はぴテク相談室:制度より先に、やることがあった話
はぴテクさん、聞いてください。うち、小さい会社なんですけど、去年から「社員の幸せ」に力を入れてるんです。カフェスペース作って、記念日休暇作って、ジム補助も出して。でも…社員があんまり幸せそうに見えないんですよ。
それだけやって手応えがないと、へこみますね。ちょうどいい研究があります。「社員が幸せな会社」として有名な日本企業7社(伊那食品工業やサイボウズなど)の経営者と社員21人にインタビューして、「社員が幸せになっていく順番」を調べた論文です(豊川・保井・前野, 2026)。
順番?幸せに順番なんてあるんですか?
あったんです、4段階。で、いきなり核心ですが…福利厚生の刷新が出てくるのは、4段階のうち最後の段階なんですよ。
えっ。最後!?じゃあ私、最後からやってたってことですか。
可能性はありますね(笑)。第1段階は「共鳴」。経営者が「自分にとって幸せとは何か、なぜこの会社をやるのか」を語っていて、それが社員自身の幸福感と重なる。「この会社の目指す世界、いいな」と思えること。ここが出発点でした。
うっ…。理念、いちおうホームページには載ってますけど、私の口から語ったことはあんまりないかも。
7社の経営者は逆で、しつこいくらい繰り返し語って、社員と目線合わせをしていました。すると第2段階、「信頼形成」が起きます。この論文、面白い表現が出てくるんですよ。経営者と社員の間に「家族のような愛情」が生まれる、って。
家族のような愛情!会社でですか?
はい。たとえばある社長さんは、社員が悩んで顔色が悪いのを見て、2万円渡して「はい、これで遊んできて。仕事しちゃダメ。パソコン預かるから」って(笑)。誕生日に「おめでとう」を言う、悩みを直接聞く、他愛ない雑談をする。制度じゃなくて、一人の人としての関わりです。
それ、制度より全然お金かかってないですね…。私、社員の誕生日、正直把握してないです。
そこなんです。この研究で経営者側に共通していたのは「観察と気遣い」でした。社員の調子を直接見る、一人ひとりの想いを傾聴する。カフェスペースは会社が社員を「見る」代わりにはならないんですよね。
耳が痛い…。で、第3段階は?
「社員同士の活動」です。ここで面白いのが順番でして。まず経営者と社員のタテの信頼ができて、その安心感の上で初めて、社員同士のヨコの関係——部署を超えたつながり、悩みの相談、切磋琢磨——が花開く。逆じゃないんです。
あー…。実は前に「社員同士の交流会」を企画したら、全然盛り上がらなくて。あれ、土台がないのにヨコだけ作ろうとしてたのか。
その解釈は合っていそうです。研究では、心理学のLMX(上司と部下の関係の質の理論)とTMX(仲間同士の関係の質の理論)という2つの視点で分析していて、タテの関係の質が高まってからヨコの関係の質が育つ、という流れが描かれています。
なるほど。で、最後の第4段階でやっと福利厚生と。
正確には、第4段階は「風土」です。社員が自律的に動き、互いに賞賛し合い、そして「社会的貢献感」——自分は社会とつながっていて役に立てている、という感覚——を持つ。この貢献感が、幸せな会社を構成する大きな要因だと論文は結論づけています。福利厚生の刷新は、その風土の中で「社員のニーズに合わせて」行われるから効くんです。
うちのジム補助、誰のニーズも聞かずに私が決めました…。じゃあ私、明日から何をすれば?
壮大なことじゃなくていいんです。まず、自分がなぜこの会社をやっているのか、何を幸せと考えるのかを、自分の言葉で一度話してみる。そして一人ひとりと雑談する時間を作って、聞くことに徹する。7社がやっていたことの入口は、実はそれだけです。
それなら明日からできます。制度は…作っちゃったものはどうしましょう(笑)
やめなくていいですよ(笑)。順番が違っただけで、無駄ではないです。関係性という土台ができれば、いま空回りしている制度たちも後から効いてきますから。ひとつ注意点だけ。この研究は成功した7社の共通点を描いたもので、「この順番でやれば必ず幸せになる」という証明ではありません。ただ、地図としてはかなり具体的です。
地図、ですか。いい言葉ですね。まず私が歩き出さないとダメってことだ。明日、朝イチで理念の話…はちょっと重いから、まず雑談から始めます!
それが正解だと思います(笑)。幸せな会社は、仕組みの前に関係性から。応援していますね。
■ 今日のまとめ
- 社員の幸せには順番がある。①経営者の幸福観への共鳴 → ②タテの信頼(家族のような愛情) → ③社員同士のヨコの活動 → ④自律・貢献・賞賛の風土。福利厚生の刷新は最後に効いてくる
- 入口は制度ではなく「観察と気遣い」。悩みを直接聞く、雑談する、一人ひとりを見る——経営者の人としての関わりが土台になる
- カギは「社会的貢献感」。自分は社会とつながり、役に立てているという感覚が、幸せな会社の大きな構成要因
■ 出典・注意事項
- 豊川真美・保井俊之・前野隆司(2026)「M-GTAを用いたWell-being経営実践プロセスの構造化―Well-being実践卓越企業7社を対象に―」日本システムデザイン学会誌, Vol.6, No.2, pp.27-40
- 本研究はwell-being経営の卓越企業7社(経営者・従業員21名)へのインタビューをM-GTA(質的データからプロセスを理論化する分析手法)で分析したものです。成功事例からの構造抽出であり、因果関係の証明ではありません
- 対話中のエピソード(2万円の件など)は論文掲載のインタビュー発言に基づきますが、相談者とのやり取りは理解のための創作です
- 相談者を「経営者側」にしましたが、「福利厚生のいい会社に入ったのにモヤモヤしている社員側」からの相談に組み替えることもできます。調整があればどうぞ。
論文の紹介はこちら
日本の超幸せ企業ができるまで。
ー伊那食品工業、ネッツトヨタ南国、生活の木、サイボウズ、西精工、石坂産業、CRAZYー
https://wellbeing-archive.pages.dev/posts/2026-07-30-1785397080/