- 「高い地位の人ほどストレスが多い」という俗説は実証研究と食い違うことが多く、社会的格差を正当化する心理や認知の偏りがその俗説を広める一因と分析されている。
■ 出典・注意事項
- Kraus, M. W. (2018). Beggars do not envy millionaires: Social comparison, socioeconomic status, and subjective well-being. In E. Diener, S. Oishi, & L. Tay (Eds.), Handbook of Well-Being. DEF Publishers.
- 【注意事項】本研究は主に相関関係の分析に基づいており、社会経済的地位が幸福感を直接引き起こすとは言えません。
- 【注意事項】引用されている研究の対象集団は主に欧米(特にアメリカ・英国)が中心であり、日本を含む他文化への一般化には限界があります。
- 【注意事項】文化差(日本とアメリカの比較)についても相関研究であり、文化が原因で幸福感が決まるとまでは言えません。
- 【注意事項】出版バイアス(有意な結果が出た研究の方が発表されやすい問題)は比較的少ないとされていますが、どの研究にも完全にはないわけではありません。
研究自体の紹介はこちら😊
35乞食は億万長者を羨ましくない:社会的比較、社会経済的地位、そして主観的幸福感
https://wellbeing-archive.pages.dev/posts/2026-03-11-1773261792/