2026.06.28

貧しくても幸せな人々の秘訣

一般的には、ある程度までの収入や豊かさは、幸せにつながる。
とも言われていますが、
一方で、かなり経済的には貧しいが、幸せな人たちがいます。
そんな方々について、これまでの研究を整理頂いた、最新研究😍
対象は主に、
先住民・伝統的集団(ケニアのマサイ族等)
都市の最貧困層(インドのスラム住人等)
農村部の小規模農家(中国やグアテマラ等)

そこには6つのキーポイントがありました。
①人間の欲求、つながりが満たされている
→肩を寄せ合う良好な人間関係が幸せを支えていた
②厳しい状況にも適応する
→人は厳しい状況が続くとそれに適応し、小さな喜びを見つけられるようになる
③期待値が高くない
→「持っているもの」と「欲しいもの」のギャップが極めて小さい
(SNSで上ばかり見て、欲しいものばかり刺激される。のと真逆ですね😅)
④焦点の錯覚(貧困≠不幸)
→そもそも貧困=不幸、というところが間違っているのでは?
⑤独自の文化を大切にしている
→独自の世界観や文化が幸せにつながる
→チベットの仏教との「足るを知る」精神や、ボリビアのチマネ族のアニミズム的文化など。
⑥まだ資本主義に飲み込まれていない
→資本主義による貨幣化がまだ来ていない。
→一部地域では貨幣化が進んだり、農村部→都市部への移住が幸福度を下げる。
→自分の働きの成果を直接味わえる自給的な活動(狩猟、農業など)が幸福度の下支えも。

だから原始的な生活に戻ろう!という訳ではないですし、
原始的な生活をしていて不幸せ、という地域も多々あると思います。
ですが、今回のような貧しいけど幸せ、という人の調査を見ると、
幸せの本質が見えてくるような気がしますね😊
つながり、比べない、文化や精神性を大切にする、などですね😍

ちなみに、前野先生、大野先生らによる「Feelings of Personal Relative Deprivation and Subjective Well-Being in Japan(日本における個人的相対的剥奪感と主観的幸福感)」も参考文献に入っています😊
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「幸福と貧困」のパラドックス:なぜ貧しい人々の中には、非常に幸福だと報告する人がいるのか?
The “Happy and Poor” Paradox: Why Do Some Poor People Report Being Very Happy?
Applied Research in Quality of Life ,2026/6/26
Jorge Guardiola(グラナダ大学,スペイン) et al.
https://link.springer.com/article/10.1007/s11482-026-10637-z
このレビューでは、貧困を経験しながらも高いレベルの幸福を報告する人々の明らかなパラドックスを探究します。これは、従来の経済学の仮定に挑戦する現象です。次の質問に答えることを目指します。(1) 「幸福で貧しい」現象に関するこれまでの文献の特徴と主な発見は何ですか?、(2) その発生の主な説明は何ですか? そのため、PRISMA ガイドラインに従って、さまざまな地理的および社会経済的コンテキストを網羅する 40 の研究の結果を統合します。選択された論文の詳細な分析に基づいて、提起された研究課題に対して次の回答を提供します。(1) 幸福で貧しい人々の証拠は主にグローバル サウスから得られています。既存の研究は大部分が実証的であり、さまざまな幸福と貧困の尺度を使用しています。 (2)この状況に対する6つの異なる説明を特定した。(a)幸福な人々も貧しい人々も、依然として人間のニーズを満たし、生活の重要な領域で満足感を得ることができる、(b)彼らは困難に適応している、(c)彼らは強い願望を持っていない、(d)科学者や政策立案者は彼らの幸福を誤って判断している、(e)幸福な人々も貧しい人々も、彼らの幸福を育む文化制度を享受している、(f)発展(または不発展)の過程は彼らの文化制度を侵食していない。

