59主観的幸福感の地理的変動
ウェルビーイングハンドブック_第十章:社会的差異と政策
毎日読めばウェルビーイングの基礎が分かる、ウェルビーイング・ハンドブック紹介シリーズ、
最終章である第十章:社会的差異と政策😊
今回は幸せの地政学😍
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・幸福感が高い地域ほど人口増加が見られます(Lucas et al., 2014)。
・外向性が高い人は海を好み、内向性が高い人は山を好む傾向があり、好みの環境に住むほど満足度が高いという研究があります(Oishi, Talhelm, & Lee, 2015)。
・開放性(好奇心・文化への関心)が高い人は人口密度が高く文化的に多様な地域で幸福感が高く、協調性(友好的・思いやり)が高い人は緑地や家族向けの環境で幸福感が高いことが示されました(Jokela et al., 2015)。
など、面白いですね😍
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**■ 幸福感は「どこに住むか」で変わる?―地理と主観的幸福感の関係 Rentfrow, P. J. (2018). **
▼ この論文が扱うテーマ
心理学では長年、「環境」が人のメンタルヘルスに与える影響が研究されてきました。ただしこれまでの研究は、身近な環境(家族・職場など)に注目したものがほとんどでした。
この論文では視点を広げ、「国・州・郡・都市」といった地理的な単位で幸福感がどう分布するのか、そしてなぜそのような地域差が生まれるのかを整理しています。
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▼ まず確認:主観的幸福感(SWB)とは?
主観的幸福感(Subjective Well-Being, SWB)とは、自分の人生の質を自分自身がどう評価するか、という心理的な指標です。「生活に満足しているか」「ポジティブな感情が多いか」などをアンケートで測定します。
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▼ 幸福感は地域によって偏っている
研究によって、幸福感は世界中どこでも均等に分布しているわけではなく、地理的にかたまって分布していることが示されています。
・国レベルでは、カナダ・デンマーク・スイス・アメリカが上位
・東欧やアフリカ諸国は相対的に低い傾向がある
(Diener, 2000; Veenhoven, 1993)
アメリカ国内でも同様のばらつきがあります。ギャラップ社のデータを使った研究では、山岳地帯・西海岸の州が最も高く、中西部・南部の州が最も低いことが示されました(Rentfrow, Mellander, & Florida, 2009)。
さらに州よりも細かい「郡」レベル(約2,400郡)で分析しても、同じパターンが確認されています(Lucas, Cheung, & Lawless, 2014)。
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▼ なぜ地域差が生まれるのか?―3つのメカニズム
地域による幸福感の差を生む仕組みとして、3つのメカニズムが提唱されています。
・選択的移住(Selective Migration)
人は自分の心理的ニーズを満たしてくれる場所へ移動する傾向があります。たとえば開放性(新しい経験への好奇心)が高い人は地元を離れて移住しやすく(Jokela, 2009)、幸福感が高い地域ほど人口増加が見られます(Lucas et al., 2014)。
・社会的影響(Social Influence)
周囲の人の感情や行動は、自分の感情にも波及します。フラミンガム研究では、友人の友人の友人(3人介した関係)の幸福度が、自分の幸福度を予測することが示されました(Fowler & Christakis, 2008)。
・生態学的影響(Ecological Influence)
気温・降水量・緑地・人口密度・感染症の流行率といった物理的環境が、人の行動や価値観に影響を与えます。たとえば外向性が高い人は海を好み、内向性が高い人は山を好む傾向があり、好みの環境に住むほど満足度が高いという研究があります(Oishi, Talhelm, & Lee, 2015)。
これら3つのメカニズムは独立して働くのではなく、組み合わさって作用すると考えられています。
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▼ 事例:炭鉱地帯の「幸福の遺産」
イギリスの旧炭鉱地域では、産業革命時代に炭鉱業が栄えましたが、その後の経済構造の変化によって大量失業が発生しました。現在もこれらの地域は失業率が高く、幸福感が低い傾向にあります。
