2024.03.03

ウェルビーイング指標の政策利用

というレポート。

面白い!

やっぱり国や自治体レベルになると、主観的指標と客観的指標を組み合わせることって、大事だなぁ。

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ウェルビーイング指標の政策利用―有用性と懸念への対処

独立行政法人経済産業研究所,2024/2

https://www.rieti.go.jp/jp/publications/summary/24020006.html

概要

本稿では、ウェルビーイング指標の政策利用という文脈における近年の研究の主張をレビューしたうえで、各種のウェルビーイング指標が持つ有用性と懸念点の両方を要約する。まず、ウェルビーイングを測定するための各種アプローチとして、SWB指標、OECD Better Life Index (BLI)、将来世代のウェルビーイングを維持することを目的とした新国富指標 (IWI)、表明選好法による各側面の重要度の推定手法についてレビューし、これら各指標の特徴や利点を整理する。そのうえで、効用とSWBに乖離が存在すると主張する近年の研究結果をもとに、SWBを人々の豊かさの指標として用いる際の手法的・規範的な懸念を指摘し、その指摘に対する対処方法を紹介する。さらに、自己申告の主観的回答から導かれる満足度の指標が、どのような分野において客観的水準と強く関連しているかを、データ分析を通して検証する。これらのレビューに基づく知見およびデータによる検証結果を踏まえ、ウェルビーイング指標が持つ懸念を明らかにし、それらの実務的対処法を提示することで、ウェルビーイングを政策利用していく上での現実的な指針を提供する。

6. 結論

本研究では、近年のウェルビーイングの政策利⽤における関⼼の⾼まりを受けて、ウェルビーイングの各指標を政策に利⽤する上での利点および懸念点をレビューした。レビューの結果から、主に SWB の平均⽔準を⽤いた国や地域の豊かさの測定アプローチに対して、⼿法的・規範的な懸念が存在し、それらに対して各種の対処が可能であることを明らかにした。また、データを⽤いた検証から、主観的満⾜度と客観指標との相関が強い分野・弱い分野をそれぞれ特定し、主観的指標と客観的指標を互いに補完しあいながら利⽤することが重要であることを明らかにした。さらに、ワークライフバランスや休養など主観的指標と客観的指標との相関が弱い分野では、主観的指標が捉える側⾯に⼗分注意する必要があることを⽰した。これらの項⽬は、適切な客観的指標を⾒つけることが難しい項⽬であるとも解釈できる。

SWB と効⽤の間には、先⾏研究のレビューおよびデータの検証の双⽅から、分野によって乖離が存在することが⽰唆された。こうした乖離から、SWB といった主観的指標を過度に信頼したり、逆に効⽤や選択のみに着⽬したりするのではなく、それぞれの指標が捕捉できる異なる側⾯を明らかにしながら、ウェルビーイングの包括的な理解を進めるために双⽅を補完的に利⽤していくべきである。

本研究には、いくつかの限界が存在する。まず、主観指標と客観指標の⽐較としての空間レベルが適しているかどうかという問題である。居住や仕事などの要素は、都道府県という⾏政単位ではなく、通勤圏といった⼈々の実質的な⽇常⾏動範囲に影響を受けると考えられる。したがって、通勤圏単位での分析も視野に⼊れるべきである。しかし、今回は統計データの⼊⼿の容易さと種類の豊富さから都道府県単位を選択した。また、利⽤した主観的質問が、ターゲットとなる客観⽔準に対応した指標であるかどうかが明らかではない。例えば、仕事満⾜度のような分野別満⾜度は、その指標が仕事におけるやりがい、報酬の⾼さ、継続性などどのような要素を捉えているか、指標の⽔準に着⽬しただけではわからない。今回は、健康満⾜度は地域レベルの⻑⽣きの⽔準よりも、⽇々の健康な⽣活習慣に強く関連することが分かった。今後の研究として、各分野における満⾜度がどのような要素を強く反映しているかをさらに検証していく必要がある。