「貧困だが幸福」のパラドックス 厳しい物質的欠乏の中にある人々が、 なぜ高い幸福度を報告するのか? 40の学俸研究から組解く6つの理由 体系的な文献レビュー(PRISMA)に準ずサイト 伝統的な経済指標と物質的な富 経済的豊かさと物質的豊かさの逆説。ぜひとも幸福度と相関しない。 GDP成長率 (%) GDP成長率 所得格差 物質的消費 コミュニティと有機的な幸福 自他との調和と暮いコミュニティの幸福が、伝統的幸福感を主治する。 社会的つながり 100 75 50 25 0 自他との生活 100 75 50 25 0 コミュニティの幸福 100 75 50 25 0 社会的つながり 自他との生活 コミュニティの幸福 欧米的な「科学的常識」の限界と矛盾 伝統的な経済学は「物質的困難=不幸」とみなすが、現実はもっと単純ではない。 【否定的な見方】 「鳥かごの楽園」- A. Michalos 「幸福な奴隷」- A. Sen (絶望的な状況への適応に過ぎないという批判) 極度の物質的欠乏 (貧困) 高い主観的幸福度 (SWB) 【肯定的な見方】 「幸福は楽園は不要」- R. Veenhoven 「先住民のパラドックス」- N. Biddle 本レポートの目的:この現象の実態と、その背後にある「なぜ?」を体系的に解明すること。 40の文献から抽出された厳密なデータ基盤 主観的幸福と物質的剥奪の両方を測定した実証研究をシステマティックにレビュー。 文献抽出プロセス(PRISMA) Scopusデータベース検索から特定された記録 (n = 1759) Web of Scienceデータベース検索から特定された記録 (n = 1130) 重複除去後の総記録 (n = 1728) タイトルと片書をスクリーニングし、包含・除外基準に照らして無関係な論文を除去、1559件の除外 (n = 169) 全文を分析し、包含・除外基準に基づいて関連除外論文を除去、無関係な論文を除去 (n = 129) n = 40 調査対象文献 2001年 現在 時間 厳選された40の学術研究(論文36、書籍4)。大半が2001年以降に発表。 幸福度の多様な指標 幸福度 (27.5%) 生活満足度 (40%) 生活領域 (32.5%) 貧困の定義 所得の低さだけでなく、 『主観 的困窮』 「基本ニーズの欠如」を 採用。 スラム居住や生活と、深化不 安といった『圧倒度の困難戦 闘』 を含した研究が多数。 貧困の定義には物質的剥奪のため、所得的貧少量性からきしい、それらまいには見える施養を確定。 グローバル・サウスに集中する「豊かさ」の例外 報告された92のケースのうち、約半数がラテンアメリカに存在し、次いでアジア、アフリカに分布する。 Country where happy and dock people were found Developed country used to make comparisons on well-being and happiness Country in which at least one of the studies conducted makes comparisons with other countries (developed or non-developed) Income Distribution 43 countries 50% 40% 30% 20% 10% 0% 31 countries 13 countries 10 countries Low income Lower-middle Upper-middle High income income income 【インサイト】 ・調査対象国の85%以上が「低・中所得国」。 ・先進国における特例は、豊民、アーミッシュ、 先住民など独自の非西洋文化を持つマイノリティ 集団に限定される。 ・厳の例外:先進国からマジョリティ文化で該 当したケースは日本(Ohno et al., 2023)のみ。 多様な文脈を持つ当事者たち 対象となるコミュニティは多岐にわたるが、極度の物質的欠乏という共通点を持つ。 【1. 先住民・伝統的集団】 ボリビアのチマネ族、ケニアのマサイ族、グリーンランドのイヌイットなど。 自然と密接に関わる自給自足の生活圏。 【2. 都市の最貧困層】 インド・カルカッタのスラム住人、ガーナの高層住、ニカラグアのゴミ拾い従事者。 市場経済の最底辺における権度の物質的欠乏環境。 【3. 農村部の小規模農家】 中国やグテテマラ(マヤ民族)の農村部。 都市化や市場経済化から一定の距離を置いた生活様式。 Ethnographic Dashboard パラドックスを解き明かす6つのアプローチ 幸福を支える メカニズムは単一ではない。文献調査から、心理的衛生から文化的豊かさまで、主に6つの説明(a〜f)が提唱されている。 ① 人間の欲求 (Human Needs) 所得では買えない 「関係性」 ② 適応 (Adaptation) 絶望を生き抜くための心理的調整 ③ 期待値 (Aspirations) 比較対象が限定された世界 ④ 焦点の錯覚 (Focusing Illusion) 研究者(WEIRD)側のバイアス ⑤ 文化 (Culture) 精神と共同体を豊かにする制度 ⑥ 課開発の未達 (Maldevelopment) 資本主義的侵食からの保護 NotebookLM 説明①:所得では買えない「関係性」の力(Human Needs) 生活満足度 おお金 社会的サポート・ 人間関係 極限状態において、強固な人間関係は物質的欠乏を補う決定的な代替手段となる。 