⑥主観的幸福感の非伝統的測定法とその妥当性:レビュー
ウェルビーイングハンドブック_第一章:序論、歴史、および測定
前回、アンケート(自己申告)で幸福度を測る方法の良さ(とちょっと欠点)を紹介しましたが、
今回は、アンケート以外で幸福度を測る方法について😊
ちょっとマニアックな話が続きますが、ここらへんを頭に入れておくと、ウェルビーイング研究全体への理解が、グッと深まります😊
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ちなみに、アンケート以外の幸福度調査方法として笑顔を見るというのがあります。
なんとFacebookプロフィール写真の笑顔の強度は、
現在の幸福度(人生満足度)、2年後の幸福度(人生満足度)と相関があるそうです。
まずは自分の一番の笑顔の写真を、プロフィール写真にしてみてはいかがでしょう?
(まぁ因果ではないので、笑顔写真にすることで幸福度が高まる訳ではなさそうな気もしますが😂)
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幸福を測る5つの意外な方法:あなたの笑顔やSNS投稿が「本当の幸福度」を物語る
幸福度をどうやって測りますか?と聞かれたら、多くの人は「本人に直接聞くのが一番」と答えるでしょう。それは確かに最も一般的な方法です。しかし心理学の世界では、自己申告以外にも、人の幸福度を探るための興味深く、時には直感に反するようなアプローチが数多く存在します。この記事では、幸福度測定に関する5つの意外な科学的知見をご紹介します。昔のアルバムの写真や日々のSNS投稿が、あなたの「本当の幸福度」について何を語っているのか、見ていきましょう。
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1. あなたの古い写真は未来を予言する?:笑顔の強さと人生の満足度
写真に写る笑顔が、その人の幸福度と強く関連していることを示す確かな証拠があります。
心理学者のハーカーとケルトナーが行った2001年の研究では、大学の卒業アルバムに写る女性たちの写真を分析しました。「デュシェンヌ・スマイル」と呼ばれる心からの笑顔を見せている女性は、写真が撮られてから20年後でさえ、ネガティブな感情が少なく、幸福度が高いことを報告していました。
さらに、2012年のセダーとオイシの研究では、Facebookのプロフィール写真における笑顔の強さが、現在の人生満足度と相関するだけでなく、2年後の人生満足度の上昇を予測することを発見しました。笑顔は長寿を予測するという別の研究結果(エイベル&クルーガー、2010年)もあります。
しかし、笑顔の解釈には注意が必要です。人はなぜ笑うのかについて、異なる考えを持っているからです。ラブルーらの2014年の研究によると、幸せだから笑うと考える「感情表出理論」を持つ人もいれば、幸せになるために笑うと考える「感情調整理論」を持つ人もいます。後者の人々にとって、無理に笑顔を作ることは、かえって気分を悪化させる可能性が指摘されています。自然に撮影された写真の笑顔は強力な指標ですが、その関係は必ずしも単純ではないのです。
一枚の写真に切り取られた表情というほんの一瞬が、その人の長期的な人生の軌道を示す、安定的で強力な指標となりうるというのは、非常にインパクトのある事実です。
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2. 脳の中に「幸福スポット」は存在しない:神経科学が示す意外な真実
「脳の中には幸福を司る特別な場所がある」という話を耳にしたことがあるかもしれません。しかし、これは一般的な俗説にすぎません。
fMRIやEEG(脳波測定)といった技術の進歩にもかかわらず、神経科学はまだ幸福感に対応する一貫した特定の脳のマーカーを発見していません。メタ分析(複数の研究結果を統合して分析する手法)の結果も、研究によってまちまちです。例えば、マーフィーら(2003年)は前帯状皮質(ACC)を、ファンら(2002年)は基底核を、そしてヴィタルとハマン(2010年)は上側頭回(STG)を幸福に関連する部位として指摘しましたが、コンセンサスは得られていません。
根本的な問題は、脳のほとんどの部位が、幸福だけでなく他の多くの感情や認知プロセス(例えば記憶の想起など)に関与していることです。そのため、幸福感だけに特有の活動パターンを分離するのは非常に困難なのです。現在、最も広く合意されている知見は、右脳よりも左脳の前頭前野(PFC)の活動が活発なほうが、ポジティブで「接近関連」の感情と関連しているというものですが、これも特定の「幸福スポット」の存在を示すものではありません。
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3. 経験そのものより「経験の記憶」が未来の行動を決める
「経験している最中の幸福」と「後から思い出す幸福」には、実は大きな隔たりがあります。この違いを明らかにしたのが、春休みの旅行に関する有名な研究です。
この研究では、体験サンプリング法(ESM)という手法を用い、学生たちに旅行中にリアルタイムで気分を報告してもらいました。その結果は驚くべきものでした。旅行の最中に感じていたリアルタイムの幸福度(経験的効用)は、彼らが「もう一度同じ旅行をしたいか」という将来の選択とは全く無関係だったのです。
将来の選択を予測したのは、旅行から帰った後に抱いた「旅行の記憶」(記憶された効用)だけでした。この発見は、ノーベル経済学賞受賞者であるダニエル・カーネマンによって、次のように要約されています。
私たちは経験そのものではなく、その経験の記憶によって導かれている。経験的効用ははかなく消え去るが、記憶された効用こそが残り、私たちの未来の行動に影響を与えるのである。
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4. 幸せな人ほど「偽りの記憶」を持ちやすい?
