はぴテク相談室:道徳教育はどうあるべきか。
最近、子どもの道徳教育について考えることが多くて。学校で道徳の授業はあるみたいなんですけど、なんか「正しいことをしましょう」って教え込まれるだけで、本当に意味があるのかな?って疑問を感じているんです。
とても大切な疑問ですね!実は日本の道徳教育も近年大きく変わってきているんですよ。2024年に発表された「道徳教育論と推論主義」という論文でも、まさにその問題が取り上げられています。以前は「こうしなさい」と価値観を教え込む授業が主流でしたが、今は道徳的な考察や話し合いを促す方向にシフトしてきているんです。
へえ、変わってきているんですね。でも、話し合いをするといっても、子どもたちがちゃんと道徳的に考えられるようになるのか、まだ不安で…。
その不安はよくわかります。この論文も「話し合い型の授業になってきたはいいけれど、その話し合いや規範教育のやり方にはまだいろいろ問題がある」と指摘しているんです。ただ話し合わせるだけでは不十分、ということですね。
じゃあ、どうすればいい話し合いができるんでしょう?
ここで論文が注目しているのが「推論主義」という考え方です。ロバート・ブランダムという哲学者が提唱したもので、簡単に言うと「言葉の意味は、それがどんな文脈でどんな推論に使われるかによって決まる」という考え方です。道徳の言葉、たとえば「やさしくする」「公平にする」といった言葉の意味も、話し合いの中でお互いに理由を出し合い、考え合うプロセスで初めてしっかり理解できる、ということなんです。
なるほど、つまり「やさしくしましょう」と言葉だけ覚えても意味がなくて、なぜやさしくするのか、どんな場面でどう考えるか、を話し合うことが大事ってことですか?
まさにその通りです!論文ではさらに、ブランダムの推論主義だけでは道徳教育に使うには限界があるとも述べています。そこでジョン・マクダウェルという別の哲学者の「道徳感性論」という考え方も取り入れています。これは「道徳的に正しいことを見抜く感覚・感性」のことで、論理的な推論だけでなく、場面や状況を感じ取る能力も道徳には必要だという視点です。
感性って、なんか生まれつきのものじゃないですか?それって教育で育てられるんですか?
良い質問です!この論文では、その感性も話し合いや推論のプロセスを通じて育てていけるものだと考えています。ただし、マクダウェルの元々の理論には道徳教育にそのまま使うには合わない部分もあるため、論文では「若干の修正を加えながら」取り入れる、と述べています。完成された理論を押しつけるのではなく、議論しながら感性を磨いていくイメージですね。
つまり、道徳って正解を教え込むんじゃなくて、一緒に考えて感覚を育てていくものだということですか?
その理解がとても近いと思います。論文の提案をまとめると、①道徳の授業では理由を出し合う「推論的な話し合い」を大切にすること、②言葉の意味を文脈や推論の中で理解させること、③論理だけでなく道徳的な感性も話し合いを通じて育てていくこと、の3つが重要だとされています。
子どもに道徳を教えようとするとき、つい「これが正しい!」って言いたくなるんですけど、それよりも「なんでそう思う?」って問いかける方が大事なのかもしれませんね。
素晴らしい気づきです!「なぜそう思う?」「もし違う立場だったら?」と問いかけることで、子どもが自分で推論し、感性を磨いていく場をつくれるということですね。この論文はまさにそういった「話し合いと推論を中心にした道徳教育のあり方」を哲学的な土台から丁寧に提案しています。
なんか道徳教育って難しく考えすぎていたかもしれません。日常の会話の中でも実践できそうな気がしてきました!
そうですね!難しい哲学の話も、結局「一緒に考える場をつくる」という身近なことにつながっているんです。ただ、この論文はあくまで哲学・理論的な提案ですので、実際の教育現場でどこまで効果があるかはこれからの検証が必要な部分もあります。それでも、教え込み型から対話型への転換という方向性は、道徳教育を考えるうえでとても参考になる視点だと思います。
■ 今日のまとめ
- 道徳教育は「正解を教え込む」方式から、理由を出し合い話し合う「推論的な対話」を重視する方向へ変わりつつある
- ブランダムの推論主義によると、道徳的な言葉の意味は話し合いと推論のプロセスの中で初めてしっかり理解できる
- 論理的推論だけでなく、マクダウェルの道徳感性論を取り入れ、場面・状況を感じ取る感性も対話を通じて育てることが重要とされている
■ 出典・注意事項
- 出典:鈴木(2024)「道徳教育論と推論主義」『科学基礎論研究』51巻1-2号, pp.37-(JSTage掲載)https://www.jstage.jst.go.jp/article/kisoron/51/1-2/51_37/_pdf
- 注意事項①:本研究は哲学・理論的考察であり、実際の教育現場での効果を実証した研究ではありません。理論的提案として参照してください。
- 注意事項②:ブランダムの推論主義やマクダウェルの道徳感性論は、それぞれ本来の文脈では道徳教育を直接扱っていない理論であり、著者が「一定の限界がある」と明示したうえで拡張・修正して適用しています。
- 注意事項③:論文は日本の道徳教育の文脈を中心に論じており、他の文化・教育制度への一般化には注意が必要です。
研究自体の紹介はこちら😊
道徳教育はどうあるべきか。
https://wellbeing-archive.pages.dev/posts/2024-04-29-1714400330/