概含:人間の基本的欲求(自律性、有能さ、関係性)や重要な「生活領域」が満たされていれば、全体的な幸福度は高くなる。 実証データ:カルカッタやコーナーのスラム住人の調査では、良好な社会的サポートが幸福を支える最大の要因であった。 インサイト:所得の増加が必ずしも欲求の充足に直結するわけではない。ニカラグアの事例では、収入増のために労働時間を増やさずに、逆に幸福度が下がる逆相関が確認されている。 NoteBookLM 説明②・絶望を生き抜くための「適応」(Adaptation) 人は厳しい状況が続くとそれに適応し、期待を下げ、小さな喜びに満足を見出すようになる。 ・機念:アマルティア・セン指摘する「幸福な奴隷」、苦闘的な不当性や抑圧が存在しても、生存のために苦痛を抑止し、主観的幸福度を安定させる心理的防御メカニズム。 ・実証データとのギャップ:この仮説は理論としては妥当に解釈される一方で、同時に実証的に明確した研究は極めて少ない(エチオピアの子供の事例などわかった2件)。 【インサイト】 主観的幸福度が高いからといって、客観的状況が良好であるとは限らない。 過酷な環境 説明③:比較対象が限定された世界(Aspirations) 「持っているもの」と「欲しいもの」のギャップが極めて小さい環境が、幸福を高く保つ。 裕福・近代化社会 巨大な不満ギャップ 現在の状態(Having) 理想・他者の状態
投稿者によるコメント・補足(4件)
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【背景】
■「幸せで貧しい(happy and poor)」というパラドックス
この研究は、「貧しいのに幸福度が高い人々がいる」という、一見すると矛盾した現象を扱っています。
経済学の標準的な理論では、「困窮(=つらい暮らし)と、良い人生を送れているという実感は両立しない」と考えられてきました。だからこそ、この現象は西洋的な科学の視点からは不思議に見える、というのが出発点です。
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■この現象に付けられてきた様々な「呼び名」
同じ現象でも、研究者によって解釈が分かれ、異なる名前が付けられてきました。ここが先行研究の重要なポイントです。
▼否定的な解釈(=その幸福は本物ではない)
・「愚者の楽園(fool's paradise)」
社会学者アレックス・ミハロスの言葉。これらの人々は、自分の人生をポジティブに評価しているが、それは「勘違い」だとする見方です。
(出典:Michalos, 2017)
・「幸福な奴隷(happy slaves)」
ノーベル経済学賞受賞者アマルティア・センの議論。人は厳しい困窮に「適応」してしまい、結果的に満足しているように見えるだけだ、という指摘です。
センは「希望を失った物乞いや、土地を持たない不安定な労働者などでさえ、ささやかな恵みに喜びを見出し、生き延びるために激しい苦しみを抑え込むことができる」と述べています。
(出典:Sen, 1987)
▼中立的・肯定的な解釈
・「幸福に楽園は要らない(happiness needs no paradise)」
社会学者ルート・フェーンホーフェンの言葉。人生の状況が完璧でなくても幸福にはなれる、という見方です。
(出典:Veenhoven, 2005)
・「先住民のパラドックス(the indigenous paradox)」
経済学者ニコラス・ビドルの言葉。解釈に踏み込まず、現象を中立的に呼んだものです。
(出典:Biddle, 2014)
・「幸せな農民と惨めな富豪のパラドックス」
経済学者キャロル・グラハムの言葉。貧しい農民が幸福で、豊かな富豪が惨めだという逆転現象を表しています。
(出典:Graham, 2009)
・「フラストレーションを抱えた成功者(frustrated achievers)」
同じくグラハムらの言葉。収入が増えても、かえって不満(フラストレーション)を感じる人がいる現象を指します。
(出典:Graham & Pettinato, 2002)
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■先行研究の「問題点」(=この研究が必要な理由)
ここが、なぜ著者たちがレビュー(=既存研究をまとめ直す作業)をしたのかの核心です。
・呼び名によって、政治的・思想的な意味合いが大きく異なる
(「勘違いしている」のか「本当に幸福」なのかで、政策の方向性が真逆になります)
・先行研究は、原因や結果についてバラバラの結論に達している