幸福度の高い人は、ポジティブな概念を脳内で異なる方法で整理しており、その結果、特定の種類の「偽りの記憶」を抱きやすいという驚きの研究結果があります。
クーとオイシが2009年に行った研究では、「偽りの記憶」を誘発する古典的な実験手法(ディーズ=レディガー=マクダーモット・パラダイム)が用いられました。実験では、参加者に単語のリストを覚えてもらいます。その中には、「興奮した」「喜び」「笑顔」といった「幸福」に関連する単語が含まれていますが、リストのテーマである「幸福」という単語そのものは意図的に除外されていました。
結果は明白でした。幸福度の低い人と比べて、幸福度の高い人の方が、リストにないはずの「幸福」という単語を「見た」と誤って思い出す確率が有意に高かったのです。この結果は、幸福な人にとって、一つの幸福関連の概念が活性化されると、関連するポジティブな思考のネットワーク全体が自動的に活性化されることを示唆しています。そのため、中心的な概念である「幸福」という単語が実際に提示されていなくても、見覚えがあるように感じてしまうのです。
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5. Facebookのネガティブな投稿は、ポジティブな投稿より正直
SNSの投稿を分析することで幸福度を測る試みは、直感に反する結果をもたらしています。
Facebook上のポジティブな投稿が幸福度と相関すると考えるのは自然ですが、実際にはその相関は驚くほど弱いことがわかっています(クレイマー、2010年)。リウらが2015年に発表した研究はその理由を説明しています。SNS上には「自分をよく見せたい」という規範が存在し、ユーザーはポジティブな内容を投稿するようプレッシャーを感じます。そのため、ポジティブな投稿は、その人の真の幸福度を反映する正直なシグナルとは言えなくなるのです。
ここから導き出される重要な結論は、ネガティブな感情はこうした自己呈示のプレッシャーを受けにくいため、Facebookのステータス更新におけるネガティブな感情の表現の方が、ポジティブな感情の表現よりも、その人の人生満足度をより信頼性高く示す指標となる、ということです。また、この傾向は過去9ヶ月以内の比較的最近の出来事にのみ当てはまることもわかっており、これは人生の出来事の中では、最近のものが幸福度に影響を与えるという他の研究結果とも一致しています。
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幸福とは、単に「幸せですか?」と尋ねるだけでは捉えきれない、複雑で多面的な概念です。今回ご紹介したように、科学は私たちの笑顔や記憶の仕組み、そしてSNSの使い方といった意外な角度から、幸福の正体に迫ろうとしています。
最後に、一つ問いかけです。もし私たちの未来の選択を導くのが、その瞬間の経験ではなく、後から残る「記憶」なのだとしたら、あなたは次の休暇や週末の計画を、どのように変えますか?
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Scollon, C. N. (2018). Non-traditional measures of subjective well-being and their validity: A review. In E. Diener, S. Oishi, & L. Tay (Eds.), Handbook of well-being. Salt Lake City, UT: DEF Publishers. DOI:nobascholar.com
本章では、従来の包括的な自己報告を超えた主観的幸福感を評価する様々な手法を概観する。脳活動、微笑み、認知、記憶、瞬間的体験といった主観的幸福感(SWB)の指標を検討し、それぞれの実用的なコストと利点について論じる。最後に、ソーシャルメディアやインターネット検索といった新たなデータ形態が集団の主観的幸福感に関する情報をいかに明らかにし得るかを検討する。完璧な単一指標は存在しないものの、本章は研究者が研究設計やプロジェクトにおいて情報に基づいた判断を下すための知識を提供することを目的としている。
■ 論文の概要
この論文は、主観的幸福感(SWB:Subjective Well-Being、自分自身が感じる幸福や人生満足度のこと)を測定する際に、従来の自己報告式の質問紙以外にどのような方法があるのかを包括的にレビューしたものです。
従来は「あなたは人生にどれくらい満足していますか?」といった質問に答えてもらう方法が一般的でした。しかし、この方法には記憶のバイアス(思い出し方の偏り)や社会的望ましさ(良く見せようとする傾向)などの問題があります。そこで、より客観的で正確な測定方法が求められています。
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■ なぜ新しい測定法が必要なのか
▼ 従来の自己報告式の問題点
・記憶のバイアス:過去の出来事を思い出す際に、実際とは異なる記憶になってしまう
・社会的望ましさ:「幸せだ」と答えた方が良いと思って、本心とは違う回答をしてしまう
・フォーカシング錯覚:質問されたことに注意が向くことで、評価が変わってしまう
▼ 新しい技術の可能性
スマートフォンやSNS、脳科学の技術などの発展により、より負担が少なく、経済的で、客観的な測定が可能になってきました。
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■ 各測定法の詳細
▼ 1. 脳活動による測定
