はぴテク相談室:若者の生きづらさの概念化に向けた一考察
最近、なんとなく毎日が重くて…。頑張らないといけないのはわかってるんですけど、何のために頑張ってるのかよくわからなくなってきて。周りも同じように悩んでる気がするし、これって私だけじゃないのかなって思って相談しました。
相談してくれてありがとうございます。その「なんとなく重い」感覚、実はとても多くの若い人が感じていることで、研究者たちも真剣に向き合っているテーマなんですよ。横浜市立大学の原先生たちが「若者の生きづらさ」を学術的に整理しようとした論文があって、その視点がとても参考になるんです。
研究されてるんですね。でも、生きづらさって人それぞれじゃないですか?ちゃんと定義できるものなんですか?
そこがまさに論文の出発点なんです。「生きづらさ」って日常でよく使われる言葉なのに、実は何を指しているのかが曖昧なまま使われている、と研究者も指摘しています。論文では、生きづらさを「個人化した『社会からの漏れ落ち』の痛み」と表現しています。つまり、本来は社会全体で受け止めるべき問題が、気づかないうちに「あなた個人の問題」にすり替えられてしまっている状態、ということですね。
「社会の問題が個人の問題にすり替えられる」…どういうことですか?
たとえば、「頑張れば誰でも成功できる」「うまくいかないのは努力が足りないから」みたいな考え方が広まっていますよね。これを研究では「新自由主義による個人化」と呼んでいます。社会の構造や環境の問題も、「自己責任」として個人に押し付けられやすくなっている、ということです。その結果、しんどくなっても「自分がダメなんだ」と感じてしまいやすい状況が生まれているとされています。
確かに…。就職とか将来のこととか、「自分次第でしょ」みたいに言われると、余計プレッシャーで。
そうですよね。論文では、若者の生きづらさが生まれる背景として、大きく3つの要素が重なっていると整理しています。①新自由主義的な社会が「個人への要求」をどんどん高くしていること、②雇用や社会環境の不安定さから来る「将来への不安」が大きいこと、③その「高い要求」と「不安定な現実」のギャップ、この3つが重なって生きづらさが生まれている、という見方です。
不安って、確かにすごく感じます。頑張らないとご飯も食べられなくなるよ、みたいな話もよく聞くし。
その不安、すごくリアルに感じますよね。ただ、データを見てみると、たとえば令和5年の統計では、食料不足が直接の原因で亡くなった方は年間20人という数字があります。もちろん1人でも減らすべき大切な問題ですし、様々なサポートをしてくださっている方々のおかげでもあるのですが、「必ず自分がそうなる」と過度に恐れるような数字ではないかもしれません。また、日本の完全失業率も長期的には低下傾向にあるというデータもあります。
そうなんですね…。なんか、思ってたより怖い状況じゃないのかも。でも、じゃあなんであんなに不安になるんでしょう?
それは、メディアやビジネスが「不安をあおる情報」を発信しやすい構造になっている影響も少なくない、という指摘もあります。「危機感を持て」「このままでは遅れをとる」みたいなメッセージって目に入りやすいですよね。不安をモチベーションにすることは幸福度を下げやすく、一方で「こうなりたい!」という前向きな動機をモチベーションにすることは幸福度と関連しやすい、という研究知見もあります。
「不安から頑張る」より「こうなりたいから頑張る」の方がいい、ということですか?
そう言われています。ただ、これは「不安を感じるあなたがダメ」ということでは全くありません。むしろ、社会の構造がそういう不安を生みやすくなっている、というのがこの研究の視点です。あなたが感じている重さは、個人の弱さではなく、今の社会環境と深く関わっている可能性がある、ということですね。
そう聞くと、少し楽になった気がします。自分がおかしいんじゃなくて、社会の仕組みの影響も受けてるんだって。
そうです。「生きづらさは個人の問題ではなく、社会との関係の中で生まれている」というのがこの研究の大切なメッセージです。自分を責めすぎず、「自分はどうなりたいか?」という小さな問いを日々の中に持てると、少しずつ気持ちが変わってくることもありますよ。あなたが感じてきたことは、ちゃんと意味のある感覚です。
■ 今日のまとめ
- 若者の生きづらさは個人の弱さではなく、「社会からの高い要求」「現実の不安定さ」「そのギャップ」という社会構造的な要因が重なって生まれている可能性が、研究によって示されています。
- 「頑張らないと食べていけない」などの強い不安は、メディアや社会の情報環境にも影響されている面があります。実際のデータと照らし合わせながら、過度な恐れになっていないか立ち止まって考えてみることも大切です。
- 不安をモチベーションにすることよりも、「こうなりたい!」という前向きな動機を持てる状態の方が幸福度と関連しやすいという知見があります。自分がどうありたいかという視点を日常に取り入れてみましょう。
■ 出典・注意事項
- 【出典】原広司・根本裕太郎・永吉真子・奥村春香「若者の生きづらさの概念化に向けた一考察」横浜市立大学論叢社会科学系列 2024年度 Vol.76 No.1 https://ycu.repo.nii.ac.jp/records/2003395
- 【参考データ】厚生労働省「完全失業率の推移」https://www.mhlw.go.jp/stf/wp/hakusyo/kousei/19/backdata/01-01-03-32.html
- 【参考データ】e-Stat「食料の不足による死亡数(令和5年)」https://www.e-stat.go.jp/
- 【注意事項①】本論文は社会学的な概念整理・文献レビューを中心とした考察論文であり、生きづらさと社会構造の関係を因果として断定するものではありません。
- 【注意事項②】「不安モチベーションと幸福度」の関係は相関として示されている研究知見であり、不安を感じることが直接幸福度を下げると断定するものではありません。
- 【注意事項③】本論文の考察は主に日本の若者を対象とした社会的文脈に基づいており、すべての個人や状況に一般化できるものではありません。
研究自体の紹介はこちら😊
若者の生きづらさの概念化に向けた一考察
https://wellbeing-archive.pages.dev/posts/2025-03-12-1741814650/