・特に、この現象を直接扱った研究では、提案されている説明の多くが「実証的な裏付け(=データによる検証)」を欠いている
つまり、研究が積み重なっているのに「なぜ貧しい人が幸福なのか」を一貫して説明できていない。この混乱を整理することが、本研究の狙いです。
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■補足:この研究が使った主な理論的土台
後半の6つの説明(人間のニーズ、適応、願望、フォーカシング・イリュージョン、文化、マルデベロップメント)は、それぞれ既存の理論に基づいています。代表的なものを挙げます。
・人間のニーズ理論(Doyal & Gough, 1991)
人が深刻な害を避けるために満たすべき普遍的な要件があるとする理論。
・適応理論/適応的選好(Sen, 1984)
人は困難な状況に慣れてしまい、不満が「受容」に置き換わるという考え。
・多重不一致理論(Michalos, 1985)
幸福度は「持っているもの」と「欲しいもの」のギャップで決まるとする理論。
・フォーカシング・イリュージョン(Schkade & Kahneman, 1998)
ある一つの要素(例:収入)が幸福に与える影響を、過大評価してしまう心理的な錯覚。
・脱植民地化理論など(Polanyi, 1944 ほか)
発展や資本主義が、地域社会の幸福を支える文化を壊してしまうという視点。

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【研究内容】
■研究の目的(2つの問い)
この研究は、「貧しいのに幸福度が高い」現象について、既存研究を整理し直す「システマティック・レビュー(=決められた手順に従って文献を網羅的にまとめる研究)」です。
著者たちは、次の2つの問いに答えようとしました。
・問い1:これまでの研究は、どんな特徴(出版形態、方法、使われた指標、対象地域など)を持ち、何を明らかにしてきたか?
・問い2:この現象に対して、文献はどんな説明を提示してきたか?
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■方法(どうやって文献を集めたか)
・PRISMA(プリズマ)という国際的な手順に沿って実施
PRISMAとは、文献レビューを公正かつ再現可能に行うための報告ガイドラインです。
・Web of Science と Scopus という2つの学術データベースを使用
・「幸福」「低所得」「主観的ウェルビーイング」「生活満足度」などのキーワードで検索
(主観的ウェルビーイング=本人が自分の人生をどう感じているか、という主観的な幸福度のこと)
・時期の制限なし。英語・スペイン語の社会科学分野に限定
▼絞り込みの流れ
・最初にヒットした文献:合計 2,889件
(Scopus 1,759件 + Web of Science 1,130件)
・重複を除外 → 1,728件
・タイトルと要約で無関係なものを除外 → 169件
・全文を読んでさらに除外 → 最終的に 40件 を分析対象に
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■結果1:選ばれた40研究の全体像
▼出版形態と方法
・90%が学術論文、10%が書籍の一章
・すべて定量研究(数値データを使う研究)だが、うち20%(8件)は定性的手法(インタビューなど数値以外の方法)も併用
・75%が1か国のみを対象、60%が1年間のみのデータ
▼時期と推移
・最初の事例は2001年(Biswas-Diener & Diener による研究)
・出版は不規則だが、2014年以降は毎年少なくとも1件は報告されている
▼サンプルサイズ
・60%が観測数1,000未満と、比較的小規模
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■結果2:幸福と貧困をどう測ったか(指標の多様性)
▼幸福(ウェルビーイング)の指標
・全40研究が少なくとも1つの指標を使用、計16種類が登場
・最も多いのは「生活満足度」(40%)
・次いで「生活領域」(32.5%)、「幸福感」「感情(affects)」(各27.5%)など
・指標の半数は1研究でしか使われておらず、バラバラなのが実態
▼貧困の指標
・実は40研究のうち26研究(65%)は、明確な貧困指標を使っていない
これは、対象が「スラム住民」「ホームレス」「ごみ拾いで生計を立てる人々」など、誰が見ても明らかに困窮している集団だったため、わざわざ指標で測る必要がなかったからです。
・指標を使った場合、最も多いのは「主観的貧困」(7件)、次いで「所得貧困」(5件)