■■ 測定技術
・fMRI(機能的磁気共鳴画像法):脳のどの部分が活動しているかを画像で見る技術
・EEG(脳波計):脳の電気活動を測定する技術
■■ 研究の現状
1990年代からこれらの技術が心理学研究に革命をもたらしました。しかし、残念ながら「幸福」に特有の脳活動パターンはまだ明確に特定されていません。
複数のメタ分析(多くの研究結果をまとめて分析する方法)が行われましたが、研究者間で一致した結論は得られていません。例えば:
・Murphy et al. (2003):前帯状皮質と前頭前野が幸福に関連すると指摘
・Phan et al. (2002):大脳基底核が一貫して幸福に関連すると指摘
・Vytal & Hamann (2010):右上側頭回が最も頻繁に活性化すると報告
■■ なぜ一致しないのか
脳の特定の部位は複数の感情や機能に関わっているため、「幸福だけ」に特有のパターンを見つけるのが難しいのです。ただし、前頭葉の左右非対称性(左側がより活性化すると ポジティブ感情と関連)など、より広いカテゴリーでは一定のパターンが見られます(Urry et al., 2004)。
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▼ 2. 笑顔による測定
写真の中の笑顔が、その人の幸福度を示す有効な指標になることが示されています。
■■ 重要な研究成果
・Harker & Keltner (2001)の研究:
大学の卒業アルバムの写真で、より本物の笑顔(デュシェンヌスマイル:目尻にしわができる本物の笑顔)を浮かべていた女性は、20年後でもネガティブ感情が少なく、幸福度が高いことが分かりました。
・Seder & Oishi (2012)の研究:
Facebookのプロフィール写真での笑顔の強度が、現在の人生満足度と相関するだけでなく、2年後の人生満足度の変化まで予測できることが示されました。しかも、この効果は外向性(社交的な性格)とは独立していました。
■■ 注意点
Labroo et al. (2014)は、人によって笑顔の意味が異なることを指摘しています:
・感情表出理論:幸せだから笑う人
・感情調整理論:幸せになろうとして笑う人
ただし、写真撮影の場面では「そのときの感情を表現する」という期待が強いため、この問題は比較的小さいと考えられます。
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▼ 3. 経験サンプリング法(ESM)
■■ 方法の説明
ESMは、参加者が1日に数回(通常4〜7回)、その瞬間の感情や活動について答える方法です。スマートフォンなどにアラートが送られ、「今何をしていますか?」「今どんな気分ですか?」といった質問に、1分以内で答えます。
■■ 利点
・リアルタイムまたはほぼリアルタイムで報告するため、記憶のバイアスが少ない(Feldman Barrett, 1997; Oishi, 2002)
・繰り返し測定することで、信頼性が非常に高い(通常0.90以上)
・個人内の変動や動的なプロセスを調べられる
■■ 妥当性の検証
Wirtz et al. (2003)の春休み研究が興味深い結果を示しています:
学生たちの春休み前・中・後の感情を追跡した結果、春休み中のESM報告は「同じような休暇をまた過ごしたいか」という質問とは全く関連がありませんでした。一方、休暇の記憶だけが「また同じ経験をしたいか」を予測しました。
これは、カーネマン(Kahneman, 2010)が言う「経験効用」と「記憶効用」の違いを示しています:
・経験効用:体験している最中の楽しさ(ESMが捉える)
・記憶効用:体験をどう記憶しているか(従来の質問紙が捉える)
■■ 限界
・参加者にとって負担が大きい(頻繁な回答が煩わしい)
・反応性効果:測定自体が幸福度を変えてしまう可能性(Conner & Reid, 2012)
・特定の人々(几帳面で生活が安定している人)に偏る可能性
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▼ 4. 日常再構成法(DRM)
■■ 方法の説明
DRM(Kahneman et al., 2004)は、前日の活動を詳細に思い出してもらい、各エピソードの場所、時間、そのときの感情を記録する方法です。ESMの豊富さと、1回の測定で済む便利さを兼ね備えています。
■■ 妥当性の証拠
・個人差の研究:うつ病患者は健康な人よりもDRMでネガティブ感情が多く、ポジティブ感情が少ない(Bylsma et al., 2011)
・外向性とポジティブ感情の関連も再現された(Srivastava et al., 2008)
・1日の感情の変化パターンがESMと同様に現れる(Daly et al., 2011)
■■ ESMの代替になるか
Dockray et al. (2010)は、DRMとESMを直接比較し、両者の相関が約0.60(信頼性を調整する前)であることを示しました。これは、DRMがESMとかなり同等の情報を提供できることを示唆しています。
■■ 短縮版DRM
Anusic et al. (2016)は、すべてのエピソードではなく、ランダムに選ばれた一部のエピソードだけを評価する短縮版を開発しました。この方法でも元のDRMと同等の結果が得られることが示されています。
■■ 注意点
・DRMも記憶に基づくため、ESMのような「経験効用」ではなく「記憶効用」を測定している可能性がある
・活動の持続時間で感情を重み付けする慣行があるが、心理的な時間と実際の時間が同じ単位で測れるかは疑問