表1 ウェルビーイングの測定の各種アプローチと特徴 ウェルビーイング測定アプローチ | 特徴 | 文献 ---|---|--- 主観的ウェルビーイング(SWB: Subjective Well-Being) | - 主観的回答 - 国や地域レベルの平均値を指標として利用 - SWB を被説明変数とする回帰分析を行うことで、様々な要因の影響を検証可能 | (Helliwell et al., 2023) 人間開発指数(HDI: Human Development Index) | - 客観的水準 - 経済状態に加え教育と健康面を測定 | (UNDP, 2023) より良い暮らし指標(BLI: Better Life Index) | - 客観的水準+主観的回答 - 11 の分野の水準にウェイトを付して認計 - 各分野の水準には、客観的水準と主観的状態の双方が関わっている - 各分野の重要度を表すウェイトは、ウェブサイト訪問者の主観的回答の平均値を利用 | (OECD, 2020) 新国富指標(IWI: Inclusive Wealth Index) | - 客観的水準(場合によって主観的ウェイトを利用) - 自然資本、人工資本、人的資本をストックとみなし、世代を超えたウェルビーイングを構成する要素となす - 各資本が世代を超えたウェルビーイングに与える限界効果をシャドウプライスとして設定 - 各資本と絶対した新国富指標が減少していない状態を、持続可能であると判断 | (UNEP, 2023) 表明選好法(Stated Preference) | - 仮想的な選択から推定される選好 - ウェルビーイングを構成する要素間のトレードオフに着目 - 様々な要素がウェルビーイングに与える限界効果を推定 - 100 以上の多種の要素のウェイトをアンケートから推定することが可能 | (Benjamin et al., 2014) 表2 分野別満足度の項目と比較対象となる客観指標 満足度の分野 客観指標 客観指標の参照元 収入 1人当たり所得(2015年) 社会・人口統計体系 賃金(2015年) 仕事 離職率(2015年) 届出動向調査 教育 数学Aの点数(2015年) 全国学力学習状況調査 国語Aの点数(2015年) 中学校調査 健康 健康寿命(男女別)(2016年) 社会・人口統計体系 喫煙率(2016年) 国民健康・栄養調査 塩分摂取量(2016年) 治安 刑法犯認知件数(2015年) 社会・人口統計体系 余暇時間 休養時間(男女別)(2016年) 社会・人口統計体系 ワークライフバランス 労働時間/自由時間(男女別) 社会・人口統計体系 (2016年) (a) 収入 (b) 仕事 (c) 教育 (d) 健康 (e) 治安 (f) 余暇時間 (g) ワークライフバランス Income Work Education Health Safety Leisure Work-Life Balance 図1 各分野別満足度の都道府県別平均水準 © Statistics Bureau, Ministry of Internal Affairs and Communications 表4 分野別満足度と客観指標の相関係数 分野別満足度 収入 仕事 教育 健康 治安 余暇 ワークライフバランス 1人当たり所得 0.321 -0.037 0.062 -0.016 -0.468 -0.230 -0.110 賃金 0.310 -0.096 -0.222 -0.090 -0.798 -0.177 -0.265 (一) 離職率 0.260 0.316 0.165 0.278 -0.191 0.221 0.147 数学A 0.111 -0.165 0.484 0.044 -0.017 -0.214 0.070 国語A -0.189 -0.306 0.366 -0.273 0.109 -0.342 -0.061 健康寿命(女性) 0.133 0.117 -0.094 -0.023 0.031 0.062 -0.010 健康寿命(男性) 0.123 -0.096 -0.126 -0.124 -0.252 -0.216 -0.126 客観指標 (一) 喫煙率 0.133 0.206 -0.044 0.431 -0.053 0.237 0.164 (一) 食塩摂取量 0.191 0.197 0.006 0.301 -0.058 0.117 0.064 (一) 刑法犯認件数 -0.320 0.095 0.250 0.027 0.862 0.163 0.302 休養時間(女性) 0.024 -0.047 0.065 0.119 0.319 0.164 0.081 休養時間(男性) -0.026 0.196 0.151 0.140 0.645 0.275 0.293 労働/3次活動(女性) -0.487 -0.051 0.050 -0.364 0.520 -0.065 0.091 労働/3次活動(男性) 0.018 -0.070 0.027 -0.010 -0.251 -0.041 0.106 表5 分野別満足度と客観指標の相関 分野別満足度 客観指標 相関係数 相関の強さ 治安 刑法犯認件数 0.862 高 教育水準 数学Aの点数(中学校) 0.484 健康 喫煙習慣のある人の割合 0.431 女性0.164; 所得 1人当たり県民所得 0.321 男性0.275 仕事 離職率 0.316 余暇時間 休養くろつきの平均時間15歳以上 女性0.164; 男性0.275 ワークライフ 仕事の平均時間(有業者)/3次 女性0.091; バランス 活動の平均時間(有業者) 男性0.106 低 表6 生活満足度を被説明変数とした回帰分析結果 OLS 順序ロジット 生活満足度(1-5) 生活満足度(1-5) 分野別満足度 収入 0.263*** 0.731*** (0.0020) (0.0060) 仕事 0.116*** 0.292*** (0.0022) (0.0062) 教育 0.0712*** 0.244*** (0.0028) (0.0078) 健康 0.119*** 0.325*** (0.0021) (0.0058) 治安 0.0313*** 0.118*** (0.0026) (0.0071) 余暇時間 0.118*** 0.333*** (0.0025) (0.0068) ワークライフバランス 0.103*** 0.290*** (0.0028) (0.0079) ln(世帯年収) 0.0242*** 0.0553*** (0.0028) (0.0077) N 195194 195194 R² 0.421 Pseudo R² 0.216 ***p<0.01。都道府県固定効果および、コントロール変数として、性別、年齢、年齢の二乗項、既婚ダミー、大卒ダミー、子供の有無ダミーを含めているが、係数は省略している。
メタ分析・レビュー 研究方法論・指標地域・自治体ウェルビーイング主観的幸福・幸福測定

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