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■結果3:この現象はどこで見つかるか(地理的な偏り)
・40研究から、合計92事例の「幸せで貧しいコミュニティ」が報告された
・地理的にはグローバル・サウス(=主に南半球の発展途上国)、特に低中所得国に集中
(ラテンアメリカ49、アジア18、アフリカ16、オセアニア4)
▼先進国での例外
・先進国での事例はわずか5件
・しかもそのうち4件は、対象がグローバル・サウス出身者や非西洋文化の集団(難民、先住民など)
・先進国の「その国の生まれで、かつ多数派文化に属する人々」で唯一見つかった事例が日本でした
(出典:Ohno et al., 2023)
ーー
■考察:6つの説明(なぜ貧しいのに幸福なのか)
著者たちは40研究を分類し、6つの説明を抽出しました。各説明について「実証的な裏付けがある研究」と「理論だけの研究」を区別したのが特徴です。
▼(a)人間のニーズ/生活領域の説明
貧しくても、人間に必要な基本ニーズを満たし、人生の重要な領域(家族、健康など)で満足を得ている、という説明。
・最も支持が多く、38研究が言及、うち33研究が実証的
・特に「良好な人間関係・社会的支援」が、極度の困窮下で幸福を支える重要な役割を果たすと指摘されています。
(注:収入は基本ニーズを満たす範囲では重要だが、それを超えると幸福に直結しないという議論も)
▼(b)適応の説明
人は困難な状況に慣れ、不満が受容に置き換わる、というセンの議論に基づく説明。
・20研究が言及するが、実証研究はわずか2件
著者たちは「重要視されている割に、裏付けが少ない」ギャップに驚いた、と述べています。
▼(c)願望(アスピレーション)の説明
人生を変えたいという強い願望を持たないため、「持っているもの」と「欲しいもの」のギャップが小さく、幸福度が高い、という説明(多重不一致理論に基づく)。
・33研究が言及、12件が実証的
・例:孤立した小さな共同体では、比較対象が身近な人に限られ、富裕層と比べないため幸福度が保たれる(中国の農村など)
・ただしペルーの事例のように、逆の結果(周囲との比較が幸福に影響する)もあり、一様ではありません。
▼(d)フォーカシング・イリュージョンの説明
研究者や政策立案者の側が、貧しい人々の幸福を「誤って判断している」という説明。
収入など特定の要素を過大評価し、「貧しい=惨めなはず」と決めつけている、という指摘です。
・5研究が言及するが、実証的裏付けはゼロ
・背景には、研究者の大半(著者の59%以上)が欧米出身で、WEIRD(=西洋的・教育を受けた・工業化された・豊かな・民主的)な視点に偏っているという「文化的な不均衡」があります。
▼(e)文化の説明
その地域の文化や、人生・幸福についての価値観そのものが、幸福を育んでいるという説明。
・30研究が言及、16件が実証的
・例:ボリビアのチマネ族の幸福観(家族や友人との互恵関係、狩猟・漁労の成功など)
・宗教や精神性(チベット仏教など)、共同作業(エクアドルの「ミンガ」など)も幸福に寄与すると報告されています。
▼(f)マルデベロップメント(誤った発展)の説明
他とは少し違い、「幸福の原因」ではなく「不幸の原因がまだ存在しないこと」に注目する説明。
資本主義的な発展が、地域社会の幸福を支える文化を破壊する前の状態だから、まだ幸福でいられる、という見方です(脱植民地化理論などに基づく)。
・11研究が言及、6件が実証的
・例:貨幣経済化が進むほど幸福度が下がる(ソロモン諸島やバングラデシュの沿岸部)
・ただし「発展が医療・教育などをもたらし幸福を上げる」という反論もあり、議論は単純ではありません。
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■総合的な結論と政治的含意
・6つの説明のうち「唯一の正解」は存在しない
これらは互いに関連し合い、両立もする。状況によってどの説明が重要かが変わるため、まだ「一般理論」は提示できない、というのが著者の立場です。
・最も重要な政治的含意
「幸せで貧しい」コミュニティの存在は、少ない物質的消費でも高い幸福が達成できる証拠になる、という点。
これは、経済成長を絶対視しない「脱成長(degrowth)」などの議論ともつながります。
・注意点(著者の良心的な留保)
著者たちは「貧困を美化する意図はない」と明言しています。あくまで一部の人々が低い物質的豊かさで幸福を感じている事例を示しただけで、多くの人が困窮ゆえに苦しんでいることも認めています。
ーー
■今後の課題(リサーチ・アジェンダ)
・もっと多くの実証研究、特に非WEIRD地域からの研究が必要
・「適応」と「フォーカシング・イリュージョン」は特に裏付け不足