研究によると、過去の炭鉱産業への依存度が高い地域ほど、現在の住民の不安・抑うつが高く、幸福感が低いことが示されました。選択的移住(幸福感の高い人が離れていく)と社会的影響(経済的困窮が機会を奪う)の両方が関与していると分析されています(Obschonka et al., in press)。
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▼ 地域差は重要な社会指標とも関連する
地域の平均幸福感は、以下のような社会・経済指標とも関連しています。
国レベルでは…
・個人主義(個人の自由や自律性を重視する文化)が高い国は幸福感も高い(Diener et al., 2003)
・人権・社会的公正が保障されている国ほど高い
・国民1人あたりの所得が高い国ほど高い傾向があるが、豊かさの効果は裕福な国では次第に頭打ちになる(Mellander, Florida, & Rentfrow, 2011)
地域レベル(アメリカ州・郡)では…
・所得・住宅価格・GRP(地域総生産)が高い地域ほど幸福感も高い(Rentfrow et al., 2009)
・高学歴の専門職が多い地域ほど幸福度が高い
・肥満率・がん・心臓病による死亡率が高い地域ほど幸福度が低い(Lawless & Lucas, 2011)
・既婚者の割合が高い地域ほど幸福度が高い傾向がある
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▼ 「人と環境の適合」が幸福感に影響する
同じ地域でも、その場所が自分の性格やニーズに合っているかどうかが、幸福感を左右します。
ロンドン216地区を対象とした研究では、開放性(好奇心・文化への関心)が高い人は人口密度が高く文化的に多様な地域で幸福感が高く、協調性(友好的・思いやり)が高い人は緑地や家族向けの環境で幸福感が高いことが示されました(Jokela et al., 2015)。
また、自分の性格が近隣住民の性格と似ているほど自己評価が高まるという研究もあります(Bleidorn et al., 2016)。
さらに、政治的・宗教的価値観が近い人々と同じ地域に住んでいる人は、帰属感や場所への満足感が高く、引っ越し意向が低いことも示されています(Motyl et al., 2014)。
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▼ 限界と今後の課題
この分野の研究のほとんどは、WEIRD(白人・高学歴・工業化・裕福・民主主義)な国や地域のサンプルに偏っており、住む場所を選べない人々の状況は十分に反映されていません。
また、地域の幸福感と社会指標の関係については、どちらが原因でどちらが結果かを明確に言えないケースが多く、因果関係の解明が今後の課題です。
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▼ まとめ
この論文の主なメッセージは次の通りです。
・幸福感は地理的に偏って分布しており、国・州・郡のレベルで一貫したパターンがある
・その地域差は、選択的移住・社会的影響・生態学的影響という3つのメカニズムによって生まれる
・地域の幸福感は、所得・健康・職業構造などの社会指標と深く関連している
・自分の性格やニーズに合った場所に住むことが、個人の幸福感を高める可能性がある
「どこに住むか」は単なる生活環境の問題ではなく、人々の幸福感と密接につながった、重要な人生の選択なのです。
(Rentfrow, 2018)
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Geographical Variation in Subjective Well-Being
By Peter J. Rentfrow, University of Cambridge
主観的幸福感に関する研究は、幸福感に地理的な差異が存在することを示している。本章では、社会・人格心理学、経済学、地理学における理論と研究に基づき、幸福感の地理的分布に関する研究、および個人の特性、社会制度、物理的環境がその分布にどのように影響を与えるかについて概説する。複数の分析レベルで実施された数々の研究結果から、選択的移住、社会的影響、および環境的影響が、主観的幸福感の地理的集積を引き起こす主要なメカニズムであることが強く示唆されている。国際比較研究や米国内の地域差に関する分析によれば、地理的領域における主観的幸福感の平均レベルは、経済、社会、健康に関する様々な指標と関連していることが示されている。さらに、性格特性が環境の特徴と相互作用し、主観的ウェルビーイングの個人差に影響を与えていることを示唆する証拠がある。主観的ウェルビーイングとマクロ環境との関係の因果的性質を理解するためには、さらなる研究が必要である。
キーワード:地域間格差、地理心理学、ウェルビーイング、社会指標