・パネルデータ(=同じ対象を継続的に追う長期データ)がほとんどなく(40研究中2件のみ)、時間的な変化を捉えられていない
・幸福や貧困を、収入ベースを超えて捉え直す枠組みが求められる

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【「貧しいけど幸せ!」事例】
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■ラテンアメリカ
▼ボリビア:チマネ族(Tsimane')
アマゾン熱帯雨林に暮らす狩猟採集・園耕民族。論文の文化説明の中心的な事例で、92事例のうち3つを占めます。
彼らの幸福観は、家族や友人との良好な関係・互恵性、狩猟や漁労といった自給活動の成功、食料主権に基づいています。「良い食べ物」は狩猟・漁労の成功と直結し、動物の精霊に良い獲物を願って歌を捧げる儀礼とも結びついています。
(出典:Reyes-García & TAPS, 2012;Masferrer-Dodas et al., 2012;Minkin & Reyes-García, 2017)
▼ニカラグア:セックスワーカー、ごみ拾いで生計を立てる人々、都市の貧困層、農村の小作農
貧困層の中でも特に困窮した集団。良好な人間関係・社会的支援が幸福を支える事例として挙げられています。
特徴的なのは、収入と幸福が「負の相関」を示した点。著者の解釈では、より多くの収入を得ること=ごみ漁りやセックスワークの時間が増えることを意味するため、収入が高いほど幸福度が下がる、とされています。
(出典:Cox, 2012)
▼ニカラグア:家庭内暴力(配偶者からの暴力)の被害女性
極度の困難の中でも、社会的・関係的な側面が幸福を支える事例として言及されています。
(出典:Vázquez et al., 2015)
▼エクアドル:先住民コミュニティ
協働や社会的つながりを育む文化的制度が、高い平均幸福度の説明として挙げられています。「ミンガ」(=近隣住民が集まって共同作業を行う集会)が幸福に重要とされます。
また、彼らにとっての貧困とは「低収入」ではなく、共同体に溶け込めず、分かち合えず、自然と調和して暮らせないこと、という独自の捉え方(ブエン・ビビール=良く生きる)が示されています。
(出典:García-Quero & Guardiola, 2017;Guardiola & Rojas, 2016;Rojas, 2020)
▼メキシコ:マヤの人々(農村)
収入と特定の生活領域が無関係であることが示された事例。ただし別のメキシコのサンプルでは収入が全領域に正の影響を与えており、結果は一様ではありません。
(出典:Guardiola et al., 2013)
▼ペルー:先住民
注目すべき「反例」。周囲(ペア)との相対的な収入が幸福を左右したと報告され、「比較しないから幸福」という説明が当てはまらないケースです。
(出典:Copestake et al., 2009;Graham, 2009)
▼コロンビア:カリ(Cali)の人々
前向きな姿勢や強い精神が、困難な状況下でも高い幸福と結びつくと示唆された事例。レジリエンス(=逆境から立ち直る力)が低い社会経済状況を乗り越える説明とされました。
(出典:Martínez & Short, 2021;Okulicz-Kozaryn & Martinez, 2025)
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■アジア
▼インド:カルカッタ(コルカタ)のスラム住民とセックスワーカー
2001年の最初の事例。論文全体で繰り返し参照される重要なケースです。
「彼らはなぜ幸福でいられるのか? そう問うこと自体が、私たちの貧困への偏見と、貧しい人々へのステレオタイプの表れだ」という著者の内省が、フォーカシング・イリュージョン説明の象徴とされています。
富裕層が暮らす地域の近くに住んでいても、高い幸福度を報告しました。
(出典:Biswas-Diener & Diener, 2001, 2006)
▼インド:ムンバイのスラム住民と農村世帯
スラム住民は農村住民より幸福、という結果が示された事例。
(出典:Coulibaly & Managi, 2022)
▼中国:農村の農民
「あばら家の中の平穏、それが幸福」という言葉が象徴的。情報が限られ、比較対象が身近な人に限られることが、高い幸福度に寄与すると示唆されました。
また、重要な議題があると村全体が集まって議論する、民主的・集団的な紛争解決の文化も幸福と結びつくとされます。
(出典:Davey et al., 2009;Knight et al., 2009;Kingdon & Knight, 2006)
▼中国:貧困緩和のための移住者
「適応」を実証的に扱った数少ない事例の一つ。中間距離の移住が、自給的農業と都市サービスの両方にアクセスできるため、最も主観的ウェルビーイングを改善すると報告されました。
(出典:Xu et al., 2023)
▼チベット高原:チベット仏教徒
非常に過酷な日々の労働と困難な環境の中でも、幸福で、自らの生活様式に満足を示す事例。深い精神性(スピリチュアリティ)が高い平均幸福度の核にあるとされます。
「満足」と「足るを知る心(contentment)」の概念的な違いも論じられ、それは諦めでも運命論でもなく、状況を誇張せずありのままに受け入れる態度だと説明されます。
(出典:Webb, 2009)
▼エチオピア:都市の子どもたち
レジリエンス(逆境から立ち直る力)が、家族や共同体の良好な関係と結びついていることが示された事例。
(出典:Camfield, 2012)
▼バングラデシュ:沿岸コミュニティ/都市近郊の住民
貨幣経済化が進むほど幸福度が下がるという結果(沿岸部)。一方で、都市に近い住民の方が幸福という結果もあり、都市が機会やサービスを提供するためと解釈されています。
(出典:Miñarro et al., 2021;Camfield et al., 2009)
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■アフリカ
▼ガーナ:アクラのニマ・スラムと近隣地区の高齢者
極度の物質的困窮が明白な集団。良好な人間関係・社会的支援が幸福を支える事例とされます。
(出典:Alaazi et al., 2021)
▼ナミビア:ヒンバ(Himba)族(遠隔地の文化)
比較研究の事例。イギリスの人々の幸福度と、ナミビアの貧しい人々の幸福度に大きな差がなかったと報告されました。
(出典:Martin & Cooper, 2017)
▼ケニア:マサイ(Maasai)族
アメリカのアーミッシュ、グリーンランドのイヌグウィットと比較された事例。「ほとんどの人はかなり幸福だが、文化的な差異もある」という研究の対象です。
(出典:Biswas-Diener et al., 2005)
▼南アフリカ:先住民
都市部に住むことが、農村部に比べて幸福度を下げる事例として挙げられています。
(出典:Kingdon & Knight, 2006)
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■オセアニア
▼オーストラリア:先住民(アボリジニ)
生活満足度が高い事例。狩猟採集活動が高い幸福を生む重要性が指摘されています。「先住民のパラドックス」という呼び名の由来でもあります。
(出典:Biddle, 2014)
▼オーストラリア:中東・アフリカ・旧ユーゴスラビアからの難民
高い幸福度が見られた事例。広い情報に触れても、富裕層ではなく身近な仲間(故郷の人々)と自分を比べる傾向があり、それが幸福を保つとされます。
(出典:Fozdar & Torezani, 2008)
▼ソロモン諸島:沿岸コミュニティ
貨幣経済化が進むほど幸福度が下がるという、マルデベロップメント説明の実証事例です。
(出典:Miñarro et al., 2021)
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■北米・ヨーロッパ(先進国内の例外)
▼アメリカ:アラスカ北極圏の先住民
狩猟採集だけでなく、収穫を分かち合うこと(村人を結束させる)が幸福を育むと報告。深い精神性も幸福の核にあるとされます。
(出典:Wu, 2021)
▼アメリカ:アーミッシュ
電気やテレビなどの近代化を避けて暮らす集団。マサイ、イヌグウィットと並んで比較された事例です。
(出典:Biswas-Diener et al., 2005)
▼グリーンランド:イヌグウィット(Inughuit)
比較事例の一つ。電気やテレビといった近代化の要素が、彼らの生活満足度を変えないことが示唆されました。
(出典:Biswas-Diener et al., 2005)
▼日本
論文中で特筆される事例。先進国で、かつ「その国の生まれ・多数派文化に属する人々」で幸せで貧しい人々が見つかった唯一のケースです。
(出典:Ohno et al., 2023)
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■比較対象として使われた「幸せでない」先進国の例
参考までに、対比のために登場した先進国もあります。
・アメリカ(カリフォルニア、ポートランドのホームレス):カルカッタのホームレスの方が幸福度が高かった
・イギリス:ナミビアの貧困層と幸福度に大きな差がなかった

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